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魔王の隣で勇者を想う  作者: 遠山京
第四章 令嬢と王都

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68/224

068君の色は

リードは少し考えたあと、デスクにあるメモ帳を手に取って何か書き込んだ。



「ミス・グレイ。これらを用意できますか?」


「…これはアトリエにある。こっちもたぶん冒険者ギルドに言えばすぐ手に入るでしょうね。でも…無理よ、間に合わないわ…」



メモを見て、ミス・グレイが首を振る。



「大丈夫、僕が間に合わせます。僕を信じてください、レディ」



リードはミス・グレイを口説きたいんだろうか…

至近距離で目をまっすぐ見つめた男らしい宣言は、効果抜群だったようだ。



「…もう、いい男ってずるいわね。わかった、信じたわよ!」



頬を赤らめて陥落した彼女は足早に部屋を出て行く。

その背中を見送りながら、首を傾げた。



「どうするの?」


「今から染める」


「今から!?」



染色に詳しくないけど、そういうのって半日とかでできちゃうもの?

あ、だからミス・グレイは間に合わないって…



「も、もう十時だよ?リード」


「分かってる」


「…十七時にはアドルフ様がお迎えに来ちゃうんだけど…」



スタートは十八時半だ。

少なくともその時間までにはベルブルク邸に行かないと。



「分かってるってば。僕だって十七時にはここを出ないといけない。アンナ嬢を迎えに行くんだから」


「あ、そっか」



そうだ、リードが今日エスコートするのはアンナ。

…なんか変な感じするな。

落ち着かないのは…なんかこう、身内のデートを目撃するような感覚だからだろうか。

いや、別にアンナとリードは付き合ってないんだけど。

変にそわそわする私をよそに、リードはティナとエレーナに指示を出して着々と準備を進めていく。



「作業はこの棟の洗濯場を借りてやる。エレーナは予定通りアカネの準備の手伝いを。ティナは急いで宝石商を呼んできてほしい」


「え、宝石商?」



もしかして、アクセサリーも変えるってこと?

アドルフ様から贈られたドレス一式にはアクセサリーも含まれているけれど、どれも白いドレスに合うよう選ばれたもの。

色を染めればアクセサリーも変わるのはわかるっちゃわかるけど…



「も、勿体ないからそれはいいって」



高校生が雑貨屋で買うようなアクセサリーとは文字通り桁が違う。

そんな気軽に買い足すもんじゃない。

けれど私の制止など誰一人聞いていないようで、ティナは頷くと急いで部屋を飛び出していき、エレーナは私の腕をつかんだ。



「さ、アカネ様。ここはリード様に任せて準備しますよ」


「え、エレーナ…」



そうしてベッドルームへマッサージに連れて行かれ、そのままいつも通りの準備に入った私。

十四時を過ぎた頃、洗濯場に来るようリードから呼び出された。

適当なワンピースに着替えて、エレーナを連れて洗濯場へ行く。



「お待たせしましたー」



洗濯場で待っていたのはリードとレディ・グレイ。

貸し切っているのか他の人の姿は見られない。

二人の前に置かれた大きな網の上では、赤く染まった布が干されている。



「あ、グローブとコサージュ?」



布の正体はその二つだった。

なるほど、ポイントだけ色を変えるのか。

流石にドレス全体の染色は大変だもんね。



「そう。これを今から魔術で乾かす」


「…ああ、なるほど」


「ヴィンリード様はそうおっしゃるんだけど、着衣に耐えられるほど乾かすには大分かかるわよ。風魔術なんかでやると形が崩れちゃうだろうし…」



ミス・グレイは困ったようにそう言う。

そりゃそうだよね、既に十四時回ってるし。

私も最後に湯あみしてヘアメイクしてってしないといけないから、十五時くらいには戻らないと…

四十分くらいしかないな…



「アカネにも協力してもらえば大丈夫です」


「あら、お二人でやるのね?アカネ様も魔術を使えるの。すごいわ。アタシは使えないのよねぇ」


「あ、あはは…」



この繊細なコサージュやレース編みを崩さずに乾かすなんて芸当、私にできるわけない。

実際やるのはリードだろう。

私はリードが魔王化しないように魔力を流す役目だ。

でも実際、風魔術は攻撃に使用するのが基本だから繊細な操作は難しい。

普通にやろうとすればグローブとコサージュはボロボロに刻まれるだろう。

私はリードなら何か考えがあるんだろうと信じられる。

だけどリードの非常識さを知らないミス・グレイは、半ばあきらめモードでしたいようにさせているようだ。



「ではミス・グレイ。この場は僕とアカネに任せて、ティナのところへお願いします」


「わかったわ。この色に合うようなアクセサリーを選んでくるわね」



あ、そっか。

ティナに宝石商呼んでもらうって話だったな。

ミス・グレイを追い払い、リードはさらにエレーナにも視線を向ける。



「エレーナ。これが終わったら僕もすぐに着替えないといけない。準備をしておいてくれないか?」


「ええーっこの場を離れろってことですか?二人きりになった途端イチャイチャとかしないです?見届けられないなんて嫌ですよぉ」


「あのねぇ、そんな状況じゃないでしょ!」



時間的にはかなりカツカツだ。

いちゃつくわけがないし、そんなワガママを聞いている余裕もない。

それが分かっているらしいエレーナは、一言叱るとぶつくさ言いつつも出て行った。

やれやれ、これで人の目がなくなった。



「…じゃ、いくぞ」


「うん」



リードが差し出した手を取り、魔力を流す。

筋張った手。

初めて出会ったあの日から半年くらいしか経っていないのに、なんだか大きくなってる気がする。

男の子は急に成長するもんなぁ…



「…アカネ、集中したいからそれやめろ」


「あ、ごめん」



無意識に指で手の甲を撫で続けていたらしい。

魔術を使おうとしていたリードが呻いた。



「…お前、アドルフにそれすんなよ?」



もう片方の手をグローブにかざしながら、リードが冷え切った声でそう呟く。



「しないよ」



アドルフ様に対して成長を感じることとか無いし。

リードが魔術を行使するとすぐ、グローブから絞り出されるように水滴が浮かび上がってきた。

ん?これって本当に風魔術?

けれど尋ねようとした声は、リードの『どうだか』なんて冷たい言葉が聞こえてきたために引っ込んだ。

どうだか?

どうだかって…



「それ、どういう意味?しないって言ってるじゃん」


「お前は無意識にそういうことホイホイするだろ。だから勘違いする奴が増えるんだよ」


「気を持たせるようなことしてるっていうの?してないよ!」


「現にさっき俺にしてただろ」


「それはリードだからでしょ!」


「……」



ん、あれ、なんか今のおかしかった?

いや、ほら…リードなら大丈夫っていう…いや、キスとかされといて何言ってんだって言われたらそうなんだけど。

他の人に対してはできる線引きを、リードにはできてない?

言葉を継げなくなった私と同じく、リードもグローブを見つめたまま難しい顔で黙っている。

傍から見れば魔術に集中しているようだけど、たまに何か言いたげに唇を開いては閉じていた。



「…今日、絶対釘さしとけよ」


「釘?」



ようやく言葉を紡いだリードは、さっきの話を無かったことにしたようだ。



「半年で関係解消するって。なんなら具体的な日付も決めとけ。本当なら念書の一つ書かせてもいいくらいだ」


「いや、念書は流石に…」



ちょっと失礼だろう。

うっかり人の目に触れたら大変なことになるし。



「分かってる。だから口頭でいいから、ちゃんと言っとけ」


「わ、わかった」



アドルフ様だって分かってる…と、思いたいけど…

現に真っ白なドレスが送られてきて、こうしてリードが苦労してくれているわけで。

無責任な『大丈夫だよ』は言えないな。


二分も立たずに水分が抜けたらしいグローブは、落ち着いた秋っぽい朱色になった。

続いてコサージュに手をかけるリードを見ながら、思わず感嘆の息をもらす。



「こんな風に乾かせるんだね。染色のことといい、リードがこういうの得意なの意外だなぁ」


「二代目魔王の知識だけどな」


「二代目魔王は染め物の職人だったの?」


「いや、小国の王だったんだけど、多趣味で研究者でもあった。そのうちの一つがこういう染色と、それに使えるような魔術の応用方法の研究。これは水魔術の応用で、対象に含まれる水分を操って抜き出してる」


「確か、私とリードみたいに魔力比が同じ人同士なら魔力を流しあっても大丈夫っていうの、その人の研究結果だったよね?」


「ああ、そういやそんな話もしたな」


「この水魔術といい、魔力比のことといい…そんな前から分かってたのに、今でも全然知られてないんだね」


「…彼の研究結果は全部、彼が魔王化した時に失われてる」


「…なるほど」



あんまり聞かない方がいい内容だったみたい。

魔王になるって結構絶望的なシチュエーションばっかりらしいしね…

もしくは自分で破壊しちゃったか…

やめやめ、考えると暗くなる。

たちまち水分が抜けていくコサージュに視線を戻し、ため息をついた。



「綺麗な色だね」



コサージュの鑑賞に戻って、素直な感想を告げる。

するとリードは何故か面白そうに含み笑いをこぼした。



「お前の色だろ」


「え?」


「茜っていう植物で染めてるんだぞ、これ」



目を瞬かせた。



「え、茜って…植物なの?」


「知らなかったのか?染色としては有名な部類だと思ってたけどな。根が染料になるから、赤い根でアカネって言うんだぞ」



染色知識が一般的じゃない現代日本人なので…



「茜色って…そういうことだったんだ」


「今更かよ」



というかこの世界って言葉が基本的に日本語なのに、文化は洋風ファンタジーだからなぁ。

何が通じて何が通じないのかよくわからない。



「だからこの色にしてくれたの?」


「それもある」


「それも?」



コサージュも乾いたらしく、魔術の手を止めたリードはニヤリと笑った。



「パートナーの瞳の色に合わせたものを身に着けるのが今の流行りらしい。デザインコンセプトとしての面目が立つだろ?」


「なるほど」



なんかリードの提案としては…意外な理由だな。

アドルフ様の瞳の色はリードと同じ赤だ。

とはいってもリードが鮮血のようにビビッドな赤なのに対し、アドルフ様の瞳は落ち着いた朱に近い色。

まさに今グローブやコサージュが染まったのと同じ色合いだった。



「ま、茜を使った色のバリエーションは意外と幅広いから、茜色イコールこの色ってわけじゃねーけどな」


「あ、そうなの?」


「オレンジよりの色も出せるし、特殊な方法を使えばもっと濃い色も出せる。今回はアドルフの瞳にこじつける為にこの色にしたけど」


「ふーん」



こじつけるっていう言い回しが本音っぽいな。

アドルフ様の瞳の色と同じものを身に着けるって…リードから言い出すことじゃなさそうだもんなぁ…

リードはアドルフ様のこと気に入らないっぽいし。

どういう風の吹き回しでこんな演出をする気になったんだろうか。


その後、乾いたグローブとコサージュを持って自室に戻ると、まだアクセサリーを選んでいる段階だった。

まあ、あれから十五分くらいしか経ってないもんね。

『え、もう乾いたの?早すぎない!?あなた達何者よ!?』なんて狼狽するミス・グレイの声は右から左だった。

テーブルの上に広げられた宝石の数々が物凄かったからだ。

お値段聞いたらもっと凄かった。

いらない、そんなのいらない。


『大丈夫、もとのアクセサリーと交換する形だから、代金はうちが持つわよ』なんていうミス・グレイの声は逆効果だった。

それって結局はアドルフ様から買ってもらったってことになるじゃん、もうやめて。

半泣きの私を他所にティナとミス・グレイは赤系統のアクセサリーを選んでいき、私の目玉が飛び出すお金が動いたものの…ともかくドレス問題は解決した。


リードは大急ぎで自分の準備に移り、私も仕上げに入る。

最後にドレスの直しをしてくれながら、ミス・グレイがぼんやりと呟いた。



「ねえアカネ様、ヴィンリード様って何者なのかしら?」


「え?」


「彼がメアステラ家の出で、いろいろあったのは知ってるんだけど…染色についてアタシより詳しかったのよね」



リード…また過去の魔王知識を出したせいで不審がられてる…

私の為にしてくれたとはいえ、ちょっと迂闊だったんじゃ?と心配になった。



「オネエ様よりも詳しかったんですか?茜のこととか?」


「さすがにアタシも茜染めくらいわかるわよ。でも地獄蝶(アビスモルフォ)の鱗粉を使うと色持ちがいいなんて聞いたことが無いの。まあ、もしかしたらどこかの地域の迷信かもしれないけどね」



地獄蝶って言ったら魔物の一種だ。

あれの鱗粉も使われてるのか。

たぶん二代目魔王の知識ってやつなんだろうな。



「でもまあそういう知識を持ってるとかってどうでもいいのよ」



いいんかい。



「どこでその知識をつけたのか聞き出そうとしたら、彼何て言ったと思う!?アタシの手を取って、唇にその手を当てて!『秘密です』って上目遣いで微笑まれたのよ!何あれ!何者!?」


「…そこかーい」



思わず素の突っ込みが出た。

奴の"妖艶な俺ごっこ"は健在だ。

健在だけど…私以外にやるのは珍しい。

でも確かに今日はミス・グレイに会ってからずっとそんな態度だな。

口説いているのかと思うほど。



「…もしかして、オネエ様がタイプなんでしょうか」



まさかすぎるけど。

いや、でも今までこんなこと無かったし…

ミス・グレイって声低いし確実に男だけど、顔は綺麗だし言動も女性的だもん。

絶対無いなんて言えない。


けれど、ミス・グレイは変な顔をしてティナとエレーナの方を振り返り、メイド二人はそろって首を振った。

それを見たミス・グレイまで大きなため息をつき、首を振る。



「な、なんです?」


「何でもないわ…そうね、アタシって魅力的すぎるものね。ハイハイ」


「雑!」



声も高くするのを諦めた、完全地声の男性ボイスだった。

ミス・グレイは『無い、無い』って思ってるみたいだ。

そんなじゃれあいをしながら準備を進めていると、気付けばもうお迎えが来る時間。



「あ、リード!」


「ああ」



廊下に出たところで、ちょうどリードと出くわした。

この前と同じ礼服。

同じなんだけど、やっぱりこういうカッチリした服が似合うなぁ。

貴公子感がハンパない。

珍しく、銀細工にダイヤのピアスなんていう小洒落たものまでつけている。

そういうのに負けない顔立ちうらやましい…

まじまじ眺める私を、逆にまじまじと眺め返すリード。



「…何?変?」



グローブとか染めてくれたものの、そういえば全体像は確認してなかった気がするな。

なんかイメージと違っただろうか。

けれどその言葉に視線を戻したリードは、挑発的に鼻を鳴らした。



「いや、いいんじゃない?まあただ、食べ過ぎないように」


「…うるさいわね。だから今日はスムージーしか飲んでないわよ」



このドレスは体のラインが出る。

私は太っている方じゃないけど華奢なわけでもない。

だから今回は気にしてお昼を食べていない。

食べると結構お腹ポッコリしやすいタイプなんだよね、私。

普通に褒めるでもなく嫌味を混ぜ込んでくるリードに唇を尖らせつつ反論したけれど、その回答はお気に召さなかったようだ。



「…それは、どうなんだ?持つわけ?」


「お腹鳴りそうになったらこっそりお腹パンチして止めるから大丈夫」


「いや、そうじゃなくて…」



『豪快すぎんだろ』というリードの返答を無視して廊下を歩く。

棟を出るところまでは一緒だ。

そこからリードはお父様に手配してもらった馬車に乗ってアンナを迎えに行く。

私はアドルフ様が迎えに来てくれる。

…今日は別行動か。



「アンナによろしくね。アンナは繊細なんだから失礼なこと言ったり、乱暴に扱ったりしちゃダメだからね?」


「分かってるよ。アカネこそ、アドルフ様の前ではもうちょっとしっかり猫かぶっといた方がいいんじゃないの?」


「今まさに猫はがれかけてる人に言われたくないわ」



お城の人や他の貴族が周りにいないとはいえ、ティナやエレーナは私たちの後ろをついて歩いている。

最近のリードはティナとエレーナの前でも猫かぶりを忘れる節があった。

口調こそ取り繕ってるんだけど、本音が駄々洩れてる。

もはや二人は慣れているので何も反応しない。

お父様たちやシェド、お客様の前ではまだうまくやってるんだけどね…


門にたどり着く頃には周囲に人が増え始め、私達も言い合いをやめる。

思ったより多くの馬車がとまっていた。

この城に滞在中の貴族で、舞踏会に行く人たちもそれなりにいるんだから当然か。

一番門の近くに止まっているひと際高級そうな馬車がベルブルク家のものだろう。

冠を被った獅子の紋章が掲げられている。

紋章に冠を描けるのは王家と公爵家だけだったはず。



「アカネ嬢」



声をかけられた方を向くと、アドルフ様が立っていた。

今日は濃茶のネクタイをしている。

男性は女性を引き立てるためなのか暗い色合いの礼服ばっかりだから、タイで個性を出す。

濃茶みたいな地味な色は本来避けられるって聞くけど、ベロア調で光を弾く素材だから思ったより印象は明るい。

アドルフ様はお洒落な人らしいし、いろいろ持ってるんだろう。

ネクタイリングも高そうなのつけてるし。



「こんばんは、お迎え有難うございます」



そう言って歩み寄るものの、アドルフ様はぼんやり口を開けたまま固まっていて反応がない。



「…アドルフ様?」


「あ、ああすまない。そのドレスは…いいな、よく似合っている」


「ありがとうございます」



自分が贈ったドレスだ。

出来栄えが気になっていたんだろう。



「この色は、アドルフ様の瞳の色に合わせてもらってあるんですよ」



せっかくリードとミス・グレイが仕込んでくれたポイントだ。

きちんとアピールしておこうと思ってそう言ってみたら、アドルフ様は一気に顔を赤らめた。



「…そうか。俺のタイもアカネ嬢の瞳の色に合わせた」


「あ、そうなんですか?」



なるほど、だからその色なのね。

それにしてもリードのチョイスは正解だったようだ。

お互いの色を付けるなんていう流行にアドルフ様も乗っかって来るとは。

意外と乙女なのね。



「アカネ」



アドルフ様の手をとり、馬車に乗り込もうとする私を呼び止めたのはリードの声。



「え?」


「…糸がついてる」



後ろから抱き込むような体制で伸ばされた手が、撫でるように私の首に触れる。

鎖骨から首筋にかけてなぞるような動きに、体がびくりと震えた。

頬が熱くなって睨みそうになるけれど、ふとリードの意図に気付く。

もしかして、ネックレスに触れたかった?

今日はいつもの髪飾りをつけてないから…代わりにこれを魔物化したのかな?



「ありがとうございます、リード様」



そう判断してお礼を言ったけれど、ざわめきに気付いてハッと我に返る。

周囲からはきっと…後ろから抱きしめていちゃついてるようにも見えたんだろう。

義理の兄妹としてはちょっと近すぎる距離だ。

おそるおそる見上げたアドルフ様は、険しい顔で私の後ろのリードを睨んでいた。

そしてまたおそるおそる視線をリードの方に戻すと…



「アドルフ様、うちのアカネをよろしくお願いします」



去り際に流し目で妖艶な笑みを浮かべて、魔王様は立ち去って行った。

とっとと自分の馬車に乗り込む後姿を見つめて呆然。



「…言われずとも」



すでに聞こえていないであろう返答をこぼし、アドルフ様が私の腰を抱いた。

何、今のってもしかして、ただのアドルフ様への嫌がらせ?

早くも衆目にさらされて馬車に乗り込む羽目になった私はガチガチだった

いや、もしかしてこれは…私への嫌がらせか!?

馬車の中の気まずい空気に耐えつつ、私は頭を掻きむしりたくなる衝動を必死にこらえた。

みなさまいつもご覧いただきありがとうございます。

お気付きかもしれませんが、毎週火、金更新を目標にすることにしました。

前まではマイペースに更新してたんですが、じわじわブックマークや評価が増えてきて、読んでくださる方がいることを強く意識しだしまして…

これまでのペースだと完結に何年かかるか分からないことに気付きました…

というわけで今後も頑張って更新してまいりますので、よろしくお願いいたします。



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