11:王子様を殺せた!!!(やったー!)
世界中の女の子に読ませたくて書いています!
「――決闘だー! 決闘が始まるぞー!」
「第三王子とグレイシア領のお嬢様が殺し合うってよー!」
広場にごった返した数えきれないほどの民衆たち。どこから決闘のことを聞きつけたのかは知らないが、お祭り気分で羨ましい限りだ。そんな彼らに取り囲まれながら、私とヴィンセントは睨み合っていた。
「ほぉ……貴様、あの貧乏で薄汚い底辺領の娘だったのか。見た目からはわからなかったよ。ああ、そんな身分でよくも王子である僕のことを馬鹿にしてくれたな……! 女性だからといってもう許さないぞッ!」
腰から細身のレイピアを引き抜き、怒りの咆哮を上げるヴィンセント。
完全にブチ切れている金髪の王子様を前に、私は思った。ああ……どうしてこんなことになっちゃったんだろうと。
前世で酷い人生を送った私は、今度こそ幸せを掴むために自分磨きをしてきたのだ。
激しい喜びなんていらない。ちょっとお金持ちの貴族や商家のお嫁さんになって、平凡だけど幸福に人生を終えるのが理想だった。
それがいつの間にかまーた冒険者にさせられた上、王子様とトラブルを起こして殺し合う羽目になるなんて……!
私は自分の不幸さに呆れて、思わず溜め息を吐いてしまった。
「はぁ……」
「なっ、なんだその態度はッ!? 僕をコケにしているのか!」
ってうわぁ、なんか勘違いされてもっと怒らせちゃったよ!
あーもう、こうなったら無視だ無視。というわけでギャーギャーと喚く王子様を冷たい視線で黙殺していると、さらに彼は顔面を真っ赤にしていった。
「クソォ! 王子である僕に対してここまで酷い態度を取った女は、貴様が初めてだッ!」
殺意を滾らせながらレイピアを構えるヴィンセント。そんな彼に対し、私も両手に剣を握り込む。
そうしていよいよぶつかり合おうとした瞬間、背後からウォルフくんが泣きそうな声で叫んだ。
「お、おいソフィア! どうしてお前、俺なんかのために王子に喧嘩を売っちまったんだよ!? 俺とお前は、まだ出会ってから一月も経ってない仲だっていうのに……わけがわかんねぇよ!」
うんそうだねウォルフくん! 流石の私もパーティー組んだばっかの人のために命を投げ捨てるほどお人好し馬鹿じゃないよ! ぶっちゃけ私が一番わけわかんないことになってるよッ!
……でもここまできて、「違うんですウッカリでこうなっちゃったんです」って言えるわけもないからなぁ。
こうなったらしょうがない。今日だけ私はお人好し馬鹿になってやることにしようッ!
私はウォルフくんのほうを振り向き、フッと笑ってこう告げる。
「関係ないよ、ウォルフくん。過ごした時間の長さなんてどうでもいい。……ただ一度でも背中を預け合った仲間のためなら、どんな相手にも立ち向かう。それが『真の冒険者』ってやつでしょ?」
「っ、ソフィアぁ!」
ってあーもう、そんなボロボロと泣かないでよぉウォルフくん! 私、めちゃくちゃテキトーなこと言ってるだけだから! そんなに感動されたら心が痛くなるから!
あと周囲の冒険者どもも熱い視線を向けるのやめろ! 鼻を擦りながらヘッて笑うな! 私の適当発言に対して「その通りだぜぇ、よく言った!」みたいな顔しないでよもう!
私は内心申し訳なさと恥ずかしさでいっぱいになりながら、ヴィンセントを再び睨み付ける。
「――というわけで王子様、お前を殺すわ。私の仲間を罵倒したこと、地獄の底で後悔しなさい」
「クッ、舐めるなァッ! 勝つのはこの僕だーーーーッ!」
その瞬間、ヴィンセントの身体から新緑の暴風が吹き荒れた! それを身に纏い、一気に彼は駆けてくる――!
って、予想以上に速い!? たったの一歩で五歩分以上の距離をかけ、心臓狙いの一突きが放たれてくる!
「そらぁッ!」
「ッ――!」
ギリギリのところで身体を逸らし、高速の一撃を回避する。しかし今のは嵐の前触れに過ぎなかった。
私の側を駆け抜けたヴィンセントは、一瞬の内に反転を果たすと先ほどよりもさらに速度を上げた突きを放ってきたのだ! どうにか剣先に刃を当てることで受け流すも、息も吐かぬ内にまたもヴィンセントが踏み込んできた――!
「ふはははッ! 僕の神速の刺突をよく防ぐねぇッ! だけどその偶然がいつまで続くかなぁ!?」
どうにか三撃目の突きも回避するが、反撃すら出来ない内に行われた四撃目の突進は、もはやヴィンセントの姿が目で追いきれないほどの速度となっていた。
やばい、あまりにも速すぎる! おそらくは踏み込みや反転の瞬間に風の魔法を放つことで、強引に速度を上げているのだろう。
私も足元から水魔法を噴射して突進の補助とする技術を使っているから、原理だけなら理解できるけど――これは私とはレベルが違う! 気付けば彼の速度は音を置き去りにするほどとなり、私は暴風の中で踊らされる木の葉のようになっていた……!
「さぁほら泣き叫べぇッ! 諦めろぉ! 貧しく卑しい下賤な女め、この国の王子である僕に逆らったことを後悔しろォ! ふーはははははははははははッ!」
「ソフィアーーーーッ!?」
嘲りに満ちたヴィンセントの声と、ウォルフくんの絶叫が斬撃の檻の中に響いてくる。
ああ、そろそろ反射神経だけで対応しきるのも限界だ。四方八方から放たれる刺突の嵐は徐々に私の身体を掠めていき、純白のドレスに血を滲ませていった。
――だが、しかし。
「ははっ、はっ、はは、はぁ、ッ……ぁっ……諦めろって、言ってるだろうがぁ!!!」
怒号を上げるヴィンセント。彼の刺突を二百回ほど受け流した時には、その声色から明らかに余裕が抜けきっていた。
対する私も至るところに切り傷を負ってるが、だがそれだけだ。常に半歩しか動かず、二刀の刃も最低限しか動かしてこなかったため、まだまだ体力は有り余っていた。
そうして放たれる二百一回目の突き。もはや完全に勢いを無くしているその剣筋を見て、私は確信した。
さぁ――そろそろ反撃に出る頃合いだと。
「はぁッ!」
「なにっ!?」
私は二刀を十字に振るい、ヴィンセントの刺突に全力でぶつける!
その結果、ずっと攻撃をいなし続けてきてくれた安物の双剣は見事に砕け散ったものの、王子様の足を衝撃によって食い止めることに成功した。
「ぐぅうっ!? き、貴様、僕の体力が切れる瞬間を狙ってッ!?」
「ふふっ、教えてあげるわ王子様! 生き足掻くために得た私の力をねぇッ!!!」
私は腰を深く落とし、ヴィンセントの細い顎へと全力のアッパーを叩きこんだ!
「ぐはぁぁあああッ!?」
絶叫を上げながら身体を浮かすヴィンセント。さぁ、後はどこでも叩き放題だ! 両手の拳を握り固め、王子様へと超速のラッシュを放ちまくるッ!
「やっ、やめっ、うぎゃぁああああああぁぁあああッ!!?」
オラこの野郎死にやがれッ! よくも攻撃しまくりやがったなオラオラオラッ! 小さい頃から飢えをしのぐために野生動物の群れとバトルして反射神経鍛えてなかったら終わりだったよコンチクショウッ!
私に謝れ! 全力で謝れッ! 怖がらせたことを死ぬほど謝れッ! そしてッ!
「お金のない人を、二度と馬鹿にするなぁぁぁあッ!!!」
「ぐぉおおおおおおおおおッ!?」
魂の叫びを込めて放ったトドメの一撃は、王子の身体を勢いよく吹き飛ばした!
民家の壁にベコリと埋まり、そのまま白目を剥いて動かなくなるヴィンセント。血の泡を吹きながら全身を痙攣させるばかりで、完全に意識を失っていた。
「私の勝ちよ、ヴィンセント」
勝利宣言と共に高らかに拳を掲げた瞬間、民衆たちがワッと歓声を上げたのだった。
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