029セルイラ祭
若干の寝不足で迎えた翌朝。
いつもより早くティナに起こされ、急いで準備をして向かったダイニングには既に家族が揃っていた。
「おはようございます」
私の挨拶に口々に返事をしてくれる。
もちろんリードも。
寝不足など感じさせず、さわやかな笑みでもって食卓についていた。
昨夜別れた後も警戒しておくと言ってくれていたし、私より眠れていないはずだけど…
あまり意味深にちらちら観察すれば、シェドにあらぬ疑いをかけられかねない。
視線を逸らして席に着くと、すぐに料理が運ばれてきた。
今日は特別な日だからか、少し豪華だった。
「アカネ、今日は何の日か分かっているね?」
「もちろんです、お父様」
父の改まった口ぶりに、頷いて返した。
今日はセルイラ祭初日だ。
街は既にお祭りモードに浮かれ、朝市もいつもとは違う活気に満ちていることだろう。
各地から集まってきた商人には稼ぎ時。
貴族をはじめ、裕福な層の人間たちも各地から観光にやってくる。
多くの平民は普段とほとんど変わりない生活を送るものの、春祭りらしくこの日の為におのおの育てていた花を軒先に飾り、街を華やがせるのに一役買ってくれる。
セルイラ春祭りのテーマは花だから、街のあちらこちらに花が飾られている。
各家の軒先だけでなく、裕福な商人が競い合うように広場に花の山車を出すから、期間中はまさに街全体が花の香りに包まれる。
商人たちは山車の豪華さで商人の格を競うとかで、山車の花が人々に抜き取られてもすぐに補充する段取りまで整えている。
そのせいか、山車の花は自由に持ち去っていいという文化ができており、ここ最近は恋人間の贈り物にも使われているようだ。
好きな人に渡して告白とか、なんかバレンタインチョコみたいな役割も持っているらしい。
いつかファリオンに渡してみたいなぁ、なんて…
ニヤニヤしている私を見て何を思ったのやら、母がぽんと手を打った。
「そうだわアカネちゃん、開会式が終わったら
リードとお出かけしてらっしゃいなぁ」
この後10時から大広場でセルイラ祭の開会式が行われる。
そこには私も参加予定だ。
お父様を始めとしたお歴々の挨拶が終わったら、開催の合図であるフラワーシャワーを撒くという任務がある。
わいわいしながら花びらを撒くだけなので、あんまりプレッシャーは無い。
メインは私じゃなくて花びらだ。
で、それが終わったら遊んできていいという。
でもなんでリード?
そんな突然の言葉に、血相を変えて立ち上がったのはもちろんシェドだ。
「二人だけで出かけさせるなど危険です!」
「やぁねぇ、もちろん護衛はつけるわよぉ。
それよりシェド、食事中にお行儀が悪いわぁ」
母の指摘を受け、シェドは小さく謝罪して慌てたように席に座り直しながらも食い下がった。
「護衛をつけるのは当然です。
それだけの問題では…」
「あらぁ、じゃあどういう問題なのかしらぁ」
にっこり微笑む母に、ぐっと言葉を詰まらせるシェド。
「本当は私が二人を連れ出してあげたかったんだけどぉ、
急にいくつも会談予定が入っちゃったんだものぉ。
アルディンももちろん予定はぎゅうぎゅうだし、
シェドだって警備任務やアルディンの補佐業務があるでしょう?」
お母様、一緒にお祭り見ようって言ってたのにどうしたのかと思ったら…
仕事入っちゃったのか。
祭の期間中はあちこちで色とりどりの花冠なんかも売られている。
毎年、それを母とキャッキャしながら選ぶのが楽しみだったんだけど…残念だ。
少し視線を落とした私に目ざとく気付いた母は、申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「ごめんなさいねぇ、アカネちゃん。
もしどこかで隙間を見つけられたらお出かけしましょうねぇ」
「いえっ、お仕事ですから仕方ありません。
気になさらないでください」
慌てて首を振り、笑顔を作る。
その様子を見た母は、演技がかった動作でシェドに訴えた。
「ほらぁシェドっ!
こんないじらしいのよぉ!
アカネちゃんがお花大好きなのは知ってるでしょぉ?
開会式後にちょっとくらい
お祭り堪能させてあげたいじゃなぁい!」
確かに私は幼い頃から花を愛でていた。
もちろん花は嫌いじゃない。
けれど母が訴えるほど大好きなわけでもなく、私が花をよく鑑賞していたのはこの世界にほとんど娯楽が無いから、というのが主な理由だった。
そのかわり今の環境は、さすが貴族のおうちだけあって元の世界ではあまり目にしなかった立派な庭園があった。
だからよく眺めていたんだ。
すると両親は花が好きだと解釈して庭にいろんな花を植えてくれた。
特に植物が育ちやすいセルイラに来てからは小さな温室まで作って珍しい品種を取り寄せてくれていて、なんだか植物園のようになっている。
その結果、『わざわざ私のためにしてくれたのだから』とますます花を眺める構図ができあがったわけだ。
もちろん気に入っている花もあるし、嬉しくなかったわけじゃない。
でも基本的には花より団子タイプだ。
元の世界では特に花を育てたことも購入したことも無い。
小学校の授業でミニトマトとチューリップを育てたことがあるくらいか。
…まぁ、こんなこと今更とても言えないけれど。
そんなこと知る由もない母の訴えに、シェドの眉間にはしわが深く深く刻まれ…
「…暗くなる前に…戻るんだぞっ…」
苦渋の決断とばかりに歯ぎしりをしながらそんなことを言った。
…お父さんかな?
しかし本当の父はこれらのやり取りに口をはさむことなくニコニコと静観している。
「リード、アカネちゃんをよろしくねぇ」
「はい、お任せください」
リードは微笑んで頷いた。
シェドの態度など意に介していないことがよく分かる。
独り相撲ぶりが際立って、なんだか気の毒だ。
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開会式はつつがなく終わった。
色とりどりの花びらが舞う様は美しく、参加者や民衆も大盛り上がり。
歓声の中セルイラ祭は正式にスタートした。
ちなみに私の魔力制御はまだ不十分。
このまま式典に出れば集まった民衆や参加者の中でも敏感な人々…特に冒険者や要人の護衛…に気付かれる可能性がある。
しかし秘策があった。
例のドラゴン用首輪だ。
もちろん首につけるわけにはいかないが、肌に触れていればそれでいいことが判明したため、ベルトで太ももに固定している。
女スパイのようなスタイルだ。
ちょっとテンションが上がった。
これならドレスに隠れるので問題ない。
とはいえ、これで万事解決とはいかないんだよなぁ…
さすがに舞踏会では動き回っているうちに落ちるかもしれないし、人と接触することが多いので異物をしこんでいることが気付かれかねない。
一週間後の舞踏会までにはマスターしましょうねぇ、とお母様にもしっかり釘をさされた。
わ、分かってますよう…
屋敷へ戻ると、玄関でリードが待っていた。
「おかえりなさいませ、アカネ様」
「ただいま。
着替えたら出かけようかと思うけど、どう?」
「ええ、僕はいつでも」
そのやり取りを不満げに見ているシェドに気付いて溜息をつく。
「シェド様、私達は大丈夫ですから、
ちゃんとお仕事してください」
「アカネ…」
「お返事は?」
「…わかった」
しょぼくれつつも頷いたシェドに満足して踵を返す。
もう昼過ぎだ。
今日は屋敷全体もあわただしくしていて、ティナも何かしらの仕事をしている。
私の着替えを手伝っている暇なんてないだろうから、自分で準備しよう。
急がないと遊ぶ時間が短くなっちゃう。
自室に戻る私の後を追いながら、リードが苦笑した。
「アカネ様もなかなか悪女ですね」
「なんでよ」
「シェディオン様のお気持ちをわかった上で
こうして振舞っていらっしゃるわけでしょう?」
なぜそれで悪女と言われるのだろうか。
足を止めずにちらりとリードを見る。
それなりに足早に歩いているつもりなのに、平然と並走してくるリードに腹が立つ。
これがコンパスの差か。
「分かってるからこそ、なんだけど。
気の無い相手に思わせぶりな態度とる方が
良くないでしょ?」
胸を張ってそう答えると、リードは『おや?』と首を傾げた。
「シェディオン様から面と向かって
想いを告げられたこともあると聞きましたが…
はっきりお断りしたんですか?」
『メイド達の噂話だと脈アリという印象だったんですが』なんて零すリード。
その言葉に、はたと足が止まった。
リードも慌てたように立ち止まる。
「アカネ様?」
あれ、シェドに告白された時…
私なんて返したっけ。
脳内で記憶を再生する。
「…私の気持ちを聞かれたとき…
『わかりません』って返事したわ」
呆然としながらぽつり口にすると、リードは何だか哀れむような表情になった。
「…アカネ様、それは一番相手を翻弄する回答なのでは」
冷静にそう突っ込まれると、私もそう思う。
でも残念ながら当時あの場にそんな冷静さを持ち合わせた人間はいなかった。
だってさ、もう雰囲気があれだったじゃん。
『いや無理ですー』とか言える空気じゃなかったじゃん。
人生で初めて告白されたんだもん、勢いでOKしなかっただけまだマシな方…
っていうか。
「そもそもシェドは意外と強引なんだって!」
「はい?」
掴みかからんばかりの勢いでリードにそう訴える。
「だってさだってさ!
今までどっちかっていうと無口な方だったのに
急に色々話されてこっちだって混乱するし
かと思ったら真面目な顔して『好きだ』とか言うんだよ!?」
「満面の笑みで言ってほしかったんですか?」
やだそれ怖い。
「そうじゃなくて!
ほら、私からしたら生まれて始めての告白なんだし
ちょっと舞い上がっちゃうじゃない!?」
「アカネ様って変なとこ初心ですよね」
やかましいわ。
「そんで舞い上がった人間の回答って言ったら
勢いでOKするか勢いで断っちゃうか
勢いで保留にしちゃうかのどれかでしょ!?」
「舞い上がってなくても大体その三択だと思いますが」
確かに。
「…いやいや、違うよ!
勢いってところがポイントなんだってば!
本心とは限らないの!」
さっきからああ言えばこう言うリードに苛立ちながら、なおも言い募る。
「別の日だって、ああそうそう、あのジャケットもらった日!
あれもリードと二人で居たのとか
リードにハンドキスされたのとかを知って
いきなりバルコニーに連れ出してさ」
「ほう、それは初耳ですね」
「そんであんな月明かりの中、
花満開の綺麗な庭を眼下に望むシチュエーションで!
ハンドキスされた瞬間にぶわーって風吹いて
桜の花びらが一斉に舞い散ったりしたら
なんかちょっとこう、ぽーってなったりするじゃない!」
「ハンドキスされて、ぽーってなったんですか…」
リードはこめかみを押さえてゆるく首を振る。
「それでよく
『思わせぶりな態度をとる方が良くない』
とか言えましたね」
言葉に詰まる私に、リードは追い討ちをかける。
「アカネ様って意外と…乙女趣味です?」
「おっ…乙女が乙女趣味で何が悪いのよ!」
「いやー…予想以上にちょろそうだなーと」
しれっと暴言を連発してくるなコイツ。
「シェディオン様が堅物だからよかったものの…
遊び慣れてる男なら女性が好みそうな演出くらいお手の物です。
お願いですから変な男に引っかからないでくださいよ?」
「引っかからないわよ!」
さすがにそこまで節操無しじゃない。
軟派な男にほいほいついていくほど馬鹿ではない…はずだ。
今までそういった人種と関わりあいになったことがないので知らないが。
「それにしても、シェディオン様が
あそこまで僕のこと警戒してるのに
アカネ様は躊躇いなく僕に接触してますよね」
そう問われて首を傾げる。
「いや、魔王か否かとかって話を思ったら
恋愛沙汰でためらってる場合じゃないでしょ。
そもそも恋人でもないのにそこまで
遠慮する方がおかしいじゃない。
気持ちにこたえる気も無いのに」
「乙女チックなのか淡白なのか
良くわからない人ですね…」
要は予想外の展開に弱いだけなのかなーとか好き勝手分析しているリードをお供に、自室まで戻ってきた。
「それじゃ着替えるね」
「はい」
しれっと一緒に入室しようとする男を慌てて押しとどめた。
「リードさん?」
「アカネ様、僕に"さん"だなんてお止めください」
「いや、問題はそこじゃなくてね」
いい笑顔ですっとぼけやがるな。
「私、着替えるんだけど」
「ええ、ですのでそのお召し替えのお手伝いをと」
「あのね、あんたは男!」
「おや、僕のこと男として見ていないのでは?」
…なんなの、昨夜のこと根に持ってるの?
「異性として意識しないのと恥じらいを持たないのは別でしょ!」
「それを聞いて安心しました。
その程度の分別はお持ちのようで」
「あんたね、バカにしてんの?」
「ああも無防備に抱きしめて欲しがる姿を見れば
心配にもなりますよ」
肩をすくめるリードを見て思い出した。
そういえば、どうしてあんな事を言ったのかちゃんと説明していない。
甘えたくなれば誰にでも抱きつきたがる女だと思われているなら心外だ。
「言っておくけど、あれは悪夢の副作用だからね!」
胡散臭そうな顔をしているリードに、マリーもそうだったことや、強迫観念に近い感覚であったことを懇切丁寧に説明する。
「だから、確かにあの悪夢の直後は
若干見境無くなってるかも知れないけど、
それ以外の時はあんなことしないし!
落ち着いた後もリードから離れなかったのは
異性として意識してないからだから!」
「そんなこと力いっぱい宣言される僕の気持ちも
考えて欲しいんですが…」
「え?うん?…ごめんね?」
大きな溜息をつかれた。
別に私の事を好きなわけでもないくせに変なところで意地があるようだ。
私一人意識しなかったところで問題ないだろうに。
男としてのプライドを保ってくれる女性は他にたくさんいるはずだ。
本人も一般的な女の子はもっといい反応してくれるようなこと言ってたし。
==========
比較的ラフなワンピースに着替え、例によって首輪をストールで隠しながら繰り出した街中。
開催式用のステージが撤去された大広場には色とりどりの花の山車が5つ鎮座していて、道行く人々の目を楽しませている。
あちこちで花を抱えて走り回る少年達の姿があった。
「元気だねー」
「あれは仕事ですよ」
「仕事?」
シンプルな白いシャツにチャコールグレーのベストを身につけ、容姿も相まって王子様感が半端ない感じになっているリードが説明してくれる。
「山車から抜き取られた花の補充です。
祭の間は臨時で雇われるんですよ。
定職にありつけていない平民の子供達にとっては稼ぎ時です。
商人達が祝儀もかねて色をつけた賃金を払うので」
「なるほど。
…詳しいね」
「昔この時期のセルイラに来たこともありましたので。
父からそう聞きました」
そっか、リードのお父さんは商人だった。
セルイラ祭に来たことがあっても不思議じゃないか。
リードと一緒に町を歩くと人目を集める。
やっぱり彼の美少年具合はこの世界の中でも飛びぬけているんだろう。
私が削ってしまったらしい彼のプライドを十分補填してくれそうなくらい、女の子達からの熱視線を浴びている。
私が一緒にいる上に背後には護衛も二人付いてきているせいで声をかけられることこそ無いものの…
これが学園物なら私は明日にでも校舎裏に呼び出されていることだろう。
ファンクラブとかも出来てるかもな。
バレンタインには紙袋持参しなきゃいけない展開もやっぱりあるよね、きっと。
「そこまで王道いくなら、やっぱり御曹司がいいかな」
「アカネ様?」
「いや、元大商人の息子で今は伯爵子息…
立派な御曹司だな…」
「何をぶつぶつ言ってるんです?
メアステラ商会の跡継ぎの心配でしたら、
父の亡き後、別の商会に吸収されたので
いまや無いのと同じですよ。
特に跡を継ぎたいと思っても居なかったので未練も無いです」
まぁ、両親の無念を思うと複雑ですがね…と続けながら、リードは首を傾げる。
「商家に嫁ぎたいんですか?」
「いや、全然」
ちょっと妄想が暴走しただけ、気にしないで。
きっぱり否定する私に、リードは目を細める。
「やっぱりアカネ様も縁談はそれなりの身分の方を望みますか?」
「望まない望まない…」
それなりの身分、で思い浮かんだのはシェドが蹴った縁談の数々だ。
もしあの縁談がシェドフィルターを通ることなく私の元に来ていたら…
考えるのも恐ろしい。
断っていい縁談でなかったことはわかる。
わかるが、受け入れられるかと言うと別だ。
だからシェドには本当に感謝している。
「アカネ様はあまり身分の貴賎を気にしなさそうですしね」
「誰かが自分より下、とかはよく分かんないけど、
上はそれなりに気にするよ」
しかしその言葉は意外だったのか、リードは少し目を丸くした。
「そうなんですか?
でも高貴な方との縁談は…」
「気にするのは小心者だからであって憧れてるわけじゃないの。
私に偉い人の奥さんなんか務まると思う?」
納得したように首を振られた。
…それはそれで腹立つな。
道を歩くと、女の子だけでなく商人からも視線が集まる。
これもまたリードが目当てだ。
時には声をかけられる。
そもそもメアステラ家は有名で、人柄の良さから多くの人に好かれていた。
更にリードを奴隷商から引き取った時の演出が大々的になってしまったせいで、リードの顔と名前はさらに知れ渡ってしまったようだ。
無事を喜ぶ声が直接贈られる。
「人気者ね」
「人気があるのは父ですよ。
人望のある人だったようですからね」
まぁそうなんだけど。
跡継ぎの事といい、家族に関する話はちょっとデリケートな話題だったかな…気を付けよう。
リードはあんまり気にしてなさそうだけど。
大通りを歩いていると、また背後から声がかかった。
「もしかして君、ヴィンリード…?」
振り返った先には、綺麗な赤毛をボリュームたっぷりの重そうなおだんごにした女性。
身につけた白衣と眼鏡をくいっと上げる様が非常によく似合う理知的な美人だ。
鼻もとにうっすらあるそばかすが、頑なそうな彼女の印象を柔らかくしている。
年は30前後といったところだろうか。
彼女の視線は真っ直ぐリードの背中に向いていた。
…背中だ。
リードはピタリと足を止めつつも、決して振り返らない。
「リード?」
覗き込んでみると、初めて見るような恐怖の顔に引きつっていた。
「ちょ、どうし…」
「アカネ様、いいですか。
三つ数えたら真っ直ぐ走ってください」
何事?
けれどそう問う間もなくリードは私の手を取って走り出した。
「あ、ちょっと君!?」
女の人の驚いたような声が響き、護衛が慌てて追いかけてくる。
ていうか三つ数える前に走ってるけど!?
「リード!どうしたの!?」
もつれそうな足を必死に動かしながらそう問うと、リードはこちらを振り返らずに叫んだ。
「あの女は!あの女だけはダメです!」
全くわからん。
わからないけど…未来の魔王をここまで怯えさせるって…
あの人何したの。




