084戦場へ
そして翌朝。
私はマリーから借りたローブを羽織り、変身指輪をつけて馬車に乗り込んだ。
現地ではシェドの隠し玉、謎の魔術師として振る舞い、対外的にはアカネ・スターチスはセディオムの領主邸で待機していることになっている。
事態が落ち着いてからの復興支援なんかはアカネとして手伝うつもりだけどね。
先に道中の魔物を払っておいてくれるとかで、アドルフ様達の隊やシェド、リード達は一足先に現地へ向かっていた。
…で。
「エレーナ?」
「なんです?」
「…何ですは私のセリフっていうか…何でいるの?」
コッセル村へ向けてガタゴトと揺れる馬車の中。
私の隣には護衛のアルノー、そして向かいにはエドガーと、なぜかエレーナまで座っている。
いつも通りアッシュブラウンの綺麗なウェーブ髪を揺らし、メイド服を着た彼女。
戦場に向かうメンツの中では酷く場違いだ。
驚いている間に馬車が出発してしまって下ろすタイミングを失った。
「なんか話し方はアカネ様なのに別の声なんで変な感じです」
「私もそう思うけど、話をそらさないでくれないかな、エレーナ」
「何でいるのって話ですか?私はアカネ様の世話係なんですよ?」
「いや、それは分かってるけど…今から行くのは戦場なんだよ?」
「セルイラを発った時にその自覚が無かったアカネ様に言われるのは腑に落ちないですね」
それはそうなんだけど。
「私は自分のことくらい自分でできるから大丈夫だよ」
「なんです?アカネ様はメイド達に職を失わせたくてそんな発言してるんですか?」
「いや、そうじゃないけどぉ…」
なんかえらく絡んでくるな。
「いいですか、アカネ様。自分のことは自分でできると言いましたけど、夜に体を拭くお湯やタオルをどうやって用意したらいいのか分かってるんですか?持ってきた荷物のどこに何が入っているかもわかっていないですよね?それともただでさえ忙しい現地の兵士たちに世話を焼かせるおつもりなのです?まさかエドガーやアルノーに体を拭かせたり着替えの準備をさせるつもりじゃないですよね?」
「そ、そんなことしないよ!自分で何とかするし…」
「アカネ様がそのつもりでも周りが放っておけないです。世話をしなきゃって気を遣われるだけです。私みたいなメイドが一人ついているだけで現地の人たちの負担はぐぐっと減るのですよ!」
エドガーとアルノーを見ると揃って頷かれた。
思わず額を押さえる。
エレーナの言うとおりだ。
私は未だに令嬢という立場を理解しきれていなかったらしい。
私が一人動くだけでも、周りは気を遣うんだ。
「…わかった、ありがとう。危険なところに連れて行っちゃってごめんね」
「今回はスターチス家全体の危機です。私だってできることはやらないと」
私の理解を得られたと判断したらしいエレーナは、少し疲れたようにため息をついて背もたれに体を預けた。
よく見てみると、目元にはうっすら隈ができている。
「…大丈夫?やっぱり荷造りで寝不足とか?」
「いえ、荷造りは昨日の夕方には終わってたですよ。ただ昨夜はちょっと…考え事をしていたら眠れなくて」
困ったように微笑むエレーナが痛々しい。
こんな戦地に向かうことになったんだ。
そりゃ怖くて眠れなくもなるだろう。
「…エレーナ、覚悟を決めてくれたのは分かるけど、弱音くらい吐いてもいいんだからね?」
それくらい受け止める。
その言葉にエレーナはぼんやりした瞳ながら、『じゃあ少しだけ聞いてもらっていいですか?』と前置きして口を開いた。
「私ってリドアカ同盟の盟主じゃないですか」
「…何の話?」
「へ?弱音吐いてもいいんですよね?」
何の弱音吐こうとしてんの?
「とはいえシェドアカ同盟に未練が無いわけでもないんですよ」
「続けるんだ…」
「だけど、どの同盟にも共通するのはですね、みんな幸せになってほしいっていう理念なんです。これってもう世界平和ですよね」
「何を言ってるの?」
話が随分壮大なところに飛躍したな。
寝不足だからなのかエレーナはテンションがいつも以上におかしい。
「それで世界平和を考えてみるとですね。シェドアカ同盟にするのが一番丸く収まるのかもと思ったわけです。だってリード様にはアドルフ様がいるんですから」
「…なんと」
「エレーナ、エレーナ、妄想と現実を混同しないで。アルノーが『そうだったのか』って顔しちゃってるから」
「で、残るはアルアカ同盟なんですけど、よく考えたらアルノーにはエドガーがいるわけですよね?」
俺は関係ないとばかりに苦笑して静観していたエドガーがすごい顔になっている。
アルノーは自分が絡んだことにより話が見えなくなったらしく首を傾げていた。
「シェドアカ、アドリド、エドアルで収まればみんな幸せじゃないですか?」
「三組中二組にバラの花が咲いてる上に、希望が通ってるのシェド様だけなんだけど」
みんな幸せの定義とは。
あと、リードとアドルフ様の立場が逆転してるんだけどエレーナの脳内で何が起きたのか。
もはや話についていけていないらしいアルノーは疑問符を浮かべているし、エドガーは聞こえないふりを始めた。
え、もしかしてこの対処って私だけでしないといけないの?
徹夜明けテンションのエレーナの妄想トークは私の突っ込みなど耳に入れてくれることも無く、休憩時間を挟んでコッセル村に到着するまで続き、現地に着いた頃には私とエドガーはぐったりしていた。
アルノーは理解するのを諦めたらしくぼんやり外を眺めて済ませてた。
私もそれくらい割り切りたかった…
先行隊が通った直後だからか魔物と出くわすこともなくスムーズにつけたというのに…しんどい。
しかし、もう疲れたから休みたい、なんて感情すら吹き飛ぶ惨状がそこにはあった。
夕暮れに沈む小さな村。
のどかだっただろうその村には武装した人たちで溢れかえり、物々しい雰囲気だった。
鼻をつく異臭。
血や腐敗物がまじりあった匂いだ。
多くの人が駆け回り、戦場から下がって来たらしい負傷者の手当てに追われている。
顔色の悪い治癒術士らしき人が治癒魔術を施してはふらつき、周りの人たちがさらにその介抱も行っていた。
戦場はここから見えないけれど、おそらくこの異臭は魔物の死体によるものもあるだろう。
正体を隠している私はローブを目深に羽織り、ぎゅっと唇をかんだ。
「無事だったようだな、魔術師殿」
こちらを見つけて歩み寄って来てくれたのはシェドだ。
マリーの外見になっている私への戸惑いが顔に現れているものの、その足取りはしっかりしていて包帯も眼帯も無い。
「ええ。先行していただいたおかげで魔物に出くわすこともありませんでした。シェディオン男爵のお体はもう本当に大丈夫なんですか?」
「ああ、問題ない」
怪我の治りは今朝顔を合わせた時に確認していたけれど、体調が万全かは別だ。
念のためもう一度確認すると、シェドは左腕を軽く叩いて快調をアピールしてくれる。
良かった。
本当にリードには感謝しないと。
そしてしばしその場で現状を確認。
前線は今のところ持っている。
アドルフ様達の隊や、冒険者たちが加わったことで一気に持ち直し、ギリギリの状態だった兵たちをいったん下げて治療に専念させているそうだ。
ガールウート跡地から掘り起こしてきた精霊石や魔鉱石も役に立っているらしい。
シェドはリードのことを心配していたようだけど、目を見張る獅子奮迅ぶりで高ランク冒険者に見劣りしない活躍をしているという。
魔術は使わずに剣一本で戦っているとか。
やっぱりリードって剣も本当に強いんだ。
そうだよね、本の中でも彼はそうだった。
でも今前線が落ち着いているなら…
「シェディオン男爵。戦況が安定しているうちに私の魔術を叩きこむという手は?」
いざという時の為に連れてきてもらったものの、混戦状態になれば大規模な魔術を使いにくくなるし、そうなると私を戦場に送り込んでもらえない。
ここまで連れてきてもらえたのに、結局何もできない可能性があった。
仮にも助っ人魔術師としてもぐりこんでいるのに、何もしないのは周りからも怪しまれるだろう。
私の申し出に、しばらくシェドが考え込む。
…やっぱり反対されるだろうか。
祈るように見つめていると、そんな私に気付いたようにシェドはこちらに視線を戻して大きく溜息をついた。
「…日暮れには俺も戦場に戻る。その時に共に行ってもらおう。もちろん、俺の側を離れられては困るが」
人間同士の戦争と違い、魔物は夜休んでくれない。
もちろん夜活動しない魔物は眠りに戻るものもいるけど、代わりに夜行性の魔物が活発になる。
人間側が疲弊している理由の一つはこれだ。
とはいえ、暗い時間なら私の姿も人目につかない。
絶好のチャンスだ。
だけど…
「シェディオン男爵は後方で指揮を執るのではなかったんですか?」
「援軍のおかげで戦況が変わった。今のうちに攻め込んだ方が良いと言う俺の判断だ。これだけ元気なのに休んでいるわけにもいくまい」
そりゃそうだけど…
ちなみにこの奇跡の完治ぶりについて、やっぱり周りの兵や冒険者たちから質問が噴出したらしい。
リードが注目されることを避けたかったらしいシェドは『神に祈ったら奇跡が起きた』なんていう顔に似合わないスピリチュアルな暴論で返したそうだ。
だけどこの世界では神という存在への信仰心は薄い。
同じタイミングに私が来たことも知られていたため、『妹が来たら奇跡が起きた』に変わり、さらに『シスコンパワーで怪我が治った』という大変不名誉な話の伝わり方をしていっているようだ。
なのにシェドが否定しなかったもんだからもうそれで話が広まっている。
時々気さくに声をかけていく冒険者たちの口ぶりからすると、シェドは妹さえ側にいれば瀕死からでも奇跡の復活を遂げるかのような扱いをされてるんだけど…
果たしてこれでいいのだろうか。
それはさておき、戦場に行く許可が出た。
私の宝の持ち腐れ魔力を、ようやく人々の役に立てられる。
頑張らないとね!
ちなみにアルノーとエドガーはコッセル村でお留守番。
二人は一応アカネ・スターチスの護衛としてカッセードに来ているのに、マリーに扮した私に付きっきりだとマリー=アカネだと気付かれてしまう可能性があるからだ。
現地に行けば他の戦士達が魔術師殿を守れるから、とシェドに説得されて引き下がった。
どちらにしろコッセル村にもたまに魔物が流れてくるから戦闘員は必要だ。
二人にはそっちを頑張ってもらおう。
出陣は日暮れごろなのでしばらくは待機と言われ、いったん体を休めることにした。
コッセル村内に残っている村長の家に荷物を運びこむ。
シェドやアドルフ様もここを拠点としているそうだ。
小さな村の村長の家なので、居住区域はそう広くない。
集会所とくっついているから拠点にされているだけだ。
私は個室を渡してもらえたけれど、男性陣は集会所で雑魚寝するという。
アドルフ様ですらそれなのに申し訳ないな…
女性を同じ扱いにするわけにはいかないのは分かるし、エレーナもいるからお言葉に甘えたけど。
この後は夜通し戦うことになるかもしれない。
今のうちに体を休めておこう。
とはいえもうすぐ戦場に出ると思うと、興奮した頭は体を休めようとしてくれない。
ベッドに入ったものの眠りにつけないまま時間が過ぎ、三時間も経った頃呼び出しがかかった。
すっかり日が落ちた時間だけど、村の中は篝火に照らされ周囲の喧騒は昼間と何も変わらない。
せわしない人々の合間を縫いながら歩き、広場でシェドと落ち合った。
「そろそろ戦場に向かおうと思う…本当に来るのか?」
周囲に人が居ないのを確認して、シェドは心配げな顔をする。
魔術師としての建前を除いた、純粋に私を心配する言葉だ。
「ここで手当てなんかのお手伝いをすることもできるでしょう。それに意味がないとは思いませんが…私の魔力を活かすなら戦場の方がいいかと思います」
私が治癒魔術を使えるなら後方で治癒術士を助けるんだけど、やったことないからなぁ…
負傷者を実験台にするわけにもいかないし。
「分かった。それならこれ以上は言うまい。行くぞ」
「はい!」
そう言ってシェドがつれて来た馬は二頭。
…え、私、馬に乗るの?
しかも一人で?
普通の令嬢が馬に直接乗ることは無い。
はしたないとされるからだ。
とはいえ今は緊急事態。
な、為せば成る!
しかしシェドの視線は、意気込む私を通り越した後ろへ向けられた。
「エレーナ、頼んだぞ」
「はいっお任せあれです!」
「え?」
私の後ろに控えていたエレーナが元気よく返答したかと思えば、手際よく馬に荷物を括り付け始める。
そして慣れた様子で馬にまたがり、私に手を差し出した。
「さっ、魔術師様、乗ってくださいです」
「は?」
見送りについてきただけだと思ってたのに…
「え、エレーナも一緒に行くの?」
「この問答をまたやるんですか?」
「えぇぇ…」
戸惑いながら差し出した私の手を、エレーナは力強く引き上げた。
その細腕のどこにそんな力があるのか。
エレーナの前に乗り、安定したことを確認すると間もなく馬が走り出す。
「エレーナって、馬乗れたんだ」
「はい。乗るのは久々ですけどね」
「ていうか、よくわかんないけど二人乗りって大変じゃないの?私シェド様の方に行った方が良かったんじゃ…」
「この馬たちもさんざん戦場と村を行ったり来たりしていて疲れてるみたいなんですよ。せいぜい三十分ほどの距離ですが負担を軽くしたいんです。そうなれば体重の軽い私たちが二人乗りした方がまだマシです」
「なるほど…」
そう言うエレーナの手綱さばきは危なげない。
とはいえ私は初めての乗馬で気を抜けばずり落ちそうな恐怖に身を固くしていた。
村を抜けた頃、エレーナが苦笑して私に囁く。
「アカネ様、ちゃんと支えてますから大丈夫ですよ」
「いや、エレーナの細腕で私が転げ落ちていくのを支えるのは無理でしょ…」
「えー、さっき私が引っ張り上げたの見てなかったんですかぁ?」
「そうだけど…」
準備したうえで馬上に引っ張り上げるのと、咄嗟に転げ落ちるのを支えるのはまた別だろうし。
何よりちょいちょいお尻が浮く恐怖心は『大丈夫』と言われてどうにかなるもんでもない。
『大丈夫なのになぁ』というエレーナの言葉通り、一応私がずり落ちることはなく戦場に到着した。
異臭が強くなり、何かがぶつかり合うような音、怒号がどんどん近くなる。
人々の群れと、それを押し破らんばかりにぶつかってくる魔物たちの姿が見えた。
まばらな篝火しかない戦場は、幸いにも月明かりがあるおかげでそれなりに明るかった。
「わっ」
空から大きな影がこちらに飛来する。
すかさずどこからか放たれた矢がいくつも刺さり、影の主が私達の真横に降ってきた。
その間も馬は走り続けていたからよく見えなかったけれど、翼のある魔物だったようだ。
…ああ、本当にここ戦場なんだな。
当たり前のことを今になって実感する。
そんな中で物おじせずに馬を駆るエレーナの精神力ってどうなってんの…
本当にメイド?
「シェディオン様!こちらに!」
兵士の一人が私たちのところに駆け寄ってきて、ひとまずの安全地帯へ案内してくれる。
馬を他の人に任せて仮設テントのような場所に入ると、中には二人の男性がいた。
一人はいかついいかにもベテラン冒険者って感じの壮年男性。
もう一人は騎士服を着こんだ、老齢の男性だ。
「シェディオン様、お怪我が治られたというのは本当だったようですな」
「ああ、長期間にわたり現場を任せてすまなかった、ローウェル」
「いいえ、しかし相当の治癒術士でも治せないお怪我だったはず。一体どんな奇跡が起きたのですかな?まさか噂のように本当に妹君への愛ゆえというわけでもありますまい」
「…さてな、俺にもわからん」
「ふむ、その奇跡がこの地でも起きてくれたらいいんですがな」
おじいちゃん騎士の名前はローウェルというらしい。
気難しそうな容貌をしているけれど、シェドを見る目に安堵があった。
怪我を案じてくれていたんだろう。
だけどその奇跡をこの地でも起こすのは難しい。
リードの力なら不可能じゃないんだけど、その代わり魔王が顕現するかもしれない。
私が魔力を流し続けていたって、絶対大丈夫とも限らないし…
もし魔王に本格覚醒しちゃったら、魔力泉どころじゃない災厄になってしまう。
シェドとローウェルのやり取りが終わるのを待ってから、壮年冒険者が口を開いた。
「旦那、こちらは?」
「ああ、まず紹介が必要だったな。こちらは援護に来てくれた魔術師だ。素性には触れないでほしい。後ろに控えているのはうちのメイドだ。魔術師殿の世話役としてつけてある」
「ふむ、世話役をつけるほどの魔術師殿とは…」
いかつい壮年男性が興味深そうに私を眺める。
さりげなくローブを目深に被りなおした。
その様子をどこかハラハラしたような目で見ながら、シェドが紹介を続ける。
「魔術師殿、ローウェルはカッセード騎士団の騎士団長だ。騎士や領兵の指揮を執っている。そしてこちらがスヴェン。A級冒険者で、冒険者たちをまとめてくれている」
「…よろしく」
マリーを真似て言葉少なに返した。
おじいちゃん騎士がローウェルで、いかつい冒険者がスヴェンさん、と。
ローウェルは見覚えがある。
私がカッセードに居た時から仕えてくれている人だったはずだ。
ローウェルはシェドの言葉通り私の素性を詮索することなく、頷いて受け入れただけ。
なんだけど…スヴェンさんはじぃっと目をこらすようにこちらを見てくる。
…やばいやばい、ベテラン冒険者だとマリーを見たことがあるかもしれない。
最悪マリーってバレるのは仕方ないにしても、あんまりマリーのことを知っている人だとマリーの偽物ってことまで見破られる可能性がある。
しかしシェドが窘めるように咳ばらいをして、スヴェンさんは視線をそらした。
『まさかな』なんて呟きが聞こえてくるけど、もしかして既にマリーかもとは思われてるんだろうか。
「そんで、そちらの魔術師さんはどこまでの魔術なら使えるんだ?」
「彼女は大規模な魔術を得意としている」
スヴェンさんの問いかけにシェドが答えた。
大規模な魔術が得意っていうか細かい操作が苦手っていうか。
「そうか。そんじゃ後方から援護を?」
「ああ、彼女に近接戦闘力は無い」
「なるほど。今は大物が前の方に出てきておりますので、そちらを削ってもらえるとありがたいですな」
「っ、あの…」
あんまり口を開きたくないけど、話がまとまりそうになっているので慌てて言葉を挟んだ。
三人の視線がこちらに集中して縮こまりそうになるものの、これだけは言っておかないと。
「味方が密集している場所だと誤爆が怖い…です。できれば開けた場所に行きたいんですが…」
前方にいる味方に当てないようにして後ろの魔物にだけ当てると言うのは難しい。
私の制御能力だと同士討ちの恐れがある。
「ふむ?しかし見晴らしの良い高台に行くと魔物から一斉攻撃を受けますぞ。飛行型の魔物や、魔術を扱う魔物も少なくありませんので」
「そんなら前線に出てもらうしかねーな」
「っそれは危険すぎる!」
「何言ってんだ旦那、戦場に来て危険も何もねーだろ」
訝しげな顔をするスヴェンさんの言葉はもっともだ。
私はその為にここに来た。
怖くないわけじゃない。
だけど…前線にはリードやアドルフ様達もいる。
私だけ安全をとるわけにもいかない。
「でもまぁ大丈夫だ。少し前から一部の魔物の動きが鈍くなりだしやがった。俺らが援護すりゃ魔術師さんが被弾する可能性は低い」
「動きが鈍く?本当か?」
「長期間交戦している魔物もおりますからな。あちらにも疲労がでてきているのでしょう」
三人はそう納得しているけれど、私だけ察しがついた。
たぶんリードのおかげだ。
魔王の能力で魔物の性質を変えてくれているんだろう。
これは魔力を使うものじゃないらしいから、私が居なくても操作できる。
とはいえ性質を変えるには魔物に触れる必要があるし、直接の動きまでコントロールできる魔物の数には上限がある。
自分が襲われないとはいえ、これだけの兵達全てを守るのは難しいはずだ。
状況は楽観視できるものじゃない。
「そんで、魔術師さんはいつ頃出れる?」
「…すぐにでも」
正直、恐怖感と同じくらい焦燥感が強い。
リードは、アドルフ様は、他のみんなは無事なのか。
私が一秒でも早く魔術を打てばそれだけ助かる人も増えるのではと思うと、居てもたってもいられないんだ。
「いい返事だ。よし、旦那。すぐに出撃命令を出してくれ」
シェドは歯噛みしていたけれど、大きく溜息をついて頷いた。
「分かった。魔術師殿、決して俺たちの側を離れないでくれ」
「はい」
力強く頷いて返すと、ローウェルさんにこの場を任せてスヴェンさんとシェドがテントを出た。
私は駆け足でその後を追いかける。
さぁ、いよいよ初陣だ!
戦闘シーンに入っていきますが、戦闘が長引くの好きではないので、数話で終わると思います。




