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魔王の隣で勇者を想う  作者: 遠山京
第四章 令嬢と王都

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059簡単すぎた答え合わせ

GW4日目!

連休長すぎーって方の暇つぶしや

普通に仕事や勉強だよって方の息抜きになっていれば幸いです。

<Side:ヴィンリード>



それは、王都へ向けてセルイラへ発つ日の事。

馬車に乗り込む直前、シェディオンに呼び止められた。



「なんですか?」


「…言おうか言うまいか悩んだんだが…」



俺にはわりとハキハキ説教をかますシェディオンが、珍しく言葉尻を迷わせている。

何事かと目を見開いた。



「お前にも関係のある話だろう。俺たちは恋敵ではあるが、一人だけ共通の敵がいる。そこにおいて情報を隠し立てするのはフェアではない気がして…アカネの身に危険が及ばないとも限らんしな…」



何の話かはわからんが、色恋のことだということだけはよく分かった。

この人まだ俺がアカネを狙ってると思ってんのか。

だが、聞き捨てならない言葉があった。

共通の敵?

アカネの身に危険?



「…もし、王都でアカネの様子がおかしかったら…誰かを探す素振りがあれば…気をつけろ」


「どういうことです?アカネは王都に知り合いがいるんですか?」


「いや、王都にいるかは知らんが…アカネはどうやら想う相手がいるらしい」



その言葉は、想像以上に俺に衝撃を与えた。

あの、あの色気をどこかに置き忘れ、しかしながらちょっとムードに流されやすいお子様脳。

そんなアカネに、好きな奴がいる?



「いったいどこのキザな男ですか?」


「…なぜ気障だと決めつけたんだ?」



どうせムードにコロッとやられただけだろうからだよ!

あんだけ気をつけろって言ったのに!

いやまさか俺に会う前に毒牙にかかっていたのか?



「俺も詳しくはしらんが…直接会ったわけではないらしい。夢の人、と言っていた。どうしたら会えるのか、アカネも悩んでいるように見えた」


「夢の人?」


「夢の中で見る相手なのだそうだ。どこにいるのかも知らないようだが、確かに心惹かれているようで」



夢?

そんな話は聞いたことが無い。

いや、夢見た相手とかいう比喩表現をシェディオンがそのまま受け取っている可能性も…

ああでも直接会ったこと無いのは確かで、どこにいるか分からないのも本当なのか?

…待てよ。



「…それ、いつ聞いた話ですか?」


「初めに聞いたのはお前と会う前だが、お前がこの家に来た日にも話はした。お前でないことを確かめるために」



俺でも、シェディオンでも無い誰か…

少なくとも半年以上想い続けている相手?

あのアカネが、ムードに流されやすいアカネが、好意を打ち明けているシェディオンにわざわざ宣言した想い人の存在。

アカネの性格だ。

嘘でそんなことは言わないだろう。

だとすると…


そんな思考の海に沈みかけた俺を、シェディオンの声が引き上げる。



「リード」


「あ、はい。すみません。聞いています」


「相手が誰かわからん以上、アカネがおかしな男について行っても困る。アカネはあれで行動的なところがあるからな…」



"あれで"ではなく"あの通り"であり、"行動的"ではなく"衝動的"って言うんだと思うが。



「気をつけておいてくれ」



他の男に奪われたら困るとか、そんな直接的な表現をしないのは、兄としての愛情か。

それとも男のプライドか。

何にせよ、俺はとんでもない爆弾を託されて王都行きの馬車に乗り込んだ。

どうしても思考がそちらに向かってずいぶんアカネに訝しがられたが、あの鈍感女は見当違いの気遣いをしてくれた。

本当に…なんで俺もシェディオンもこんな女に…


アカネがこれまで想う相手を俺に話したことはない。

俺の予想が確かなら、そりゃ言いにくいだろう。

いや、それとももしかして…別の理由で俺には告げないでいるのか。

悩んだ挙句、俺はアカネの様子を見つつもこちらから話を振るのはやめておくことにした。


無理に聞き出そうとしたところで喧嘩にしかならないだろう。

気になるが、めちゃくちゃ気になるが!

忘れよう、そう思ったのに。


王都に来て二日目。

図書館を出てからアカネが行きたがった場所、それは冒険者ギルドだった。

なるほど、マリエル・アルガントに会いたいのかもしれない。

もしくは、アカネの世界には冒険者もギルドも存在しないという話だったから、単に興味があるのかもしれない。

でもそれなら、なんで俺の反応をビクビク伺ってんだ?


俺に反対されるかもしれないと思ってる?

お嬢様の安全を守る義務があり、荒っぽい場所への出入りを反対するであろう従者たちではなく、俺に?

だとすると…ギルドに行きたい目的の方に後ろ暗いことがあるんだろう。

俺に反対されそうな理由…



「……」



忘れようとしていた懸念が、確信に変わって首をもたげる。

だからこそ、ギルド行きの後押しをした。

アカネの目的を確かめるために。


道中、目的を探るべくマリエル・アルガントの名前を出すと、アカネは『なるほど』って顔をしていた。

やっぱり目的は迷宮の魔女じゃない…

しかもギルド職員に話を聞こうとすると、むしろ迷惑そうな表情をする。

これは何故なのかよくわからんが。


アカネの反応が変わったのは、英雄ベオトラが姿を現してからだ。

目的を果たせるとでも言いたげに目を輝かせた。

ギルドに入ってからこっち、ずっと俺の目から逃れる隙をうかがっているアカネを泳がせるなら今か。


別に現役勇者と会ったからといって、抵抗は無い。

向こうに魔王だと見破られれば焦るだろうが、過去の魔王の記憶を見ても、勇者だからと言って一目で魔王を看破できるわけではないと知っていた。

だが、ここは待機を宣言する。

アカネの瞳が『してやったり』と煌めいた。


…これで俺のいない隙にベオトラと話ができると思ってんだろうなぁ。

髪飾りのこと忘れてんのか。

俺が発動させたくなったらいつでも声拾えるのに。

こういうそそっかしいところが俺を呆れさせるし、たまに怒りがわくし、でも退屈しないし…どうにも庇護欲をそそる。

いつだったかアカネがあまり利口でない犬の行動を見て『バカわいい』とか称していたが、俺からすればお前もおんなじだと言ってやりたくて仕方なかった。



「ベオトラね…」


「リード様はベオトラ様と会ったこともあるんです?」


「…いや」



エレーナの問いかけを軽く流し、アカネを観察する。

苦手なはずの視線を集めてるってのに、なかなか頑張ってんじゃねーか。


アカネの目的はベオトラ?

いや、ベオトラがここに来る確証を持っていたとも思えない。

だとすると、ベオトラから何か情報を…


ふと気付く。

ああそうか、ベオトラは現役勇者。

俺の予想が確かなら…

気付けば苛立ちのままに前髪を強く握りしめていた。

ああくそ、俺の予想を肯定する要素ばっか出てくるな。

ベオトラと何を話すのか、それではっきり答えがわかる。


聞きたいような、聞きたくないような…


そんなことを思っていたせいなのか、アカネが話を始める前にその場は崩れた。

黒扉から入ってきた人物のせいだ。

マリエル・アルガント。

迷宮の魔女、奇跡の子。

英雄ベオトラにより迷宮から助けられたと言われている彼女だが、実のところ二人がその顔を合わせたことは無いという。

魔女は人嫌いで公の場に呼び出されても応じないし、英雄もあっちこっち飛び回っているから捕まらない。

この二人を人為的に出会わせるのは難しかったし、自然に出会う確率も低かった。


なのに、どういう巡りあわせで今こんなことになってんだよ…


嫌でも周囲が囃し立て、この場は英雄と魔女の邂逅という奇跡の一瞬に主役を奪われるだろう。

だがしかし、それを待つ前に魔女は一人の名前を呼んだのだ。

英雄の名ではない。



「あ、アカネ」



…おいおい、どういうことだよ。

アカネは分かりやすくその身を竦め、一秒足らずの逡巡を見せるもベオトラに礼をして、アルノーを連れこちらへ駆け戻ってきた。

分かりやすく逃げの一手を打ちやがった。

俺たちの問いを無視して、アカネはギルドを飛び出した。

背後では魔女と英雄の名がコールされ、鬱陶しがった魔女から放たれたらしい魔力圧の気配がする。


あーくそ、わけわからん。

こうなったらきっちり説明させる。

そんな決心をして、俺の手を握るアカネの小さな手を、逃がさないようにきつく掴んだ。



==========



俺は幻覚でも見ているんだろうか。

目の前には頬を赤らめ、恥ずかしそうに俯くアカネの姿があった。

しおらしく照れるアカネなんてこの世に存在するはずがない。

本人が聞けば酷い抗議を受けそうだが、俺にとってはそうだった。

ましてや…

俺をマリエル・アルガントにとられると思ったのか、という問いかけに対してこんな反応を返すなんて。


こちらまで顔が熱くなる。

さんざん俺の事なんか興味ない素振りしておいて。

弟だなんだとのたまって。

その顔が弟に対するもんかよ。


アカネが本気で俺を全く男として意識していないかと言うと、それは違う。

断言できる。

でなければ戯れに接近したり囁いたりした時、ああも良い反応をしない。

最近慣れてきてスッパリかわされることもあるが、それでも本気で俺が迫ると顔を赤くして照れ隠しに怒鳴っていた。

そんな態度をとる程度には、俺の事を異性だと思っている。

しかし、本人が度々きっちり線引きを明確にしてくるのも本音だと思っていた。


アカネに好きな奴がいると聞いた時、本当は『ああそういうことか』なんて納得した部分もある。

だけどそれと同時に、『まさか』って思いもあった。

この世界において、アカネのことを誰より知っているのは俺だ。

悪夢の時もいつも側に居て、無抵抗にすがってくるあいつを守ってきたのは俺だ。

アカネが一番頼っているのは、他の誰でも無く俺だと、本当はずっと思っていた。


その自負は、魔王の魂を受け入れた時から持っていた目的に合致するものでもあったし、純粋に俺自身のプライドを満たしてくれるものでもあった。

この執着は、一方通行じゃない。

そう、思えた。


その上で、この反応だ。

アカネが自分の想い人の話を、俺にはしていない理由。

シェディオンが最後にその話をしたのは俺が屋敷に来た日だと言う。

だとすると、今はその相手が変わっている可能性もあるんじゃないのか。



「…お前…俺のこと好きなのか?」



そんなことを聞いて、肯定されたところでどうすればいいのか分からない。

俺のアカネへの執着は、目的が別にあるもので。

面白いやつだと、守るべきやつだと思ってはいても、そこに恋愛感情は…

ない、のか?

本当に?

一瞬の動揺が頭をよぎった次の瞬間、アカネは顔を上げて、真っ直ぐこちらを見据えた。



「恋愛対象ではないわ」



今まさに自問自答していたのと同じベクトルの話を。

ばっさり否定されて。

…ほんと、こいつは…



「…お前…そんなことばっかハキハキ答えやがって…」



頭に一気に血が上り、こめかみがひくつく気配がする。



「くそ、お前がそういう態度に出るんなら我慢しねーぞ…触れないでおいてやろうかと思ったのに…」



怨嗟のこもった呟きをいくらか吐き出して心を落ち着かせ、顔を上げる。

振り切れた笑顔がアカネにはどう映ったのだろうか。

未だかつてない恐怖を滲ませて後ずさっていった。



「え、うわ…なに、こわ…」


「まあそう逃げないでくださいよ、アカネ様」



せっかく丁寧な言葉で言ってやったのに、アカネはますます縮こまる。

おお、俺のプレッシャーは正しく伝わってるらしいな。

俺と会った日の事を覚えてますか、ご主人様ってことだ。

壁際に追いやり、逃げられないように腕で閉じ込める。

その瞳をじっと覗き込む。


アカネはいつも、俺の目を見ると様子が変わる。

その身を強張らせて、熱で浮かされたように瞳を潤ませる。

それはまるで…



「…ねえアカネ様」



…そんな顔するから、勘違いさせるんだろ。



「アカネ様に好きな人がいるって聞いたんですけど、それ、誰ですか?」



その問いを口にした瞬間、アカネの表情から全ての感情がそぎ落とされたように見えた。



「リード、こんやってイイテンキネ」


「今夜から雨らしくて曇ってますよ、アカネ様。それで?」



素っ頓狂な返しも、おそらくわざとではなく思わず口をついたんだろう。

分かりやすく混乱してんな。

普段あんまり使わない頭で必死に何かを考えているんだろう。

目がきょろきょろ泳いでいる。



「アカネ様、余計なこと考えてないで答えてください」



俺が求めているのは答えだけだ。

言い訳を考えてる暇があるならとっとと吐け。

そんな俺の意思が通じたんだろう。

アカネは観念したように泳いでいた目を止めたが、代わりに唇を引き結んで俯いた。

言い訳はしない、でも本当のことも言えない、と言うように。



「そんなに言いたくないんですか?ずっとアカネが想い続けているっていう男が誰なのか」



ああそうだろう、言えないだろうな。

俺の予想が確かなら。



「…言ったらアンタ殴り込みに行きそうじゃないの…」



アカネは空気を変えたくて、ふざけるつもりでそう言ったのかもしれない。

しかし俺にとっては、笑えない言葉だった。

そうだな、殴ってやれるならそうしたい。

いやむしろ…



「消し炭にせずに耐えられたら褒めてほしいくらいだ」



自嘲気味に零した言葉は妙に軽く聞こえて。

ああ、馬鹿だな俺は。

もう答えは分かっている。

アカネの好きな奴が誰なのか。


シェディオンは、アカネが別世界から来たことを知らない。

この世界で育ってきた記憶は他人事のように感じてしまっていることも。

本来培ってきた異世界の記憶を持っているということも。

しかし、俺はそのことを知っている。

…だから、つまり…それって、元の世界に居た時から好きだった相手なんじゃないのか?

そうすぐに思い当った。


その上で、俺に言えない理由があるとしたら、それはこの世界にいる人物だからだ。

俺に知られると不都合な相手だからだ。



「なぁアカネ…お前が好きな奴ってもしかして、ファリオン・ヴォルシュじゃないのか?」



絞り出すように告げた問いかけ。

目を見開くアカネの顔を至近距離で見つめる。

ああ、だからさ…お前、全部顔に出るんだって。

ブックマークや評価していただいている方、ありがとうございます。

楽しみにしてくださっている方がいるんだと思えてやる気が出ます。

今後も頑張ります!

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