038すけこましと風見鶏
シルフドラゴンが、コゼットお姉様を…?
さっと血の気が引いた。
お母様も厳しい表情になったけれど、エレーナの様子から予想していたのか顔色が変わることは無い。
「それは確かな情報なのね?」
「使者の方から聞いたのです。
お使いで朝市に行っていたのですが、
帰り際に東関門の近くを通ったら
ぐったりした使者様を相手に兵士が大慌てしていて…」
そこで事情を聞いて、そのまま関門からここまで走ってきたのか。
それは息が切れるわけだ。
屋敷の門が騒がしいという事は、使者もそこまで来ているのだろう。
今頃、お父様達は当人から詳しい事情を聞いているはず。
「シルフドラゴンが旅隊を襲うなんて…妙ね」
お母様がぽつりと呟いた。
確かに…
引っかかるところの多い話だ。
ドラゴンは一般的に魔物の一種として扱われているけれど、厳密には違う。
魔物が比較的近代になってから出現するようになったのに対し、ドラゴンは太古から存在し、人と共生してきた。
その知能は高く、独自の価値観と崇高な意識を持っていると言われ、ラカティ連合国などはドラゴンを崇拝する文化があるとも聞く。
しかし魔物が現れるのと同時期からドラゴンも人を襲うようになってしまったそうだ。
原因は未だに分かっていない。
シルフドラゴンももちろんドラゴンの一種。
その体は1メートル程度で、尻尾を合わせても1.5メートルに満たないのでドラゴンの中ではかなり小柄な部類だ。
ただしシルフと名が付くことから予想されるとおり、自在に風を操るその飛行能力は俊敏かつアクロバティック。
もちろん風魔術も得意だ。
攻撃力こそ高くないものの、常に50体以上の群れで行動するので、相対することになると非常に厄介。
通常は"風の吹き溜まり"と呼ばれる常に気流が不安定になる特殊なスポットを縄張りとしていて、そこを侵さない限り、人を襲ってくることは無いはずなんだけど…
「何か怒らせるようなことしたのかな…」
「パラディアの王室部隊がわざわざ
風の吹き溜まりを刺激するような事を
するとは思えないけどね」
私の呟きに、リードもそう言って頷いた。
お母様はゆっくり首を振り、私達に微笑む。
「ひとまず、お父様とシェドに任せましょう。
きっと大丈夫よぉ。
アカネちゃんとリードはお部屋に戻りなさい」
そう言って私達をダイニングから追い立てつつ、自身も足早にどこかへ向かって行った。
慌しくなる屋敷の気配に、否応なしに不安が広がる。
大丈夫だろうか、お姉様…
直接的な交流が少ないとはいえ、しかも変な愛情を向けてくれているらしいと知ってしまったとはいえ…大切な姉には違いない。
これまで誕生日に受け取ってきた豪華なプレゼントの数々も、建前ではなく愛情ゆえだと今は知っているし、そこまで愛情を向けてくれる姉に何か返したいとも思う。
…できるなら、助けに行きたい。
行きたいけれど、いかんせん得られた情報が少なすぎた。
「リード、どう思う?」
隣を歩くリードにそう尋ねる。
すっかりこの屋敷での生活に慣れた彼は、今日も今日とて朝日に見目麗しい顔を惜しげもなく晒し、その赤い瞳をこちらに向けて私を身悶えさせた。
…私はいつになったらリードの目に慣れるんだろうか。
未だにその瞳を見ると、胸の奥がしびれるように痛み、強く惹かれる。
私が好きなのはファリオン、ファリオンだから!
イケメンだからって浮気なんかしないんだから!
そう内心で唱えつつ早まる鼓動を押さえつける私を他所に、リードは視線をそらしてうーん、と唸る。
「そうだな…コゼット様達の馬車は今頃
東のウィルタネン街道を走っている頃だと思うんだけど…
その周辺でシルフドラゴンが生息していそうな山なんて…」
リードは少し考えてから『まさかな』と呟いた。
「何、心当たりがあるの?」
「いや…上空を通りがかった群れを刺激すれば
可能性はあるかな、と思って」
「上空って…」
真上に魔法を誤射したとか?
そんな撃ち損じと群れの遭遇なんていう奇跡的な状況がそうそう起きるだろうか。
そんな話をしていたところで、エレーナもダイニングから出てきたのを見て呼び止めた。
「エレーナ、大丈夫?」
「は、はいぃ。
お見苦しいところをお見せして申し訳ないのです」
「事態が事態だもん、仕方ないよ。
ところでさ、もう少し詳しい状況って分からない?」
ストレートにそう尋ねると、エレーナは困ったように苦笑した。
「アカネ様にそこまで言うわけにはいかないのです」
「ここまで聞かせておいて今更じゃない?」
「詳しく聞いたらアカネ様は何かやらかしそうなので…」
「な…」
うっかり絶句すると、『だからこそ奥様も私にそこまでしか話させなかったのですよ』と続けられた。
「それなら何で少しだけ話を聞かせたりするのよ!」
「完全に隠したら、それこそ調べまわろうとするのが
アカネ様だからじゃないです?」
「……」
随分な信用だ。
だけどぐぅの音も出ない。
それが私だ。
とはいえお母様にもそんな風に思われてるならショックだわ。
お母様の前ではお利口にしてたつもりなのに。
「夫人もアカネの猫かぶりくらい分かってると思うよ。
分かってる上で被った猫ごと可愛がってるだけで」
リードが追い討ちを掛けてくる。
…不本意なのに、『可愛がられている』という事実を改めて言われるとにやけちゃう。
まあただ…大まかな情報を得るだけ得て、部屋で大人しく無事を祈るような殊勝な人間ではない、ということまではバレていないようだ。
チラリとリードを見て、『何とか聞き出して』と視線で訴える。
人を口車に乗せる能力なんて私には無い。
でもリードなら…一介のメイドくらいうまく言いくるめられるのでは。
仕方ないなぁとばかりに苦笑したリードは、エレーナの耳元に唇を寄せて何か囁いた。
途端にエレーナは顔を真っ赤にして唇を震わせ、がくりと膝を突く。
「なっ…何でも聞いてくださいぃぃ…!」
え、この年にして色仕掛けとか身につけてるの、この男。
思っていたのと違う方法でメイドを陥落させた少年から、一歩距離を置いた。
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情報を全て吐いたエレーナがその場を去り、再び二人残された廊下の真ん中。
「エレーナの口はあんまり固くないとはいえ…
一体何を囁いたのよ、このすけこまし」
「アカネ…一応普通の令嬢のフリを今後もするつもりなら、
その言葉遣いは何とかした方がいいよ」
普通の令嬢のフリって何だ。
私はどこからどう見ても普通な、どこに出してもパッとしない令嬢だ。
「ああ、そうだ。
エレーナに報酬を渡さないと」
思い出したように隣のリードが呟く。
あの流れでその報酬とやらがお金みたいな分かりやすいものとは思えない。
エレーナちゃん18歳を腰砕けにさせるような約束をしたのだ。
今日からエロ魔王って呼んでやる。
軽蔑の眼差しを向けようとリードの方へ振り向くと、長い指が私の顔に伸びた。
そのままスッと顎を掴んで顔の向きを元に戻され、晒した頬に柔らかいものを押し当てられる。
…ん?
「アカネがどんないやらしい事を想像したのかは知らないけど、
彼女が何の同盟作ったか忘れてない?」
そんなことを耳元で囁かれるけれど、状況を理解したと同時に頭へ上った熱は、その言葉の理解を阻む。
真っ赤な顔で頬を押さえて言葉になっていない文句を喚く私と、楽しげなリードの姿は、物陰に潜むリドアカ同盟員達をさぞ楽しませたことだろう…
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「リードは私の願いを叶える義務があると思うの」
「僕はアカネを守りたいんであって
甘やかしたいわけじゃないんだけどな」
「エレーナを白状させるのに協力しておいてそれを言うの?」
「それはまあ、僕も詳しく知りたかったし。
利害が一致しただけだよ」
ここは私の自室だ。
今はリードと二人…たっぷり距離を置きながらソファに腰掛けつつ話をしている。
嫌味をしれっと交わすリードへの苛立ちを声に乗せ、私は窓を指差した。
「いいから脱出作戦を練るのよ!」
「聞いてないね?」
「うるさいな!
勝手に人のほっぺたに、ちゅ、ちゅーしておいて!」
あ、どもっちゃった。
余計に顔が熱くなる。
『変なとこ純情だなぁ』とニヤニヤする男に余計腹が立った。
リードはエレーナから情報を引き出す対価に、私にほっぺチューをすると約束したのだ。
私の了承も無く!
一言の相談も無く!!
そんなことで顔を真っ赤にして悶え、素直に全部白状するメイドもどうかしているが、もうあまり変な同盟に対して深入りしたくないのでそこは追及しない。
物陰からエレーナ以外にも5人位メイドがこちらをこっそり見ている気配がしたけど無視した。
仕事しろと言いたかったけど無視した。
シェドアカ同盟もリドアカ同盟もどんどん人数が増えている気がしてるけど気にしないし、詳しい人数は聞いたりしない。
怖いから。
それはさておき。
「急がないと…お姉様達が襲われてから
もう何時間も経ってるんだよ!」
エレーナから聞いた話によると、使者役の騎士が本隊から離れたのは昨日の夕方。
本隊はそこで野営に入り、翌朝出発すれば昼過ぎにはこちらへ着ける予定だった。
本隊が早めの野営準備を始める中、彼は単独で騎乗移動し、使者として少し早く市街地に着けるよう、距離を稼いでいたそうだ。
本隊の前を行く先遣隊も追い越し、急げばあと三時間足らずで関門へ至れる距離まで来ていたという。
そしてすっかり日がくれ、彼も野営に入って寝付いた頃、本隊に預けていた鷹が飛んできた。
それが明け方の四時ごろのこと。
その鷹は彼が飼い慣らしているもので、本隊に何かあれば、それを知らせる為に主の元へ飛んでいく。
鷹自身が風魔術によるものと思われる切り傷を負っていた事や、シルフドラゴンの特徴である真っ白な羽毛をその鋭い爪に食い込ませたままだったことから、使者は事態に気付いた。
鷹の飛行速度を考えても、おそらく襲われてからもう一時間は経っている。
助けに戻りたい気持ちを抑え、一刻も早くお父様達に状況を知らせるべく馬を飛ばしたらしい。
エレーナにこれらを伝えてすぐ本隊へ戻ろうとする彼を止めるのが大変だったそうだ。
くたくたの彼が戻ったところで被害者が増えるだけ。
万が一の事を考えれば、事情を知るパラディア王国側の人間が一人くらいは無事で居てもらわないといけないという外交的な話もある。
そして今は朝の八時。
お姉様達が襲われたのを三時頃とするなら五時間も経っている。
ついている近衛兵達がそう簡単に全滅するとも思えないし、シェドの手配した冒険者達も警戒に当たっていたはずだ。
よっぽどの事は無いとは思うけれど…
安否の連絡が来るまでの間、じっと待っているなんて私は耐えられない。
助けに行くという選択に迷いの無い私を、リードは半眼で眺める。
「普通の令嬢は、姉の窮地に
自ら駆けつけたりはしないよ?」
「普通の令嬢と私とで違うのは"できる"ってとこだけだよ。
私は強力…すぎる魔力がある。
もしかしたら普通の魔術師や騎士じゃ何とかできない
ドラゴンや魔物の群れも、何とかできるかもしれない。
他の令嬢だって、もしそれができるなら家族のピンチに
じっとしてなんていられないんじゃない?」
その心根は決して特別なものじゃない。
そう訴えると、リードは溜息をついた。
「放っておいたら暴走しそうだ。
それなら目の届く範囲でやんちゃしてくれた方がマシか」
それこそ令嬢に対する表現じゃないと思うんだけど…
下町の悪ガキ扱いか。
…まあ、それでもいい。
魔王様が味方ならドラゴンなんて怖くないさ。
待っててね、お姉様!
==========
「うわーっ!すごーい!」
青空に私の声が吸い込まれる。
私達は街がこぶし大にしか見えないくらいの上空を飛んでいた。
頬を爽快な風が鋭く撫で、だというのにその身が凍えることも無い。
現地で誰かに見つかっても正体がわからないように、私たちは顔を大判のストールで隠している。
ひっ迫している事態だと分かっていても、空を飛んでいることや隠密みたいな状況にうっかりテンションは急上昇だ。
「アカネ、暴れないで。
あと、魔力の供給を切らないで。
保温の魔術は継続して使い続けないと
いけないから疲れるんだよ」
リードの『疲れる』という表現は、魔力を使うことで破壊衝動が起きている事を指す。
二人で決めた隠語だ。
カルバン先生の魔術訓練でリードも魔術をよく使うようになり、私が魔力を流さなくても10分程度なら耐えられることが分かった。
そうなれば私の知らないところで魔力を使う何かが起きても、いくらか安心だ。
10分以内に私と落ち合えばいいだけ。
そこに他の誰かが居たとしても、『疲れた』というキーワードさえ出してもらえれば、私は気遣う素振りと共にすぐに魔力を流せばいいわけだ。
人に見つからないよう、かなりの高度を移動している私達。
夏とはいえ、それなりに寒かった。
だからリードが風と炎魔術の複合で保温をしてくれているんだけど、やっぱり継続して魔術を使うのは影響が大きいようだ。
「この上飛ぶのにまで魔力を使うってなったら
大変だっただろうね。
この子には感謝しないと」
「まあ…こいつもあんまり飛ぶのが
得意なわけじゃなさそうなんだけどね…」
飛んでいるのは私達の力じゃない。
いや、正確にはリードの力か。
魔王は何でも魔物に出来るし、魔物なら従えることができる。
もし飛べる魔物が近くにいるならそれを従えても良かったんだけど、探している暇は無いし、ばれない様に抜け出す為には窓からそのまま脱出できた方がいい。
なんせ私、身体能力は普通だからね。
リードみたいに屋根を伝って歩いたり気配を消して門外へ行くなんて無理。
そこでリードが飛べる魔物に変えられそうな物を屋敷内で探してくれた。
花瓶とか皿とか何でもいいじゃないかと思ったけれど、うまくイメージできないので魔物化に失敗すると途中で落ちる可能性があると言われた。
ぜひともきっちりイメージできるものでお願いします、と頼んだところ…リードが持って来たのは風見鶏だった。
…え、風見鶏、飛ぶイメージあるっけ?
屋敷で一番高い屋根につけられていた風見鶏。
魔よけの意味合いが強いあれを折っちゃって後から変な騒ぎにならないか心配だったけど、もう既に折ってきちゃったんだから仕方ない。
そして乗り込んだ後にふと思いついて『空飛ぶ絨毯とかはダメだったの?布は風に舞うし、絨毯ならこの部屋にもあるしさ。イメージできなかった?』って聞いたら『早く言え』って顔を赤くして怒られた。
そうか、この発想はこの世界には無かったか。
あれはアラビアンナイトの世界観だもんね。
そんなわけで誕生したのが空飛ぶ風見鶏モンスターだ。
まさか風見鶏が空を飛ぶなんて、本家の鶏もびっくりだろう。
そのボディは元の金属製のまま巨大化し、少し大きめの翼と長い尾を持った、馬くらいの大きさのある鶏となっていた。
乗り込んだ私たちの姿も見えないように、ステルス機能付だ。
おかげで誰に見つかることもなく、部屋の窓から脱出できた。
能力としてはそれ以外特に付与されていないため、温厚で大変安全な騎乗用の魔物だ。
そんな風見鶏に、リードが私を後ろから支えるような形で二人して乗っている。
一応金属製だけあって、体重を預けるのに不安はなかった。
ただ…魔王様の改造により、飛ぶ能力をしっかり付与されているはずなんだけど、飛行には向かないであろう金属製の鶏の羽をバタバタ動かしている様はなんだか必死で涙を誘う。
もしかしたらリードの中にも風見鶏が飛ぶことに違和感があったのかもしれない。
その結果がこの苦しそうに飛ぶ魔物の姿なのだとしたら、この子には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
ごめんね、全部終わったらご褒美に…えぇと、油差してあげるから。
「それにしても、アカネはこれ怖くないんだね」
リードがなんだか呆れたような声でそう言う。
これとは…どうやらこの高さのことを指しているようだ。
「リードは怖いの?」
「怖くないけど…普通の女の子は怖がるでしょ」
『これで怖がって諦めてくれたら楽だったのに』というリードの呟きに、まだ諦めさせるつもりだったのかとこちらが呆れる。
「残念ながら、元の世界でもこれくらいの高さを
飛ぶことはあったんだよ」
「…どういう生活してんだよ」
リードさん、素が出てますよ。
「普通だよ、普通」
「普通、ね…」
『お前の言う普通ってどうせ』と言わんばかりの声音だった。
失礼な。
まあ、飛んだことがあるとはいってもそれは飛行機で、こんな安全ベルトも無く風を感じる乗り物に乗ったことなんて無い。
それなのに怖くないのは、きっとリードと一緒なら大丈夫なんて信頼感があるからなんだけど…
言ったらからかわれそうだから言わないでおこう。
「ところでさ、置いてきた身代わり…大丈夫かな?」
「カルバン先生並の魔術士が来ない限りは
ばれないとは思うけど…
スターチス夫人あたりに見られたら
何かしらの違和感くらいは感じ取られるかもね」
こんな状況なので今日のレッスンは休みになった。
今私達の自室には、模範的な貴族の子女として大人しくお姉様たちの無事を祈っている私達が居る…ことになっている。
実際そこに居るのは、リードの闇魔術によって生み出された幻術の身代わりだ。
姿かたちは完璧に同じ、触れもするし簡単な受け答えだってする。
今日ばかりは曖昧な返事や固い表情だったとしても、無理もないと受け取られるだろう。
だけど確かに、お母様はちょっと心配かも…
「ま、ささっと戻ってきたらいいんでしょ?」
「ささっとドラゴン退治をする令嬢か。末恐ろしいね」
「細かいことはどうでもいいの!
街道が見えてきたね、あのへんかな?」
リードは『細かいかなぁ』と首を傾げながら、視線を落とした。
セルイラの街はぐるっと石造りの防壁に囲まれている。
そこから東西に真っ直ぐ伸びる街道があり、東のものがお姉様達が襲われたとされるウィルタネン街道だ。
東に行くほど岩場が増え山に挟まれる形となり、市街に近づくほど広大な森や緑の増える街道で、本隊は大きな森の間にある少し開けた場所で野営をしていたらしい。
今頃お父様やシェドも捜索隊を組み、このあたりへ向かってきていることだろう。
みんなが来るまでにお姉様たちを見つけて安全を確保してあげられたらベストだ。
そして眼下を見下ろす私達は…硬直した。
「…ねえ、リード?これ、普通?」
「んなわけねーだろ…」
思わずカタコトになる私と、素が出るリード。
シルフドラゴンに襲われたと聞いていた。
ならば群れに襲われたと予想できたし、それなりの数がいるだろうと思っていた。
だから、森の上空を旋回するシルフドラゴンの数が100や200じゃきかなさそうで、真っ白な毛の固まりに見えたとしてもまだ驚かない。
だけど…大きな森から溢れ出るように街道へ殺到する魔物の群れ。
広範囲を真っ黒く塗りつぶすその様は、森に住む魔物が全て逃げ出してきたんじゃないかと思えるほど。
数なんて…考えたくもない。
地獄絵図ともいえる光景が眼下に広がっていた。




