39:友達0人、ソフィアちゃん!
――星々の照らす夜の王都。その中央に位置する王城内にて、舞踏会は開かれていた。
会場に集まった王国有数の貴族たち。中でも父親に連れられてきた貴族令嬢たちの話題は、一人の少女に集約していた。
「……詳しくはまだ知りませんけど、グレイシア家といえば痩せた土地を与えられた貧乏男爵家でしょう? そんなところの娘がテロ集団から商業都市を救っただなんて、信じられませんわ……」
「いえいえっ! グレイシア領といえば、領地を追われた罪人のような連中が流れ着く場所ですよ? もしかしたらソフィアという女、報酬欲しさがために、領民たちを使ってテロ騒動を自作自演したのやも……!」
「あら、こわいこわい……」
忍び笑いを漏らしながら、様々な臆測を口にする貴族令嬢たち。
噂の英雄『ソフィア・グレイシア』についての前評判は、決して良いモノとは言えなかった。
なにせ貴族社会から孤立した底辺貴族の娘である。そんな存在がいきなり偉業を成したと言われても信じがたいし、何よりも面白くなかった。
「フンッ、何やら最上級魔法使いの率いるテロ組織を全滅させたと噂になっていますけど、そんな連中を一夜で滅ぼせるわけありますか!
どうせ運よく野盗の群れを撃退できたくらいでしょう。それくらい、魔法の英才教育を受けてきたわたくしだって出来ますわ!」
「まぁ真実はどうあれ、それなりに腕が立つことは確かなんじゃないかしら? ですがそうなると……はてさて、ソフィアという子はどれほど厳つい容姿をしていることやら……!」
「冒険者などをやっている野蛮な娘だそうよ。どうせドレスなど着慣れていないでしょうねぇ」
いくら悪口を言ったところで、交流のないグレイシア家を庇う者など誰もいない。
そうして少女たちが、『どんな珍獣が出てくることやら』と嘲笑を浮かべていた……その時。
「――ソフィア・グレイシア様が到着いたしました。皆様、どうか盛大にお迎えください」
会場に響いた怜悧な声に、令嬢たちはハッと入口のほうを見た。そこには全女性が憧れる『氷の執事』、ウェイバーが立っていたからだ。
心なしか普段よりもさらに冷たい彼の表情に、令嬢たちが見惚れていた次の瞬間――姿を現した少女の容姿に、誰もが言葉を失うことになる……!
「なっ、彼女がソフィア・グレイシア……? 卑しい貧乏領地の娘ですって……!?」
――どうせ平民まがいのみすぼらしい子に決まっている。そんな貴族令嬢たちの予想は、一瞬にして吹き飛ばされた。
傷一つない純白の美貌に、結い上げられた真紅の髪。静かに輝く蒼い瞳が、目を引き付けて離さない……!
さらには身に纏っている衣装も素晴らしかった。胸元や肩の大胆に開いた薔薇のようなドレスが、狂おしいほど彼女の魅力を引き立てていた。
少女らしい幼さと大人のような妖艶さを混ぜ合わせたソフィアを前に、誰もが絶句するしかなかった。
「う、嘘でしょう……まるでどこかの姫君じゃない……!」
呆然と呟いた誰かの言葉に、その場にいる全員が同意する。
貴族令嬢だからこそ分かる。あの美貌は、あの美髪は、幼少期から手間暇をかけて丁寧に磨き抜かなければ手に入らないものだ。そして何より、ソフィアは明らかにドレスという高級衣装を着慣れている様子だった。
凍り付く会場の者たちを前に、ソフィアはドレスの端を摘まみ、優雅なしぐさで一礼する。
「ソフィア・グレイシアと申します。どうか皆様、お見知りおきを」
……もはや、彼女を嗤う者は誰もいない。
一級執事・ウェイバーを引き連れて歩むソフィアを前に、誰もが呆然と立ち尽くしてしまうのだった……!
◆ ◇ ◆
――うっ、うぎゃあああああああああああッ!? なんか会場の空気が凍り付いてるんですけどぉおおおおおおッ!?
静まり返った貴族たちを前に、私は心の中で泣きそうになっていた……!
だってみんな私を凝視しながら、何とも言えない表情で固まってるんだもん!
これ絶対に「うわぁ~、なんか貧乏オーラ全開の珍獣が入ってきたよ~……!」とか思われてるよね!?
それともあれかな!? 小さい頃からソコソコお金持ちの人と結婚するために磨いてきた容姿を見て、「う、嘘でしょう……まるでどこかの娼婦じゃない……!」とか思われてるのかな!? あひぃーッ!? 薄汚い理由でごめんなさいッ!
うぅぅううぅ……国王様が用意したっていうこのドレスも、なんか色々とおっぴろげですごく恥ずかしいけど……でも、ここでずーっと黙ったままでいるわけにはいかなかった!
私は気付いてしまったのだ。思えば私って、女友達が一人もいないことに!!!
前世もボッチで今回もボッチとか寂しすぎる! 私だって貴族の令嬢なんだから、優雅に紅茶を飲めるお友達くらい作ってみたい!
そんなわけで壁際のほうに固まっている、(明らかに心の壁を感じる)貴族令嬢のみなさんと、お話をしに行こうと思った――その時、
「よーし着いた着いたー! ってうぉおおおおい、ソフィア殿ではないかー! がっはっはっはっ! 美人がさらに美人になったなぁ~!」
――ドスンドスンと足音を立て、堂々と入場してくるダンディな男性……!
王国屈指の権力者、ダーニック公爵閣下が声をかけてきたのだった!
ってあああああああああああああああ!? さらに貴族令嬢の皆さんの表情が強張っちゃったんですけどぉおおおッ!?
「っ、ダーニック様……商業都市ではどうもお世話に……」
「こらこらっ、もっと気楽にせんか!? というか世話になったのは我輩のほうだ!
これでも我輩、公爵であると同時に連合商会のボスでもあるからなー! どんな願いも叶えてやるぞ~!
たとえば――お前の悪口を言った奴を、破産させてやるとかなぁ……!」
ってこわっ!? もうっ、そういう冗談やめてよーーー! ほら、貴族令嬢の人たちめっちゃ顔を青くしちゃってるじゃんッ!? そもそも誰も悪口なんて言ってないし!
まぁテキトーな性格っぽいこの人のことだ……みんな冗談だってわかってるだろうけど、念のために令嬢さんたちを安心させようと軽く手を振ると、みんな蜘蛛の子を散らすようにどこかへ逃げて行ってしまったのだった……!
ってああああああああああああ!? 友達作り計画がぁあぁああああ!!? なんでこうなるわけーーーーーー!?
・ソフィアちゃん、友達0人続行――!
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