23:正義の味方、ソフィアちゃん!
お久しぶりです……!
「――申し訳ありませんソフィア嬢。あまりにもアナタが魅力的すぎて、うっかり国王陛下から鞍替えしてしまいました」
「そんなうっかりってあるの……?」
王城ではそんなギャグが流行ってるんだろうか……ウェイバーさんの謎発言に呆然としつつ、私はちらりと彼の横を見る。
そこには、数十秒前まで私を殺す気満々だった包帯男が、顔面以外を氷漬けにされて立たされていた。
「さ……さむ、い! 助けて……くれぇ……ッ!」
涙を流しながら歯をガチガチと鳴らす包帯男。だがウェイバーさんはヤツのほうになど目もくれず、私に対して恭しく語り始める。
「さて、どうして私がここにいるのかお話ししましょうか。……実はかねてより、貧困層を相手として危険な薬物を売りさばいている違法組織を追っていましてね。連中のアジトがこの街にあると知り、余暇を利用してやってきたのです」
「余暇を利用して……? 国王陛下から与えられたお仕事じゃなくて?」
「ええ、まぁ……国王陛下は基本的に、面白そうなこと以外には無関心な方ですからね。
それに例の違法組織『冥王星』の連中は税金も払えない貧民たちを中心に食い物としているので、諸侯たちも探索と討伐になかなか力を入れてくださらないのですよ」
そう言いながらウェイバーさんは、うんざりとした表情で溜め息を吐いた。
なるほど……それでこの人は個人的に悪い奴らを追ってきたというわけか。良い人だ。
逆に国王陛下のほうはなぁ……うーん……勝手な理由で違法組織を野放しにしたり、ウォルフくんをペットにしたり、どうにも好きになれそうにない。ウェイバーさん曰く私は陛下好みの面白い人物らしいけど、正直言って会いたくないよぉ……。
嫌な人に目を付けられちゃったなぁと思い悩む私に、ウェイバーさんは話を続ける。
「さて、『冥王星』の連中についてですが……どうやら奴ら、私が考えていた以上に勢力を拡大しているらしい。それに屈強な冒険者たちまで薬漬けにして取り込もうとしているようだ。この店に並んだ『氷像』たちがいい証拠でしょう」
そう言ってウェイバーさんは、凍らされた三十名近くの薬物中毒者たちと、最後に冒険者でもある包帯男を冷たく睨んだ。
「おい貴様、組織のアジトはどこにある? さっさと言わねば凍死するぞ」
「ひぃッ!? ア、アジトの場所は知らねぇよ! だけど四番地の裏通りで売り物の受け渡しをやってる連中がいるから、そいつらに聞けばいいんじゃねぇか!?
……なぁ、助けてくれよォ……オレも違法組織の被害者なんだよッ! 実はギャンブルで借金しちまって、そんな時に組織の奴らが声をかけてきて……貧民どもや冒険者連中にクスリを売りさばけば、借金をチャラにしてくれるって言って……弱みに付け込まれて……ッ!」
「そうかよかったな、続きは牢屋で語ってろ」
次の瞬間、肉を打つ音が酒場に響いた――!
ウェイバーさんの裏拳が炸裂し、包帯男の顔面をグチャグチャに叩き潰したのだ。奴はめり込んだ鼻から大量の血を噴き、白目を剥いて動かなくなった。
「まったく……自業自得で積み上げた借金を理由に、同業者や弱き者を食い物にするなど言語道断。世の中にはソフィア嬢のように、強く美しく高潔で優しく清らかな女性もいるというのに……!」
「っていやいやいやいやいやウェイバーさんッ!? お世辞にしても褒め過ぎだからッ!?」
この人になにか好かれることしたっけ!? そう戸惑う私に対し、ウェイバーさんは片膝をついて礼を執ってくる。
「褒め過ぎなどではございません。ソフィア嬢、勝手ながらアナタの経歴は調べさせていただきました。
……幼き頃より貧しい領地の復興に励み、領民たちを明るく元気づけていたと聞く。それにガラクタ売りの少年が語っていましたよ? そこの悪い冒険者から魔晶石が奪われそうになるのを防ぎ、正当な額で買い取ってくれたと」
って、ええええ!? なんでついさっき起きたことまで知ってるのッ!? こっわ! この人こっっっわッ!?
「あぁソフィア嬢ッ! 知恵もなければ力もない貧民の子供を、アナタは一人の『商人』として扱い、百万もの大金を手渡してみせた!
これは誰にもできるようなことではありません。所詮は野垂れ死んだところで誰も気にしないような孤児が相手なのです……力づくで奪うのは容易ですし、そもそも正式な店で綺麗に整形された魔晶石を購入するという手段もあったはずだ! だというのにアナタは、なんとお優しきことか!」
って違うからー!? あの場の勢いで売り付けられちゃっただけだからッ!? 優しいとかそういうのじゃなくて、元が根暗女なせいで押しにはホント弱いだけなんだからね!?
だからめちゃくちゃ尊敬のまなざしで見られても困るってー……!
ウェイバーさんの過剰すぎる評価に私が戸惑っていた時だった。これまで黙り込んでいたウォルフくんが、低い声でウェイバーさんに言い放つ。
「なるほど……それでそこの包帯野郎は、ソフィアに襲い掛かってきたってわけか……。
おい執事、例の組織の討伐に俺も噛ませろ。ソフィアを殺そうとした倍返しとして、一匹残らずぶっ潰してやる……ッ!」
鋭い犬歯を剥き出しにしながら、怒りに身を震わせるウォルフくん。だがウェイバーさんはそんな彼を一瞥し、
「必要ありません。ソフィア嬢ならばともかく、お前のような雑魚が付いてきたところで足手まといになるだけです」
「なにぃッ!?」
って、ウェイバーさん何言ってるのぉおお!? ウォルフくん、未来の凄腕冒険者だよ!? ちょっと知恵が足りなくて無理して一年で死んじゃったみたいだけど、五年も底辺だった私よりめっちゃ才能ある存在なんだよッ!?
「ではソフィア嬢、私はこれにて。明日の朝には組織を壊滅させておきますので」
「おい待てや執事ッ!? 俺も行くって言ってんだろうが!」
最後に私に一礼し、夜の闇へと消えていくウェイバーさんと、彼を追っていくウォルフくん。
こうして、あちこちが凍り付いた酒場に私一人が取り残されることになったのだった。
「はぁ……二人ともどうかしてるよ。まぁ貧民を食い物にしてるのは許せないし、私のために戦おうとしてくれてるウォルフくんの気持ちは嬉しいけど、ヤバい組織に喧嘩を売りに行くなんて危険すぎるって。常識人の私からしたら考えられないよ……」
そう言って溜め息を吐いた時だ。私はふと思った。
……いや、ねぇ、ちょっと待って? 違法組織の売人や子飼いの中毒者たちをやっつけちゃったってことは、もしかしたら報復とかあるよね!? 組織のメンツを守るために刺客とか送り込まれてくる感じじゃないッ!?
そう考えたら私ヤバくない!? めっちゃ強いウェイバーさんやすごい勢いで成長中のウォルフくんに比べたら、私いっぱいいっぱいの雑魚なんだよぉぉぉおおッ!?
そのことに気付いた私は、急いで店を飛び出した!
「ちょっと待って二人とも、私も協力するから! 三人の力で街の平和を取り戻そうッ!」
そんな心にもないことを言いながら、私は二人を追っていったのだった……!
みなさまのおかげで、「貧乏令嬢」が異世界恋愛ランキングの月間一位に輝きました! 本当にありがとうございます!
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