030魔王の天敵
あの女性と何があったのかは知らないが、さすがに顔も見ずに逃げ出すのは失礼だろう。
リードを窘めようとしたところで…
「にがさないよ」
ぴたりと。
まるで真横に止まっているかのように、その声は私とリードの間で聞こえた。
何を思う間も無く背筋を冷たいものが駆け上がり、口からおかしな声が漏れそうになる。
それを阻止したのはリードの大きな舌打ちだ。
強く腕を引き寄せられる感覚の直後、ぐるりと三半規管が回転する。
大通りの真ん中。
先ほどまで私たちが居たはずの場所に、飛びつこうとしていたらしい姿勢のまま静止しているお団子の女性。
そして飛び退いた先で険しい表情のまま彼女を睨むリード。
いつの間にか姫抱きされている私。
何が起きたのかと目を白黒させている私をよそに、リードは私の耳元に切羽詰った声で囁いた。
「アカネ様、魔力を流していてください。
僕の魔術全てを使ってあいつを止めます」
「セルイラごと滅ぼす気?」
言い訳の余地無く魔王認定されるよ。
しかしリードの物騒な提案に曖昧なツッコミしかできなかったのは、あの女性がおかしいことがハッキリ私にも分かったからだ。
さっき聞こえた『にがさないよ』の声が未だに耳に残っている気がする。
何あれ、ホラー?
あんなことされたら誰だって次回から振り返らずに逃げ出すわ。
しかしゆっくり顔を上げた女性はリードを見て…とても悲しそうな表情をしていた。
「あぁ…やっぱりヴィンリード君…
しかし君…なんて姿に…」
予想外の反応に面食らう。
なんだ、なんか美人教師が教え子の不出来を嘆くような感じだぞ。
リードは物凄く嫌そうな顔をしていた。
そこでようやく追いついてきた護衛兵二人が慌てた様子で私達の間に割って入った。
それを見てリードが我に返ったように私を下ろす。
護衛の一人…銀髪無表情、普段は影のように無口なアルノーから『突然離れないでください!』と珍しく大声で怒られた。
ごもっともです…
アルノーはこういう外出時によく護衛としてついてきてくれるけれど、普段は必要時以外何も話さない。
まだ20代前半で若いはずなんだけど、妙に達観した雰囲気で怒っているところを見たことが無かった。
まぁでも…守られるべき対象がこんな勝手をしでかせば怒るのも当然だよね。
危険人物と出くわしたならそっと護衛にそれを伝え、対応を任せるのが正しい対処法だ。
リードは素直に謝罪した。
そしてもう一人の護衛…アルノーと同年代の金髪くせっ毛がチャームポイントな細マッチョ、エドガーがその間に女性へ声をかける。
エドガーもよく護衛として付いてきてくれる人だ。
アルノーとは対照的に社交的な人で、交渉事はエドガーの仕事だった。
「失礼、レディ。
私はエドガー、このお二人の護衛です。
お二人に何か御用でしたか?」
「お二人…?」
その言葉を受けて、女性は初めて私の姿に気付いたように目を丸くして姿勢を正した。
「これは失礼を。
私はローザ・ベネディクトと申します。
お嬢様はアカネ・スターチス様とお見受けしますが…」
何故か胸に手を当てる男性貴族式のものだけど、きちんと挨拶してくれた。
私の容姿はそんなに売れていない。
おそらくさっきの開会式で私を見たんだろう。
こうして見ると普通の人だ。
エドガーがこちらにチラリと目配せしてきた。
あ、名乗ってOK?
「ええ、そのとおりです。
初めまして、ローザ様」
私も礼をして返す。
エドガーが挨拶を促したという事は、相手に敵意が無いか、相応の立場の方と判断したんだろう。
「この女に礼儀は不要ですよ」
「こら、リード」
ぼそりと苦々しげに呟くリードを諌めるけれど、しっかり聞こえてしまっていたらしい女性は肩をすくめた。
「久しぶりに会ったというのにご挨拶だね。
私が君に何をしたって言うんだ」
「その無自覚さが凶悪だっつってんだよ」
リード、リード、素が出てる。
落ち着いて。
ローザはその言葉を受けて雷に打たれたように体を硬直させ、額を押さえた。
「あぁ…言葉遣いまで乱暴になって…
いや、待てよ、あの頃の君がその話し方だったら…」
黙り込んでしまった。
そしてうっとりしたような…いや、なんかうっとりを通り越して公衆の面前でするべきでないような表情になっている。
幼いリードなら乱暴な言葉遣いでも悪くないと感じたようだ。
…うん、もしかしてこの人って…
しらっとしたこちらの空気に気付いたか、ローザは照れたように小さく咳払いをして表情を戻した。
その仕草だけを見れば、クールビューティの表情が崩れた瞬間みたいな魅力を感じるんだけどな…
あれじゃあなぁ…
「アカネ嬢、少し場を移してお話できませんか?」
ローザは少し周囲を気にしながらそんな提案をしてきた。
つられて周りを見てみれば、いつの間にやら人だかりが。
無理も無い。
護衛を振り切って走り出し、お姫様だっこをやらかす少年少女。
それを鬼のように追いかける女性。
私だって思わず野次馬したくなる。
しかしその提案にリードは素早く首を振り、エドガーも厳しい表情で女性に向き直った。
「申し訳ございませんが、お嬢様へご用があるのでしたら
領主邸へしかるべき手続きを取っていただきたい」
「領主様にお話を聞きたくて
そのしかるべき手続きを取ろうとしたら
丁重にお断りいただいてしまったんだけれど?
それともスターチス家はご令嬢の方が
窓口に近いのかな?」
鼻で笑うその表情は彼女によく似合っていて、一気に冷酷な印象を受ける。
それにしても…断られた?
お父様が面会を拒否したってこと?
「あの、貴女は…」
何者か、と問おうとする私を阻むように、リードがぐいっと手を引っ張った。
「行きますよ、アカネ様」
「え、でも…」
「待ちたまえよ、そう邪険にすること無いだろう。
取って食おうってわけじゃない」
ずんずん歩き出すリードと、引っ張られる私。
それを悠然と追いかけてくるローザ。
戸惑う私に、ぴったりくっついて来ているエドガーがそっと耳打ちをした。
「お嬢様、あの方は王立研究所のマイスターです」
「えっ」
「胸元にそのバッチがあります。
マイスターバッチの複製は厳しく取り締まられておりますので、
領地に入る際にも検められているはずです。
本物である可能性はそれなりに高いかと」
王立研究所は国内における研究職の最高峰。
魔物研究所も王立研究所の一機関だ。
マイスターは各分野で突出した成果を収める研究者に与えられる称号。
相応の身分として扱われ、専門分野の事案が起きた場合には貴族だって頭を下げて協力を仰ぐ相手なわけで。
まぁつまりは無碍にしていい人じゃない。
お父様、そんな相手の面会を断ったのか…
いくらちょっと特殊性癖の人だとしても、そう滅多に面会を断らないお父様なのに…
早足で歩く私達をローザの声が追いかけてくる。
「少しお話を聞かせて欲しいだけじゃないか。
たとえば、大きな氷柱を」
その言葉を聴いた瞬間、隣からただならぬ気配を感じて、とっさに繋いだ手をギュッと強く握った。
「リード、ダメ!」
私の言葉が響いたのと、ローザの目の前に無数の氷槍がつきつけられたのは同時だった。
手をローザに向けて掲げたまま険しい表情をしているリード。
その手が振り下ろされた瞬間、ローザの体中に無数の風穴が空くことになるだろう。
リードの目にほの暗い影を感じて、慌てて魔力を流し込んだ。
「落ち着いて」
そっと囁くと、リードはゆっくり目を閉じた。
再び開かれた瞳にもう影は無かったけれど、険しい表情は変わらない。
ローザは驚いたように目の前に広がる氷の群れをまじまじと見た後、リードにちらりと視線を戻した。
「どうしてそう敵意を向けられるのかな。
私の求める先にある叡智は君達にだって恩恵をもたらすのに」
「黙れ。
お前の探究心が他人を傷つけることもあるんだ」
リードの唸るような返答に、ローザは『おや』と片眉を上げる。
「知ったような事を言う。
私が何をしたって言うんだ」
「別に…」
その時、リードの瞳が少し揺れたように見えた。
「リード…」
不安になって繋いだ手を軽く揺らすと、気付いたリードが私に優しく微笑む。
「すみません、怖がらせてしまいましたね」
その言葉とともに、ローザの前から氷柱が消え去った。
そのやり取りを見ていた彼女は大きな溜息をつく。
「なぜその笑顔を5年前私に向けてくれなかったんだ」
「黙れっつってんだろ」
どうどう。
空いている手でそっと肩を撫でてやる。
リードは小さく咳払いをした。
「貴女の研究内容やその功績を否定はしません。
ただし…」
リードがちらりと私を見た。
「僕の大切なものに手を出すことがあれば、
マイスターであろうと容赦しませんのでご承知を」
ストレートな言葉だ。
その『大切』に含まれる意図は甘酸っぱいものなんかじゃない。
リードの私に対する謎の執着を意味しているだけだ。
それでも…やっぱり私ってちょろいんだろうか。
うっかりキュンとした。
ローザはリードから私に視線を移し、なめる様にじぃっと見た後、肩を竦めた。
「わかった、今日のところは引き下がるとしよう」
『アカネ様、またお会いしましょう』なんて言葉を残し、存外あっさりとローザは去っていった。
緊張が解けてふぅっと肩を弛緩させると、周りからはやし立てる声が相次いだ。
リードを知る商人たちをはじめ、良くわかっていないであろう人達からも『かっこよかったぞー!』とかなんとか声をかけられる。
事態収拾を護衛に任せ、リードは疲れたように首を振った。
「すみませんアカネ様。
我を失いました」
「よっぽど苦手なのね…
あの人、結局何者なの?」
「一定年齢までの美少年を偏愛する悪癖持ちの女です」
「いや、それは何となく分かったんだけど…」
やっぱりあの人ショタコンか。
今のリードは好みから外れてしまったんだろう。
凄く悲しそうだった。
同情はしにくいが…
「そうじゃなくて、なんのマイスターなのってことよ」
その問いにリードは私から少し目線をそらし、小さく呟いた。
「聖遺物研究です。
…面倒なのに目をつけられました」
納得する。
あの時彼女は『大きな氷柱』と口にしていた。
私達に話を聞きたい氷柱のことと言ったら、この前のグリフォン事件のことしかない。
お父様が面会を断るわけだ。
「聖遺物の話ってもう出回ってるのかな…」
「氷柱の目撃者が多いので、
変な憶測が飛び交う前に噂くらいは流しているはずです。
とはいえまだ数日ですから…
あの人はたまたまセルイラにいたんでしょうね。
フットワークの軽い学者らしく、
各地を転々としているようです。
そして行く先々で自分好みの少年を見つけては
鼻息を荒くしているような人物です」
最後の情報が残念すぎる。
「昔のリードも彼女のお好みだったのね…
何されたの?」
「何というか…初対面の時にはただ鼻息の荒い変な女だな、
くらいだったんですが…
その後、行く先々で出くわしてはにじり寄って来るんですよ。
絶対触れないというポリシーがあるらしく、
指一本触れられたことは無いんですが…
撒こうとしてもあの勢いでついてきて気付けば背後にいるので、
あの女の興味が他へ移るまでノイローゼになりそうでした…」
「それは…」
指一本触れてないにしても少年にトラウマを残す立派なストーカー犯罪。
何とかして辞めさせたいところだ。
「まぁでも今のリードには興味が無くなったみたいだし、
そこは良かったじゃない」
しかしその微妙な励ましに、リードはぐったりした足取りのまま弱々しい笑みを浮かべるだけだった。
「リード、もう帰る?」
「は!?嫌ですよ!」
遊ぶ気分ではなくなってしまったのでは、と気遣うと、物凄い勢いで拒否された。
ちょっと面食らう。
「いや、さっきので疲れたかなって…」
「あの女の為にせっかくの祭を諦めるなんて冗談じゃありません」
おや、まさかの祭好き?
お母様に言われたから来ただけなのかと思ってたけど、実は楽しみにしてたのか。
「アカネ様こそ、大丈夫ですか?」
「え?私は別に…」
ひそっと耳打ちされる。
「かなり魔力制御を頑張っていらっしゃるようなので。
よろしければ制御を代わりましょうか?」
そっちの話か。
そういえば制御代われるって言ってたな。
「でもこんな往来でぶっつけ本番は危なくない?」
本当に大丈夫なのか試したことは無いのに…
しり込みする私に、リードは微笑んだ。
「アカネ様、僕を誰だとお思いに?」
そうでした。
繋いだままだった手から、くすぐるように優しくリードの魔力が流れ込んできた。
むず痒さに身悶えたくなるのを堪えながらもその魔力の流れを受け入れ、ゆっくり魔力の制御を手放していく。
「どうかな?」
「うまくいっているかと」
周囲の人々はそれまでと変わりなく私達の横を通り過ぎていく。
強いて言うなら手を繋ぐ姿を微笑ましそうに見る人がいるくらいだ。
後ろに居る護衛達も何も気付いていない様子。
私の代わりに私の魔力を押さえ込んでくれているはずのリードも平然としていた。
「…大丈夫なの?」
「労せずとはいきませんが、大丈夫ですよ。
でも改めて…凄まじいですね。
これを日頃から抑え込んでいるのですから
それはお疲れでしょう」
小声でそう言いつつ、労うようにぽんぽんと頭を撫でられる。
子ども扱いがなんだかくすぐったい。
周囲の視線もさらに生ぬるくなった気がする…
その後、街中にある屋台の料理を食べたり(毎回リードが毒見と称して一口つまんでくる)、魔術を駆使した大道芸人のパフォーマンスにおひねりを投げたり(リードが対抗して何かやろうとするのを止めるのが大変だった)…と満喫した。
…ていうかリード?
「思った以上に楽しそうだね?」
「…問題が?」
ムッとしたように睨まれて、慌てて首を振る。
「いや、そうじゃないんだけど…
なんとなくリードってこういうの
斜に構えてあんまりはしゃがないイメージだったから」
「はしゃいでません」
少しだけ顔が赤い。
ムッとしたのではなく恥ずかしかったようだ。
無自覚だったのね。
カワイイとこあるじゃん。
そんな話をしているとちょうど広場まで戻ってきた。
このあたりで、一度手を離す事にする。
制御の主導権が戻り、ぐっと負荷が増えた。
いや、でも助かったなぁ。
おかげで気兼ねなくお祭楽しめたし。
リードが少し首を回しているので、やっぱり疲れたんだろう。
「ありがとね、リード」
「いえ…」
なんだか仏頂面をしているので首を傾げる。
「どうかした?」
「…以前セルイラ祭を見に来たときはここまで
思うように見て回れなかったので、
ゆっくり見てみたかったんです」
…さっきの話を引きずっているようだ。
別にはしゃいだっていいじゃないか。
けれどからかうと更に尾を引きそうなので、相槌を打つにとどめることにする。
「そうなんだ。
お父さんのお手伝いとかで忙しかった?」
「まあ、そんなところです。
アカネ様は…思ったより落ち着いてますね」
「そう?わくわくしてるよ」
あちこちに花が飾り付けられ、女性は花冠をつけて歩いている人も多くいる。
市場には珍しい異国の物も並んでいるし、見ていて飽きない。
時々ピリピリした警備兵が路地裏へ向かっていくので、一本入り込んだ裏路地は別のお祭り騒ぎが起きているんだろう。
兵士たちは大変そうだけど…個人的にはそれも含めて、全ての非日常感がわくわくする。
元の世界でもお祭は好きだった。
「まぁ、ただ…、
セルイラに来てからは毎年見に来てるしね」
舞踏会に参加するのは今年が初めてとはいえ、市中の祭には今までも母につれてきてもらっていた。
そう言うと、リードは『あぁ』と頷き、護衛に聞こえないよう声を潜める。
「そういえば幼少からこの世界で過ごした記憶をお持ちなんでしたね」
私のこの世界での記憶のことは、お互いの正体を明かしたあの晩に説明してあった。
「うん。確か初めて参加した時はもっと大はしゃぎしてたよ。
フラワーシャワーとか花冠なんかも初めてだったしね」
「元の世界ではこういった祭は無かったんですか?」
「お祭自体はあったけど、かなり文化が違ったからなぁ」
この世界は基本的に西洋ファンタジーだ。
お神輿や太鼓はないし、花火も…今のところ見たこと無いな。
煙に色がついただけの爆発物を空に打ち上げたりとかはあるけど。
「でもこうして人がたくさん集まって、
露天や出店が並んでるのは同じだよ。
お祭の空気は大好き」
そう言って微笑むと、リードも少し微笑んだ。
「僕もです」
珍しく無邪気な笑みに、なんだかほっこりする。
リードも年相応なところがあるんだなぁ。
「では最後にお土産でも」
「え?」
そう言ってリードは近くにあった山車から綺麗な白い花を抜き取った。
ガーベラかな?
そしてその場に恭しく跪き、その花をこちらへ差し出す。
周囲の人がわぁっと声をあげ、劇中のワンシーンのような私達を取り囲んだ。
護衛も空気を読んで一歩下がる。
好奇の視線が集中するのを感じて顔が熱い。
最初に会った日のハンドキスを思い出した。
なんなの、リードって注目されるのが好きなの!?
「も、もうっやめてよそういうの!」
慌ててリードの手から花を受け取る。
周りからはやし立てる声が響いた。
「おや、こういうのお好きだと思いましたが」
「人に注目されるの苦手なの!」
「なるほど、そこは想定外でした。
しかしもうじき社交界デビューをされる
令嬢としては困った性質ですね」
「やめてよ、考えないようにしてるんだから…」
今日くらい忘れさせて、と肩を落とす私を、リードが宥めた。
「まぁまぁ、当日は僕もいますから」
「あいさつ回りで大忙しだと思うけど…」
社交界デビューの私もリードも、当日はお互いにかまっている暇などあるまい。
「アカネ様が困ってたらすぐ向かいますよ」
「あいさつ中でも?」
悪戯っぽくからかうようにそう言うけれど、覗き込んだ先のリードは真剣な顔をしていた。
「僕は貴女を守る為に生きてる」
予想外の表情と言葉に、思わず息を呑んだ。
そんな私に相好を崩して、リードは私持つ花にそっと触れた。
一瞬、ふわりと花が光る。
「…何したの?」
「おまじないです。
当日はその花を身につけてください」
「…一週間後だよ?」
気持ちは嬉しいけど流石に枯れる。
「言ったでしょう。おまじないって。
枯れないようにしました。
貴女を守る花です」
枯れないようにって…一体どうやって。
そう問いたいけれどここで聞くわけにもいくまい。
どんな属性の魔術でも不可能に近い所業だ。
魔王特有の能力ならこんなところで暴けない。
まぁでも…私を守る花、か。
ちょっとロマンチックだな。
花をじっと見つめ、口元が緩む。
「喜んでもらえました?
アカネ様は花がお好きなんですよね」
そんな私の様子を見て、リードも機嫌が良さそうだ。
…確かに嬉しい。
でもそれって、花が好きだからって言うか…
「あー…そっか」
「どうかしました?」
ふと気付く。
私が今まで花を特別好きでもなかったのって、もらったりする機会があまり無かったからかもしれないな…
この世界でも、両親が私の為に花壇や温室を設えたりはしてくれたけれど、花束なんかを誰かからもらったことって…そう言えば無い。
部活とかもまともにしてなかったから、卒業式で後輩からーとかそういうの無かったしなぁ。
「私、花を人からもらったの、これが初めてだわ」
「そうなんですか?」
「うん」
そっかぁ、私初めてお花もらったんだ。
花より団子だと思ってたけど、やっぱり憧れはちょっとあったみたい。
思わずニヤニヤする私に、リードは小さく笑う。
「そんなに喜んでもらえるとは。
本当に花がお好きなんですね」
「うーん、本当のこと言うと、
さっきまでは別にそこまで好きなわけじゃなかったんだけどね」
「えっ!?」
お母様達には言わないでね、と苦笑しながら頼む。
「でも、今好きになった。
自分の為にもらえるお花って嬉しいね」
そんな言葉を目を丸くして聞いていたリードは、数秒の硬直の後。
「アカネ様って…」
「ん?」
「変なところで可愛いですよね」
「喧嘩売ってんの?」
昼間のやり取りの再来か。
とりあえず褒めてはいないと見た。
目尻をつり上げる私に、リードは困ったように微笑む。
「調子狂うんだよなぁ」
思わずといった感じに零された言葉は、それでもそう悪くはなさそうに聞こえた。
今回は下ネタも暴力表現も無いんですが…
今更ながら、どこまでの表現が許されるのか良くわからなかったので、一応R-15カテゴリをつけることにしました。
今後も激しい描写をするつもりはありませんが、苦手な方はお気をつけください。




