53:天才児(※30歳)を操れ、ソフィアちゃん!
「――なっはっはっはっは! やりすぎてしまったのぉ領主よ! すまぬすまぬっ!」
「「「お~! 族長が目を覚まされたぞ~!」」」
死の通路を突破してから小一時間後。
そういえばドワーフの族長と仲良くならなきゃいけなかったことを思い出した私は、ズタボロで死にかけていた彼を引きずって地下から脱出。
私のことを心配したウェイバーさんに渡されまくっていた高級回復薬を使い、族長さんを(仕方なく)治療してあげたのだった。
「本当にやりすぎよ……これに懲りたら危険なトラップを作るのは控えてよね? 人の痛みを知りなさい」
「う、うむっ、考えておこう……全身の骨が砕ける痛みを物理的に味わわされたからのぉ……!」
引きつった笑みを浮かべながら全身包帯まみれの身体をさする族長さん。
見た目的には褐色肌の三歳児って感じだが、これでも彼は三十歳らしい。
何かを作っていないと落ち着かないという性質上、ドワーフ族は寝食を忘れて作業に打ち込むことが日常茶飯事らしく、気付いたら栄養不足に適応するためにちっちゃな種族になっていたとか。真面目なのか不真面目なのかわからない一族だ。
「いや本当に失礼した。ああ、ワシの名はドルチェ。好きな物はモノづくりといたずら、好みのタイプは領主のような美少女じゃよッ!」
「私の名前はソフィア。好きな物はお昼寝と食べることで、苦手なタイプは死のトラップを仕掛けてくる人よ」
「ってそれワシやないかーいっ!」
こりゃぁ脈無しじゃの~とカラカラ笑うドルチェさん。本当に反省しているのだろうか?
そんな彼の能天気っぷりに、周囲のドワーフ(褐色ショタ)たちが困ったように笑う。
「族長~、いい加減にいたずらを仕掛ける相手を選びましょうよぉ。
あっしらモノ作りが得意なおかげで、セイファート王国に捕まった後も悪くない扱いを受けてたのに、族長が監督役の領主を半殺しにするからこんなとこに送られたんスよ……?」
「ふーんだっ! だってアイツ、金儲けするためにワシらに『アレ作れコレ作れ』ってうるさかったんじゃもーんっ! しかも同じようなデザインの既製品ばっか量産させるし、うんざりするわい。
ドワーフのモノ作りとは、常に挑戦的で新しくなければいけないのじゃ! そして何より誰に指示をされるでもなく、自由でなければいけないんじゃいッ! それが一族のポリシーじゃろう!?」
「いや、たしかにそう言い聞かされて育ってきましたけど~……!」
ちらりと私のほうを見るドワーフの人たち。その顔にはダラダラと冷や汗が浮かんでいた。
まぁ、今のは『言うことには従わない』という反逆宣言に等しかったからね。
しかも私を殺そうとしたんだから、ドワーフの人たちから考えてみればもうアウトだろう。彼らは一斉に私に頭を下げてきた。
「ホンットすいませんソフィア様ッ! ウチの族長、アホなんですよ! アホでバカで考えなしなんですよッ!
でも、モノ作りの腕前だけは一流なんですッ! アイディアのほうだって、危険物ばっか思いつくけどたまーに凄い発想をするんですよ! 一割の確率で!
だからどうか、処刑だけはなにとぞ~……!」
「いや……話だけ聞くとアホでバカで考えなしで、一流の腕前を使って九割の確率で危険物を作り出す地獄みたいな人物像になるんだけど……」
「「「ハッ、たしかに!?」」」
族長のことをギョっと見るドワーフの人たち。彼らの目には、『そういえばなんであっしら、こんな人をリーダーにしてるんだ?』という疑念の思いがありありと浮かんでいた。
「一族の存続のためにも、この危険分子は処刑したほうがいいんじゃ……」
「危険分子ッ!? ちょっ、待ておぬしら! 代々、もっとも手先が器用な者が族長になるというのがしきたりじゃろうが!?
えぇい、とにかく領主よッ! ドワーフ族にとってモノ作りは自由なのがモットー! つまらない指示には従わないぞ~っ!」
一族みんなの裏切りに慌てつつ、フンッと顔をそむけるドルチェさん。どうやら筋金入りの頑固頭らしい。職人としては一本筋通っていたほうがカッコいいが、リーダーとするには最悪の人格だ。
いたずら好きなくせに変なところで古い慣習を持ち出して柔軟性絶無とか、正直言って地獄すぎる。
モノ作りが得意だからドワーフ族的には許されてるのかもしれないが、ヒトの社会でこんな人物がリーダーになったら数日で暗殺されることだろう。
頑固者な天才か……ならばこうするしかないだろう。
私は領主として彼に命令を下すことにした。
「わかったわ、ドルチェさん。じゃあアナタは自由にモノ作りをして頂戴。必要な資材があったら私に言ってね」
「そんな命令には……って、えッ!? 自由にしていいのッ!? しかも資材もくれるのか!?」
「ええ。王国のほうに発注するから、好きなだけ使っていいわよ」
私の言葉に、ドルチェさんは信じられないものを見る目で驚くのだった。
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