44:エルフ族との出会い!
「――ようやく着いたなぁソフィア! ここが異種族たちの住むところになる場所『シリウス』か」
「そうだねウォルフくん……」
あっ、あーーーーーっ! ついに着いちゃったよ~!
王様に命令されてから一週間ちょっと。私とウォルフくんは馬車を乗り継ぎ、道なき道を超えて特区『シリウス』に到着した。
どうやら簡素ながら建物の建設は終わっているらしい。小高い街の真ん中にそこそこ立派な領主邸があり、そこを中心として石作りの街並みが広がっていた。
……ちなみにすでに何人もの異種族が移民を終えているんだとか。ぶっちゃけ恐ろしすぎるんですけど……!
「ほらほらソフィア、さっさと行こうぜ!」
私の気持ちも知らず、馬車から飛び降りるウォルフくん。今さら喚いても仕方ないので彼に続く。
今日もウォルフくんはイヌ耳ピンピンで元気いっぱいだ。そんな彼のはつらつとした姿に、馬車を操っていた御者のおじいさんは「明るい彼氏さんですな~」と言いながら馬車を引き返していった。
いや、彼氏じゃないです! 元王子様が彼氏とか色々プレッシャーハンパないですからッ!
「なぁソフィア、カレシってなんだ?」
「えっ、うーん……女の人と想いあってる男の人、みたいな? 結婚する一歩手前の相手よ」
「へーっ! じゃあ俺はソフィアのカレシってことだな!」
ってなんでそうなるのッ!?
もうウォルフくんったら……もしこの場にウェイバーさんとヴィンセントくんがいたら二人から怒鳴られてるよ? ただでさえ旅の道中、ごくごく普通に私に抱き付いてきたり、夜には胸に顔を埋めてきたり舐めてきたり吸ってきたりとセクハラ無双だったのに。
ちなみにウェイバーさんは、執事の引き継ぎ業務だとかで少し遅れて到着する予定だ。王様直属の執事っていう超エリート職を辞めてまで私についていきたいとか、なんというか嬉しいやら恐れ多いやら……!
またヴィンセントくんも行きたがってたけど、一応王子様なので「襲われる危険性の高い場所には行くな」と大臣たちにゴネられてるとか。私は逆に行きたくなかったよ……。
「俺、いっぱい稼ぐから安心しろよソフィア」
「ああ、うん、期待してるねウォルフくん……!」
のんきな笑顔を浮かべる(※王様に五億の借金がある)カレシさんに、私は曖昧な笑みを浮かべたのだった。
そんな時だ。
「やぁやぁ、よくおいでなさいました『領主』様!」
不意に私たちに、ピンと耳の尖った緑色のローブの男性が声をかけてきた。
「アナタは……?」
「あぁ、これは申し遅れました。わたくしはエルフ族の族長『シルフィード』と申します。本日は我らが領主様を出迎える役目をいただきました」
そう言って仰々しく頭を下げてくるシルフィードさん。
へーっ、エルフ族といえば獣人族に輪をかけてプライドが高い種族って言われてるのに、すっごく礼儀正しいじゃん!
私、自分の感情や立場を二の次にして、権力者にちゃんと頭を下げれる人って好きだなぁー。親近感わいちゃうもん!
「では新たなる領主のソフィア様、どうか領主邸までご同行を。我らエルフ族と仲を深めるために、食事の席を用意してございます」
「おいエルフ、俺もいるぞ!」
「えぇ? …………チッ、なんで獣人族野郎のメシまで用意しなきゃいけないんだよ…………」
「あっ、いま小声でなんか言った!? オメェ悪口っぽいこと言っただろオイッ!?」
ギャアギャア喚くウォルフくんと、それにまったく取り合わないシルフィードさん。
……そういえばエルフと獣人族って、同じく森をテリトリーとする種族同士、昔からいがみ合ってきたらしいからね。まぁしょうがないか。
「ねぇシルフィードさん」
「おやなんですか領主様? あぁ、もしや愛人……もとい愛犬に対するわたくしの態度に不満でも? それではどうぞ罰をくださいませ。煮るなり焼くなり好きにどうぞ。……ただし他のエルフたちには手を、」
「って違いますよシルフィードさん! そんなことで手を上げたりしません。
……むしろウチのウォルフくん、あんまり礼儀が正しくないところがあるのでビシバシ言ってあげてください。さっきだって名前じゃなくて『エルフ』呼ばわりでしたし」
「えっ……?」
細い目を少しだけ見開くシルフィードさん。
思わぬ言葉に驚いているといった感じだが、むしろ私はさっきのシルフィードさんの言葉こそまさかだよ。
――だって族長なんていう人に理不尽な罰を与えたら、私絶対に一族全体から恨まれるじゃんッ!? そんなのやだよッ! わたし生きて帰りたいもんっ!
「そんなに気を張らないでくださいシルフィードさん。お互いに我慢できるところは我慢し合って、どうにか上手くやっていきましょう?」
「っ……フン。変わったヒトですねぇ、アナタは」
ぼやくようにそう呟いて、領主邸にズンズンと進んでいってしまうシルフィードさん。
王国に故郷を滅ぼされた者として、きっと腹に一物抱えているんだろう。
だけどそれくらいなんだ。だって私は一週間前、存在自体がトチ狂った王様と軽く喧嘩してきたんだからね……!
むしろお腹の中に不満を隠してくれてる分、まだシルフィードさんは優しいと言える。
「……ほら、早くついてきてください」
「ええ」
「うぎぎ……ソフィアがまた男を増やしやがった……ッ!」
ぶっきらぼうというか、少しだけ態度が自然になったシルフィードさんと、何やら失礼なことを言っているウォルフくんと共に、私は領主邸へと向かって行った。
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