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2:どうあがいても貧乏




 ――あれから十五年、私は確信した。なぜか私は生まれた時に戻っていたのだと。


 最初は死に際に見ている夢かと思ってプニプニのほっぺたをグニーっと引っ張ってみたのだが、痛いばかりで目覚めることはなかった。

 貧乏な家も、死んだ目をしたお父様やお母様も、みんな私の知っている通りだ。まさに悪夢の再来である。私は全力で目覚めようとして、頬をもう一度強く引っ張ったのだった。いてぇ。


 ……まぁいい。これが夢だろうが幻だろうが、人生をやり直せるんだったら目標は一つだ。

 一度最低な終わり方をしたからには、次こそ幸福な人生を手に入れてみせる! もう不幸な日々なんてまっぴら御免だ!


 というわけで、私は自分を徹底的に『改造』することにした。


 まずは根暗女からの脱却だ。前世で散々わかったのだが、声も態度も小さいヤツは基本的に損をするのだ。

 周囲からは舐められるし、冒険者同士でパーティーを組んだ時には報酬の取り分を少なくされたりとかね。


 だから私は常に明るく、大きな声でハキハキと喋ることにした。


「お父様ー! おはようございますっ!」


「お、おはよう……!」


 家族はもちろん、領民たちにも笑顔で元気に挨拶をするよう心がけた。

 そう、太陽みたいな女の子に私はなるのだ! ……ぶっちゃけ根が暗い性格なせいで内心すごく無理してるのだが、それを悟られないよう頑張り続けた。


 次は容姿についてだ。前世の私はとてもオシャレに気を使う余裕がなかったため、せっかくの赤毛もボサボサの伸ばしっぱなしにしてたのだが、今回は毎日櫛を通してツヤツヤのサラサラに保つよう心がけた。


 顔の造形はまぁ、お父様がそこそこのイケオジなおかげで悪いほうじゃなかったから、笑顔補正でそれなりに見られるようになっただろう。

 前世でもモテてる女冒険者は、みんな人を惹き付けるような笑顔を浮かべていたしね。……そして私はそれに嫉妬してさらに表情を暗くしていった。お前ら幸せそうでいいな~チクショウってさ。


 ……まぁそれはともかく、今度は身体についてだ。

 前の私は栄養が足りなくて肉付きに乏しく育ってしまったため、今生では野山に入って積極的に動物を狩ることにした。


「よっしゃ、お肉ゲットォーッ!」


「チュー!?」


 幸か不幸か、無理やり冒険者にされたおかげで罠の作り方は熟知してたからねー。

 三歳くらいの時からシカやタヌキやたまにネズミを食べまくってたおかげで、かなり健康的に育てたと思う。まな板だった胸もモチモチだ。

 ついでに家族にも食わせてやってたら、お父様のお腹も見事にモチモチになった。運動しようね?

 

 そして最後に、もっとも力を入れて育てたのが『魔法』の技術だ。

 魔法とは、一部の者だけが持つ魔力というエネルギーを使い、自然現象を人為的に再現する超能力のことなのだが……私はかなり不器用なほうで、ちっちゃい火や水の玉を飛ばしたりすることしか出来なかった。魔力量はそこそこあるというのに、それを活かせるだけの才能がなかったのだ。


 だがしかし、才能がないなら努力で埋めればいい。

 幸い、生まれた時から前世と同じくらい魔法が使えたからね。だから私はそれから十五年間、たっぷりと時間を注いで魔法の威力やコントロール精度を高め続けた。

 

 その結果、人間くらいなら簡単に燃やせる火炎放射を出せるようになったし、出現させる水の成分を操って、薬草と混ぜ合わせて回復薬も自前で作れるようになった。

 これを近くの街で安く売ったら大繁盛だ。怪我の絶えない冒険者たちには必需品だからね~。流石に市販品よりかはクオリティは落ちるけど、相場の半分くらいの値段で出したおかげで毎日飛ぶように売れたのだった。


 ……まぁしばらくしたら他の小遣い稼ぎをやっている魔法使いたちもグイっと値下げしてきたせいで売れなくなっちゃったけど、それでもお家に貯金を作ることが出来て、家族みんなは大喜びだった。


 効力の薄い失敗作は領民たちにタダで配ってあげたらめっちゃ感謝されたし、いやーいいことをするのって気持ちいいね! みんな元気に働いて私を食べさせてね!(打算まみれ)


 さぁさぁ、こうしてパーフェクトソフィアちゃんの出来上がりである!

 (無理やり作った)華やかな笑顔に、(令嬢なのに狩猟生活で育った)健康的な身体に、(お金稼ぎのために鍛えた)魔法の技術もバッチシだ!

 どこに出しても恥ずかしくない完全美少女の誕生である。さーて、良い感じな貴族か商家に嫁いで、今度こそ幸せになるぞー! 冒険者なんて当たればデカいけど外れたら死ぬ職業なんて誰がなるかバーカッ! あっはっはっはっは!



 そんなことを考えていた十五の夜。父はすごく申し訳なさそうな顔で私を呼ぶと、こう告げてくるのだった。


「んっ、あーゴホンゴホンッ! ……す、すまないソフィア。実はその……お父さん、しばらく前から(やまい)に侵されていてなぁ。もしかしたら、もう長くないのかもしれないんだ……!」


「そっ、そんなっ、嘘!?」


 突然の父の告白に、私は二つの意味で驚いた!

 お父様が死病を患うなんて展開、貧乏だった前世でもなかったはずだ! 今回はお腹がモチモチになるまで食べさせてあげてるのに、どうして…………って、あああああッ!? もしかして原因ってそれぇぇええええええッ!?


 じゃあ、つまり……私のせいってことじゃーーーーーーーーんッ!?


 ショックでその場にへたれ込むと、父は慌てた様子を見せ、


「ちょっ、ソフィア!? 違うから安心してくれ! って、あーいや、違わないけど……!

 ……まぁとにかく医者によると、この病気を治すにはかなりのお金がかかるという話だ。そこで、私の治療費を稼ぐためにも――なってくれないか、冒険者?」


「っっっ!?」


 ファッ、ファァアアアアアアアアアアアアアッ!? ちょちょちょっ、十五の夜に「冒険者になれ」だとか、それって前世と変わってないじゃんッ!? え、なに? これが避けられない運命ってやつなの!?


 正直言って死ぬほど嫌なんだけど……あああああああっ、でもなーーーーー! 私が余計なことをしたせいで父が病気になっちゃったってんなら、何もしないわけにはいかないしなぁ……!


 出来るのならば他の方法で稼ぎたいところだが、父(いわ)く長くないかもしれないという話だ。それならば、回収素材によっては一攫千金も狙える冒険者業が一番だろう。

 ……私は必死に悩んだ末に、首を縦に振ったのだった。  


「――わかったわ、お父様。お父様の命は、私が絶対に救ってみせるッ!」


「おっ、おぉぉぉぉぉぉぉソフィアアアアアッ! お前はなんて良い子なんだぁぁぁあああッ!? 昔から明るい笑顔を絶やさず振りまき、私や領民たちを元気にしてくれた! 危険を冒してまで美味しいお肉を食べさせてくれたッ! ああ、まさに聖女のような子よ……! 病気になったというのに、お父さんの胸は幸せでいっぱいだぁぁあああ!」


 ってげふんげふんッ!? ち、違うからッ! 振りまいてる笑顔は単なるパチモンだからッ! 量産品の超安物だからッ! あとそもそも、病気になったのは(たぶん)私のせいだからーッ!?


「ではソフィアよ、冒険者としてどうか頑張ってきてくれッ!」


「はい、お父様っ! 精一杯努力します!」


 凛とした笑顔でそんなことを言いつつ、私は泣きそうになっていた。

 うわぁぁぁあんッ! ぶっちゃけ冒険者なんて嫌だよーッ! もう殺し合いの日々なんてこりごりだよぉー! 

 うぅ……チクショウッ! こうなったら前世の記憶や経験を活かして、速攻で稼ぎまくってササっと引退してやる!

 私の夢は、普通のお嫁さんになることなんだからーーーーーーーーーっ!




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― 新着の感想 ―
[一言]  ≪ニャー!?」  幸か不幸か、無理やり冒険者にされたおかげで罠の作り方は熟知してたからねー。  三歳くらいの時からシカやタヌキやたまに野良猫を食べまくってたおかげで≫  物心(ものごころ…
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