17:黒狼と舞姫
(ソフィアちゃん、普通にお人好しだと思うよ……!)
今回はモブ視点です!
『す、すごい……まるで舞っているかのようだ……!』
――ガニメデ村の民衆たちは、今宵の出来事を死ぬまで忘れなかったという。
雑木林でモンスターらしき姿を見たという報告から数刻後。
不安に駆られている村人たちへと、村長は二人の冒険者を紹介した。
一人は黒髪の獣人、ウォルフという青年だ。
闘志に満ちた鋭利な瞳や、ボロボロのコートから覗く引き締まった肉体が、いかにも強者らしき雰囲気を滲ませていた。
なるほど、彼が用心棒として一晩泊ってくれるというのならありがたい。実に頼り甲斐がありそうだと村人たちは頷いた。
だがしかし――もう一人のほうは、一体どういうことだというのか……?
「はじめまして、ソフィア・グレイシアと申します。一晩のお付き合いとなりますが、どうかよろしくお願いします」
明るい笑みを浮かべながら礼儀正しく挨拶をする美少女に、村人たちは顔を赤らめながら戸惑ってしまった。
全員が思う。どこからどう見ても、冒険者ではなく『お姫様』じゃないかと。
艶やかな赤髪に、宝石のような青い瞳。さらには身に纏われた高級そうなドレスが、圧倒的な気品の光を放っていた。
特に、ろくに街にすら行ったこともない村人たちにとってソフィアの容姿は刺激が強すぎた。男たちは惚けてしまったまま動かなくなり、女たちのほうも嫉妬を通り越して固まるしかなかった。
明らかに住む世界が違う人間だ。村人たちは一瞬、近くにダンジョンが出来たのかもしれない不安を忘れてしまった。
そんな衝撃の出会いからさらに数刻。時刻が深夜を回った頃、村の周囲がざわざわとさざめき始めた。
ソフィアの指示で村の集会所に掻き集められていた村人たちは、小窓から外の様子を見る。
ああ、そこには――村周辺を取り囲んだ、数十匹のトロールたちの姿があった!
思わずヒッと悲鳴を漏らしてしまう村人たち。厚い筋肉と脂肪に覆われた大型のモンスターどもに包囲され、誰もが恐怖に身を震わせる。
……だがしかし、集会所の前に立った二人の冒険者だけは違っていた。
「全部集まってきたみたいだね。さぁ、いくよウォルフくん!」
「ああ、やってやろうぜソフィア!」
全身から闘志を滲ませ、彼らが同時に駆け出した瞬間――蹂躙劇が幕を開けた。
ウォルフが拳撃を放つたび、血しぶきを上げながらトロールたちの首が宙を舞っていく。
果たしてどれほどの威力なのだろうか……集会所の前にグチャリと落ちたトロールの頭には、脳に達するほどの拳の痕が刻み込まれていた。
さらに村人たちは、姫君のようだと思っていたソフィアの戦いぶりに驚愕する。
ウォルフのような激しさはない。だが、四方八方からくる攻撃を的確に見切り、最小限の動きによる回避から最速でカウンターの斬撃を放ち、時には同士討ちにさえ持ち込んでいく戦いぶりは、熟練の戦士そのものだった。
まさに技巧の極致である。押し寄せてくるトロールどもをものともせず、ソフィアは二本の刃に炎を宿し、流れるような剣さばきでモンスターどもを斬滅させていった。
「……き、綺麗だ……」
「すごい……!」
村人たちの口から自然と言葉が溢れ出した。
完成された技術というのは、一種の美しさを放つのだと彼らは心で理解する。華やかにドレスを揺らしながら戦うソフィアの姿に、村人たちはいつの間にか魅入られていた。
かくして、戦いが始まってから数十分。
ウォルフの拳とソフィアの刃が同時に最後のトロールに放たれ、二人が勝利を手にした瞬間、村人たちは大歓声を上げたのだった。
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