16:薄汚いソフィアちゃん!
前回のあらすじ:犬が重い
――いやー、昨日は急に降ってきちゃってビックリしたけど、今日は見事に快晴だね!
ステラの街を出てから半日。運搬帰りの荷馬車に乗せてもらった私とウォルフくんは、草原を見ながらお弁当を食べていた。
ってウォルフくん、そんなにがっつくと喉に詰まっちゃうよー?
「はぐっ! はぐはぐはぐッ! いやぁうめぇーなーコレッ! ソフィア、お前令嬢なのにメシまで作れるのかよ!?」
「まぁね~。小さい頃はメイドさんを雇うお金もなかったからね」
「ああ、なるほど……それで代わりに何でも出来るようになったってわけか」
納得したという顔でサンドイッチを一口で飲み込んじゃうウォルフくん。
い、いやいやいや、何でもは出来ないからね? ウォルフくんって妙に私のことを買い被ってるところがあるけど、こちとら前世はクソザコな根暗女だから! あんまり期待されると死んじゃうからッ!
「あはは、色々必死で頑張ってきただけだよ。いざとなったらウォルフくんが助けてよねー?」
ていうかウォルフくん、前世じゃ一年で超凄腕冒険者になった才能で私にラクさせてくださいッ! ――という思いを笑顔に隠しながら言うと、なぜかウォルフくんは「っ、おう……任せとけ……ッ!」と、やたら真剣な顔で応えるのだった。ってそこまで気負わなくてもいいから!?
そんな彼の様子に首をかしげつつ、お腹も膨れたしお昼寝でもしようかな~と思っていた時だ。馬車を操っていた御者さんが私たちに告げる。
「お~いお二方。そろそろ村に着くっぺよ~」
おお、意外と早く来れちゃったね!
私は軽く伸びをして身体をほぐすと――前世では滅んでしまった村を見た。
◆ ◇ ◆
――『ダンジョン』とは本来、人類を脅かす恐ろしい存在である。
出現理由はまったく不明。ある日いきなり山や地面に空洞ができ、そこからモンスターどもが無限に現れ続けるのだ。
近年では冒険者ギルドで管理して素材の生産場所みたいな扱いにしてるけど、そんなことが出来るのは早期に発見できた場合のみだ。
もしもダンジョンの出現に気付くのが遅れ、生み出され続けた大量のモンスターどもが一斉に野に放たれてしまった場合――周辺にある寒村などは、一瞬で荒らし尽くされてしまうだろう。
私とウォルフくんが辿り着いたこのガニメデ村も、そうした運命を迎える場所であった。
「――あぁ、冒険者さまがた……よくぞ来てくださいました……!」
村に着いて早々、私たちは村長さんの家にまで呼び出された。
突然のことにウォルフくんは戸惑っているけど、私のほうは予想できている。酷く憔悴した様子の村長さんが、これから何を言い出すのかを。
「実は今朝がた、村の若者が『モンスターを見た』と報告しに来ましてな。これが見間違いだったらいいのですが……もしも本当だったら、村は……!」
っ、やっぱり! ていうかタイミングピッタリだ!
前世の話だけど、ちょうど冒険者になってから一か月目くらいだったか。街から半日ほど離れたガニメデ村というところがモンスターの群れに襲われ、一夜の内に滅んでしまったという知らせがギルドに入った。
生き残ったのは、半日前に村周辺の調査依頼をしにきていた村長さんただ一人だ。彼は故郷が滅んだのを知ると、ショックで倒れ込んだまま亡くなってしまったらしい。
そこで、モンスターの群れの討伐と出現場所となっているダンジョンの位置を特定するために大量の冒険者が募集されることとなり、私も参戦することにしたんだけど――……痕が残るほどの大怪我を負って、稼ぐどころか治療のために借金を背負うことになっちゃったんだよなぁ。はぁ。
そんな最悪の思い出があるから、この件には関わらないようにしようと思ってたんだけど……、
「冒険者さまがた、ワシはこれから街のギルドへ調査依頼をしに向かいます。どうかその間、用心棒として村に滞在していただけませんでしょうか? ご覧の通り寒村ですので、ろくな謝礼も出来ませんが……」
「大丈夫ですよ。困っている人からお金を取るような真似はしません。村の平和は、どうか私たちにお任せください」
村長さんの頼みに、私は明るい偽スマイルで応えた。
……十中八九、今晩は大量のモンスターたちとの戦いになるだろう。かなり危険な仕事だ。ぶっちゃけ知らんぷりしてベッドで寝てたいところだ。
だけど、私とウォルフくんには一年以内に大量のお金を稼がなければいけない事情があった。そう考えたら今回の話は実に美味しい。
もしもモンスターの群れから村を守り抜き、さらに新ダンジョンの発見まで二人でやりきれたなら、冒険者ギルドのほうから多額の報奨金が入ることになるだろう。だったら多少の無茶くらいはやってやる!
……村の存亡を前にして、そんな薄汚いことを考えているのが私の本性である。
だから、その、村長さんにウォルフくん……!
「おぉ、ありがとうございます冒険者様ッ! なんとお優しい人か!」
「ったく……相変わらずお人好しすぎるぜ、ソフィア! いいさ、俺も付き合ってやるよ!」
ああもうっ、二人とも感謝とか尊敬の目で私を見ないでよ! 罪悪感でめっちゃ心がズキズキするからッ!
私、全然お人好しなんかじゃないんだからねーーーッ!?
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