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ディア・クロニクル  作者: 瀬織津ヒロム
ハンニバル戦記 前編
12/13

9 新たな英雄。

 フラミニウス軍を全滅させたハンニバルは自らの軍から離れた。ともにスパルタクスとジーンがいた。彼らは早馬を使い、首都ロマーネに向かっている。



 そして、ロマーネを一望できる高台に来た。



「あれが、ロマーネか」



 ハンニバルが言った。



「ええ、世界の都です」



 スパルタクスが答えた。



「父の宿願を叶える時が近づいている」



 ハンニバルは持参した槍を持った。槍に電流が走る。そして、錬金構成術(AC)で超軽量化される。



「あいさつ代わりだ」



 ハンニバルは体を大きく引き、槍を放った。



 槍は宙をかけた。ロマーネの城壁を飛び越え、住宅地を超え、パラティノの丘に向かった。そこには元老院議会堂があった。人々は見た。彗星のごとく高速で進む光を。



 そして、元老院議会堂に設置されていたSPQR(元老院とロマーネの人民の略語)を掲げる鷲のモニュメントに刺さった。その槍はフラミニウスの物であった。



 ※



 クラッスス軍がロマーネに戻った。首都は大混乱していた。



 クラッススは元老院議会堂に向かった。



「ハンニバルめ」



 国の象徴であるモニュメントに、電撃を帯びたフラミニウスの槍が刺さっている。これほどの屈辱はあろうか。クラッススは怒りをあらわにした。



「なぜ、槍を撤去しない!」



 クラッススが叫んだ。すでにその場にいたキケロ議長が答えた。



「槍が電流を帯びていて、誰も触れることができないのだ」



「ふざけるな。国家魔法構成術士を呼び、解除しろ」



「すでに呼んだよ。誰も解除できん。それほど強いアトロンを込めた電流だ」



 その時、アウグスがやってきた。



「私が解除しましょう」



「正気かね。あの電流を浴びれば死ぬ可能性もあるぞ」



 キケロ議長が止める。



「このような屈辱を受け入れるぐらいなら、死んだ方がマシです」



 キケロはアウグスの姿にカエサルを見た。



 アウグスは数人に抱えられ、数メートルの高さに刺さった槍の前に来た。眼が眩むような閃光を放っている。強力な電流だ。触れれば、体は炭になるだろう。アウグスは両手を掲げ、力を込めた。



「おお!!」



 この光景を見ていたやじ馬たちから、歓声が上がった。アウグスの手が輝いたのである。その輝きを多くの者が見た。奇跡だ。



 アウグスはゆっくりと槍に触れた。しびれない。電流を感じない。慎重に槍を抜く。



「おおお!!」



 歓声はさらに高まった。屈辱の象徴が抜かれたのである。



 あの青年は何者だ。まだ若いぞ。カエサルの養子らしい。カエサル! あの執政官カエサルか。なんと神々しい。ハンニバルがなんだ。われわれにはカエサルがいる。やじ馬たちが大声で話し始めた。



「カエサル!」



 やじ馬の一人が叫んだ。平民派の代表カエサルは特に民衆に人気があった。そして、民衆は彼の養子アウグスの名を知らなかった。カエサルを呼ぶ声は、波のように広がり、合唱のように巨大な声となった。



「カエサル! カエサル! カエサル!」



 クラッススは身の危険を感じた。民衆たちに切り殺される心配ではない。今後、カエサルとアウグスに失政させられる危険を感じたのだ。



 ※



 クラッススはロマーネの城壁強化を命じた。その資金の一部をクラッススは自らの私財で補填した。しかし、民衆の関心はカエサルの子アウグスとカエサルがいつ戻るかに向くだけだった。



 クラッススは挽回するため、巨大な城壁を作り始めた。ギリネシアから連れて来ていた錬金構成建造士たちを総動員し、高さは10メートルにも及んだ。それでも民衆は興味を示さなかった。ハンニバルという脅威は消えていない。脅威を排除するのはカエサルだと思い込んでいた。



 アウグスはその城壁を見て、新たな不安を覚えた。城壁は高くなればなるほど、こちらからも外の様子が見えづらくなる。それにロマーネを発展させたのは人の交流である。交流を妨げる城壁を持つロマーネは、ロマーネではない。



 アウグスは建造の現場を監督しているクラッススのもとへ来た。



「また進言かね」



 クラッススは険しい表情で言った。



「いかにも」



「今度はなにかね」



「建造を中止していただきたい。城壁を高くしたところで、ハンニバルを倒せません」



「では、ハンニバルが攻めてきたらどうするのだ。現にあやつは元老院議会堂に槍を投げつけたのだぞ」



「次なるハンニバルの槍を止めるために、建造しているのですか」



「ケンカを売っているのか」



 クラッススは怒りを抑えて言った。



「ケンカを売っているのではなく、提言です。それより新たな兵を整備し、ロマーネ周辺を荒らしまわっているハンニバルを止めるべきです。民が疲弊しています。正面切っての戦闘は避け、荒らす間もなくやつの軍を追い回すのです。そして、父とスッラ様がロマーネに戻り次第、共闘しハンニバルを討つのです。父とスッラ様がいれば倒せます」



「私は必要ないと」



 クラッススは意地になっていた。



「話を聞いてください。城壁の中にいるだけでは状況は変わりません」



「貴様は民衆の人気を得て、調子に乗っているのではないか」



 ロマーネから動く気配を見せないクラッススにアウグスは失望した。





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