20:聖女降臨、ソフィアちゃん!
「はえ~……騒がしい街だなぁ……!」
「そうだねー……!」
野宿から一日。私とウォルフくんは、『レグルス』という大きな街に来ていた。
商業都市とも呼ばれていて、国中からたくさんの商人たちが名を上げるために集まってくる場所だ。
……私も初めて来たんだけど、辺りを見渡せば本当に店だらけ。路上の端にも露天商たちが所狭しと風呂敷を並べていて、大きな声で宣伝を行っていた。
「らっしゃいらっしゃーい! そこのお嬢様、護身用ならもっとオシャレな剣を差したらどうでさぁー!?」
「護衛のお兄さん、ボロボロのコートなんて着てちゃぁカッコいい顔が台無しだよ!」
通りを歩けば口々にそんなことを言ってくる商人さんたち。
あははっ、私がお嬢様でウォルフくんが護衛だなんて面白いこと言うな~!
ウォルフくんは元王子様なんだから、世が世なら不敬罪になっちゃうって! ウォルフくんも私みたいな貧乏令嬢の下っ端扱いされて、ちょっと変な気分になっちゃったよね?
「フフフ……そうか、この街の連中には俺がソフィアの護衛に見えるのか! 流石は商人ども、良い目をしてるぜッ!」
……などと、なぜか満足げに頷くウォルフくん。
っていやいやいやいやいやいや、いつか自由を取り戻したら獣人国の復興のために頑張らないといけない身なんだから、それじゃあ駄目でしょ!?
はぁ~……昨晩泣き付かれて改めて思ったけど、ウォルフくんって私のこと買いかぶりすぎでしょ……!
私、ホントに大した存在じゃないからね? 色々必死でやってるだけの貧乏令嬢だから、過度な期待とかされたら緊張で死ぬからね!?
そんな思いを笑顔の裏に隠しながら、私はウォルフくんにお金の入った袋を手渡した。
「ほいウォルフくん、お小遣い。これで欲しい物を自由に買ってきていいよ? 二時間くらいしたらこの場所に集合しよ」
「おっ、なんだよソフィア。別行動か?」
「あはは、まぁねー」
……女性向けの服屋に下着を何枚か買い足しに行きたいんだけど、ウォルフくんを連れてったらなんか店の中にまで入ってきちゃいそうだからねー。
顔はカッコいいけどガラは悪いから、外に立たせておくのも営業妨害になっちゃうしさ。
というわけで別行動だウォルフくん! 恨むならここ一月で急激に成長し始めた私の胸を恨むようにッ!
「あっ、わかったソフィア! お前どんどん胸がおっきくなってるから、新しい下着を買いに行くんだな! よく抱き付いたり触ったりしてるからわかるぜッ!」
「…………あはは、ウォルフくんってばすごく勘がいいんだね~」
……人通りの多い路上で見事な名推理をかましてくれたアホ犬王子様。そんな彼の頭をポカリと叩き、私は別行動を開始するのだった。
◆ ◇ ◆
さて、商業都市レグルスにやってきたのは下着を買うためだけではない。実はこの街にもお金が稼げるイベントが転がっているのだ。
前世の記憶を頼りに新ダンジョンを見つけ、百万ゴールドを稼げたことに私は味を占めた。
そこでかつてのことをよぉ~~~く思い返してみたら、たしかこの時期、他の冒険者たちが酒場でこんな話をしているのを思い出した。
『商業都市レグルスの裏通りで、馬鹿な露天商が希少な魔晶石を百ゴールドで売ってやがった』――と。
魔晶石とはダンジョンの奥地で極稀に取れる激レアアイテムである。
見た目は綺麗な石ころのような感じだが、身に付けているだけで装備者の身体能力や魔力が上昇するという冒険者垂涎の効果があるのだ。
それゆえ、効力の小さな小指の爪くらいのサイズの物でも、百万ゴールドは下らない価値を秘めていた。
というわけで私は、それを求めて人通りの少ない裏通りをテクテクと探索していた。
……まぁ正直、あんまり期待はしてないんだけどねー。大きな街だから見つけるのも大変だし、とっくに買われちゃってる可能性だってあるもん。
一時間も探してそれらしい商人さんが見つからなかったら諦めよう。
そんなことを思いながら歩いていると――、
「ぐへへへへッ……! よぉガキ、優しい冒険者のお兄ちゃんに感謝するんだな~! こんな綺麗なだけの石ころを、百ゴールドで買い取ってやるんだからよ~!」
「は、はいっ! ありがとうございます! おかげで小さな妹や弟たちに、パンの耳を食べさせてあげることが出来ます!」
……ニヤニヤとした冒険者の男が、貧しそうな恰好をした露天商の男の子にお金を投げ渡している最中だった!
って、超ドンピシャじゃーーーーーーーーーんッ!? ちょうど取引してるところじゃーーーんッ!
ま、待て待て待て待て待てぇッ! その魔晶石は私のものだこの野郎ッ!!!
気付けば私は猛ダッシュで二人へと近づき、魔晶石に手を伸ばそうとしている男の腕を掴み、こう叫んでいた!
「待ちなさい、アナタなんかに魔晶石は渡せないわッ!」
「なっ……なんだテメェッ!? てかおまっ、魔晶石って言っちゃあ……!」
あっ…………ああああああああああああああああああッ!? しまったああああああああッ!?
ついつい勢いで魔晶石って言っちゃったぁぁぁぁあああッ!?
うわー、冒険者の男の人めっちゃ睨んできてるよー!? そりゃそうだよねッ! そっちから見たら、お人好しの変な女が飛び込んできて美味しすぎる商談をぶっ壊しちゃった感じだもんねッ!
ああもう……こうなったら覚悟を決めるしかないッ!
私は冒険者を突き飛ばすと、露天商の子を守るように立ち、無駄に凛とした声でこう言い放った。
「無知な子供を騙そうとした薄汚い悪党め……アナタはここで消えなさいッ!」
『お前が言うな』という気持ちで心をいっぱいにしながら、私は剣を引き抜くのだった……!
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