12:鬼畜城への誘い
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「すっ、すげぇ! お嬢ちゃんのほうが勝ちやがったッ!!!」
「第三王子のヴィンセントっつったら王国騎士団のエースなのによぉ!?」
「うおおおおおッ! カッコよかったぜぇソフィアちゃんッ!」
私が勝利した瞬間、わっと盛大に歓声を上げるギャラリーたち。
あはは……みんな褒めてくれるのは嬉しいけど、全身傷だらけで痛いしもう殺し合いなんてコリゴリだよ~……!
よし、これからはもっと命を大切にしていこう。あちこちからチョロチョロと血を流しながら私はそう思った。
「ソフィア、大丈夫か!?」
「ウォルフくん……」
血相を変えて駆け寄ってくるイヌ耳の王子様。彼はボロボロのコートを脱ぐと、さっと私の肩にかけてくれた。
おぉ、紳士的になったねぇウォルフくん……ってうぉお!? 公衆の面前で抱き付くなー!?
彼はいきなり私のことを抱き締めると、肩口に顔を埋めて嗚咽を漏らし始めた。
「ソフィア……俺のためだからって、もうこんな無茶はしないでくれよ……! もしもお前が死んだら、俺は……俺は……!」
「あはは、心配かけちゃってごめんね……」
う、うわぁぁぁああああ……ウォルフくんガチ泣きしちゃってるよぉぉお……! こんなの絶対「実はうっかりで喧嘩売っちゃいました」なんて言えないよぉ!
うん、この真実は墓場まで持っていこう。どうしてもお腹が空いたときはネズミを捕まえて食べてましたって黒歴史と一緒に、死ぬまで秘密にしておこう……!
むせび泣くウォルフくんを撫でながら、そんな決意をしたときだった。
民家の壁に埋まり込んでいたヴィンセントが、ゴフッと苦しげに血を吐いた。
……ってアイツ生きてるじゃん! やば、殺さなきゃ!
「ごめん、ウォルフくん離して。ヴィンセント王子をこのままにするわけには……」
「ってソフィア、まさかあんなヤツの心配なんてしてんのか!? 流石にお人好しすぎるっての!」
ウォルフくんがそう言うと、周囲の民衆たちからも「そうだぜソフィアちゃん! あんな陰険王子ほうっておいて、早く治療院に行ったほうがいい!」と、私を気遣う声がいくつも上がった。
いや……私もあんな野郎のこと、まっっっったく心配なんてしてないんですけどねッ!?
胸骨を殴り砕いて内臓をミンチにしてやったからどうせそのうち死ぬだろうけど、あの王子様のことだ。ヘタに生かしておいたら、死に際に権力パワーで私を処刑に追い込むに決まってる!
殺さなきゃ! 処刑宣告される前に殺さなきゃッ!
雑草の味も知らない王子様の分際で、今まで頑張って生きてきた私を貧しいだの卑しいだの馬鹿にしやがって……絶対にぶっ殺してやる! うわーんッ!
私はウォルフくんの制止も無視し、ヴィンセントの前まで歩いて行った。
そうして苦しげな呼吸音を漏らす王子様の喉に、手をかけようとした――その時、
「お待ちください、お嬢様。その恥さらしの介抱は私が行いますので」
突如、私の後ろから低く通りのいい声が響いてきた。ハッと振り向くと、そこには燕尾服を着た眼鏡の男性が。
……ってこの人、ウォルフくんがダンジョン侵入未遂をやらかした時に冒険者ギルドに来た、国王陛下の執事さんっ!?
彼は気絶しているヴィンセントに一瞬冷たい視線を送ると、私に対して深々と礼を執ってきた。
「お嬢様、まことに見事な戦いぶりでございました。致命傷となる攻撃を全て防ぐ技巧……一瞬の隙を狙った戦略眼に、武器の破損からノーモーションで打撃戦に入る豪胆さ……!
あぁ、実に素晴らしい暴力だ! とても冒険者となって一月も経っていない者の戦いぶりとは思えない!」
眼鏡の奥の細長い瞳をギラギラとさせる執事さん。
うん、こちとら前世で五年は冒険者をやってきたからね。それに小さい時から野生動物を狩ってきたから、そりゃ荒事の経験だけは豊富だよ。まぁ令嬢として全然嬉しくないけどね……。
「あはは、それほどでも……」
「いえいえ、それほどのことですよ」
謙遜する私に対して執事さんはフッと微笑むと、懐から青い液体の詰まったガラス瓶を出してきた。なにそれジュース? 美味しいの?
「つきましてはお嬢様、まずはこちらをお使いください。王家秘伝の霊薬『エリクサー』でございます」
ふ〜ん……って、エリクサーッ!? この人いま、エリクサーって言った!?
たしか聞いた話によれば、王族にしか使用が許されない超超超最高級の回復薬で、使えば千切れた手足だって生えてくるという伝説の代物のはずだ。世に出回ろうものなら、わずか一滴でも数億ゴールドの値が付くことだろう。
そんな希少なアイテムだというのに――執事さんは片膝をついて私の手を取ると、遠慮なくボタボタと垂らしてきた!
ななっ、なんて勿体ない真似を……ってふぎゃああああああああああッ!? 身体中に力がみなぎるぅー!?
皮膚から浸透したエリクサーは一瞬にして全身の傷をふさぎ、それどころか回復という領域さえも飛び越えて、体力や魔力を傷付く前より上昇させているような気すらした。
エ、エリクサーやっば……! ジュースかと思ってマジすみませんでした……!
「って、執事さん……! どうして私にそんな大切なものを……!?」
「フフッ、どうかお気になさらず。国王陛下から言われているのです。『使うに値する者がいたら、遠慮なく振る舞ってやれ』と。
ソフィア・グレイシア様。貴女は実に陛下好みの人物だ。お暇があれば、どうか一度王城へ」
「そ、それはどうも……」
う、うわぁぁあ……王様と謁見っていったら全貴族の夢のはずなのに、全然嬉しくないんですけどぉー!?
だって国王陛下といったら、ウォルフくんに五億ゴールドの借金を背負わせて一年以内に払えって言ってきたヤバイ人でしょ!? うわー会いたくなーい!
それにお城にはヴィンセントもいるだろうし、この執事さんもなんかヤバそうな感じがあるし、誰がドSまみれの鬼畜城なんかに行くかよ! 平気で人を傷付ける連中と馴染めるわけあるか!
「ああ、申し遅れました。私の名前はウェイバー……ただのしがない執事でございます。それではお嬢様、私はこれにて」
そう言って優雅に頭を下げると、執事さんことウェイバーさんはヴィンセント王子を壁から引っこ抜き、ズルズルと引きずりながら去っていくのだった。
……王子様の扱い、それでいいんだろうか?
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