55:ピンク色だよ、ソフィア社長!
特区『シリウス』の領主になってから三日目。
エルフ族、獣人族、そしてドワーフ族からある程度の信頼を得た私は、朝早くから族長たちに領主邸の前へと集まってもらっていた。
あくびしながら「眠いぞ~」と呟く褐色ショタ(※30歳)のドルチェさんに苦笑しつつ、三人にこれからのお仕事を伝える。
さぁ、今日から私は子会社シリウスの社長なのだ。親会社セイファートのパワハラ社長・ジークフリートのアホに馬鹿にされないように頑張らないとねっ。
「はいみんな注目っ! 不満もあるかもしれないけど、本国から食料や物資を得るためにも、今日からみんなでお仕事をしていきましょう!
まずシルフィードさんをはじめとしたエルフ族たちには、街の中で貴重な霊草の栽培を行ってもらいます」
霊草とは、ダンジョンのような魔力の多い土地でしか生えない不思議な薬草のことだ。
その成分濃度は通常の薬草の十倍以上。これを素材とすることで、肉体再生力をグンと高める回復薬を作ることが出来る。
ただし、ダンジョンでしか採れないし栽培できないっていうのが大変なんだよね。壁や天井から突然モンスターが生まれてくるような危険すぎる場所だから、農園として管理することなんて不可能。いちいち冒険者たちに採りに行ってもらわなきゃいけない。
駆け出し冒険者にとっては比較的リスクの少ない小遣い稼ぎになるが、国にとっては手間と費用が地味にかかって大変だ。
出来ることなら農場でガバっと採れるようにしたいと思うのは普通だろう。国王陛下から「ぜひ自然に馴染み深い一族のエルフ族たちで試してみてくれ」と頼まれていた。
「もしも霊草を通常の土地でも栽培できるようになれば、冗談抜きで農業革命が起きるでしょうね。
一応セイファート王国からデータとして、肥料を与えていれば種を撒いてから発芽くらいはさせられると聞いているわ。
……ただし魔力の代わりに肥料を栄養とさせるのには無理があるらしくて、ちょっと量が少なかったり逆に多かったりすると、すぐに枯れちゃうそうだけどね」
「なるほど、それでわたくしたちエルフ族ですか」
細い顎先に手を当てながら小さく頷くシルフィードさん。
色々と抜けている彼だが、目が細いことも相まってすごくインテリに見える。
「たしかにわたくしたちエルフには、植物の状態を繊細に感じ取れる特徴がありますからね。特にわたくしは敏感でして、声だって聞こえるのですよ?」
「えっ、そうなの?」
「はい。たとえばそこのタンポポは、『今日はいい天気だな~ポカポカだ~』と言ってますね。それからソフィア様の足元近くにあるツクシは……む、『今日はピンクだな~エロエロだ~』と言ってますねぇ? はて、何のことやら……」
「んなーッ!?」
私は咄嗟に足元のツクシから飛び退いた!
そっ、それ、今日の私の下着の色じゃんかーーーーーーーッ!
え、なに、植物ってそんな俗っぽいこと思ってたりするの!? 最悪なんですけどッ!?
「……とにかく、エルフ族のすごさはよくわかったわ。じゃあシルフィードさんたちは霊草の栽培を行って、与えた肥料の量なんかを正確に記録してね。ヒト族でも出来るような栽培方法が確立されるかもしれないから」
「心得ました」
さっそく街外れの農園に向かって行くシルフィードさん。あっ、石につまづいた!? ……見た目は凄くインテリだけど、やっぱりどこか抜けてて癒されちゃうね。
う~んでもさぁ……植物の声が聞こえるって、それちょっとヤバすぎる能力じゃない? スパイとか情報収集にうってつけじゃん。
ちょっと抜けてるところが致命的だけど、もしかしてシルフィードさんってものすごい逸材なんじゃないだろうか……?
内心そんなことを思いつつ、私は残る二人に指示を与えていった。
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