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魔王の隣で勇者を想う  作者: 遠山京
第三章 令嬢と姉

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040魔王 兼 奴隷 兼 義兄 兼 ○○

「い、いやいや気付いてたんなら連れ帰るでしょ!」


「普通の令嬢と義兄の関係ならね。

 変な令嬢と、その姉を嫁に貰った男だからなー」



近衛兵に聞かれたら叩っ斬られるよ、それ。

確かにお姉さまはちょっと変わってるし、そこを好きになった殿下もちょっと変わってると思うけど。

…私は普通だ!



「それに、ちゃんと義妹の身の安全は守ろうとしてるしね」



リードはそう言いながら私の着ている外套の裾をつまむ。



「なに、これ何かあるの?」


「パラディアの王族は逃亡時に使う為に、

 こうして旅人に紛れ込めるような外套を

 旅の間は持ち歩くって聞いたことがある。

 ここからは噂話だけど…

 その外套は魔術具になっていて、

 あらゆる魔術や凶刃を弾き返せるとかなんとか」


「それゲームバランス壊すやつ!」



うっかりそんな言葉が口から飛び出した。

いやだってそれクリア後にしか手に入っちゃいけない系のやつじゃない?



「ゲームバランス?何の話?」


「ごめん、なんでもない…

 いや、でもそんな物があったら近衛兵とか

 いらなくなっちゃうでしょ」


「そうでもないよ。

 外套ごと縛って攫っちゃえばいいんだし。

 それで脱がされたら終わりだし」


「……」



あ、やっぱこいつ魔王だわ。



「まあでも防具として最高なのには間違いないから、

 そのお値段はケート単位だと百億はくだらないって聞くよね」



またも私の動きが止まる。

…元の世界でさ、たまに女優さんが何かのイベントで超高級ジュエリー身に着けて、歩くウン億円状態になってるのとか見て『怖くないのかなー』なんて思ったりしてたけど…

同じ状態なのに、煌びやかさが一切無いから嬉しくない。

ただただ怖い。



「かえす、すぐ、かえす…」


「後で会うんだからいいんじゃない?」


「きず、つけたら、べんしょう…」


「傷が付いたら噂の最高防具とは違うって事になるから大丈夫でしょ」



…確かに。

じゃあいいか。

気を取り直して森の方角へ向き直った。



「よし!それじゃあ救出に向かおう!」


「どこに?」



元気いっぱいの掛け声に対して冷静な問いかけを寄越され、一瞬頭が真っ白になる。

指先が数秒胸元で泳ぎ、ゆっくりシルフドラゴンの方を指差した。



「…あっち?」


「アカネって意気込みはいいんだけど、

 計画とか実行については人任せな所あるよね」



割とガチめな説教が入ってうっすらへこむ。

…そうね、自覚はあるわ。

何だかんだ言ってほぼほぼリード任せで動いている。



「ごめん…」


「まあ、僕はいいんだけどね」



そしてリードはうっすら笑ってこんなことを呟いた。



「僕だけに頼ってるうちは許してあげるよ」



一瞬意味を掴みかねて呆ける。

…それってつまり、言い換えれば『頼るのは僕だけにしろ』っていう…

顔に熱が上っていくのが分かる。

こみ上げるなんとも言えない感情を口から吐き出すごとく叫んだ。



「乙女ゲーかよ!」


「うわ、びっくりした、何なの」



こっちのセリフだ。

何なのもう!



「キュンとするわ!」


「キュンとした女子の反応じゃないんだよなぁ…

 なんでアカネってこうなのかなぁ…」



しみじみと不思議そうにすんな。



「なんなの、リードは私を口説いてるの!?」



思わずそう問いかけると、リードは真顔で頷いた。



「奴隷として長く側に置いてもらえるのが

 危うくなりそうなら、愛人のポジションでも

 いいかなとは考えてる」


打算(それ)は黙ってて欲しかったなー!」



普通そういうのって本人には言わずに進める計画なんじゃないの。

でもそうか、そういうことか…

そういえばリードの目的って私をずっと側で守ることだもんね。

リードがたびたび私に仕掛けるこっぱずかしいモーションは全部…



「弄ばれた私の乙女心返して欲しい…」


「分かった、後でゆっくり返してあげるよ、ベッドの上で」


「何かいかがわしいのよ、ことごとく!」



怒鳴る私をいなしながら、リードは微笑んだ。



「まぁまぁ、冗談だよ。

 僕はずっとアカネの奴隷でいたい」



それはそれで複雑だ。

口調が少し砕けても、相変わらずこの距離感が崩せない。

リードが度々挟む甘い言葉がおふざけの一環だというのは分かっている。

それがせめてもの親愛の証だろうか…



「まあじゃれあいはこれくらいにして。

 救助に行くんでしょ、アカネ」


「場所分かるの?」


「アカネの奴隷 兼 愛人の有能な所見せてあげるよ」


「愛人って言っちゃってますけど」



魔王 兼 義兄に新たな肩書きが増えたようだ。

その一つ一つだけで十分キャラが立ちそうなもんなのに、何で全部合わせようとするのかね。



「まずはシルフドラゴンの方へ行こう」



そう言うリードに促され、再び風見鶏に飛び乗った。

どうして目的地に迷いが無いのかと尋ねる私に、リードはぽつぽつ説明する。



「さっき飛び降りたアカネを助けるのに

 大きな魔術を使ったせいか、

 一瞬枷が外れたような感覚がした」


「あっ、そうだ…さっきの、大丈夫だったの?」



あの時のリードは明らかに様子がおかしかった。

そう、まるで…

そこにいるのは"リード"じゃなくて、"魔王"だと感じてしまったくらいに。



「正直結構やばかったな。

 あの状況でアカネが居なかったら

 正真正銘の魔王が誕生してたかもね」



まあ、私が居なかったらリードがそんな魔術を使う必要はなかったんだけども。

薮蛇になるのでそこは突っ込まない。



「でもおかげで一瞬だけだけど、

 一帯の魔物たちの動きを掌握できた」


「去れ、の一言で追い払ってたもんね」



あれはまさに魔王って感じだった。

私を抱きかかえる腕を見ながらも思う。

こんな感想を言えるのは、リードが今もリードで居てくれるからだ。

…本当に危なかった。

リードは私を守ると決めている。

その為なら大きな魔術だって使う。

私が自分で気をつけないと、彼を魔王にしてしまうかもしれない…

気を引き締めないと、と拳にぐっと力を入れた。



「それで、じゃあ魔物はもう心配ないってこと?」


「いや、命令が通じたのは近くにいた魔物たちだけだ。

 でもそれ以外の魔物の位置とか、

 襲ってる人間の情報は読み取れた。

 何人か応戦してるけど、そう切羽詰った状況の人はいない。

 先にドラゴンの方を何とかしよう。

 多分魔物が恐慌状態になってるのはドラゴンのせいだ」



位置情報とかターゲット情報まで読み取れるのか…

魔王様すごい。



「シルフドラゴンが魔物を操ってるの?」


「ちょっと違うな。

 シルフドラゴンの恐慌状態の理由は分からないけど、

 まず彼らが暴れだしたんだと思う。

 森の中に風魔術が放たれた気配がある。

 それで森の中に住む魔物が何者かからの強襲を受けたと

 認識してパニックを起こしたんじゃないかな」


「そっか、じゃあシルフドラゴンを何とかしないと

 パニックが広がる一方、と。

 どうしようか?

 いざ大量に殺しちゃうかもってなると

 ちょっと気が引けるな…」



この間のグリフォンはこちらに生命の危機があった。

だから迷い無く倒す選択をした。

けれど今回は選択の余地がある。

近衛隊や冒険者達に命の危機は迫っていない。

そうなるとやはり殺傷に抵抗を覚えるのが本音だ。

シルフドラゴンの見た目の可愛さに流されている節もある。

もっふもふの目がくりっくりで可愛いんだ…

けれどリードは『殺さないよ』と首を振る。



「まず、ドラゴンはできるだけ傷つけないほうがいい。

 その生息地の魔物が増えすぎないように

 働きかけてくれてることが多いからね。

 そもそもこんな風に暴れる生き物じゃないし、

 こんなことになったのは理由があるはずだ。

 今はパニックを起こしてるみたいだし、

 それが収まれば落ち着くと思う」


「収めるってどうやって…」


「風魔術でまとめて上空へ吹き飛ばそう。

 彼らは風の中で生きるって言われてるドラゴンだし、

 上空で頭が冷えるかもしれない」



結局わりと力技な解決法だった…



「そんな上手くできるかな…」



今の私の魔術事情はというと…水魔術はあらかたマスターしたといえると思う。

氷の攻撃魔術はお手の物だし、水も…鎮火に対して適した水量を生み出せるようになった。

それ以上は目指さなくていいと言うのが恩師からのお達しです…


炎魔術は相変わらず禁止されている。

たまに氷の彫刻を作るくらい。

土魔術は地面に直接やろうとしたらちょっとした地震が起きたので、今は机の上に置いた粘土を魔術でこねることから始めている。

闇魔術は相手の五感や精神を惑わす術が多く、練習段階でどんな暴走の仕方をしても危険なので炎魔術以上に厳しく禁止されているし…

光魔術はリードを見習って植物を癒すことから始めてみようとしたんだけど、傷んだ木の苗にかけたら何故かその場で巨木化し、『人間相手には絶対使わないで』とカルバン先生に真顔で言われたりして…


…とまあ、暴走の数々を繰り広げている中、風魔術は消極的な方向から攻めることになった。

つまり、今吹いている風を弱めるというものだ。

そんなわけで自ら風を起こす魔術を使ったことは無い。



「もちろん、アカネにはやらせないよ。

 アカネがやったら森の木々を根こそぎ吹き飛ばしそうだ」



…言い返したいけれど言い返せない。

私もそう思うからだ。



「でも、リードがそんな大きな魔術を使ったら、また…」



あの時、落下する私を受け止めてくれたのは正に風魔術だった。

落下する他者と自分、双方の勢いを殺す…それも咄嗟にだ。

それなりに大きな魔術だったんだと思う。

けれど…

ようやくたどり着いた森の真上。

遠くから見ると白い毛玉のようだったシルフドラゴンの群れは、近くで見るとさらに圧巻だ。

まるで絨毯のように森の上部を覆いつくしている。

世界中のシルフドラゴンが集結しているんじゃないかなんて思ってしまう。

…これだけの数のシルフドラゴンを吹き飛ばすとなるとその比じゃないはず。

確実に魔王化が起きるだろう。



「大丈夫、アカネの魔術を僕が制御する。

 僕の魔力は一切使わないし、

 僕はアカネより魔力制御が上手い」


「えぇ…」



確かに私の魔力を抑えるのを肩代わりしてもらったことは何度もある。

あのセルイラ祭以降、度々息抜きをさせてもらっていたのだ。

だけど、魔術を代わりに使うって言うのはさすがにやった事がない。



「ぶっつけ本番でそんなことできるかな?」


「アカネ様、僕を誰だとお思いに?」



いつだったかと同じセリフを囁かれ、思わず苦笑する。



「魔王様です」


「そう、だから大丈夫」



不安げな私を励ますのは、確かについさっき本物である事を改めて実感した魔王様だ。

彼がそっと私の手首を掴むと、体内の魔力を撫でるような、すっかり慣れた感覚がする。

その胸に背を預けるように魔力の制御を手放した。



「魔力を使うのはアカネだからね。

 魔術のイメージはちゃんとして。

 シルフドラゴンだけを風で巻き取るイメージだよ」



リードの声が脳内に響く。

どこかぼんやりする頭の中、言葉通りの光景を思い描いた。



「いくよ」



そんな一言と共に、手のひらから魔力がほとばしる。

大量の魔力が流れ出す、しびれるような感覚に、思わずこみ上げる恐怖感。

そういえば私…意図的に大きな魔術を使おうとしたことって無い!

初めて魔術を使って暴走させたあの日のように頭が真っ白になりかけるけれど、私を支える腕の力が強くなる。



「アカネ、大丈夫。

 君についてるのは歴代最強の魔王だ」



…完全覚醒すらしていないくせに歴代最強とはこれ如何に。

突っ込みが頭に浮かび、こわばっていた体の緊張が緩む。

ふっと微笑んで、再び頭の中のイメージを明確にした。

大丈夫、どんなに大きな魔力が流れ出ても、自称歴代最強の魔王様がつるっとマルッと収めてくれるはず!


そして眼前に吹き荒れるのは暴風。

森の上部の枝を巻き込みながら、白い毛玉を宙に舞わせる。

風を操るといわれるドラゴンも、暴力的な魔力で制御された風には抗えなかったらしい。

指向性を持つ風に洗われ、瞬く間に一匹残らず山の彼方へと流されていった。



「…すごい、できた…」


「お疲れ様」



そう言われた瞬間に、どっと体を襲う疲労感。

激しい運動をした後、呼吸が落ち着いた頃のような倦怠感に見舞われる。



「うわぁ、体重いー…」


「うん?…魔力枯渇はしてなさそうなんだけど…

 こんなに大きな魔術を使ったのは初めてだったから

 体に負荷がかかったのかな?」



ぐったりする私を支えつつ、リードは苦笑した。



「アカネ、魔力の制御乱れてるよ」


「今むりぃ…」


「仕方ないな…僕は気持ちいいからこのままでもいいんだけど、

 こいつが無理そうだ」



風見鶏がプルプル震えている。

ごめんね、でも今は魔力に力が入らない。

変な言葉だけど、そうとしか表現できない感覚だった。

掴まれたままの手首からリードの魔力が流れ込む気配がする。

魔力に力が入らずフルオープン状態の私にまた苦笑しつつ、リードが制御を代わってくれた。



「全く、手がかかるご主人様だな」


「ごめぇん」



こればっかりは言い返せない。

今日はリードに甘えてばかりだ。

後で何かお礼しないとなぁ…



「でもアカネの仕事はこれからだよ。

 まだ森の中で魔物と戦っている人達がいる。

 冒険者達は道を知ってるし、

 うまく逃げてるから多分大丈夫。

 近衛隊は森で迷っている人たちもいそうだし、救助に行こう」


「おー!」

しばらくけしからん可愛さの茶色いもふもふとレッツゴーする予定なので、書き溜めたものを今日のうちにいくつか上げてしまおうかと思います

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