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魔王の隣で勇者を想う  作者: 遠山京
第五章 令嬢と騎士

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087かよわい女の子

魔力泉の用心棒を引き継いで、かれこれ五日。

今日も魔力泉周辺をリード、アルノーの二人と一緒に巡回していると、作業をしている兵達から次々声を掛けられた。

もちろん私にも挨拶してくれるけど、一緒に戦った戦友であるリードは特に好感度が高いらしい。

私も頑張ったんだけどなぁ…マリーに扮してたから仕方ないんだけど、ちょっと寂しい。

中でも特に気さくな兵士の一人が、こちらを見て駆け寄って来てくれた。



「本日も巡回お疲れ様です!」


「みなさんこそお疲れ様。様子はどう?」


「大魔力泉の囲いの進捗は順調です。あと一週間もあれば完了するかと。アカネ様達が魔物を寄せ付けずにいてくれているおかげですよ」



私たち二人が見回っているのは日中だけだ。

夜間は別の冒険者がやってくれているから私達だけの力じゃないんだけど、まぁそんなこと彼も分かってるだろうしわざわざ突っ込むのは野暮だろう。



「よかった。大魔力泉と中魔力泉はずいぶん活性が落ち着いてきたみたいだけど、魔物はどうしても寄ってくるもんね。精神的にも落ち着かないでしょ」


「いえ、私共は一日置きに休日をいただいておりますので。皆様は毎日ここにいらっしゃっていますしお疲れでしょう」


「うーん…私はそうでもないけど。アルノーとリード様が頑張ってくれているし」


「…俺は何も」


「僕もこの程度なら問題ないよ」


「はは、お二人は流石ですね!」



兵士はカラカラと笑っているけど、私は内心苦笑気味だ。

実際、魔物がやってきても殆どはリードとアルノーが片付けてしまう。

私は二人が数を減らして危険が無いようお膳立てしてくれた状況で控えめに魔術を放つ程度だ。

でもリードとアルノーが付いてきてくれてよかった。

他の冒険者たちと組んでやるのだとまたマリーのカッコしなきゃいけなくて気を遣ったし、私の特性を分かってここまでフォローできるのは二人だからだ。

おかげで私は周囲からちょっと魔術が得意な伯爵令嬢レベルの認識をしてもらえている。

それでもうっかりすればドラゴン令嬢だと思われてしまいかねないので、日々魔術制御には気を遣っていた。

でもね、寝てる間にもちゃんと制御できるようになってるんだよ。

大進歩。



「それで、小魔力泉の方はどう?」


「問題なしです。ただ、ガールウートが随分育ってきましたね。ほら」



兵士が指さすのに促されて視線をやると、昨日よりさらに伸びた木が目に入った。



「おお…昨日より何十センチか伸びてそう。こんなに育つんだねぇ」


「というかそもそもガールウートの木っていうの初耳だしね」



私のしみじみとした呟きに、リードが苦笑して返す。

そう、本来ガールウートは地下茎を伸ばし、地上にはちょっと蔓を伸ばす程度の魔物だった。

なんだけど、魔力泉から無尽蔵に供給される魔力の影響か、地上に芽を出し木のように成長し始めたのだ。

念のため枝が届く範囲に近づかないようお触れを出してはいるけれど、リードが品種改良済みなので人を襲うことは無い。

とはいえこうして成長するのはリードにとって想定外だったようだ。



「魔鉱石はとれてる?」


「はい。相変わらず精霊石は全くとれませんが」



魔鉱石は魔力を供給する石で、精霊石は生命力を供給する石。



「このあたりはそもそも魔力泉の影響で草すらほとんど生えませんから、吸収できる生命力が無いのかもしれませんね」


「なるほど」



ガールウートが吸収した力を結晶化しているだけなんだとしたら、それは無理もない。



「ただ、一つ気になることがあるんですよね」


「気になること?」


「どうも実がなってるみたいなんですよ」



その言葉に驚いてガールウートのところへ駆け寄る。

地下はメレイアの杭、地上部分はメレイアの柵で囲われた魔力泉の真ん中にちょこんと生えているのが、ガールウートの木だ。

樹高はせいぜい一メートル。

とはいえほんの数日でここまで伸びているのだから驚異的な成長速度だ。

そしてその枝葉の隙間から、小ぶりな赤い実ができているのが見える。

リードはふむ、と考えるそぶりを見せた後、柵を乗り越えてガールウートに歩み寄った。



「ヴィンリード様!」



アルノーが慌てて後を追おうとするけれど、それより早くリードがこちらに戻って来る。

その手には赤い実があった。



「危険なことをなさらないでください!」


「ごめん」



リードの謝罪は軽い。

私に口やかましく言う割に、リードも良家の子息である自覚が足りない。

アルノーとエドガーの苦労がうかがえる。

…私も苦労をかけている一人だけど。



「それは手にして問題ないのですか?」


「うん、持った感じ大丈夫そう」



こわごわ覗き込む兵士に、リードはこともなげに返す。

魔王であるリードがガールウートの実でどうにかなるとは思えない。

だから私は安心して見ていられるけれど、周囲はそうじゃないだろう。

何かあってもすぐ対処できるようにか、アルノーは先ほどからずっと剣の柄に手をかけている。

しかし周りの心配をよそに、リードはその実にかぶりついた。


息を呑む兵士と、目を見開いてリードの様子をうかがうアルノー。

凍り付く二人に視線をやることもなくリードはもぐもぐと咀嚼し、喉を鳴らして嚥下する。



「ヴィンリード様!」


「大丈夫、毒じゃないって確認してから口にした」



アルノーが再び叱責の声を上げるけれど、リードはどこ吹く風だ。



「確認?」


「光魔術で鑑定できるんだよ」



初耳だ。

本当かどうかは分からないけど、とりあえず手についた汁をなめとる仕草が色っぽい。

色っぽいけど、アルノーはそんなのに流されない。



「それならばせめて俺にしてください」


「毒見役をってこと?」


「そうです」


「無理だよ。アルノーは魔力の反応が鈍いだろ?」



リードの返答に、アルノーは首を傾げた。

私も意味が分からない。



「この実は魔力が濃い。時間が経たないとわからないけど、多分魔力回復効果がある」


「えっ」



リードの言葉に兵士が目を丸くした。



「あ、味は今一つ」


「いや、大事なのはたぶんそこじゃないです」



だよね。

この世界において魔力を回復するには時間経過、もしくは魔鉱石を使用するしかない。

魔鉱石による回復は、実はかなりロスがある。

魔鉱石を砕くことで周囲に濃い魔力を漂わせて、それを体が自然に吸収するから普通よりは回復が早いけど、ある程度は空気中に霧散してしまう。

自分に適性のない属性の魔力は吸収できないしね。

まぁ、そのおかげで魔力泉みたいに魔物が寄ってこないで済むんだけど。

でもこの実は経口摂取で直接体内に魔力を取り込める。

つまりはMP回復薬ってやつだ。



「一時間くらいして消化吸収されたらもうちょっと効果がはっきりすると思うけど。魔力泉に植えると魔力が多すぎて、魔鉱石だけじゃ吐き出し先が足りないのかもね」



唖然とする面々をよそに、リードはそんなことを語る。

その言葉を肯定するかのように、この日以降もガールウートは成長しながら益々実をつけるようになった。

ガールウートがつける実はガリウトと名付けられ、攻撃性がないことの確認もかねて毎日収穫している。


数日の間に検証されたところによると、この実にはおそらく全属性の魔力が含まれているとのこと。

そして食べれば体内で自分に適した魔力に変換されるという、大変人間に都合のいい性能を持っている。

いろんな人が食べてみても回復量がほぼ同じだったことからそう判断された。

人間の消化器官のどこかに、魔力変換機能でもあるんだろうか…


何にせよ、その回復効率は魔鉱石よりずっと高い。

魔鉱石は魔術具なんかにも使えるからお払い箱とはならないものの、この実の有用性は魔鉱石の市場価値をひっくり返しかねないものだった。

報告を受けたシェドは、この実を市場に流せば大荒れになると判断してひとまず存在を秘匿することにしたようだ。


ガリウト発見からかれこれ一週間。

そんな報告を耳にした私は、今日も今日とて巡回をしながら溜息をつく。



「仕方ないけど、せっかくこれも財源になるかと思ったのになぁ」


「まぁ、時間はかかるけどそのうち市場に流すこともできると思うよ。それよりも…」



私のボヤキに返事をしてくれていたリードは私の顔を覗き込んで眉をハの字にした。



「やっぱり、顔色悪くない?」


「んー…?確かにちょっとここ数日疲れが取れにくいんだよね」



気が抜けて疲れが一気に出てきているんだろうか。

このへんは暖かいし、風邪ひいたとも思えないけど。

足取りが重いのは確かだ。

アルノーも言葉にしないながら気遣わし気にこちらを見てくる。

心配かけて申し訳ない。



「ぐるっと回ったら少し休もうかな」


「いや、すぐ休んだ方がいいんじゃない?」


「せめて今日の収穫をしてから…!」



ここのところガリウトの収穫をするのは私の仕事だった。

果物狩りみたいで楽しかったから、私から買って出たんだ。

ガールウートが襲ってこないことが確認できたためになんとかアルノーから許可をもぎ取った。


毎日数が増え、大きさも艶もよくなる実。

そして大きくなっていくガールウート。

小学生の頃に学校の授業でやったミニトマトの観察みたいで楽しかった。

だからそれだけでも済ませてから休もう。

そんなことを考えて無理してガールウートの木に近づいたのが良くなかったらしい。

ただでさえ重かった体から急速に力が抜けていく気配がして、私はそのまま意識を失った。




==========




目を覚ました時、外はすっかり暗くなっていた。

コッセル村の村長の屋敷。

魔物討伐時と同様、そこの客間に私は滞在させてもらっている。

気を失った後、ここまで運んでもらったようだ。


ベッド脇の椅子に腰かけている人影に気付いて体を起こす。

腕組みしたままウトウトしているのはリードだ。

ずっと看病してくれてたんだろうか。

起こすのは申し訳ないな。

ずっと寝ていたせいかお手洗いに行きたい。

起こさないようにそっと離れよう。

そう思ってそろーっとベッドを降りたのに、リードの横を通り過ぎようとした瞬間手首をつかまれた。



「ひえっ!」



ちょ、ちょ!

今のこの状況でそれはダメだわ。

乙女としての尊厳を失うかと思った。

ぎこちなく首を動かしてリードの方を向くと、眠たげな瞳がこちらを見ていた。



「…ん?アカネ?」


「お、おはよう」



呼び捨てだ。

ひょっとしてまだ寝ぼけてる?

え、もしかして無意識につかんだの?

人の気配があったから?

どっかの武道の達人か何かかな?


いくつも疑問が浮かべど一つも口から出てこない。

手首をつかんでいる指先が、感触を確かめるように私の肌を撫でているもんだから。

く、くすぐったい。

変な声が出そうになるのを咄嗟に唇を噛んで堪えた。



「う…ちょっと…リード!」


「ん?」


「ん?じゃないの!く、くすぐったいからやめて!」



ぼんやりした様子のリードは私の言葉をかみ砕くのに時間がかかっているらしく、数秒小首をかしげてから返答した。



「くすぐったいって感じるところは素質がある場所らしいですよ」



何の素質だよ。

だがしかし賢明な私は藪蛇となる突っ込みなんてしないのだ。

私は手首に何の素質も求めていない。

ようやく頭が覚醒してきたらしいリードは頭を掻きつつあくびをした。

あくびする様まで綺麗だなんて妬ましい…

そして手はいつ離してもらえるんでしょうか。



「体は大丈夫なんですか?」


「う、うん。この通り」



この通り、早くトイレに行きたいです。

とはさすがの私もストレートに言えない。



「そうですか、良かった」



そう安堵したようにため息をつくリードの様子を見たらなおさらだ。



「ごめんね、結局今日一日仕事できなかったね」



倒れたのは巡回を始めて間もない時間だった。

それがこんな真夜中だ。

ずいぶん長いこと眠っていたらしい。

しかしリードは眉を上げて、呆れたように言い放つ。



「言っておきますが、アカネ様が倒れたのは昨日の朝です」


「へ?」


「丸一日半眠っていたんですよ」



…まさかの。

そりゃトイレ行きたくなるはずだ。

…ダメだ、何を聞いてもトイレに思考が流れてしまう。


しかしそんなの知る由もないリードは何があったかの説明を事細かに始めてしまった。

そもそもガールウートは近くにあるものから生命力と魔力を吸う魔物。

魔力泉があった地は植物も無く吸収できる生命力がほとんどないから、精霊石はほとんど採掘されなかった。

とはいえ生命力を奪う力が無くなっているわけじゃない。

そのことをすっかり忘れていたのが良くなかったんだ。

作業員は一日おきに休日を挟んでいるから連続して長期間ガールウートの側にいることは無かったし、何よりみんな兵士として体力がある。

アルノーとリードも元の鍛え方が違うせいかまだ影響を感じていなかった。

耐えられなかったのは私だけだ。



「すみません、アカネ様は魔力おばけだし行動は大物だけど体力だけはか弱い女性だったのに」


「何から突っ込んでほしくてどう怒られたいのかしら?」



また奴隷キャラがどっかいってませんか?

というか嫌味しか言わないならもう行かせてもらえませんか?

やばい、膝が震えてきた。

さすがにこれはもう素直に伝えた方がいいか。

最悪の事態を招くより一時の羞恥心を我慢した方がマシだ。


しかしそんな私の決意を知る由もないリードは椅子から立ち上がり、何故だか私を抱きしめた。

…ときめきって、体に余裕がある時限定の心理現象なんだと今初めて知りました。



「あ、あの…リード」


「すみません。少しだけ…今だけですから」



今が一番ダメなんだよ馬鹿野郎。

心の中でどんどん口が悪くなっていく。



「アカネ様が倒れたのを見た時、俺がどんな思いだったかわかりますか…?生命力は魔力と違って簡単に補充できないんです。このまま衰弱していって目覚めない可能性もあったんですよ。気付けなかった俺にも責任はありますけど、もう少し自分の体に気を遣ってください」


「わかった、わかったから離して!」



私が迂闊だったのは悪かった。

だけど自分の体に気を遣うなら今だ。

その為にも離してほしい。

思わず強い口調でそう言うと、ようやく体を離してもらえる。



「…すみません」



私の必死の拒否をどう受け取ったんだか、リードは悲し気な笑みを浮かべた。

リードの中でどんなモノローグが流れているのか知らないが、私はそんな状況じゃない。

だけどここで部屋を飛び出せばなんかややこしいことになる気がしてならない。

だから名残惜し気に繋がれたままの手を振りほどく前に、私は叫んだ。



「お願いだからトイレに行かせて!」



そんな魂の叫びは真夜中の屋敷に響き渡り、リードは目を丸くして私を離した。

気まずそうに視線をそらして『ごめん』とつぶやくリードの顔…

忘れたい。

翌朝、エレーナを含め顔を合わせた人たちがみんな言葉にしにくそうな気遣いをしてくるのがさらになんとも言えなかった。

…死にたい。


とりあえず、私の教訓を生かし、今後魔力泉に監視員を置く場合にも一日働いたら一日、可能であれば念のため二日空けるくらいのシフトで交替させた方がいいかもねという結論が出た。

私の犠牲が無駄にならないようで何よりです…

ときめきって余裕がある心理現象だと思います

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