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45:貧乏無双、ソフィアちゃん!



『ようこそおいでくださいました、領主様っ!』


 領主邸に到着するや、十数人もの少年エルフたちが一斉にお出迎えしてくれた。なぜか大人は一人もいない。


「お荷物お持ちしますっ!」


「ああ、ありがとう」


 上目遣いでニッコリ微笑むエルフくん。

 ふわぁああ……流石は色白で線が細いことで有名なエルフ族。今の子をはじめとして、みんな美形だ。イケショタだ。

 私はウォルフくんをはじめとした王子様たちのおかげで美形慣れしてるからいいけど、そうじゃなかったら惚けちゃってたかも。

 最近は感覚が麻痺してるだけで族長のシルフィードさんもすっごくカッコいいしね。


「おやおや、どうしました領主様? もしや我が同族の子たちを見て、色ボケでもぉ?」 


「ええ、みなさんとても愛らしいですね。手厚いご歓待をありがとうございます」


「ぐっ……まったく相手にしていない……ッ!?」


 ぐぬぬと表情を歪めるシルフィードさん。

 喜んでいいのかはわからないけど、出会ったときの明らかに『芝居してます』感がなくなって、腹の底の毒を吐き出すようになってきた。

 まぁちょっと慇懃無礼なくらい可愛いものだ。憎しみで色々こじれまくったハオ・シンランや、サドでマゾで性格歪んだ国王陛下に比べればねぇ……。


「うん? どうしたんです領主様、わたくしの顔をじっと見て」


「いえ、シルフィードさんは可愛いなぁと」


「はえッ!? まっ、まさか狙いはわたくしだった……!? 

 なるほど、年上好みというわけですか……一族屈指の美少年たちを集めたのに反応しないわけだ。『作戦』とは少し違いましたが、正体を現したな年中色ボケのヒト族めっ!」


「違います」


 さらっと流すと、シルフィードさんは「えっ、あ、そ、そうですか……。あっ、作戦とか言ってたのは冗談です……!」と今さら取り繕い始めた。

 本当にわかりやすい人である、この人は。

 


 ◆ ◇ ◆



「――さぁ、では新たなる領主様と共に、友好を深めるための食事会を行いましょう! 皆の衆、カンパーイッ!」


『カンパーイ!』


 シルフィードさんの音頭に合わせて木製のグラスを掲げる。

 今回の食事会はエルフ式で行われるようだ。みんなで円の形を描いて床に座り、木の食器で食事する。それがエルフ式らしい。

 貴族の間では『銀には魔を滅ぼす効果がある』といって、木製食器は貧乏人の使う物と嫌う人が多いらしいけど、私はその貧乏人枠だからね~……。貴族なのにむしろ木の食器しか使ったことないよ。


「さぁ領主様、エルフ族の食事が運ばれてきますよ。ではまずはサラダから!」


 シルフィードさんが指を鳴らした瞬間、何人かの少年エルフくんたちが私たちの前にお皿を置いていった。

 その中には多くの雑草が。それと私を見合わせてシルフィードさんがニヤニヤと笑う。


「ささっ、どうぞどうぞ領主様! どうか残らずいただいてくださいませ! まぁヒト族にとっては『雑草』や『毒草』と呼ばれるものが入っておりますが、まさか食べられないということは、」


「あぁ、フラッペ草にカモネート草ですね。いただきます」


 さっそく口に運ばせてもらう。うん、美味しい! フラッペ草は硬い葉の筋がちゃんと取り除かれており、毒のあるカモネート草も軽く炙られて無毒化されていた。まぁ完全に毒が抜けたわけじゃないけど、むしろそのほうがピリピリして美味しいんだよねぇ。ネギの後味に近いかな。


 パクパクと食べ進めていく私を見て、シルフィードさんをはじめとしたエルフたちがギョッとする。


「えっ、いや、あの、えっ……領主様、貴族ですよね? なんで普通に食べてるんです……? ヒト族の好む『ドレッシング』とやらもかかっていないのに……」 


「諸事情でこういうのは食べ慣れてますからね。それに、これから仲間になる人たちの食事を残してしまったら失礼でしょう?」


「そ、それはそうですが……!? っ、ええいっ、ならば次です! スープとメインディッシュとデザート、全部もってきなさいッ!」


 シルフィードさんがそう叫ぶと、少年たちが大慌てで皿を並べていった。


「さぁ、これがエルフ料理のフルコース! ヒト族の間では木の根とされる『ゴッボ』入りのスープに、ヒト族の間では忌避される『生』の馬肉に、そしてヒト族からは忌避される『ハチの子』を茹でたデザート! 食べれるものならっ、」


「いただきますっ!」


 シルフィードさんが言い終わる前に、私はどんどん手を付けていった!

 狩猟生活で育ってきた私にとってはどれもごちそうだよ! ゴッボは食べ応えのある野菜で大好きだし、お肉なんて食べられるだけありがたいんだから生なくらい平気だし、ハチの子とかむしろ最高でしょ!

 一回、ハチの巣を襲撃してハチミツを奪った時についでに食べたことがあるんだよねー。私も普通の女の子みたいに甘い物が食べたくなったから、命懸けでハチの群れとバトルしてさー。


「ん~おいひぃ~っ!」


「えぇええぇぇぇ……」


 バクバクムシャムシャと食べていくたびにシルフィードさんが脱力していってる気がするが、そんなもん知るか! 貧乏令嬢として食欲のスイッチが入ったらもう止まらない。食べれる時に食べておかなければ!


「がふがふがふっ! うめーなーうめーなー!」


 ついでに部屋の隅っこで食べさせられているウォルフくんも、ガツガツムシャムシャとめちゃくちゃ食べまくってエルフたちを困惑させていた。

 獣人族は野草や野菜を嫌うっていうけど、彼には旅の道中で『貧乏令嬢特製・食べれる野草をぶっこみまくったスープ』とかを散々食べさせたからね。私と同じく慣れちゃってるのだ。


「シルフィードさんにエルフのみなさん、最高の歓迎をありがとうございますっ! ごちそうさまでした!」


 明るい笑顔でそう言うと、誰もが呆然とした表情で『お、お粗末さまでした……!』と呟いたのだった。





※よい子はソフィアちゃんの真似をして毒草食べたり狩猟肉をナマで食べたりハチとバトルしないでください。


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― 新着の感想 ―
[一言] 蜂の子って食べたことないから興味ある。美味しそう
[一言] ハチの子は実際うまいかんなぁ……読んでたらまた食べたくなってきた
[一言] 逆に貴族が食べる食事が胃もたれ起こすんですね。 食べ慣れていないから。
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