49:もう普通の女の子になれるわけがないよ、ソフィアちゃん!
「……すまなかった、領主殿。まさかヒト族が本当に我らの治療などしているとは思わなかった」
そう言って頭を下げるガンツさん。他の獣人族たちもそれに続いた。
あのあと私たちは、気絶したガンツさんを彼に与えられた屋敷に運び込んであげた。ガンツさん、目を覚ました時にはビックリしてたなー。ちょうど上着を脱がして胸骨が折れてないか触診してるところだったからね。
私の顔を見るやガタガタ震え始めるわ、脱がされている自分の状況を勘違いして「ひぇっ、襲われてる!?」って悲鳴を上げながら部屋の隅に縮こまっちゃっうわと騒がしかった。おっきいのに意外とナイーブな人だ。
そうして彼が落ち着くのを待ってから、他の獣人族の人たちと一緒にキチンと事情を話し、今の状況に至るわけだった。
ガンツさんは気恥ずかしそうにゴホンと咳払いをし、私の側に控えていたウォルフくんのほうを見る。
「いやしかし……見違えましたぞ王子殿。まさかここまでご立派になられているとは。部下ともども、すぐに気付けず申し訳ありませんでした……」
「まぁ仕方ねーって。国が滅んでから十五年も経つからな。アンタが遊び相手をしてくれてたときなんて、まだ五歳くらいの子犬だったしよ」
「はははっ……あのときのウォルフ王子はとても大人しい性格で、追いかけっこなどよりもおままごと遊びを好んでおりましたなぁ」
「バっ、バカっ!? ソフィアの前で変なこと言うんじゃねーよ恥ずかしいッ!」
ガンツさんの言葉に顔を赤くするウォルフくん。
へ~。ウォルフくん、王子様だったときは女の子みたいだったんだ。もしも国が滅びなかったらどんなふうに成長したのかちょっと知りたいかも。
「フフッ。ウォルフくん、私とでよければおままごと遊びしてみる? 私のことママって呼んでもいいからね~?」
「ってソフィアまでやめろよもうっ!?」
ワタワタと騒ぐウォルフくんの姿に、私や獣人族の人たちは思わず微笑んでしまう。彼のおかげで部屋に漂っていた気まずげな雰囲気が少しだけ和らいだ。
ガンツさんは懐かしいモノを見るような笑みを浮かべ、私に告げる。
「どうやらウォルフ王子とは非常に仲がよろしいようだ。王子が信じたお人とあらば、我らも獣人国の民としてアナタの命令に従うことにしよう。
……だが、やはりヒト族を完全に信用するわけには……」
「大丈夫、わかってるから。苦手意識なんてすぐに消えるものじゃないし仕方がないよ。今はただ、私の言う通りにお仕事をしてくれれば十分だから」
王様から亜人種たちにやって欲しい業務とか、色々もらってきてるんだよねー。
この特区『シリウス』はある種の実験場のようなものだ。植物の栽培に長けたエルフ族や、身体能力に優れた獣人族など、何かの能力に特化した異種族が十全に働いてくれた場合、どれだけの利益になるか。それを国王ジークフリートは知りたがっているようだ。
亜人種の人たちがいっぱい生産しまくってくれたら、そのぶんだけ国が買い取って私に取り分をくれることになっている。なのでまずはみんなと交流を深め、領主として話を聞いてくれるようにしないと。最悪、嫌われたら暗殺もあり得るしね。
「ガンツさん、誇り高い獣人族の戦士なんだよね? じゃあ人に対して頭上から奇襲とかはもうやめようね?」
「あっ、いや、それは仲間が襲われていると思い、つい焦ってだな……」
「ついとかじゃなくて、やめようね?」
「……うむ。本当にすまないことをした……」
大きな体をちっちゃく丸め、改めて頭を下げるガンツさん。語気を強くしたせいかわずかにビクビク震えてるけど、実際は私のほうが内心震えてるからね!?
私の目標は平和な日々を送ることなんだから、いくら気配が読めるからって大剣ぶん投げられるのはコリゴリだよ。そんな経験は普通の女の子を目指す者として必要ない。
私は頭を下げているガンツさんに、そっと手を差し出す。
「じゃあ、もう私から言うことは何もないかな。今は形式上だけのものでもいいから、仲直りの握手をしましょう?」
「領主殿……ああ、そうだな。いつかは心からアナタの手を握れる日が来ることを祈ろう」
大きな手のひらで私の手を包むガンツさん。これで今回の件は決着だ。王子様のウォルフくんがいたおかげで重症者も出ずに手早く済んだし、よかったよかったと思っておこう。
その時だった。いきなり屋敷の扉がバーンッと開かれ、エルフの族長・シルフィードさんが血相を変えながら飛び込んできた。
「おのれ野蛮な獣人族めっ! 集団でソフィア様を屋敷に連れて行ったという報告を受けたぞ!? いかにソフィア様がヒト族とはいえ、無理やり拉致してあんなことやこんなことをするなど言語道断! 恥を知れガンツッ!」
「「えっ」」
「……あれ?」
手を取り合う私とガンツさんを見て、ポカーンという顔をするシルフィードさん。
そんな彼を見て「相変わらず抜けてるなぁコイツ……」と呟いたガンツさんに、私は思わず同意してしまった。




