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魔王の隣で勇者を想う  作者: 遠山京
第四章 令嬢と王都

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066少しだけ変わったのは

湧き出した雲に月が隠れ、宵闇に沈むベッドの上。

私は…



「ね、眠れない…」



意味のない寝返りを何度も打ちながら、悶々とした時間をすごしていた。

時計の針はとっくに頂点を過ぎている。

頑張って目を閉じるも、すぐにさっきの光景がフラッシュバックしてきて目を開ける羽目になってしまう。


薄明りの中、間近に映るリードの顔。

からかうような笑みでも浮かべてくれていればいつもみたいに怒れたのに。

なんであんな真剣な顔してたんだ。


そして去り際に囁かれた、抑揚のない『おやすみ』の声。

それを思い出すだけで眠れなくなる。

なんという皮肉。



「もー…」



クライブさんからのプロポーズや、アドルフ様からさりげなく寄せられる好意なら、速足で逃げるように躱せるのに。

いやだってリードは何だかんだずっと一緒に行動してるから、付き合いはかなり長いし。

お互いの秘密を知り合ってるし。

そんな相手と初対面の人を比べる方がおかしい。


だからこそ…

どうしてキスなんかしたのか分からなくなるんだ。


体をがばっと起こし、枕元に置いたままだった髪飾りを手に取る。

モチーフの鳥が目をパチクリさせて私を見上げてきた。

ティナ達が居ないときにはこの子も動く。

バレッタに固定された範囲内で、だけど。

体長にして四、五センチくらいの小さな小鳥。

名前はヒナちゃん。

命名私。

もちろんこの子が小さいのは雛だからではなく髪飾りだからなので、今後成長することはたぶん無い。


この子の役割は、私とリードの声をつなぐこと。

そしてピンチの時には私を守ること。

なんだけど…リードの悪戯からは守ってくれなかったな…

まあそりゃそうか。

この子にとっての主人はリードの方だろうし。



「ヒナちゃん、リード呼んで」



呼びかけられた小鳥は頷くようなしぐさを見せて目を閉じる。

待つこと数秒。



『…んー…なんだよ』



眠そうな声が聞こえてきた。

こ、こいつ…

私がこんなに眠れなくて困ってるのに、自分は暢気に寝てたのか。



「なんだよ?なんだよはこっちのセリフなんだけど!?」


『夜中に元気だな、お前は』


「ええ、ええ!なんせ寝れてませんからね!」


『…ふーん、なんで?』



何を飄々と…!



「そりゃあんたが…!」


『……』


「……」



自分が何を言おうとしていたか気付き、快調に回っていた舌が止まった。

謎のキスをされ、あまつさえそれで動揺して眠れないなんてことまで打ち明けて自らを辱める必要はあるまい。

そう分かっているらしい魔王の、楽し気な声が聞こえる。



『俺が、なに?』


「あ、あんたがっ…最大の謎を残していくからでしょ!」



開き直って怒鳴りつける。



『…謎?』


「そう!理由不明の行為!そこらの女の子にやったらセクハラなんだからね!一体何の作戦でどういう意図があってき、き、キスなんかしたのよ!」


『……お前…』



ぽつりとこぼされた言葉の後、絶句したような間があった。



「な、なに」


『…で、言いたいことそんだけ?』


「そ、そんだけって…理由の説明を求めます!」


『……』



心臓がバクバク言っている。

自分から声をかけておいてなんだけど、後悔が胸に去来した。

だって私は、なんて答えてもらえば満足なのか自分でもよくわかっていないのに。

そしてたっぷりの間を取った後、寄こされたのは。



『お前頭固いの?』



謎の罵倒。



「は?」


『そんなことでこんな時間に連絡してくんなよ。とっとと寝ろ』


「はあああ!?」



人の、ファーストキスを奪っておいて。

この言い草。

今すぐベオトラ呼んできてこの魔王討伐してもらおうかな。

そんな私の怒りが届いたのか、リードは溜息をついて言葉を改めた。



『…あのな、ちょっとは自分で考えれば?』


「…考えて、わかんなかったから聞いてるんでしょ」


『お前は何て答えてほしかったんだよ』


「……」



いや、それを言われると。

リードの声を届けてくれている小鳥をじっと見つめる。

…気になっていること、そのまま聞いてもいいんだろうか。



「…ファリオンだけ見てろって言ったでしょ」


『…言ったっけ』


「言った!言ったのに…なんで…」



リードが大嫌いなはずのファリオン。

そんな彼のことだけを見ていろと言った。

それなのにその直後、私の唇を奪ったのはリードだった。



『そんなに嫌だったのかよ?』


「え?」



問われた内容を脳内でゆっくり咀嚼して…こてん、と首が傾いた。

私『何でキスされたんだろう』ってことでは悩んでたし、思い出すだけで恥ずかしくて身もだえてたけど…

あれ、私…ショック、受けてないな。

その事実に衝撃を受けた。



「リード…私…」


『な、なんだよ…』


「…軽い女なのかな」


『…あ?』



ファリオン一筋だとあれだけ言っていたのに。

リードにキスされて嫌じゃないなんて…



「私は浮気者だぁ…」


『なんでお前の思考そっちに行くんだよ…』



姿は見えないのに、リードがぐったりしている姿が見えるようだった。



『恋人でもなければ会ったことすらない男に操立てんな』


「うるさいわね」


『つーかマジで早く寝ろよ。明日はアンナ嬢に話しに行くんだろ?』


「あ、そうだった」


『しばらく舞踏会とか出てなかったんだからドレスとか準備大変だろうし、手伝ってやれよ』


「そうだね、かなり急な話だし…」



問い詰めていたはずなのに。

あんなにドキドキしていたはずなのに。

何故だかいつも通りの声で言葉を交わしている。

それが何だかもどかしいようで、少し安心するような。

向こう側でリードもほっとしているように感じたのは、私の気のせいなんだろうか。

結局全てをうやむやにして、会話は終わる。

最後に交わした言葉。



『おやすみ』



その言葉がまた私の体に熱を持たせるけれど、どこか優しい声で囁かれたそれに安堵して、私は間もなく眠りに落ちた。




==========




「わ、わたくしを、ヴィンリード様が!?」



アンナの大きな声は初めて聞いた。

翌朝、エレーナを使いに出してアンナのアポをとりつけ、了承を得てすぐ会いに行った。

そして昨夜立てた計画を説明したんだけど、舞踏会に出るという事実よりリードのエスコートに過剰反応を起こしている。



「わ、わたくしでは見劣りしますわ!」


「昨日そのヴィンリード様にエスコートされた私に向かってよく言うね、アンナ」


「?アカネ様は問題ありませんでしょう?」



アンナの目には私もリード並の美形に見えているのか、もしくは兄妹だからそこは気にしなくて良いんじゃないって意味なのか。

…後者かな、やっぱり…



「アンナ、舞踏会に参加するのは嫌?」


「…そうですわね…やはり良い目で見られはしないであろうことは気がかりですわ。私が出ても醜聞を広めるだけで家の為にならない。だからお兄様も私を連れて社交の場に出ることは避けていらっしゃったのだと思いますし…」



アンナは悲し気に微笑んだ。



「でも、少しだけ安心いたしましたわ」


「安心?」


「アカネ様はこの件について何もおっしゃらなかったでしょう?気を遣ってくださっているのかと思っていたのですけれど、本当にご存じないようでしたから…もしアカネ様がお知りになったら、わたくしのことをどう思われるかしら、と心配していましたの」



その言葉に目を丸くする。

そうだった。

私はつい一昨日まで、アンナの置かれている状態を知らなかった。

でもアンナからしたら…

もしかしたら私が知らない振りをいて、からかうつもりで近づいてきたのかと疑ってもおかしくないのに。

けれどアンナは初めから私には好意的に接してくれた。

そのうえ、むしろ私に嫌われないかを心配していたのだ。

ほっとしたように微笑むアンナの笑顔がいじらしくて、思わず席を立ちあがってアンナを抱きしめた。



「きゃっ、あ、アカネ様!?」


「アンナは悪くない!なんにも悪くないの!アドルフ様だってそう言ってたもん!」



顔を覗き込んだアンナは、目を丸くして私の言葉を聞いている。



「…アドルフ様が?」


「うん、アンナに非は無いって!」



その言葉に…アンナは何故か悲しげに目を伏せた。



「…そう、でしたの…」


「アンナ自身はアドルフ様にそうやって言われたことないの?」


「…いいえ。婚約解消にあたってご説明をいただくべくお屋敷にうかがったことがありますの。その時、ベルブルク公爵様やアドルフ様とお兄様の会談の場には同席させていただけませんでしたけれど…帰る前にアドルフ様が挨拶に来てくださって、私が悪いわけではないと言ってくださいましたわ。アドルフ様はお優しい方ですから、気を遣ってくださっただけだと…」


「そんな感じじゃなかったよ。本当にアンナは悪くないのに、こんな状況になってるのが申し訳ないって感じで」


「…そうですわね。アカネ様にもそうお伝えになられたということはそうなのでしょう。だとすれば…」



だとすれば、の後何を言おうとしたんだろうか。

アンナは桜色の小さな唇を引き結び、目を伏せたまま数秒思案した後、決然とした表情で顔を上げた。



「アカネ様。さきほどのご提案、こちらからお願いしてもよろしいでしょうか?」


「えっ…も、もちろん!」


「そうと決まれば準備を急がないといけませんわね。ヴィンリード様に恥をかかせるわけには参りませんもの。隣に立つに恥じないドレスを用意いたしませんと!」



リードはあくまでエスコート役であり、メインイベントはアドルフ様と踊ってる姿をみんなに見せることなんだけど…

アンナの中の比重が"リード>>アドルフ様"っぽいのは気のせいだろうか。

何にせよ、アンナがやる気になってくれて良かった。

なんだか深刻な覚悟を決めているようにも見えるけど…アドルフ様ならうまくやってくれると思うけどなぁ。


その後、仕立て屋さんの手配やデザインを決めるのに私も手を貸し、二、三日はバタバタと過ごしていた。

お茶会の参加も挟みつつだったから本当に忙しかった。

そして後はプロの手にお任せするばかりとなった頃、私もようやく落ち着き…



「ああ…やっと社交界から抜け出せた…」



勉強を理由にお休みを作り、図書館へやって来ていた。

街に出てきたのは前回と同じメンバーだ。

エレーナは、『どうせアカネ様たちはまた遅くなるんですから、私はちょっとお茶してきます!』とかメイド失格な内容を堂々と宣言し、気圧された私たちは一同『ア、ハイ』という言葉で見送った。

まあ、危険回避って点では護衛さえいればいいし、エレーナは実際待ってる間やることないしね。

たまには好きな事させてあげよう。



「今日は個室借りたから本格的に誰もいないとはいえ…令嬢がそれはどうなんだよ」



机の上に突っ伏す私を見て、リードが苦笑する。

…腹立つくらいいつも通りである。

あれからまともに話すのは初めてなのに。

だから私もいつも通りに接している。

私だけドギマギするなんて冗談じゃない。



「だって私、社交するために王都来たんじゃないもん」


「伯爵令嬢のセリフとは思えないな」


「あんたも伯爵令息らしいとは言えないでしょ」



『妹が心配なのでついていきます!』とかなんとか言って、どっかの貴族の誘いを断ってここに来てるの知ってるぞ。



「俺は妹想いなだけだ」


「どこが…」



妹想いのお兄ちゃんがキスなんかするか。

と、思わず言いそうになったけれど、藪をつついたら魔王が出る。

ぐっと堪えた。

私ってオトナ。



「で、今日は何調べに来たんだっけ?」


「んー、当初調べようと思ってたのは迷宮と魔王のことだったから、残るは魔王に関する知識なんだけど…」



でも、よく考えたらさ。



「魔王のことってリードが一番よく知ってるよね」


「まあな。でも一般的にどう思われてるのかは俺も興味あるし…何より、お前もそれを知っておかないと人前でいらんこと口走るだろ」


「え、たとえば?」


「俺から聞いた知識で、一般的には知られてない事をさも当たり前のように話しちまう可能性は?」


「…ある」



私の事、よくご存じで。

大人しく図書館の本で勉強することにした。

魔王に関することが簡単にまとめられている本を見つけて、年表のところを開く。

初めて魔王というものの存在が確認されたのは、ヴァール歴24年…迷宮が見つかって十年後の事。

つまりはまだ魔物への対処方法も確立されていない頃にその存在は現れ、魔物を活性化させていたっていうことになる。

迷宮が見つかったのが14年、そして初代魔王が討伐されたのが63年。

魔の五十年とは正確にはこの五十年間を指す。



「リードって初代魔王の記憶は無いんだよね?」


「ああ。さっぱりな」


「ってことは二代目魔王の時から初代の記憶は無かったって事?」


「さあな…そもそも歴代魔王の記憶があるっていっても、ぼんやりとしか思い出せないことも多いしな。何を知ってて何を知らないとかまでハッキリ分かるわけじゃねーよ」



ふむ、そうなると…もしかしたら単に魔王の魂自体、初代の記憶が薄れちゃってるだけの可能性もあるのか。

じゃあリードが知ってる二代目魔王…

その存在が確認されたのがヴァール歴245年か。



「初代と二代目の間って結構間があいてるよね。人間側が発見するのに時間がかかったのかな?」


「…いや、俺の記憶にある限りだと、魔王として完全覚醒してからわりとすぐに人間に見つかってる。それがたぶん245年ごろで合ってると思う」


「んー、そっか…」



じゃあ初代と二代目の間が二百年近く空いてるのは確かなんだな。



「で、二代目魔王がやっつけられてるのが261年…初代の時を思えば結構早めに撃退されてるけど、ちょっと時間かかってるね」


「まさか魔王がまた現れると思ってなくて戦闘技術が落ちてたんじゃないの?」


「あー…」



確かに、二百年も前に倒した魔王がまた現れるとは思わないよね…

まあそもそも聖剣でしか魔王は倒せないっていうけど、初代魔王を倒した勇者はもうとっくに亡くなってるだろうし。

魔王がいなくなって非活性になった魔物相手なら倒せるようになってても、活性化した魔物の対処とか、そもそもの魔王を倒せる人とかってなると…

そりゃ現れて一年以内にスピード解決!とはいかないか。



「で、三代目は295年に現れて…このあたりから急にペースアップしてるよね」


「三代目討伐が306年…これが英雄ベオトラの初討伐だな」


「うん。で、四代目が314年に現れて、二年後にベオトラに討伐されてるんだよね」



人間が忘れた頃に二代目の魔王がやって来て、『今度は忘れないように』とでも言わんばかりの頻度で三代目以降が現れるようになっている。

かなりスパンが短い。

人間の対応力が上がるに従い、魔王の出現頻度が上がっているみたいだ。

単に年々、魔王適性のある人が現れやすくなってるだけかな…

それはそれで世の中が病んでる感じがするけど。



「そもそもさ、魔王の魂って、その…どうやって近付いてくるの?」



きわどい質問の自覚はあった。

リードの暗い過去に触れることになるだろう問いだ。

だからこそ今まで避けていたんだけど、今なら聞ける。

それくらいで壊れる関係じゃないと言えるし、本当に話したくなければそう言ってくれるという安心感があるから。

リードはその赤い瞳にほの暗い影を落としつつも、口を開いてくれた。



「…そうだな。ほぼ全員が同じだ。絶望的な状況に陥っている時に、声がする」



声。

いつだったかの夢を思い出す。



「その声が問いかけるんだ。魔王の魂を受け入れるか、って。与えられた力を使って何をするかは自分次第だとか言うけど、まあこの状況で聞かれたらそりゃ悪魔の手だろうが魔王の手だろうが取るだろって感じのシチュエーションばっかだよ」



リードも、そんな状況だったって事か…

そして、ふと気付く。

あれ、リード、あのこと触れてないな。


いつだったかの夢。

もし、あれが本当だったなら、だけど…

魔王の魂は確か、こう言っていた。



『魂を受け入れるのと引き換えに叶う望みは一つだけ』



つまり、魔王の魂を受け入れるだけでなんでも一つ望みがかなう。

この望みを使って、ヴォルシュ伯爵は妻のアマーリエさんとファリオンを逃がした。

これってヴォルシュ伯爵の時だけだったんだろうか…

なんとなく全ての魔王に対して言ってそうなんだけど…

でももしそうだとしたら、何でリードはそれを言わなかったんだろう?

リードは一体何を願って…



「アカネ」



いつの間にかじぃっと見つめていたリードが、身を乗り出して顔を近付けてきていた。



「え、な、なに」



顔を逸らそうとするものの、椅子の背もたれに阻まれる。



「いや、ずっと俺の事見つめるから、物欲しいのかなーと」


「ば、バッカじゃないの!?」



そんなやり取りをしつつも、顔の距離が変わらない。

吐息がかかりそうな近さになって、いつかの夜がフラッシュバックする。

白い肌と真っ赤な瞳が視界いっぱいに広がって、柔らかな唇が…

思わずぎゅっと目を閉じた。



「……」


「……」



そのまま数秒。

あ、あれ、何も起きない。

おそるおそる目を開くと同時に、額に衝撃が走った。

デコピンされたと気づくより先に襲い来る痛み。

思わず額を押さえて声にならない叫びをあげる。



「お前馬鹿?」


「は、はぁ!?」


「嫌ならもうちょっと抵抗しろよ。こっちの引っ込みがつかなくなるだろ」



半眼で肩を竦める目の前の男を、信じられない気持ちで呆然と見つめた。



「…それとも、期待してたからあんな態度だったのか?」



意地悪く微笑まれて。

生まれて初めてこめかみが引くつく感覚を覚えた。



「…いい度胸だわ、リード。そうね、これは私が悪かった。これまで奴隷を甘やかしてきた主人の責任ってやつよね」


「ちょ、おい待てそれ下ろせ」



リードの顔から笑みが消えた。

その視線は、私が高々と持ち上げた椅子に固定されている。

立派な木製の椅子はなかなかの重量をしているはずなんだけど、怒りに満ちた私の腕は重さを忘れていた。



「歯を食いしばりなさい」


「それ歯を食いしばってどうにかなるもんじゃねーだろ!」



そんな言葉はお構いなしに、リードめがけて振りかぶるも…



「ここ王立図書館だぞ!調度品だって高級品だぞ!(多分)」



…そんな一言で頭に上っていた血が一気に地下まで下りていく心地になる私はやっぱり小市民です。

恭しくおろされた椅子を見て、リードは大きくため息をついていた。

溜息をつきたいのはこっちだわ。


そうしてやり過ごしたのは、リードの言葉を否定できなかった自分の気持ち。

そうして見過ごしたのは、目を開けた直後に見えたリードの顔色。

今までと同じじゃれあいがほんの少しだけ冗談じゃ済まなくなった私たちの関係の変化に見ないふりをしたまま。

アカネ・スターチス、初めて彼氏(仮)と舞踏会に行く日が目前に迫っています。

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