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29:薄汚い光だよ、ソフィアちゃん!



「――グガギャァアアアアアアアァッッッ!!!」


「ひぃいいっ!? な、なんだコイツらぁあああッ!?」


 夜闇の中にいくつもの絶叫が響き渡る……!


 商業都市レグルスは、一瞬にして地獄と化した。

 突如として地下から現れた何百体もの魔物ども。それらは民家や通行人を見境もなく襲撃し、瞬く間に人々を喰い殺していった。


 事態はそれだけにとどまらない。襲ってきた魔物たちを迎撃しようとした炎魔法使いが、誤って家屋に炎弾を当ててしまったのだ。

 夜闇の中での突然の襲撃である。そのような事態がいくつもおき、街のあちこちで火災が発生。人々の混乱はさらに加速することとなった。


「にっ、逃げろぉおおおお! 街の外に逃げるんだッ!」


「油屋に着火しやがったッ!? 駄目だ、こっちの道は火の海だぞッ!」


「なんで街の中に魔物がいるんだよぉおおおおッ!?」


 炎の中を必死で走り抜ける人々。

 たくさんの商店が建ち並んだこの都市は、まさに燃焼物の宝庫だった。

 多くの者が炎に巻かれて逃げ場を失い、そのまま焼死。あるいは魔物に食い殺されて絶叫を上げながら死んでいった。


 もちろん火災と魔物たちの脅威は、貧民街のほうにも及んでいた。


「グガガァアアアッ!!!」


「ひっ……助けて……助けてぇ……!」


 赤く染まりゆく街の一角で……魔物どもに包囲されたガラクタ売りの少年が、幼い子供たちや老神父を庇いながらそう呟いた。


 それは、商業都市に住まう何万人もの願いでもあった。

 誰もが必死に求め続ける。この惨劇を止めてくれるような、物語の英雄のごとき存在を。

 魔を滅ぼし、災禍を絶ち、自分たちを導いてくれるような救世主の登場を――!


「お願いだから……誰か助けてぇええええええええッッッ!」


 ついに魔物たちが飛び掛からんとする中、ガラクタ売りの少年が泣き叫んだ――その時!



「――もう大丈夫よ。私が来たわ」



 優しく響いた声と共に、紅き一閃が魔物たちを斬り裂いた――ッ!

 

 大量の鮮血が舞う中、少年は目を見開いて前を見る。

 そこには、昼間に自分を救ってくれた美しく清らかな『聖女』が立っていた。


「ソ、ソフィア……様……!?」


「よく頑張ったわね、後は私に任せておきなさい」


 そう言って、剣を両手に駆け出していくソフィア。

 ああ……それからの光景は、ガラクタ売りの少年や彼に庇われた孤児たちにとって、一生魂に焼き付くものとなった。


 まるで本当に物語でも見ているかのようだ。

 灼熱の双剣が振るわれるたびに、恐るべき魔物たちが次々と滅ぼされていく。

 どんなに鋭くて速い攻撃もソフィアには届かない。純白のドレスをはためかせながら舞うように戦い、周囲の魔物たちを瞬く間に全滅させてしまうのだった。


 そうして彼女は全ての敵を滅ぼすや、凛とした声で詠唱を紡ぎ、両手の剣に新たな魔法の力を宿す。


「清らかなる水よ、我が手に宿りて災禍を祓え――アクア・エンチャント!」


 次の瞬間、紅く燃えていた左右の刃は蒼き水に包まれた。

 ソフィアがそれらを一閃させるや、冷たい飛沫が辺り一帯に撒き散らされ、火災を鎮めていったのである……!


「――戦えなくてもいい。逃げ出してもいい。でも、絶望することだけは絶対に駄目よ。

 どうか最後まで諦めず、自分に出来ることを探し続けなさい」


 そう言い残し、別の火災区画へと駆け出していくソフィア。

 気付けばガラクタ売りの少年は、そんな彼女の背中を涙を流しながら見つめていた。


「あぁ……来てくれた……助けてくれた……! もう、ダメかと思ってたのに……っ!」


 こんな絶望的な状況の中でも、彼女は諦めずに戦い続けているのだ。その事実が、そして先ほどの言葉が、少年をはじめとした子供たちの心に火を灯した。


「っ……そうだ、ボクたちだって立ちすくんでちゃダメだ! 

 ねえ、みんなで力を合わせてこの街を守ろうよ! 戦うことは出来なくても、消火の手伝いくらいなら出来るはずだ! 神父様、いいよね!?」


「あぁ……ああ、もちろんだとも! あんな少女が戦ってるというのに、ワシらだけ怯えすくんでいて堪るかッ!

 つーかワシも魔物どもをブチ殺しに行くぞッ! こう見ても昔はゴロツキのトップだったからのぉ!!! ちょっと手下どもを集めてくるわ!」


「えええええええっ!?」


 ちっぽけな意地と勇気を胸に、街を駆ける貧民たち。

 そのような光景が、ソフィアの駆け抜けた跡地でいくつも見受けられることになった。


「あの少女に続けーッ! オレたちもやってやるぞーッ!」


「オラァ武器のバーゲンセールじゃぁッ! 戦えるヤツは全員もってけーッ!」


「水魔法が使える奴は消火に向かえーッ!」


 混乱から目覚め、次々と立ち上がっていく商業都市の者たち。

 ソフィアの戦う姿と言葉に、誰もが勇気を与えられていった――!


「さぁみんな、絶望なんかに負けないでッ! 私たち人間の力を見せてやりましょうッ!」


「「「うぉぉぉおおおおおおおおッ!!!」」」


 貧民や商人という垣根を越えて、『聖女』の下に集結していく戦士たち。

 その数は徐々に膨れ上がり続け、ついには魔物たちの数十倍にまで達したのだった――!




 ◆ ◇ ◆




「さぁみんな、絶望なんかに負けないでッ! 私たち人間の力を見せてやりましょうッ!(うえーん! お願いだからみんな戦ってえええええええええええ!!!)」


 ……キリッとした顔でカッコいいことを言いながら、私は心の中で泣きそうになっていた!


 だってもう疲れたんだもんッ! 魔力も体力も限界なんだもんッ!

 昼間に殺し合いして、夜には違法組織に乗り込んで、深夜には街中走り回ってバトルと消火活動ってなんじゃそりゃ!!?

 もうヤダよ! ぶっちゃけ寝たいよコンチクショウッ!


 ……でも見捨てるわけにはいかないから、こうなったらみんな巻き込んで数の暴力で解決してやるううううう!!!


「聞いたことがある人もいるはずよ。今この街は、『冥王星』と呼ばれる違法組織からの襲撃を受けているわ!

 この横暴が許せるッ!? この惨劇が許容できるッ!!?」


「「「いいや許せないッ! 許せるわけがないッ!!!」」」


「ならば人々よ、怒りを胸に戦いなさいッ! 正義の刃を握り締め、このソフィア・グレイシアの下に集うがいいわッ!」


「「「おおおぉぉぉぉぉおおおおおーーーーッ!!!」」」


 そうそう、その調子で熱くなってみんな!

 そんで私の代わりに戦ってください! 百ゴールドあげるからぁぁぁぁぁぁ!!!



 ……そんなセリフとは真逆の情けないことを考えながら、私は街中を駆け回ったのだった……!


 


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