64:降臨の救世主
『貧乏令嬢』の発売ですが、コロナの影響により7月2日に延期となりました・・・!(´;ω;`)
「――領主ソフィアを出せー! オレたちのことには目もくれず、こんな亜人種どもを養いやがってっ!」
「っ、何なんだお前たちは!?」
みすぼらしい姿の者らが一致団結し、『シリウス』の街の入口で声を上げていた。
彼らは各地から集まってきた貧民たちだ。街に住んでいるエルフや獣人族などに向けて吠え叫ぶ。
「聞いたぞっ、ソフィア・グレイシアという国王のお気に入りで大金をもらっていると! 王を骨抜きにした毒婦め!」
「それで亜人種どもを大量に囲って奴隷王国を作っているそうだな! なんというふしだらっ!」
「貴族なら自国民に金を使えーーーっ!」
口々に叫ぶ貧民たち。
さも自分たちは正しいことを言っているような顔付きをしているが、彼らの認識は大きく歪んでいた。
まずソフィアはたしかに国王ジークフリートのお気に入りであるが、それと大金が送られた件については話が別だ。
ジークフリートは快楽主義者の面もありながらすさまじくストイックな男である。女に貢ぐために血税を使うなど言語道断、あくまで仕事の正当な報酬としてソフィアに大金を送っただけだ。
また亜人種たちもその仕事の一環でこの地に集められているだけで、むしろソフィアは『一致団結して反逆されたら怖いよぅ』とビクビクしていた。それゆえに亜人種たちへの扱いも非常に好待遇だ。
奴隷どころか高給取りとして扱ってくれることに周囲から多大な感謝を寄せられているものの、残念ながら怖がりで根が暗いソフィアはそれでも安心していないが。
ともかくそれが真実なのだが――貧民たちにとっては、『とある人物』から言い渡された言葉こそが全てだった。
フードをかぶっていて顔は見えないものの、定期的に食糧支援を行ってくれる上にまるで陽光のように温かいその男は言った。
『近々、シリウス領に国王から大金が送られてくるはずだ。
あぁ、なんということかっ! 諸君らがひもじい思いをしているというのに、国王の妾であるソフィア・グレイシアは民衆からの血税で豪勢に暮らしている! これが許せるか!?』――と。
彼の言葉は貧民たちを瞬く間に怒りで染め上げていった。
ああ、もしもソフィアが商業都市を救った英雄だと知る者がいれば男の言葉に疑問符を浮かべたかもしれないが、そうした者はほとんどいなかった。
貧民層の識字率は驚くほど低い。新聞などでどれだけソフィアが称賛されていようが内容はよくわからない上、口伝えに知ったところで関心は薄い。
日々の食料を探すのに精いっぱいな彼らにとって、『どこか遠くの英雄様が偉業を成した』なんて話はまるで心に響かない。
加えてこれは偶然か、フードの男は『グレイシア領・冒険者の街ステラ・商業都市レグルス』というソフィアに縁のある街以外の貧民たちに声をかけてきたという事情もあり、こうして見事に反ソフィア勢力が誕生したのだった。
「道を開けろっ! 例の女に直談判してやる!」
困惑する亜人種たちを突き飛ばし、無理やり街に入り込む数百人の貧民たち。
数を揃えた上に道徳的優位に立っていると思い込んでいる彼らは無敵だ。
上手くいけば大金を恵んでもらえるかもしれないという欲望を隠し、聖者の行進気取りで突き進んでいく。
「さぁ、出てこい領主ソフィア! 毒婦の顔を拝んでやるっ!」
そうして彼らが街の中心部へと足を踏み入れた、その時。
「――み、みんな逃げろぉおおおおッ! モンスターの群れが現れたぞーーーっ!」
逃げてきた亜人種たちの叫んだ言葉に、貧民たちの足はビシリと止まった。
『グゴォオオオオオオオオーーーーッ!』
『ニンゲンッ、コロス! コロス!!!』
そして出現する『タイタン』の群れ。
もっとも体長が短い個体でも三メートルはあるだろうか。土色の肌に人間よりもはるかに大きな巨体を持った魔物たちが、街の中心部に空いた大穴から次々と姿を現してきたのだ。
これには勇み足だった貧民たちも固まるしかない。彼らはドシドシと迫ってくるタイタンどもの顔を見上げながら、数秒絶句し――そして、
「ひっ……ギャァァアアアアアアーーーーーーーーッ!? な、なんだこれぇッ!? なにがどうなってるんだーーーー!?」
次の瞬間、大絶叫が響き渡った。
顔を歪めて一斉に震え上がる貧民たち。つい先ほどまでの強気だった態度は崩れ、今や腰を抜かして恐怖していた。
「なんで街の中にモンスターがいるんだッ!?」
「に、逃げろぉおおッ!」
迫りくる巨人どもから必死に遠ざかろうとするも、ここで数百人もの大集団となっていたことが仇になった。
とっさに反転することもままならず、何人もの人間が転び、踏まれ、逃走することに失敗する。
ああ、そんな愚かな人間たちをモンスターどもは逃がしはしない。彼らは仕組まれたように生まれ持った殺人欲求のままに、貧民たちへと飛び掛かった――!
『シネェエエエーーーーーーッ!』
「ああああああああああーーーッ!?」
そして訪れる惨劇の時。
誰もが悲鳴を上げながら、タイタンどもの巨大な拳に押し潰されそうになった……その刹那、
「――もう大丈夫よ、私が来たわ」
凛と響き渡る声と共に、ズパンッ! という音を立てて数匹のタイタンの首が刎ね飛んだ――!
切断面から鮮血を噴き出しながら倒れこんでいく巨人たち。そんな突然の事態に、貧民たちは茫然となる。
そうして戸惑う彼らの前に、その少女はふわりと舞い降りた。
美しき赤い髪に、姫君を想わせる純白のドレス。そして両手には燃え盛る双剣を握り、彼女は堂々とタイタンどもに叫ぶ。
「誰であろうと殺させはしないわ。領主ソフィアの名に懸けて――ッ!」
敵がどれだけ巨大だろうが彼女はまったく怯えることなく、双剣を手に飛び掛かる。
「あ……あの少女が、ソフィア・グレイシア……?」
「彼女が、王を惑わせていた毒婦だと……? ……嘘だ……!」
見ず知らずの自分たちを守るために、切り込んでいくソフィアの後ろ姿。
その勇ましき背中を前に、貧民たちはまるで憑き物が落ちていくかのような感覚を覚えたのだった――。
・次回ソフィアちゃん視点です~!
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