31:いい声で鳴け、ソフィアちゃん!!!
「ソフィアー! そっちは大丈夫か!?」
「あっ、ウォルフくん!」
街のみんなと一緒に大半の魔物を倒し終えた時だ。二手に分かれていたウォルフくんが手を振りながら駆けてきた。
よかった、どうやらあちらも目立った怪我はないらしい。
「うん、私のほうは大丈夫だよ。みんなにも力を貸してもらって一段落終えたところ」
「み、みんなにも力を貸してもらってって……ははっ、やっぱすげーなぁお前……!
こっちなんて『俺が全員助けてやらなきゃ』って思いながら必死に動き回ってばっかで、そんな発想まるでなかったぜ……」
ってぐはぁああああッ!? ご、ごめんなさいッ! 『もう疲れて色々限界だからみんなトラブルに巻き込んで速攻解決しちゃえ!』とかいう最低すぎること考えててごめんなさいッ!?
ウォルフくんに比べて私はどんだけ汚れてるんだろうとショックを受けたところに、さらに彼は追撃をかけてくる――!
「いや、ガサツな俺じゃぁ思いついてもパニック状態の奴らをまとめ上げることなんて出来ねぇよ。
きっとお前の優しくて強い心に惹かれて、みんな集まってきたんだろうな……!」
げふーーーーーーーーッ!? い、いやいやいやいやいやいやいやッ!?
元根暗女の私の心に、優しさや強さなんてこれっっっぽっちもないからッ! ただ必死にそれっぽい演技しながら、他力本願しまくってただけだからッ!
だからウォルフくん、いかにも『俺ももっと成長して、絶対にお前に相応しい男になってやるぜ……!』って感じの尊敬と熱さが入り混じった目で私を見ないでよぉおおお……ッ!
はぁ~~どうしてこうなった……。
相変わらず私への好感度が高すぎるウォルフくんに対し、内心頭を抱えていた時だった。
――ドチャリ、という音を立てて、私たちの前に焼け焦げたナニカが飛来してきた。
「ぐ……ぅう……ッ!」
「なっ――!?」
それはよく見ると人の形をしていて、砕け散った眼鏡をかけていて……って、もしかしてウェイバーさんッ!?
「ウェ、ウェイバーさん!? 大丈夫ッ!?」
「おい執事、生きてるかッ!?」
「っ…………ソフィ、ア…………嬢…………ウォルフ……」
咄嗟に抱き起して名前を呼ぶと、弱々しい声で返事が返ってきた……!
「ウェイバーさん、無理して喋らないで! 今すぐに治療をっ、」
「私のことは……構わないでください。それよりも、ヤツ……を……!」
そう言って、火傷だらけの手で夜空を指差すウェイバーさん。
そこには、背中から八本の触手を生やした『復讐の王子』ハオ・シンランが浮かび上がっていた……!
「フハハハハッ、やるねぇウェイバーくん! 我が魔法を放とうとする寸前、前に飛び出して盾となったか。
よき従者を持ったものだなぁソフィアよ。彼はお前を守るために命を投げ出したのだから……!」
「っ……ハオ・シンラン……!」
邪悪に輝く紫色の瞳と視線を合わせながら、私は思う。
――どうしよう、と!!!
あのすごい魔法使いで体術も半端なかったウェイバーさんが負けたのだ!
しかもハオのほうはといえば、傷一つ負っていない様子だった……!
てかなんであの人、ほとんど全裸になってるわけ? 下半身に破れた衣服を巻いてるくらいで、下から見ると色々おっぴろげなんですけど……!
「ウェイバーさん、一体アイツに何が……」
「気を付けてください……ヤツは最上級の雷魔法が使える上、脱皮します……!」
「脱皮ッ!?」
うぇぇええぇええええ……どんだけ人間やめてんのよぉ……!
そういえばウェイバーさんとウォルフくんに殴られて折れた首もすぐに再生してたし、半端な攻撃は全く通らないと思ったほうが良さそうだ。
それに加えて、前世から頑張り続けても中級魔法がやっとの私より、上位の魔法の使い手となれば……ダメだ。勝てる要素がまったく無い……!
よし決めた――ここは、どうにかして戦闘を回避しよう!
冷静な戦力分析の末、私がそう決意した時だった。
ここでまさかの奇跡が起こる――!
「おやおやおやおやぁ? どうしたぁソフィアよ、黙り込んでしまって! ……ウェイバーくんをズタボロにされて、もはや怒りで言葉もないといった様子かね!?
クククッ! その思いに応えて戦ってあげてもいいのだが……実を言うと、我も魔力をかなり消費していてねぇ。ここは逃げてやったほうが嫌がらせになりそうだ……ッ!」
そう言ってニヤニヤと笑うハオ・シンラン。
えっ……逃げてくれるの!? や……やったぁああああああああああああああああああああ!!! 助かったぁあああああ!!!
前世と合わせて初めて幸運なことが起きたぁぁあああああああッ!!? うぉおおおおおッ、あとはカラになったアジトを漁ってお金を持ち逃げするだけやんけー!!!
いやね、仲間をボコられたんだから確かに怒りもあるよ? 出来ることならぶっ殺してやりたいよ?
でも無理じゃんッ! そんなことしたら私が死ぬじゃん!? ……だからここはハオくんに気持ちよく逃げてもらいましょ~~!
なんか知らないけど、アイツは私のことがめちゃくちゃ気に入らないみたいだからね。
嫌がらせしたくてしょうがないって感じだから、ソフィアお姉ちゃんが合わせてあげますかぁ~!
私は悔しそうな表情を作ると、ハオに向かって吼え叫ぶ。
「ま、待ちなさいハオッ! ウェイバーさんや街をこんな状態にしておいて、逃げるというのッ!? そんなことは私が許さないわッ!」
「クハハハハハハッ! あぁそそるねぇその表情ッ! 悔しいかぁソフィアよッ!? 我が憎いかぁ!? もっといい声で鳴いてみろォッ!」
よっしゃ任せろォオオオオオオオオオッ!!!
私は水魔法を使って目尻からボタボタと悔し涙(っぽい液体)を流し、ハオへと必死に手を伸ばすッ!
「許さない……絶対に許さないわ、ハオ・シンランッ! たくさんの人々を傷付けたその罪、必ず私が裁いてみせるッ! どれだけ遠くに逃げたとしても、必ずアナタを見つけ出すわッ!」
「ああいいともッ! どこまでもどこまでも我を追いかけ、捕まえてみるがいいッ! そして我を裁いてみせよッ! その時を楽しみにしているぞ、聖女ソフィアよォオオオッ!!!」
そう叫びながら浮かび上がっていくハオ。
――って、追いかけるわけねーだろバァァァァカッ!!! 普通に王国騎士団に捕まえてもらって裁判官に裁いてもらうわアホーッ!
まぁ何はともあれ……やったぁああああああああああッ!!! 私、生き残ったッ! 人間やめたやばいヤツと戦わずに済んだよぉおおおおッ!!! わーい!
いや~~~不幸続きだった私にもようやく幸運が巡ってきたみたいだねー!
っておっと、まだ街のみんなとかが見てるし演技を続けないと!
「待って……待ちなさい、ハオ……ッ!」
涙(っぽい液体)を流しながら、飛び去ろうとするハオに手を伸ばし続ける……!
すると、その時――。
「俺のソフィアを……泣かせんなオラァアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
ブォオオオオオオオオオッ! という轟音を立て、ハオに向かって『家』が射出されたのである――ッ!
それはハオに思いっきり当たって彼を撃墜……私たちの目の前へと見事に叩き落としたのだった。
って……えええええええええええええええええええええッ!? せっかく逃げてくれそうだったのにどういうことなのぉおおお!? てか何が起きたわけぇッ!?
戦慄しながら隣を見ると、そこにはあちこちの血管が破れて血を噴いているウォルフくんが、フーフーと息を吐きながらハオを睨みつけていた……!
もっ……もしかしてこの子、家を持ち上げて投げつけたのッ!? えっ、こっっっわッ!? どういう筋力してるわけ!!?
「うっ、うぅう……腑抜けた犬が……よくも我を……ッ!」
流石に家の投擲は効いたのだろう……フラフラと起き上がってくるハオに対し、ウォルフくんは激情のままに吼え叫ぶ。
「逃げんじゃねぇぞ復讐者ァァアアッ!!! テメェがこの国を恨んでるように、『俺の女』を泣かせたテメェを俺は絶対に許さねぇッ! 正々堂々戦いやがれぇぇええええッ!!!」
ちょっ、だから俺の女とか言うのやめてって!? ていうかハオを逃がしてあげてよぉおおおおッ! もう危ないことは騎士とか憲兵さんたちに任せようよぉ!
そんな私の思いをよそに、掻き集めてきた街のみんなまでも声を上げる――!
「テメェが違法組織のボス、ハオ・シンランってやつか!? よくも魔物を放ちやがったなぁ!」
「おかげで街は滅茶苦茶だぁ! 絶対に許さねぇ!」
「違法組織の首領め、ぶっ殺してやるーーーッ!」
ってみんな、お願いだからやめてよーッ!? ついさっきまでは逃げまどってたのに、なんでそんなに殺意いっぱいなの!? てかなんでハオのことを知ってるの!?
……あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!? しまったーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
街のみんなを取りまとめて激情を煽りまくったのも、この騒動は違法組織『冥王星』のハオってやつが起こしたんだーって教えたのも、ぜんぶ私だったぁああああああッ!!? うぎゃー!?
うううう……どうしてこんなことに……!
後悔に打ちひしがれる中、そんな私をハオ・シンランは鋭く睨み付けてくる。
「クッ、クククッ……ソフィア……やはりお前は気に入らない女だ。気性が荒いとされる獣人族の男をそこまで手懐け、民衆どもを戦士に変えるとは……!
いいだろう……お前はこの場で排除してやるッ! その心に絶望を叩きこんでくれるわッ!」
ハオに全力で睨み付けられ……周囲を民衆たちに取り囲まれ、もう完全に戦うしかない状況を前に……私の心はバトルの前から絶望に染まっていくのだった……!
ど、どうしてこうなったあああああああああああああ!!?
・いい声で鳴け、ソフィアちゃん――!
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