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魔王の隣で勇者を想う  作者: 遠山京
第三章 令嬢と姉

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046妖精王の仲間たち

「ねぇリード」



隣を歩く奴隷兼義理の兄に声をかける。



「なに?」



その横顔は不機嫌そうだ。



「何でさっきから見るたびに荷物が増えてってるの?」



リードは左手で溢れんばかりにガラクタを抱えていた。



「お前のお姉様に聞けよ」


「あんたのお姉様でもあるのよ」



誰が聞いているかもわからない廊下だと言うのに、口調を取り繕うだけの心理的余裕も無いらしい。

ここまで状況が悪化したのは、リードが煽ってるせいなんだけどな。


昨日のことを思い出す。

いきなりリードが命を狙われていると言い出し、その視線の先にいたのがわが屋敷のメイド達であり、更にはおかしな同盟がもう一つあったと発覚した時のことだ。




==========




「…こぜあかどうめい…」



私の声が空しく廊下に響いた。

なんなの、うちのメイド達は私を兄姉の誰かとくっつけないと気が済まないの?



「アカネ様、今のはイライザの冗談ですわ、お忘れくださいませ!」


「いや、無理でしょ」



エミリーが苦しい誤魔化し方をしてくるけれど、こんなパンチのある冗談をしれっとのたまうほどイライザは愉快な人じゃなかったはずだ。

ちょっぴりうっかりさんだけど真面目で嘘がつけない人…

つまり今のはうっかり言っちゃった本当の話ということで。



「同姓な上にお姉様は人妻なんだけど…二重の禁断愛を求めてるの?」



この世界にも百合の花は咲くのか。

パニックになった頭が『隣国の王子様からどうやって姉を奪えばいいのだろうか』と、その気も無いのにぼんやりシミュレーションしてしまう。

お姉様の侍女として迎え入れてもらうのが一番手っ取り早いかしら?

しかし私の発言に、二人は勢いよく首を振って否定した。



「そんな下世話な話ではありません!コゼット様はっ…もっと純粋なお気持ちでアカネ様を想っていらっしゃるのですわ!」



エミリー、隠せなくなってるけどいいの?



「そうです!アカネ様に直接お声をかけることもできず、ただアカネ様の思い出の品を愛でつつ遠くから見守る奥ゆかしい愛です!」



イライザはちょっと黙った方がいいな。

それは"ストーカー"についてオブラートに包みながら解説しただけだ。


そしてふと思い出す。

お姉様がこの家に居た頃、主に世話をするメイドが四人居た。

お姉様は部屋に立ち入る人間を制限していて、許されたのが彼女たち。

エミリーとイライザはそのうちの二人だ。

ちなみに残りの二人は輿入れについていった。

おそらくコゼアカ同盟とやらの同盟員は主にその四人なんだろう。



「思い出の品?アカネとコゼット様はあんまり交流が無いんじゃ…」



リードが素朴な疑問を口にする。

聞かないほうがいいと私が制止する前に、イライザが正直な回答を寄越してしまった。



「お二人の思い出ではなく、アカネ様の成長の記録ですわ。アカネ様の産着とか、小さくなったお靴…はっ」


「もう、イライザ!違いますわよ、アカネ様!そんなものございませんわ!」



エミリーが慌ててフォローするけれど、残念ながら私は以前お母様にその衝撃の事実を暴露されている。

うわぁ、という顔をしつつも気遣わしげな視線がリードから送られた。



「…大丈夫よ、リード。知ってたから」



もっとうわぁって顔をされた。



「いや、容認してるわけじゃないから。知ったのは数ヶ月前だから。ホントに。」



とりあえず今の問題はそこじゃない。



「で、そのコゼアカ同盟とやらはいつからあるの?最近変な同盟がいっぱいできてるみたいなんだけど」


「まあアカネ様、何の話でございますか?」


「エミリー、残念ながら手遅れだから」



何としても誤魔化そうとするエミリーにピシャリと言い切ってやる。

すると、開き直ったように背筋を伸ばした。



「アカネ様。お言葉ではございますが…その他の半端な同盟と一緒になさらないでくださいませ。私共はアカネ様の幸せを願う同盟の元祖ですのよ」


「そうですわ!コゼット様がお輿入れになる際に、遠く離れてもアカネ様を…」


「イライザ!貴女は黙っていて!」



また余計な事を言おうとしたのか、イライザがエミリーに叱られる。

思ったより歴史があるみたいで頭痛がした。

姉が嫁に行ってからずっと、私は変な同盟に見守られていたらしい。



「で、その同盟の活動がリードを襲う事なの?」


「まぁ、誤解ですわ!我らが同盟の目的はコゼット様の愛の形をご本人の代わりに遂行することです」


「イライザ!アカネ様、イライザの言葉は全て無視なさってくださいませ!」



お父様に雇われているはずの使用人が、他国に嫁いだ姉のスパイと化している…それってまずいのでは。

エミリーは咳払いをしながらこちらへ向き直った。



「勿論、私共はヴィンリード様を殺そうとなんてしておりません」


「そうですわ、ただあまりにアカネ様との距離を近くされたので、間違いが起きてはいけないと麻痺毒を塗った吹き矢を放…ガフっ!」



イライザの脇腹にエミリーの拳が入った。

麻痺毒って…何それ、どこから入手したの。

コゼアカ同盟の過激さに青ざめつつも、少なくとも命を狙っているわけではないらしいと聞けて胸をなでおろした直後。



「シェディオン様は度々夜道を襲われているそうだけど?毎月隣国から刺客を放つなんてコゼット様の愛は随分激しいね」



リードの言葉に凍りつく。

待って、初耳だ。



「ヴィンリード様!」



非難するようなエミリーの声に、リードは冷ややかな視線を送る。



「アカネに聞かれて困るような事をしなければいい話だよ」



まさか、そんな血なまぐさいことまで起きているなんて…



「シェド様を暗殺しようとしてるの!?お姉様が!?」



流石に看過できない話だ。

思わず声を引っくり返らせて問い詰める私に、イライザが慌てて否定した。



「違います!殺そうとなどしておりません!あれは…確かめているのです!」


「確かめる?」


「イライザ!」


「エミリー、よく考えて。確かにコゼット様のご意思には反するけれど、誤解されたままにするわけにはいかないわ」



イライザの反論に、エミリーは渋々口を開いた。



「アカネ様に良からぬ感情を抱かぬように、と注意を促しているのです。そして側にいるならばアカネ様をお守りできるよう腕を磨き続けるようにという意味で、コゼット様は使者を送られているのですわ」



現にシェディオン様を倒せるだけの腕を持つ者が送られたことはありません、とイライザが補足した。

確かに…兄は腕が立つとはいえ、それを上回る猛者はいくらでもいる。

本気で殺すつもりなら、もっと早くシェドの命は散っているだろう。

しかし使者とはまた外聞のいい表現をする。

襲い掛かってくるような人間は使者じゃなくて曲者だ。



「シェド様もリードも私の兄なんだけど?」


「兄とはいえ男です。ましてやシェディオン様はアカネ様を女性として見ているようですし、ヴィンリード様は最近スターチス家に入られたばかり。異性の兄妹として節度ある距離感を保っていただかなければ」



エミリーの言っていることは一見もっともなんだけど、やることが過激すぎる。



「お姉様は一体私をどうしたいの…」



そんな私の呟きに、エミリーとイライザは少しだけ優しげな…そして切なげな表情をした。



「ただ、アカネ様が大切なだけなんですのよ」



『できれば弟達も大切にしてほしいんだけど』と返すと、二人は目を逸らした。

言い訳するなら最後まで通してくれない?




==========




その後、ひとまず『シェド様にもリードにも危険なことをしたら許さない』と厳しく叱っておいた。

しかし、あてつけのつもりなのかリードは昨日からレッスンを無理やり私と合同にしてもらってまで、ずっと側から離れない。

…その結果、私の横を歩くリードにはさっきからクッションやらスリッパやら、致傷性の無い物がどこからともなく飛来している…らしい。

『らしい』と言うのは、正直私にはいつどこから投げられているのか全く分からないからだ。

私がふと視線を逸らした隙に投擲されているらしいが、それにしても神業。

だというのに、それをリードは視線をやることすらなく腕一本でキャッチして、反対の手に抱え直しているようだ。

私からすると、リードに目をやる度に抱える荷物が少しずつ増えているような状況。

魔王すごい。

メイドもすごい。

しょうもないけど。


そして意地になったリードがもっと私に密着し、すると当然ますます飛来する小物が増える。

そんな悪循環が起きていた。

…子供みたいな喧嘩だ。

原因は私のはずなのに、『巻き込まないで』という気持ちが非常に強い。



「この屋敷のメイドはちょっとおかしい」



憮然としながらリードがそんな事を呟いた。



「おかしい?」


「戦闘力が高いメイドが相当数居る。一定の地位がある家なら、同性の護衛としてメイドや侍女にある程度の護衛術を仕込むことはある。だけどここのメイドの技術は襲撃者側の技能が多い」



え、そうなの?

うちのメイドってそんな物騒なの?

意外な話に言葉を失っていると、リードが更に口を開いた。



「アカネは気付いてないみたいだけど、特に一番腕が立ちそうなのは…」



しかしその言葉をさえぎるように、リードの頭に勢いよく大きなクマのぬいぐるみが乗っかった。

これまでで一番大きな得物…獲物?だ。

さすがにこれは私も見えた。

背後から投げてこうも綺麗に乗っけるなんて…凄いな。

思わず素直に感心してしまったが、リードの額に青筋が見えた気がして、何とか不穏な空気を解消しようと視線を彷徨わせる。

そしてタイミングよく視界の端に映った人物へ大声を上げた。



「す、スチュアート様!」



廊下の向こうから歩いてくるのは、お姉様の夫、麗しき金髪碧眼の王子様だ。

お願い、この状況を打破するのに力を貸して。

私の声に気付いたらしい殿下が、こちらを見て微笑んだ。



「やあ、アカネ。それに…リード?随分愛らしい姿だね」



大きなクマに頭から圧し掛かられているリードを見て、スチュアート様が愉快そうに笑う。

やめて、そこはスルーして。

…無理か。

リードの青筋がますます深くなるのに気付いて、慌てて話題を逸らす。



「スチュアート様は何をなさっているんですか?」


「市場の視察をさせてもらってね。今帰ってきたところなんだが少しサロンで休憩しようかと。ああそうだ、よかったらアカネ達もどうかな?」



スチュアート様が爽やかな笑みでそんな誘いをしてきた。

いやぁ、有難い申し出だけど、今のリードにそんな余裕は…

しかしリードは気付けば満面の笑みを浮かべていた。



「ぜひご一緒させてください」


「え?」



先ほどまでの剣呑な雰囲気とのギャップに面食らう。



「アカネも次のレッスンまで時間があるし、いいよね?」


「え、ええ…ではスチュアート様、お言葉に甘えて…」



良かった、と微笑みながら、スチュアート様はサロンに足を向けた。

リードは大きなぬいぐるみやガラクタを廊下の端に置いて、背後に睨みを利かせながら『散らかした物は自分で片づけておくように』と呟く。

…背後で地団駄を踏む音がした。

リードがここまであからさまに冷たい対応するのは珍しいな…

いや、向こうが攻撃してくるんだから無理もないか。



「で。何企んでるの、リード」



スチュアート様の後を追いかけつつ、こそっとリードに耳打ちする。

まさかコゼットお姉様関連でイライラしてるからって、スチュアート様に八つ当たりなんか…しないよね?

そんな不安を覚えたけれど、リードは幾分か冷静な表情に戻っていた。



「コゼット様の話を聞きたい」


「え?」


「彼はコゼット様がアカネ狂いなことを知っていて彼女と結婚したんだよね?だとしたら、彼女が何を考えてこんな行動に出ているのか詳しく知っているかもしれない」



なるほど…

できればお姉様本人から話を聞きたいけれど、昨日からお姉様の部屋を訪ねても、相変わらずメイド越しにそれとなく拒否されてしまっている。

どうしてお姉様が私なんかのストーカーになったのか…

そしてどうしたら止めてくれるのか…

何かヒントが聞けるといいんだけど。

投稿が空いてしまってすみません。

インフルを発端にずるずると体調を崩しておりました。

皆さまもお気をつけください。

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