40:国王降臨
「よぉーソフィアー! って、商業都市にいたオッサンもいるじゃねぇか!? また一緒にメシ食いに行こうな!」
「こらウォルフッ、ダーニック公爵に向かって馴れ馴れしいぞ!? その人は財界の重鎮だぞッ! ていうか一緒に食事したのかッ!?」
むむっ?
ダーニック公爵のせいで友達作りに失敗し、内心涙目になっていた時だ。
私たちのところに着飾ったウォルフくんとヴィンセントくんがやってきた。
って、うわぁ……二人ともスーツが似合うなぁ……!
特にウォルフくんのほうは新鮮だ。普段着ているボロいコートから飾り気のない黒いスーツに変えただけで、すっごく大人な雰囲気が出ている。
なんだかんだで顔はいいもんねー、ウォルフくん。
「ウォルフくん、正装姿も似合ってるねっ!」
「おう、サンキューな! ソフィアも色々丸見えですげーぞ!? なんつーか、ムラムラするぜッ!」
「ムラムラッ!?」
……元気な笑顔でとんでもないことを口走るウォルフくん。
色っぽい、と言われてるってことでいいんだろうか? 最近は『自分の名前が書けるようになった~』って喜んでたけど、まだまだ教育不足のようだ。
特に、その……性知識関連はまったく手付かずのため、早く何とかしたほうがいいかもしれない。
でも私が教えるのはやっぱり恥ずかしいしなぁ~と思っていると、ヴィンセントくんがわざとらしく咳ばらいをした。
「ウォッホンッ! とっ、ところでソフィア。僕の正装姿はどうだろうか!? 赤いドレスのキミと対になるように、青いスーツを着てみたのだが……!」
「えっ、それはまぁ似合ってるけど……ヴィンセントくんはいつも綺麗な格好してるから、ウォルフくんに比べてあんまり新鮮味がないかも……?」
「んなッ!?」
「ところでヴィンセントくん。その……やっぱり王子様って、えっちな知識には詳しいの……?」
「なッ、んなななななななななななッ!? にゃッっなにを言ってるんだキミはぁ!? いやその、あれだぞッ!? まぁ確かに子孫を残すことは王家の命題ではあるにはあるが、実際にそこまで詳しいかと言われたら経験もないしそこまで――っていやいやいやいやッ、経験もないって何を暴露してるんだ僕は!? いや違うぞっ、僕は大人の男なんだからなぁあああッ!?」
顔を真っ赤にしながら何やら勝手に自爆をかますヴィンセントくん。
う~ん、この調子だとウォルフくんの教育係を任せるのは難しそうだ。
まぁ、ウォルフくんの性知識無知無知問題はひとまず保留にしておこう。そのうち何とかなるだろう。
のんきにそんなことを考えていると、不意にダーニック公爵が大笑いを上げた。
「がっはっはっはッ! 流石はソフィア殿、まさかヴィンセントのやつとも仲良くなるとは思わなかったぞ! コイツは昔からアレだったからなぁ~。なぁ?」
「ア、アレとはどういうことですかダーニック公爵ッ!? 僕は昔から優秀で真面目でッ……いや、まぁ、今思い返したら、真面目ではなかったですけどね……ええ……」
「おほぉっ!? まさかヴィンセントが反省を覚えるとはッ! ……とっくに見放していたのだが、本当にすごいことをしてくれたなぁソフィア殿……! そなたには心から感服するばかりだ……!」
ってダーニック公爵、すっごい尊敬の籠った目で私のことを見てるッ!?
いやいやいやいやいや違いますからッ! 私そこまで何もしてませんからッ!? 「決闘だ~!」って絡んでくるのがうざかったんで、ちょ~っと苦言を言って遠ざけようとしただけですからッ!
お願いダーニック公爵……商業都市で(バトルするのがダルくなって)住民全員を戦わせたことを好意的に解釈されちゃったり、もうそういうのは勘弁だから! 本当は薄汚いのに妙に評価されちゃうと、良心めっちゃ痛んじゃうから……ッ!
そんな私の内心をよそに、男性陣は楽しそうだ。執事のウェイバーさんも交じり、私を囲って和やかに談笑し始める。
「フフッ。どうしようもなかったヴィンセント様も、ソフィア嬢のおかげで少しはマシになったようですね。流石は我が主、ソフィア嬢……!」
「王子である僕に向かってどうしようもないとはなんだッ!? ……ていうかウェイバー、お前は逆におかしいことになってないか……?」
「何でもいいけど、お前らソフィアにはあんまり近づくなよッ! こいつは俺の女なんだからなッ!?」
「がはははっ! モテモテだなぁ~ソフィアよ!」
わいわいと話すイケメンたち。ダーニック公爵もダンディなイケオジだし、なんというかこの人たちに囲まれてたら美的感覚がおかしいことになりそうだ……!
……ちなみにこの状態で近くにいた貴族令嬢グループに視線を向けたら、もはや嫉妬を通り越して魂の抜けきった表情でこちらを見ていた。
ですよねーッ! そうなりますよねーッ! うわああああああん! もう女友達なんて作れないよぉおおおおお!!!
めでたくボッチが確定し、ちょっぴり泣きそうになっていた――その時。
「――ふむ、どうやら今宵の舞踏会はずいぶんと盛り上がっているようだ」
威厳を孕んだ美声と共に、入口の扉が押し開かれた。
はたしてそこに立っていたのは……黄金の髪を腰まで垂らした、長身の美丈夫だった。
彼が現れた瞬間、私とウォルフくん以外の者は一斉に表情を硬くし、舞踏会場の空気が張り詰めていく――!
そんな周囲の反応だけでわかった。
ああ、そうか……この人が……!
「私こそがこの国の王、ジークフリート・フォン・セイファートだ。……初めましてだな、ソフィア・グレイシアよ……!」
そう言って彼は、獅子のような堂々とした歩みで、私に近づいてくるのだった……!
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