59:なんだかんだで犬にデレデレだよ、ソフィアちゃん!
「いいかソフィア、あんましシルフィードの野郎に近づくんじゃねぇぞ!? アイツ、澄ました顔して実はお前にチューしたいとか思ってるからなっ!」
「わかったわかったって」
必死に言い聞かせてくるウォルフくんと共に、私はシリウスの街の外れにある森を歩いていた。
獣人族のみんなには狼を調教しながら狩りを担当してもらっているのだ。私が近づくと狼が怯えるからしばらく来るなって言われてたけど、まぁ一週間近くしたし大丈夫だろう。はてさて、あれからどれくらい躾けれたのかな~っと。
そんなことを考えながら森を歩いていると、
「グガァアアアアッ!」
「あ、クマだ」
三メートルくらいの巨大熊がズシズシと私に向かって駆けてきた。
前世ならものすごくビビっただろうけど、悲しいことに今はもうあんまり怖くはないかな。
まともに攻撃を受けたら死ぬだろうけど、死ぬ攻撃なんていつものことだからね。ガンツさんに初めて会った時も大剣で頭潰されかけたし。
さて、死ぬのが嫌なら答えは簡単。攻撃を受ける前にぶっ殺すだけだ!
そうして私が剣を抜こうとした時だった。ウォルフくんがそっと手で遮る。
「待てよソフィア。ここは頼れる相棒たちに任せてくれないか?」
「えっ?」
ウォルフくんの言葉に首を捻った瞬間、周囲の茂みから何頭もの狼が飛び出してきた――!
彼らは牙を尖らせると一斉に巨大熊に噛み付き、その動きを封じていく。
そうして熊が痛みに喚いたところに、ひときわ大きな狼が首筋に噛み付いて決着だ。
頸動脈を完全にやられた熊はしばらく呻いたのち、ばったりと地面に横たわってしまったのだった。
「お~、すごいコンビネーション……! あっという間に終わっちゃった」
「――フッ、そうだろう領主殿。なにせ狩りを得意とする獣人族が仕込んだのだからな」
(私を見た瞬間ガタガタ震える)狼たちに拍手を送っていると、ガンツさんが木の上からズシンと降りてきた。
すると一斉に彼の後ろに隠れていく狼たち。どうやらバッチリ信頼されているようだ。……私のことをやたら避けてるのはちょっとショックだけど。
「大丈夫だよ~怖くないよ~? ほらっ、おいでおいでー!」
「ワッ、ワフゥ……ッ!?」
「こらこら領主殿っ、意外と繊細な奴らなんだから脅かさないでくれ。
……ともかく見ただろうか、先ほどの狩りを。本来ならば危険な相手は避ける狼たちだが、調教してやった結果この通りだ。これなら街に侵入してきたモンスターとも戦えそうだろう?」
大きな手でワシワシと狼たちを撫でるガンツさん。彼らもそんなガンツさんに触られて嬉しそうだ。
キャンキャン鳴きながらほっぺたを舐め始めた。
「いいなぁ~可愛いな~狼。私も舐められたいな~」
「むむっ、おいソフィア! 俺のほうがアイツらよりも気持ちよくお前をペロペロできるぞっ!」
「ってウォルフくん、動物と張り合わないでよ……」
相変わらず剛速球で好意をぶつけてくる王子様である。
そんな彼に対して喜んでいいのか困っていいのか迷いつつ、ひとまずガンツさんと仕事の話を進める。
「それでガンツさん。狼たちが大きな獲物にも立ち向かっていくようになったのはいいけど、素行のほうどう? トイレの場所はちゃんと覚えたり、むやみに吠えたりはしなくなった?」
「うーむ、その辺についてはまだ微妙だな。猟犬としては仕上がってきたが、軍犬とするにはまだまだ教育不足と言ったところだ。民衆に噛み付くようではいけないからな」
「そうだね。狩りの技術を教え込んだら、今度は良い子さんになるよう教育してあげてね。
ワンちゃんたち~、ちゃんとガンツさんの言うことを聞かないと食べちゃうからね~!?」
「ギャワァアアアンッ!?」
ちょっとした冗談を言っただけなのに、またしても狼たちはビックンビックン震え上がると、森の奥に向かって逃げていってしまった。
ガンツさんは(なぜか彼も震えつつ)急いでその後を追いかけていく。
う、うーん、そんなにビビることないと思うんだけどなぁ……!
「ねぇウォルフくん、私って怖い……?」
「そんなわけあるかっ! ソフィアは世界一可愛いぜっ!」
パァ~っと明るい笑みで私のことを褒めてくれるウォルフくん……!
流石に世界一は言いすぎだと思いつつも、ワンちゃんよりも彼のほうがよっぽど癒されるな~と私は確信するのだった。
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