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魔王の隣で勇者を想う  作者: 遠山京
第四章 令嬢と王都

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053王都へ行こう

ちょっと説明回っぽくなってます。

爵位とかについて。

別に物語に深くかかわらないのですが、気になる人は気になるかもと思って書いてみました。

どうでもいいよって方は読み飛ばしちゃってください。

話が進んでないので、今週中にもう一話更新予定です。

透き通る空に見える星が鮮やかになり始め、木々が色づきだした、十月も終わりがけの頃。

コゼットお姉様も交えて家族みんなでお茶会という奇跡が起きてから実に二か月が経っていた。

爽やかな秋晴れの朝、居ても立っても居られなかった私は廊下を軽やかに走り抜け…ていたらティナに怒られたので楚々として歩き、そして目的の部屋の前に立つ。



「そうだ 王都、行こう!」



そう高らかに宣言しながら開け放った扉の先で、私の奴隷は呆れた顔をしていた。

どうやら読書中だったらしい。

…着替え中のお色気シーンとか期待して無いんだから、本当なんだから。

いや、朝食も終わったこのタイミングで着替える理由も特に無いと思うけど。



「…何から突っ込めばいいかわかんねーけど…何だよ、王都行きのこと忘れてたのか?」



もうすっかり私の前では口調の砕けたリードが言う。

態度もすっかり姿勢を崩し、ちょっと行儀の悪い座り方だ。

他の人に見られたらどうするんだと思うけど、大体気配で誰が近づいているか分かるらしい。

つまり、この状態になるのは私の前でだけ。

これでもまだ何かあると『俺はアカネの奴隷』と言い張るのだから、それならそれで主人として教育し直すべきだろうか。

まあ対外的にはちゃんと上手に猫かぶってるし、今更私に猫かぶられても鳥肌立った私との鳥獣合戦が起きるだけだからいいんだけど。

何はともあれ…今大事なのは王都行きの件だ。



「まさか忘れるわけないじゃん。ずっと楽しみにしてたよ」


「じゃあなんで今思いついたような言い方だったんだよ」


「キャッチコピーの様式美が分からないなんてリードもまだまだだわー」



異世界の人間に無茶ぶりをしつつ、ソファに腰掛ける。

以前、悪夢や魔王について調べるために、王都の図書館に行きたいと考えた。

そこで案として出たのが、お仕事で王都に行くお父様にくっついていくプランだ。

相変わらず私に甘いお父様は二つ返事でOKを出してくれた。

もちろん、リードも『後学の為に僕も一緒に連れて行ってください』とか何とか爽やか笑顔でのたまい、許可を得ている。

シェドが反対してひと悶着起きたのは言うまでもない。



「わけわかんねーけど…まさかまだ準備できてないとか言わねーだろうな。出発明後日だぞ」


「大丈夫!してあるよ!」



ティナが。

だってこの世界での旅支度って、何したらいいのかよくわかんない。

服とかはさておき…化粧も自分でやらないから何がいるのかよく分からないし、そうするとポーチとかもいらないし、着替えも自分で用意しないし、ていうかティナとエレーナがついて来てくれるから全部お任せでいいし。



「リードの世話役にはアルノーとエドガーがついてくるんでしょ?」



セルイラ祭の時をはじめ、外出時にはよく付いてきてくれる屋敷付きの護衛兵二人を思い浮かべる。



「まあ正確にはお目付け役兼俺らの護衛だな。俺は特に世話役とかいらねーし」


「そりゃそうだろうけど…とはいっても今は伯爵家の次男なんだし、世話してもらうのも慣れた方がいいと思うよ」



私の言葉に、リードは嫌そうな顔をする。

いや、まあね、あんたの本性がだんだん分かってきた身としては、こういうのが嫌いなのはよく理解できるんだけどさ。


私も最初戸惑ったけど、この世界における幼少のころからのお嬢様記憶のおかげか、比較的早く順応できた。

お風呂で体を隅々まで洗われるのだってもう慣れっこだ。

…あんまり慣れすぎると、うっかり没落した時とかに一人で生きていけなさそうだな、気を付けよう。



「私、パラディアの王都には行ったことあるけどこの国の王都には行ったこと無いんだよね。パラディアは建造物の雰囲気とか違って面白かったけど、カデュケート王都も楽しみ」



パラディア王都に行ったのはお姉様の結婚式に出席した時だ。

その際、この国の…カデュケート王都も横を通過してはいる。

でも王都内に入ったことは無かった。

高い壁の向こうに聳え立つ白亜の城が見えただけだ。

うきうきする私に、リードはため息をつく。



「…パラディアは文化も違うから新鮮だったかもしんねーけど…カデュの王都はセルイラ領都…エルネルとあんま変わんねーぞ」


「え?そうなの?」


「つーかここがこの国の中でもかなりでかい街だしな」



領は大きな地域の総称で、その中にはいくつも街がある。

領主が屋敷を構え、行政の中心となる街が領都と呼ばれ、大抵そこが領内で一番栄えている街だ。

私たちが住んでいるこの街こそエルネルという名の領都。

とはいえ、大抵"セルイラ"と言えばこのエルネルを指すので、あまり日常会話でこの名前が使われることはない。

ちなみに王都の正式名称はカデュアだけど、これもあんまり使われない。



「そりゃでかい城はあるけど、城下町はこの街の規模をでっかくしたようなもんだ。さほど感動はねーと思うぞ」


「行く前から夢を壊すなぁ…」


「期待を大きくさせすぎてもなんだろ。それに…でかい街はそんだけ淀みもたまる。見たくねーもんだって見ることになるぞ」


「…それって…」



リードの身の上を思えば、何を指しているのか、何を知っているのかは何となく予想がつく。

人身売買を始めとした薄暗い商売もあるだろうし、貧困層の集まるスラムだってあるだろう。

セルイラだって、リードに会えたように奴隷商人がいたりするし、道を一本外れればならず者や孤児のたまり場に出くわすという。

物語の主人公なら、こういうのを何とか解決していくのかもしれないけれど…

私はもともとただの女子高生で、知識チートなんかできない。

何とかしたくても、具体策が全く浮かばない。

ずぅんとあからさまに空気が重くなり、気付いたリードが苦笑した。



「悪い、おどしすぎた。まあアカネが歩くようなとこならまず大丈夫だろ。俺もついてるし、目的地の王立図書館なんて荒事には無縁な場所だしな」



私の頭をぽんぽんするリードは、きっとそれで私を励ましているつもりだ。

…そりゃそうだろう、私の"もう一つの目的"を、リードは知らない。


あわよくば…そう、あわよくば…!

冒険者ギルドに行きたい!

目的は…本人には悪いけどマリーじゃない。

今んとこ話せること増えてないし。


初心に帰ろう。

私がなぜこの世界で生活することを受け入れているか。

全ては!ファリオンに!会うためなんだよ!

先日妙な夢を見て思うところはあるけれど、だからといって私の中のファリオン熱が冷めたわけじゃない。


本の中では、そろそろ盗賊をやめて冒険者になっている頃だ。

だから、もしかしたら…もしかしたら王都の冒険者ギルドにいるかもしれない…!

ちなみにセルイラ内のギルドに居ないことは確認済みだ。

領内に滞在中の登録冒険者のリスト。

シェドの持ってるやつをこっそり盗み見たんだよね。

まあ、先月末時点の登録情報みたいだから、その後登録してたら分からないけど。

ストーリー上では登録したのは王都ってなってたし、一番可能性が高いのは王都だろう。


…とはいえ、この世界ではどうかなぁ…まず盗賊団に入っているかもわからない。

似たような経歴をすでに代わりにエルマンがたどってるし…

もしかしたら逆にファリオンがエルマン側の行動してるかも…

それで行くと一度盗賊団に入って、そこを抜けた後は情報屋とかやってることに…いや、ファリオンは性格的にそういう細々した仕事嫌いそうなんだけどな。

どっちにしても、貴族の令嬢が寄り付くべきではないとされているところに行かないと会えない。


そもそも夢でも見た通り、ファリオン・ヴォルシュはヴォルシュ伯爵家の一人息子だ。

ヴォルシュ家はもともと侯爵と伯爵の爵位を持っていて、ファリオンのお父さんは伯爵を、そのお兄さんが侯爵を継いでいた。

この国の爵位は家に帰属するもので、領地は必ずしも伴わない。

爵位も領地も、国から褒賞として与えられ、子孫へと伝わっていく。

爵位の順番としては、上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵っていう感じ。

公爵はかなり特別な地位だから増えることも減ることもないので、出世を目指せるのは侯爵までだ。

とはいっても、これは政に携わる貴族の爵位で、武力関係では別に騎士爵がある。

騎士にも何か細かい順位があるみたいだけどよく覚えていない。

あと、何か名誉なことをなした人間に一代限りの名誉騎士爵とかが与えられるくらいだったかな。


ここで一つ問題がある。

騎士団の規模が大きくなるにしたがって増える騎士爵の数と違い、貴族爵位も領地も数に限りがある。

戦争でも起きない限り、領地も権力者も数を増やせないものなわけで。

そして既存の爵位や領地のほとんどは既に誰かに与えられているから、何か功績をなしても一時金くらいしか褒賞は得られない。

じゃあさらに家の権力や発言権を強めたい場合はどうするか…

家系が途絶え、爵位や領地を継ぐ人間がいなくなればそれらは国へ返還される。

これを狙うのだ。


そんな中で、件のアーベライン侯爵の事件が起きた。

政敵を失脚させ、その後釜を狙うのは定石。

アーベラインさんのやり方は正気とは思えないものだったみたいだけど…結果的にアーベラインがお家取り潰しになってるんじゃ本末転倒も甚だしい。

ただ、もっと少しずつ相手の力を削いで没落させていくような攻防はあちこちで起きているという。

…貴族って、やだな。

スターチス家って敵とかいないって聞いてるけど本当に大丈夫かな。

セルイラは結構豊かな土地みたいだし、妬み嫉みは買っていそう…

もしかして、だからしょっちゅう騙されて借金抱えてるのかな。


なんにせよ、ファリオンはお母さんとともに逃げ延びた。

この辺は"ホワイト・クロニクル"で描写があった。

お母さんの実家、ジーメンス家へ向かった二人だけど、お母さんのお兄さん…ジーメンス家の当主であるジーメンス子爵は争いに巻き込まれるのを恐れて二人を遠ざけてしまう。

ボロ小屋と粗末な食事しか援助してもらえない中、もともと体が弱かったファリオンのお母さんは病気の末に死んでしまって…

失意の中、ジーメンス家にも頼れないと判断したファリオンは行方をくらませるんだ。


ファリオン達が逃げ延びたことは、この世界では知られていない。

そりゃそうだよね、屋敷は全部吹き飛んでて、二人が逃げたことを知っている人はいないし、ジーメンス家当主は隠してたわけだし。

だからこのへんは"ホワイト・クロニクル"からだけの情報だけど、あの夢がもし本当なら、この世界でも同じようになってるんじゃないかな。


アーベライン侯爵の話を歴史の授業で習ったのは、ちょうどリードと出会って間もない頃だったこともあって、魔王の魂に魅入られて正気を失ってたんじゃないかって疑っていた。

でもあの夢が事実だとしたら…魔王になったのはファリオンのお父さんの方だ。


その辺りの真偽はともあれ、本の中の通りならその後、ファリオンはシルバーウルフ盗賊団に拾われる。

そして十四歳の秋…ちょうど今頃、盗賊団の仕事に失敗して魔物に襲われているところを英雄ベオトラに助けられて、冒険者に転向するんだ。

…とはいえこの世界においても、ファリオンは盗賊団に入ったのか。


唯一知ってるかもしれないと思えるのはリードなんだけど…

ちらりと視線を向けると、思考の渦に沈んで黙ったままだったせいか、リードが少し心配そうな顔をしていた。



「なんだよ、そんなに怖くなったか?」


「んー…いやぁ…別に」



…聞けないよねー。

これで機嫌を損ねたら、現地でのファリオン探しへの妨害が確定的になってしまう。



「ところでアカネ、本題は?」


「へ?何が?」


「…何しにきたわけ?」


「え、暇つぶし」



暇つぶしでノックも無しに押しかけんじゃねぇと憤る魔王様からの怒りチョップを白刃どり。

最近短気だなぁ。

まあ、たぶんこれが素で、今までは我慢して冷静気取ってただけなんだろうな。


…いや、本当はね。

この間の悪夢のことを、やっぱり相談しようかなって思ったんだけど…

今までと毛色の違う悪夢だったし。

しかも魔王関連っていうあたりがなんとも怪しい。

魔王になったであろう伯爵のことだけ記憶が鮮明なあたりも気になるし。

この症状の何かヒントになるかもしれないから、やっぱり情報共有しておいた方がいいかな、とか思ったんだけど。

もしかしたらあの夢の内容は…ファリオンの過去の話は、リードにとって不快なことを思い出させることになるかもしれない。

かといって夢の概要を隠しながらの相談は難しそうだ。

何かを隠していると気付かれればリードは根掘り葉掘り聞きだすまでしつこいからなぁ。

そんなわけで、土壇場になってしり込みし、本題を切り出せなくなったわけだ。


まあ、あれが妄想にせよ事実にせよ、私が知るはずのないことなんだ。

ファリオンを探すにあたっては忘れた方がいいかもしれない。

それにしても、王都でいかにしてこの魔王様を撒いたものか。

そんなことに頭を悩ませている間に、セルイラを発つ日がやってきた。

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