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51:聖女への想い



 ――ドワーフの下に向かって行くソフィアを見送りながら、シルフィードとガンツは「ふむ」と唸った。

 赤い髪をなびかせる少女から目を離さず、二人の族長はぽつりと呟く。


「ヒト族に対してこんな評価をする日が来るとは思いませんでしたが……出来たお人ですねぇ、彼女は」


「うむ……あくまでも貴族であり、少女の身でありながら、なぜそこまで働くのかと問いかけてみれば『()()()()平和のため』とはな。

 早急なる治安維持のために身を粉にして尽力するとは、領主としてあっぱれなり」


 複雑な感情を抱きつつも、彼らは族長としてソフィアを高く評価した。


 彼女の危惧しているだろう通り、この『シリウス』の地に住まう者たちは精神的にかなり危うい状態だ。

 エルフ族・獣人族・ドワーフ族含め、亜人種同士に交流はない。むしろ互いの存在を毛嫌いしているくらいだ。だというのに、憎き国王ジークフリートが亜人種たちを一つの街に無理やり押し込めたからである。


 そんなことになればストレスは溜まるし喧嘩も起こる。ガンツとシルフィードが連絡を取り合うようにしたのは、互いの種族の若者たちの小競り合いが見ていられない状態になってしまったからだった。 

 ただでさえシリウスはそんな状態だったのだ。そこに恐ろしきヒト族が紛れ込めば、住民たちの不安はさらに加速するに決まっている。

 ゆえに、

 

「ソフィア殿はこう考えたわけですか。誰もが不安な状況だからこそ、一刻も早く顔を合わせ、対話し、自分が無害な存在であると理解してもらおうと。

 やれやれ……尊敬を通り越して心配になる領主サマですねぇ。つい先ほど、獣人族の大男に襲われたばかりだというのに」


「うぐぐっ……しつこいぞシルフィード! たしかに同胞を治療してくれてる場面を襲ってるのかと勘違いして殺しそうになってしまったが、領主殿は少し叱って手打ちにしてくれたのだからいいだろう!」


「いやいやいやいやよくありませんって……なんで少し叱るだけで許してるんですかあの人。善意からの行動を勘違いされて殺されかけたら、怒り狂っても仕方ないですよ?

 普通、そんな目にあったらしばらくは異種族と交流なんて持ちたくないと思うはずですけどねぇ」


「うっ、うるさい。貴様だって我々獣人族がソフィア様をさらって破廉恥ハレンチなことをしようとしていると勘違いしたくせに。我らが血族に対する立派な侮辱行為だぞ!?」


「むむむむむっ!?」


 互いの図星を突かれ、唸り声をあげる族長二人。

 異なる亜人種の関係性なんてこんなものだ。彼らは結局、ヒト族とだけでなく他の種族とも信じあえていないのである。

 同じ人型でも中身が違う。身体的な機能から食生活まで違ってくれば、それも当然のことかもしれない。

 ――だがしかし、


「考えの足らない獣人族に比べて……ソフィア殿は立派ですねぇ。嫌がらせでわたくしが出した料理をペロリと平らげてくれた上、『毒が混ざっているかもしれない』なんてまったく疑ってはいなかった。彼女ははじめから、我々を信じようとしてくれていた」


「うむ……陰険なエルフ族とは違い、領主殿は戦った相手にも看護をほどこすような人物だった。彼女は本気で、我々に安心と安寧をもたらそうとしてくれているのだな」


 ここではじめてエルフ族と獣人族の意見が合った。

 亜人種同士でもいがみ合ってしまうような環境の中、若々しい少女がただ一人、こんな状況を何とかしようと頑張っているのだ。


 身を休めることすら後回しにして異種族との友好を優先するなど、民の平和を真に願う『聖女』か、保身のことしか考えていない薄汚い悪女くらいだろう。

 間違いなく前者だと彼らは確信している。

 

 それを知って、その姿を見て、何も感じない者がいるか? 

 もはや種族なんて関係ない。ただ『男』として、二人はソフィアに協力したいと心から思った。

 シルフィードとガンツは示し合わせたかのように、互いの手を握り合った。


「……誓いましょう。出来るだけ、皮肉は言わないようにしてあげますよ。若い少女が奔走しているというのに、我々オトナが言い争っていたら恰好が付きませんからねぇ……」


「ああ。これからは我々だけが連絡を取り合うのではなく、種族の者たちを集めて懇談会を開くようにしよう。領主一人に問題を丸投げするわけにはいかないからな」


 白く細い手と武骨な手を重ね合い、不器用な笑みを浮かべる男たち。

 こうして彼らはソフィアの献身的な姿に惹かれ、結束を強めようと誓い合うのだった。



 ――なお、全ては彼らの勘違いであるッ!



「(あ~、ドワーフって一日中家にこもって物作りしてる変な種族でしょ? 絶対にコミュ力ゼロっぽいし会いたくないよぉ……あとなんかくさそうだし……)」


 街を歩いていくソフィアの願いはただ一つ。『安全に眠れる場所が欲しい』というだけだった。

 そしてあわよくば亜人種たちが言うことを聞いてくれるようになって、命令通り働いてお金を儲けさせてくれたら万々歳。貧乏過ぎる実家を何とかしたら今度こそテキトーな男性のところに嫁いで、普通の女の子として生きることにしよう。


 この自己評価が低すぎて色々とこじれている女は、そんな浅いことを考えながら異種族との問題を解決しようとしているのだった……!


 



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― 新着の感想 ―
[良い点] >身を休めることすら後回しにして異種族との友好を優先するなど、民の平和を真に願う『聖女』か、保身のことしか考えていない薄汚い悪女くらいだろう。 >間違いなく前者だと彼らは確信している。 …
[良い点] ホーヘンハイム構文ほんとすこ [気になる点] しかしこれが出ると国王が頭おかしくならないか心配 (既におかしい?もっと凄いのいるから…)
[一言] 二択で間違い引くの面白
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