68:ソフィアお姉ちゃんママに感謝だよ、シンくん!
貧乏令嬢、予約はじまっています!イラスト神すぎですよ……!
――白髪の少年・シンにとって、シリウス領にやってきてからの日々は実に平和だった。
「じゃあねシンくん、また来るから」
「ああ、あまり無理をするなよソフィア殿」
身体検査の途中、「ごめんなさいっ、急用を思い出しちゃって」と言い出したソフィアを見送る。
断言しよう、穏やかな日々を送れているのは領主である彼女のおかげだった。
ああして毎日せわしなく街を巡回し、住民たちの要望をこころよく聞き入れたりトラブルをすぐさま解決してくれているからこそ、この地の平和は保たれていた。
「まったく、本当にすごいお人だ……」
去っていくソフィアの背中を見つめながらシンは呟く。言葉にすれば簡単だが、並大抵の難しさではないだろうと。
なにせこの地は元々、敗戦国の亜人種たちを働かせるために国王が作り上げられた実験都市だという。
もはやその時点で領主の安全度は最悪だろう。誰もが国王ジークフリートやそれに従う者に対して悪感情を持っているはずだ。
「(ああ、もしも我が『国を滅ぼされた者』という立場なら、間違いなくテロを考えただろうな……)」
まずは領主を殺して監視の目を逃れ、それからは地下組織を結成して暗躍でもしてみようか。劇薬を流通させて国を民から弱らせるのが一番か。
――そんな、どうにも具体的な作戦内容を考え付いたところで、「おっといけない」とシンは頭を軽く振るった。
あくまでも自分が『国を滅ぼされた者』だったら、というもしもの話である。そんな仮説から危険な策を立案するなど、どうやら記憶を失う前の自分はよほど危ない男だったらしいとシンは苦笑する。
とにかくだ――そうしたことを考える者がきっと他にもいるような環境で、領主ソフィアは亜人種たちの心を見事にまとめあげていた。
さらには自身から金を巻き上げに来たスラムの者たちを温かく迎え入れてくれたというのだから、もう脱帽するばかりだ。
貴族だというのに貧しい者を見下さず、どんな相談にも真摯に応えてくれることでストレスも溜まらず、こうして数日経った今でも貧民と亜人種の間でトラブルが起きたという事態は一切なかった。
おかげで彼女は知らないかもしれないが、スラムの男性連中からはもはや女神扱いだ。なぜか貴族様とは思えないほどの親しみやすい雰囲気から、金持ちに対して悪感情を持っている彼らからも瞬く間に崇拝されていた。
ああ、何という懐の深さだろうか……。
憎悪を宿した亜人種たちとモラルの欠如した貧民たちという危険な勢力二つを抱え込み、その両方から信頼を獲得できるものなど、心の底から優しい『聖女』か媚びを売ることに才能全振りした『可哀想な女』のどちらかだろう。
もちろん前者であるとシンは信じている。
「ソフィア・グレイシア殿……我もアナタには感謝している」
遠ざかった彼女の背中に謝辞を送る。
下水道を流れていたところを貧民たちに拾われるも、その少年とは思えないような雰囲気や美貌からシンは不気味に思われていた。
――そんな得体のしれない存在に対し、ソフィアは医者という重要な役割を迷いなく与えてくれたのだ。
おかげで今では多くの貧民たちがシンを信頼してくれるようになっていた。さらには姉か母親代わりのつもりなのか、彼女は定期的にシンの様子を見に来てくれているのだ。
家族のいない彼にとってその気遣いがたまらなく嬉しかった。
どうかソフィア殿に幸運あれ――。
シンは心から心優しき少女の幸せを願うのだった。
なお、
「はぁ~~~~~~~ビックリしたぁああああッ! 何が前より胸の成長が凄まじいよ、やっぱりあの子ハオ・シンランじゃないっ!」
心の底から優しい『聖女』改め、媚びを売ることに才能全振りした『可哀想な女』のソフィアは全力の早歩きで診療所から逃亡していた。
シンの印象はほぼほぼ完全に勘違いである。彼女が貧民たちの相談に乗ってあげていたのは単純に反逆が怖いからだし、シンに対しても気遣いから様子を見に来ているのではなく、『復讐の王子』ハオだったころの記憶が目覚めていないかチェックしに来ているだけであった。
もっとも、恐れていた事態は今日実際に起こってしまったわけだが。
「うぅぅぅぅう……ッ! 人の胸見てちょっぴり記憶が蘇り始めるとか何なのよそれぇーーっ!
もうもうもうっ、無自覚セクハラかましてくるウォルフくんのせいなんだからっ!」
人目がないのをいいことに笑顔の仮面を脱ぎ捨て、半泣きでプリプリと怒るソフィア。
どっかのモラルが欠如したイヌ耳王子のおかげで育ってしまった胸を忌々しげに指で弾くのだった。
「記憶が戻り始めたから暗殺……っていうのはまずいよねぇ。とりあえずジークフリートのアホに手紙を書いて、今後の対応を聞いてみますか。
はぁ、私ってなんでこんなに不幸なわけ~~~~~……っ!」
相変わらずの不幸せっぷりにソフィアは嘆く。
かくして、手紙の返事が来るまで彼女はシンの記憶が完全に戻っていないかチェックしに来る数を倍に増やし、おかげでシンからの好感度はグングンと上がりまくっていくのだった……!
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