54:手放し運転、ソフィアちゃん!
「じ、自由にモノを作ってもいいとな!? しかも資材も使いたい放題!?」
私の言葉にドルチェさんは驚きの声を上げた。パァっと目を輝かせてベッドから跳ね起きてくる。
「ええ。もちろん王国に資材を注文する際は、どんな発明のために使うか企画書くらいは書いてもらうけどね」
「書く書くッ! それくらいならドンと来いじゃいッ!」
ボロボロの身体でカラカラと笑うドルチェさん。
のんきなものだ。資材を購入するために必要なお金は、私の借金になる契約なのに。
それに加えて、良い商品を作り出せば喜んで買い取るが、低クオリティのくだらないモノはお断りだと国王陛下から言われている。
この特区『シリウス』の街は、特異な能力を持った亜人種たちを躾けて十全に働かせるためのモデル都市なのだから。生半可な仕事をさせているようなら稼がせる気はないということだ。けーっ!
私は金髪ロン毛パワハラキングの澄ました顔面を脳内で殴りつつ、目を輝かせているドルチェさんに言い放つ。
「特区『シリウス』の領主、ソフィア・グレイシアとして命じるわ。族長ドルチェ、その才能を自由に謳歌させなさい!
どんなモノを作ってもいいし、資材も設備も全て私が整えてあげるわ。代わりにアナタは職人として、常に最高の作品を生み出し続けると誓いなさい。いいわね?」
「っ……応ともよ、我が麗しきパトロンよッ! そんなことを言われたら奮い立ってしまうではないか!」
ワシは素晴らしい雇い主を得たの~と豪快に笑うドルチェさん。歳は三十路だし性格もアレだが、見た目だけは完全に幼児なのだから微笑ましい。
そんな彼のことを他のドワーフたちは不安げに見ながら、私に小声で聞いてくる。
「あ、あの、ソフィア様……! お頭を自由にしていいんすか!? この人、地下に作ったトラップ通路みたいに意味わからんものを量産しまくるかもっすよ!?」
「別にいいわよ。完全に役に立たないようなモノじゃなければ、私のほうで適当に説明をでっち上げて王国に売りつけるわ。
たとえばあのトラップ通路なんて、鉄球が追いかけてくる仕組みは除去して『いざという時の脱出通路』って名目で設計図を売ればいいのよ。たぶん慎重派の貴族なんかが買ってくれると思うわよ?
ここを踏んだら矢が飛んでくるとか、購入者だけが安全な歩き方を知っておけば、追っ手を食い止めるための優秀な逃げ道になるじゃない」
たまーにいるからね、民衆に反逆を受けて殺されちゃうような貴族は。
他にも高等な貴族はお金や地位を目当てに暗殺者を放たれることも多いらしいので、そういうのを怖がる人たちからすれば需要があるのだ。
ちなみに私の家は需要まったくゼロです。アホみたいに地位は低いし、工事費さえもありません。うぎぎぎぎぎ……!
「……まっ、見方を変えればってやつね。アナタたちもどんどん自由にモノを作って、セイファート王国をビックリさせてやりなさい。
もしもヒット商品が生み出せたなら、ヒト族の文化をドワーフ族の発明品で染め上げてやれるかもよ?」
「な……なるほど……へへっ、そりゃいいや! いや~領主様は口が上手いな~!」
「ふふっ、褒めても資材しか出ないからね~」
褐色のチビっ子集団、ドワーフ族の人たちと一緒に笑い合う。「よっ、領主様の太っ腹~!」「アンタみたいな人が領主でよかったよかった!」とみんな上機嫌に私を持てはやしてくれた。
……うん、まぁ正直言って私のほうは内心まったく笑ってないんだけどね。
だって見ず知らずの職人たちに自腹で資材を投資して自由裁量に任せるとか、ギャンブルもいいところだし。これで本当に彼らが一ゴールドの価値もない謎商品ばっかり量産したら私は見事に借金王だ。特にドルチェさんは人間性が非常にアレだしやばすぎる。
だけど、手先が器用なドワーフの中でも一番テクニシャンなんだから(あんな性格をしてるのに)族長に選ばれた人なのだ。もしかしたら売れまくる物を作ってくれる可能性に賭けてみよう。
前世の根暗系女子から脱却すべく、口八丁だけは磨いてきたからね~。それを利用して、用途の限定された商品をさも使えそうに紹介するとしよう。
「なっはっは、改めてよろしくのぉ領主よ!」
「うん、ドルチェさんもよろしくね」
無邪気な笑みを浮かべる褐色の天才少年(※三十歳)と手を握り合う。
あれこれ指示してキレさせるより、最初から暴走させてその方向性を操ったほうがまだ安全だと私は覚悟したのだった。
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