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4:殺人イモムシ


「――いやぁ、今日も大稼ぎだったなぁソフィアちゃん! ほいこれ、ソフィアちゃんの取り分ね!」


「ありがとうございます先輩がたっ! それでは失礼しますね!」


 ニコニコとした作り笑いを浮かべ、共闘した冒険者パーティーを後にする。

 (たぶん)私のせいで発生したグレイシア領のパンデミック事件から一週間。私は隣領の大きな街『ステラ』にて、二度目の冒険者生活を送っていた。


 初めてだけど初めてじゃない石畳の街を歩きながら思う。前世の記憶があるというのは、とてつもなく便利なのだと。


 まず、この街の端っこに存在している『ダンジョン』の構造をすべて把握できているのが大きな強みだった。

 有史以前から世界の各地に点在する、凶悪なモンスターを無限に生み出す魔の洞窟……ダンジョンはとても危険な場所である。

 私たち冒険者はそこに潜り、モンスターを倒すことで外に溢れ出さないよう間引きしつつ、丈夫な素材となるモンスターの皮や牙を回収してくるのが仕事だ。

 ゆえに、ダンジョンのどこらへんに目当てのモンスターがいるか把握したり、いざという時の逃げ道を覚えておくのは、冒険者として必須のスキルだった。


「……覚えきるまで大変だったなぁ。どこからモンスターが湧き出すか分からないダンジョンの中じゃ、呑気に地図を開いてもいられないし……」


 前世の苦労を思い出したら自然と溜め息が出てしまった。だがあの時の頑張りのおかげで、十五年経った今でもダンジョンの歩き方を身体のほうが覚えていてくれた。


 さらには前世の記憶のおかげで、『信頼できる冒険者』と『近づくとヤバイ冒険者』を判別できるのも助かった。

 そんなわけで、かつての根暗な私にも優しくしてくれたベテランのパーティーに一時加入させてもらい、この数日間でしっかりとモンスターとの戦い方を思い出すことに成功したのだった。

 さてと……明日からはソロで頑張らないといけないなぁ。なにせパーティーを組んだら安全性が上がる分、お金の取り分が減っちゃうからね。こちとら領地の危機なのだ。

 お父様は『お前のおかげで貯金があるから、定期的な治療費の仕送りはしなくていい』って言ってたけど、病なんていつ悪化するかわからない。出来ることなら一年以内には大金を稼いで、最高の治療を受けさせてあげよう。


 それと、早急に冒険者としての衣装代も用意する必要もあった。

 なぜなら……、


「あっ、あれってグレイシア領のソフィア嬢じゃないか? 相変わらず目立つなぁ……」


「ああ、あの辺境地のお嬢様か。遠くからでも一目でわかっちまうよなぁ~」


 う、うぐぅ!? 周囲からの視線を感じ、私はサッと路地裏に紛れた。

 はぁ……そりゃ目立つよねぇ。だって貴族なのに冒険者をやっている上、『純白のドレス』でダンジョンに潜ってる女なんて私くらいだろう。

 胸元のフリルを指でいじりながら思い返す。なんでこんな物を着ることになったのかというと、前世よりもアホっぽくなったお父様が原因だ。

 

 私が旅立とうとする日、お父様はいきなりコレを渡してこう言ってきた。


『防具代わりにコイツを着ていくといい。これはお前が冒険者になるとき――じゃなくてどこかの貴族に嫁ぐとき用に用意していた特注ドレスだ! 殺人イモムシモンスター・ジェノサイドワームの糸から出来ているから、刃物だって刺さらないぞ! しゅうとめに嫌われて殺し合うことになっても安心だな!』


『あ、ありがとうございます! でも、あの、ドレスって……!』


『ふははっ、可愛いだろう!』


『可愛いですけどぉ……!』


 ……そんなこんなで着ることになったのだが、父の言葉通り、その性能はバッチリだった。

 摩擦にも強くて汚れもよく落ちるし、そこらの皮鎧よりもよっぽど頑丈だ。たしか殺人イモムシモンスター・ジェノサイドワームの糸には自己修復機能もあったため、長持ちだってするだろう。まるで最初から冒険者の装備としてオーダーメイドされたような代物である。


 見た目だってすっごく綺麗で可愛いんだけど、ああ、でもなぁ……。


「はぁ~……性能も出来栄えも最高なんだけど、とにかく目立ちすぎるんだよなぁ……!」


 貴族のパーティーの場(※私は呼ばれたことはない!)だったらまだしも、戦いの場であるダンジョンにおいては、あまりにも不釣り合いな格好だ。元々が根暗女の私にとって、目立ちすぎる状態というのは心への負担が大きい。

 だけどこれを脱いで安物の冒険者衣装に変えるというのも出来なかった。なにせ私は、かつてダンジョン内で怪我をして動けなくなり、そのまま全身を滅多刺しにされて死んでいるのだから。

 あのときの経験から装備というのはマジで大切だと理解した。せめてこのドレスと同性能の装備が手に入るまでは、我慢するしか他にないだろう。



 あーあ。遠目にはドレスだとわからないよう赤いケープを羽織ってみたけど、それでも見られてソワソワするし……周囲の人たちこう思ってるだろうなぁ。


『ヘラヘラとした貧乏令嬢が、似合わない格好をしてみっともない』――って!




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