27:信頼に応えろ、ソフィアちゃん!
「……コイツらは元薬物中毒者どもでねぇ。クスリに溺れて狂暴になり、周囲にさんざん迷惑をかけてきたクズどもだったため、改造するために拉致しても誰も心配しなかったさ」
動物の一部を植え付けられた元人間たち――人造モンスター『キマイラ』の群れを背景に、復讐の王子ハオは高らかに語る。
「そうして多くのクズどもを実験台に、我はキマイラどもを生み出してみせた! この王国を滅ぼすために造り上げたバケモノの軍勢だ!
本来ならばあと数年は隠しておく予定だったが、ここまで踏み込まれてしまったのならば仕方がない。少し早いがお披露目といこうじゃないか……!」
そう言って狂ったように笑うハオ・シンラン。それと同時に左右の壁が崩れ、何百体ものキマイラどもが姿を現してきた……!
そんな絶望的な現実を前に、私は心から思った。
もう、何でもいいから帰りたいと!!!
どどどどどどどどどど、どうしてこうなったッ!? 普通に平和な生活をしたかっただけなのに、どうしてこんな頭のおかしいヤバい奴と敵対しちゃってるわけ!?
予定だったら今ごろはちょっとしたお金持ちの下級貴族や商家の男性とお見合いしてるはずだったのに、現実はコレだよッ! 目の前にいるのは違法組織のボスだよチクショウッ!!!
あー……もうやだ。ついさっきまではウェイバーさんとウォルフくんがいるし何とかなるだろと思ってたけど、これ正直言ってやばすぎるよぉ……!
「はぁ……」
私ってばどんだけ憐れで不幸なんだろう……!
心から自分のことをそう思い、ついつい溜め息を吐いてしまった時だった。
これまで元気に笑っていたハオが、急に視線を鋭くして私を睨んできたのだ――!
「っ、小娘……たしか部下からの報告では、ソフィアと呼ばれているのだったねぇ……!
ああ、なんだね今の溜め息は? お前ほどの少女ならば恐怖に震えるべき状況だというのに、どうして憐れむような表情をしている……ッ!?」
ひっ、ひぇえええええええええええええッ!? なんか絡んできたんですけどぉおおおおッ!?
えっ、ちょっ、もしかしてこの人、自分が憐れまれてるとでも思っちゃった!?
いやいやいやいや違うからッ! この場で一番不幸なのは、国を失って頭おかしくなったアンタよりもそんなアンタの復讐に巻き込まれそうになってる私だってば!!! うぬぼれんなタコッ!
もうもうもう! 色々と病んでるからって勝手に逆恨みしてこないでよぉ!? 国王のことが嫌いならさっさと殺しにいけばいいじゃん! ぶっちゃけ私は自分さえ困らなかったら正直何でもいいから!
はぁーもう……こんな危ない奴に恨まれるなんて冗談じゃないよぉおおお……。
内心泣きそうになりながら、急いで誤解を解こうとする私。だがしかし、それよりも先にハオのほうが口を開いた。
「ククククッ……ソフィアよ。どうせお前は我のことを醜く歪んだ心の持ち主だとでも思っているんだろうが、人間なんてみんな同じだ。心の奥底には薄汚い闇を抱えている。
お前もキレイなツラをしておいて、内心ではこう思っているのではないかぁ? “組織の金を強奪してやろう”、“自分さえ困らなかったら正直何でもいい”、だとかなぁ!?」
「っ――」
あっ……当たりだぁぁあああああああああああッ!?
えっ、何この人エスパーなの!? そうだよその通りだよそう思ってるよ!
なーんだ……危ない人かと思ってたら割と話がわかるじゃん。流石は元王子様。人間なんて欲深いのが普通だもんねー。
「なぁ、そうなんだろうソフィアよッ! 正直に告白すれば大金を持たせて無事に帰してやるぞォ!?」
そう言ってくる彼に、思わず私が全力で頷いてしまいそうになった時だ。
狂笑を浮かべた奴の顔面へと、二つの拳が叩き込まれた――ッ!
「ぐがぁああああああああああああああッ!?」
ってハオ王子ーーーーーーーーー!?
絶叫を上げて吹き飛んでいくハオ。背後にいたキマイラどもまで巻き込みながら、奴は何度も地面を跳ねながら血を撒き散らしていった。
そんなハオに対し、いつの間にか私の前に立っていたウェイバーさんとウォルフくんが言い放つ。
「ソフィア嬢が内心では、“組織の金を強奪してやろうと思っている”、ですって? ――侮辱するのも大概にしろよ貴様ッ! 清廉潔白な彼女が、汚い手段で儲けた金に興味を示すわけがない!」
っていやいやいやいやウェイバーさんーーーー!?
私、めちゃくちゃ違法組織のお金に興味津々なんですけど!? タダでこんな危ないところに潜るかチクショウッ! 絶対に持ち帰ってやるつもりだったんですけどぉッ!?
そう戸惑っている私をよそに、さらにウォルフくんが追撃をかます――!
「“自分さえ困らなかったら正直何でもいい”だぁ!? テメェにソフィアの何がわかるッ! コイツは昔から領民たちの生活を豊かにするために、身を粉にして働いてきた女だぞッ! コイツの名誉を傷付けんな!」
ってウォルフくん違うからーーーーーーーーーー!?
私がせっせと働いてきたのは、ぶっちゃけると婚活のためだからッ! 貧しすぎる領地の女なんてドン引きされると思って、それで少しでも出身地を良くしようと思ってただけだからッ! ぜんぜん名誉なんかじゃないからッ!
ああああああ、私ホントは薄汚い女ですから……! だからそんなに信頼しないでよぉ……!
「ふ、二人とも……!」
二人からのプレッシャーのせいで、思わず涙目になってしまう……!
そんな私を背に、彼らはビシっと言い放つ。
「彼女の心は!」
「俺たちが守るッ!」
って、傷付けてんのはアンタたちだからッッッ!? もう重すぎる信頼のせいで私の心はバッキバキだよーーー!!!
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