7:打倒・変な犬!
・前回、ウォルフくんが肩に手を置くシーンを、肩から頭に変更しました(乙女的配慮)。
今回はモブ視点です!
――酒の臭いと笑い声に溢れた夜の酒場にて、ジョッキを手にした冒険者たちが熱く討論していた。
「だーかーらー、次は俺んところのパーティーがソフィアちゃんを誘うんだよ! おめぇは引っ込んでろ!」
「なんだとてめー! こうなったら喧嘩で決着つけてやらぁ!」
「おーやれやれお前らー! 殴り合えー!」
ガヤガヤと騒ぎ合う男性冒険者たち。ここ数日、酒の席での彼らの話題は、一人の少女に掻っ攫われていた。
彼女の名はソフィア・グレイシア。貧しいことで有名なグレイシア領からやってきた御令嬢である。
そんな少女が冒険者になったと聞き、“グレイシア領はそこまで困窮しているのか”、“一体どんなガリガリ女がやってきたんだ”と、興味本位で覗きに行った男たちであったが――彼女の姿を見た瞬間、一目で心を奪われた。
「へへっ……俺は思ったね。ああ、これが『お姫様』ってやつなのかってよ」
「だよなぁ。しかも綺麗なドレスまで着てるんだからビックリしたよなぁ。ありゃぁ本当に貧乏領のお嬢様なのかねぇ?」
酒をちびちびと口に運びつつ、男たちはソフィアの姿を思い起こした。
最初に見たときは本当に驚いたものだ。触りたくなるようなツヤツヤの赤髪に、瑞々しい白い肌に、宝石のような青い瞳。そして身に纏われた純白のドレスと、羽衣のごとく上品に羽織られたケープが、至高の美を形作っていた。
「お上品な見た目なのに明るくって、何より笑顔が堪らないんだよなぁ! あの邪気とか欲望が一切なさそうなキラキラの笑顔を向けられると、なんつーかグッと来るっていうかよぉ!」
「ああ、心が綺麗なんだよソフィアちゃんは! 金のことばかり考えてる俺たちとは大違いだぜ!」
「そういえば聞いたことあるんだけどよ。ソフィアちゃん、グレイシア領の領民たちにタダで回復薬を配ってたそうだぜ!? 薄汚い俺の地元の領主とは大違いだぜ!」
“ソフィアちゃんマジ聖女ー!”と一斉に叫ぶ男たち。
美人で心優しい上に冒険者として腕も立つらしいとあっては、話題にならないわけがない。今や『ステラ』の街において、ソフィア・グレイシアはちょっとした有名人となっていた。
一般的な街の人間たちも彼女に魅了されつつあり、ソフィアの存在はさらに知れ渡っていくこととなるだろう。
なお――彼らは知らない。
ソフィアが自分の容姿を磨いた理由は、『お金持ちな貴族や商家に嫁いでやるぜぇ!』という欲望ダラダラなものであることに。
領民たちに回復薬を配ったのだって、『元気に働いてちゃんと税を納めてねッ!』という凄まじく切実な思いからである。
そんなことも知らず、男性冒険者たちが『ソロになったソフィア姫をどこのパーティーが誘うか』について議論を再開しようとしていた――その時、
「たっ……大変だぁぁぁああ! 俺たちのソフィアちゃんが、イヌ耳のワイルドなイケメン冒険者と笑顔で歩いてやがったーーーーーッ!」
「「「えッッッ!?」」」
突如もたらされた衝撃のニュースに、一斉にジョッキを床に落とす冒険者たち。
ガラスの割れる音が響き渡ったのを最後に、酒場の空気が凍り付いた。
……かくして心に深いショックを受けた男たちは、冒険者業をしばらく休業。
彼らは数日寝込んだのち、『……急に出てきた変な犬に俺たちのソフィアちゃんを取られてたまるか! こうなったら自分磨きだ!』と一念発起し、毛嫌いしていたイケメン受付員のレイジに頭を下げてまでオシャレの仕方を学んだという。
そして、そんなことを知らないソフィアとウォルフは、モンスターを狩る者が少なくなっている間にガッポリと稼ぐことに成功したのだった。
「なんか知らないけど、儲かっちゃったねウォルフくん!」
「おう、この調子でガンガン稼ぐぜー!」
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