057エルフの王、人間の王
「……ねぇ、ドロテーア、これ何の時間なんだと思う?」
「男の人って……なんだか急に子供に戻ることありますよね……」
いつも仏頂面の三丁目のポイラばあさんをも笑わせたという、次男チッダの小話を聞き、最後に長男トルドガがロープを使って縄跳びのようなことを始めている。宙返りしながらの大技がなかなか決まらないようで、兄弟達は熱い応援を投げかけ、うちの男性陣は野次を飛ばしていた。
「がんばれー!国内でも三人しかできんという大技やー!客人らに目にもの見せたれー!」
「おいおいそんなもんかー!?次こそ決めろよー!」
少し離れた場所で棒立ちしていた私とドロテーアは、黙って歩き出した。わいわいやっている男性たちを大きく避けながら、門にそっと手をかけ……
「ままままま、ちょっ待って!嘘やろこの流れで行く!?」
すかさず気付いた五男がこちらに腕を伸ばして制止しようと……したその腕を、ファリオンがねじり上げた。
「あたたたた!?」
「俺の女に触んじゃねーよ」
「は、マジ!?付き合うてんの!?」
「え、え、どっちから告ったん?」
「キスした?キスした?」
「うるせー!こんなことしてる場合じゃねーんだよ!」
私を抱き寄せながらファリオンが憤るけれど、あなたついさっきまで縄跳びに夢中で次こそ決めろよとか叫んでたでしょうが。
「行くぞ、ベオトラ、リード、ヴェルナー!」
ファリオンの言葉に、三人はさっきまでの時間が嘘だったように真剣な顔でうなずいた。今更その空気感出されても、私は切り換えられないです。ベオトラなんか小声で『全員の見れたしもういいな』とか言い出している。正直すぎる。長旅すぎて娯楽に飢えてたんだろうか。
「わー!わー!待って待って!なんも無しに通したってなったら流石にド叱られる!」
「ほらあれ!そう言って王様たちも試練考えてはるんやし!」
「俺らも試練や試練!」
「え、何にしょ!?」
「あ、じゃあこれ鉄板や!両親ですら間違える奴!」
門を塞ぐように五人が整列した。
「はーい!俺ら誰が誰か見分けてくださーい!間違えたらまたシャッフルしてやり直しやからなー!」
全く同じ顔をした五人。確かにこれは難題なんだろう………普通なら。ファリオンがチラリと私の方を見たので頷き返す。
「左から四男、次男、長男、三男、五男」
「えー!?」
「マジで!?」
「なんで!?」
「一発!?」
「やべえ!」
五人が大騒ぎだ。確かに容姿はめちゃくちゃ似てるんだけど、魔力の感じは全員が微妙に違う。これだけ顔が似てても違うものなんだなーという点では私も興味深くて出し物の間観察していたので、もう間違えることはないレベルで違いを把握済みだ。
「こんなすぐ見分けてもらえたん初めて……」
「え、お嬢さんお名前は?」
「あ、待った。兄ちゃんずるい」
「お前はミナちゃんがおるやろ」
「ミナちゃんこの前俺と兄ちゃん間違えたんやもん」
「いやマジでこの後食事でも」
「ぶっ殺すぞ」
私の手を取ろうとする五人の腕を叩き落としてファリオンが唸った。
「本当にアカネ様ってモテますよね」
「……これはモテてるわけじゃないよ、ドロテーア……」
この五人、このノリでよく門番なんか任せてもらえてるな。王宮勤めの人は教義をしっかり言い聞かされてるっぽい話をクレアさん達から聞いていたけれど、この五人を見ればとてもそうは思えない。時代と共に緩くなっているんだろうか。
「行くぞ」
ファリオンがさっさと門に手をかけて開いた。鍵とかはないようだ。私たちの後に、リード達も続いてくる。
「あー!こんな無傷で通したんばれたら兵士長に怒られるー!」
「せめて一発殴っといてー!」
「うるせぇ、自分らで殴り合ってろ」
「そんなー!兄ちゃんらのこと殴れるわけないやーん!」
「え、俺全然いけるで」
「……兄ちゃん?」
兄弟仲に亀裂が入った瞬間を聞き届けたと同時に、ベオトラが門を閉めた。このお城は外観通り岩をくりぬいてできているようで、中の壁も岩肌そのままだ。通路を数メートルぬけると、広いホールに出る。そこに待ち構えていたのはエルフの美女だった。ひょっとして四人の王の一人だろうか。
白い肌に尖った耳。そのスラっとしたスタイルを強調するように薄い布をまとっている。その柳眉を下げて、悩まし気にため息をついた。
「やだ、なんだか騒いでいる気配がすると思って来てみたら、本当にもういるじゃない」
「エルフ族の王だな」
「ええ、そうよ。参ったわね。刻竜王様に急いでお伝えしないと」
「俺達を誘い出したのは刻竜王なのか?」
ファリオンの問いかけに、エルフは首を傾けて微笑んだ。
「あら、あの魔術具が刻竜王様の手によるものだと気づいたからこそ、こんな遠方まで来てくださったのでしょう?」
「どうして薬屋の夫婦をさらった?」
「分かっているくせに。招待に応じてほしかったからよ。こうすれば人類に優しい魔王様は来てくださるでしょう?」
どうも口ぶりからして、この招待方法を企てたのはこの人のような気がする。
「……わざわざこんなことしなくても、話をしにくるつもりだったんだがな」
「あら、穏便に訪ねてくださるつもりだった?その割には正体を隠して隠密行動をなさっていたじゃない。忍び込むつもりだったのでしょう?わたくしがお膳立てしなければ、本来門や王宮内にはもっと大勢の兵士が配置されているのよ。それを武力行使で突破する方がお好みだったかしら?それほど暴力的な性根をお持ちなら、刻竜王様もこれほどお悩みにならなかったと思うのだけれど。ねぇ、魔王様」
エルフはまっすぐファリオンを見据えて言った。どうやら誰が魔王なのかはすっかり情報共有されているらしい。ベオトラの反応をこわごわ窺うと、眉を顰めてはいても、一切動じている気配はなかった。私の視線に気づいて、大きなため息をつく。
「もう隠さなくていい。やはりファリオンが魔王なのだな」
「あ、あのね、ベオトラ。ファリオンは魔王って言っても……」
慌てる私に、ベオトラは苦笑した。
「分かっている。ひと月も共に行動していれば、ファリオンがどんな人間か、そして周囲にどれだけ慕われているか理解できる。魔王ならば問答無用で討つなんてことはしないから安心しろ」
「ベオトラ……」
「ただし、後できっちり説明してもらうぞ。俺だけのけ者にしやがって」
どうやらベオトラにだけ隠していたことまで見破られているようだ。唇を尖らせる様は子供のようで、今度は私が苦笑する番だった。
「あら、そこの貴方は魔王様のことを知らなかったの?」
「ま、諸事情あってな」
「ふぅん?」
このエルフが勇者に対してどんな感情を持っているか分からない以上、ベオトラも素直に正体を明かせない。エルフはじっくりベオトラを上から下まで眺めて、舌なめずりをした。
「ま、いいわ。刻竜王様とお話してもらうのはこちらとしても望むところなのだけれど、刻竜王様を守る王として、わたくし達もすんなり通すわけにはいかないのよね」
「門番が試練がどうとか言っていた。どういうつもりだ?」
リードの問いかけに、エルフは妖艶な笑みを浮かべる。
「んふ。刻竜王様は魔王様のお力を測りたいご様子だったから、わたくし達が刻竜王様にお会いする前に小手調べをすると申し出たのよ。本当は門番にも実力者を置いておくつもりだったのだけれど……あの鼠ちゃん達じゃ止められないでしょうね」
まあまあ足止めは出来ていたことは秘密にしておこうか。武力行使じゃなかったけど。
「試練って何をするつもりなんですか?」
エルフの視線が、問いかけた私に留まる。そこからドロテーアにスライドした後、ファリオンへ。そしてリード、ヴェルをたどり、ベオトラをじっと見て、また舌なめずりをした。
「そうねぇ。これだけいるんだもの。まだまだ夜更けだし……色々楽しめそうよね?」
白いしなやかな指先が、自分の体のラインを胸元からお腹、腰へと伝い、スリットが大きく入ったスカートを軽く引っかけて弾く。ふわりと見えた生白い美脚に、思わず私とベオトラが同時に喉を鳴らしてしまった。これは視線を逸らせない……!
「おい、アカネ……」
「はっ……なんて強敵!」
ファリオンの声で我に返った。私の周りには美男美女が多いけれど、これほどお色気たっぷりなお姉さまは初めてだ。免疫が仕事をしてくれない。私は恋愛対象男性だけど、これだけ綺麗でスタイル抜群なお姉さまがこんな仕草をしたら、うっかり見ちゃうに決まっている。私だけじゃない。たぶん。
横を見てみたらドロテーアも真っ赤になっていた。いや……ドロテーアは私とファリオンのやり取りでも赤面する子だしな……逆に男性陣の方が動じていないように見える。ただしベオトラを除く。
「あちらの突き当りに、兵士の仮眠室があるの。少し狭いけれど、その方が全員の姿がよく見えて興奮すると思うわ」
「なんの試練を与えようとしてんだよ……」
ヴェルのごもっともな突っ込みにも、エルフの王はにっこり微笑んで返す。
「実力を見てみたいだけよ」
「だからなんの実力を……」
「大丈夫。ハジメテの子でも、ちゃあんとイイところ見つけてあげる」
言われている本人でもない私の頬が熱くなってくるのとは対照的に、ヴェルとリードはドン引きだった。ファリオンは頭痛をこらえるように額を押さえている。
「……アカネと二人なら」
「ちょっとファリオン……?」
「試練なら仕方ないっつーか、不可抗力じゃね?」
「じゃない!」
なんでちょっと乗っかろうとしてるんだ。頬が熱くなってきた。みんなの前で変なことを言わないでほしい。私の抗議を聞いて、ファリオンも思い直したように首を振る。
「いや、そうだよな。さすがに兵士の仮眠室が最初ってのはアカネに悪いしな」
「そういう話じゃないから!」
ドロテーアの顔から湯気が出そうになっている。たぶん私も似たようなものだ。一体この事態をどう収拾したらいいんだと頭を抱えたくなった時、私の隣にいたベオトラが一歩進み出た。
「ここは俺に任せてもらおう!」
ものすごくいい声でカッコいい感じに言ってるんだけど……
ベオトラはエルフの王の前に進み出たかと思ったら、その体をひょいっと抱き上げた。
「やん、強引」
「仮眠室はどこだ?」
「あらやだ、一人で相手するつもり?わたくし、一人の男で満足できたことがないのよ」
「上等じゃねぇか!」
鼻息荒くベオトラが応じる。初めて見るくらい生き生きしている。今の彼は勇者なんかじゃない。ただのエロおやじだ。そしてエルフをお姫様だっこしたまま、ベオトラはこちらを振り返った。
「ここは俺に任せて先に行け!」
「こんな最低な"俺に任せて先に行け"、初めて聞いたよ……」
死亡フラグの代わりに失望フラグが立ちました。
「まあいいわ。そこまで言うなら楽しみにしてる。あなた達、先に行きたいならこの扉を抜けて、正面に見える階段を上ったら左手にある大きな扉を開けてごらんなさい。次の王が待ってるわ……あん、まだ話してる途中よ」
ハートマークが飛び交いだした変態二人をその場に残し、私たちはそそくさと扉の向こうへ向かった。
「……え、試練ってこんなのばっか?」
「さすがにあれが特殊なんだろ……たぶん」
リード、そこは自信をもって断言してほしい。
「俺、何しにここに来たのかよく分からなくなってきた」
「大丈夫よ、ヴェル。お姉ちゃんも一緒」
「うれしくねぇ」
何でよ。
「くそ、無駄にその気になっちまったのどうしてくれるんだ」
ファリオン、こっち見ないで。
「わ、私足手まといじゃないでしょうか?絶対お役に立つと意気込んでついてきたのに、自信が無くなってきました」
「ドロテーア、あんなので自信なくさなくていいから。ドロテーアの長所が生かされるシーンはきっと他にあるから!」
あのエルフ相手では私だって立ち向かえる気がしない。私一人ならまんまと仮眠室に連れ込まれていたかもしれない。強敵だった。
「アカネ、あの女に付いていきそうになっただろ」
「……」
何も言ってないのに思考を読まれている。ファリオンが低い声で重ねた。
「そういうツケ、全部たまってっからな」
他にどんなものがツケになっていて、どういう形で支払うことになるのか。知るのが恐ろしくて私は黙って階段を上った。
「この扉ですね……」
エルフの王に言われた通りの扉を見上げる。わざわざ言う通りに王に会う必要もないんじゃないかという気がしないでもないけれど、命の取り合いにはあまりならなさそうなので、とりあえず付き合うことにした。どういう考えでいるのか聞きたいところでもあるし。まあ、さっきのエルフの王はどういう考えなのか全く読み取れなかったけれど。
だけど次も色気作戦を繰り出してくる相手ならば、三人目からは無視することにする。さっきは大丈夫だったけど、そのうちファリオンがぐらついてしまうかもしれない。私に襲い掛かってきても困るし、別のお姉さまに気を取られるのはもっと困るのだ。動揺してうっかり魔術で相手を氷漬けにしてしまうかもしれない。
「ん?なんや?」
ドアを開けると、そこは誰かの執務室のようだった。書類や本が几帳面に整理された本棚とデスク。椅子に腰かけていたモノクルをかけた男性の肌は黒く、獣耳も無いのでどうやら人間のようだった。ポカンとこちらを見つめている。
「……魔王様?」
「そうだ。お前が人間族の王か?刻竜王はどこにいる?」
驚愕に思考がおいついていないらしい彼は、ファリオンの問いを聞いても俯いてゆっくり首を振るだけだった。
「なんで……あと半日はあると思っとったのに」
こんな深夜までデスクに向かっていたのだ。何か私たちが来るまでに用意するつもりだったのだろう。くたびれた声に、なんだか罪悪感がわいてくる。けれどなんと声をかけたものかと躊躇っている間に、彼は勢いよく顔を上げてこちらをにらんだ。
「どうして、魔王としての務めを果たそうとなさらんのですか」
「魔王としての務め?」
「人類を滅ぼすいう役目です」
彼の目は据わっている。思わず息を呑んだ。刻竜王と魔王を狂信している過激派の人なのだろうか。だとしたら話がどこまで通じるか……ファリオンもそう考えたのか、声が固くなる。
「お前、人類を滅ぼしてほしいのか?」
「魔王としての務めを果たしていただきたいだけです」
堂々巡りのような会話にファリオンが前髪を引っ張ると、人間の王も頭を掻きむしった。
「そのせいで刻竜王様がお心を乱しておられるんですよ!魔王様を説得するためとかいって魔術具の開発をご命令なさるし、そのために各地から人々を招集するんにかかった広告費、人件費、製造費、人材を引き抜いた組織への補償金、馬鹿にならん金が飛んでいきよりました!各地から陳情書も集まってくるし、私がどれだけ苦労しとるとお思いですか!」
「……俺じゃなくて刻竜王に言えよ」
狂信者ではなくただの苦労性だった。嫌そうに顔をしかめるファリオンを見て、人間の王は塊のようなため息を吐く。
「人類を襲わん理由がおありなんでしたら、刻竜王様にそのように説明願います。あの御方は魔王様の動向に酷くお心を惑わされるんです。恋する乙女かって何度突っ込みたくなったかわかりません」
「刻竜王が納得すれば、人類を襲う必要はないと考えてるんだな?」
人間の王は眉を上げる。
「襲われるメリットがありませんから」
「神様の意向だ、とか言い出したりするかと思ってたんだが」
「神様が人類を滅ぼしたがっとる証拠がありません。本当に人類を滅ぼすなら、魔王なんて回りくどいシステムを作るよりも、刻竜王様がお造りになったような時限式の攻撃用魔術具を各地に埋め込んどいた方が確実やないですか」
「…………それ、刻竜王に言ってやった?」
「刻竜王様に進言なんて不敬です。何より、神様を裏切った私達人間の言葉を聞き入れてくださるわけがありません」
信仰のせいで周囲の人間は刻竜王に新たな視点を与えることもなく、そしてマイルイ曰くもともと頑固な性格だったらしいことが重なり、今日まで来てしまったようだ。
「わかった。それなら魔王である俺が話を通す。刻竜王の居場所を教えろ」
「……それは吝かやないんですが……魔王様の御力を図るために試練を与えろ言われとるんですよね」
「じゃあさっさとその試練とやらを言えよ」
ファリオンがイライラしている。刻竜王の思い込みによってここまで振り回されているのだから無理もない。自分にも非があったと何度が言い聞かせていたけれど、自責で覆い隠すのも限界のようだ。けれどそれに気づいていないはずもないだろうに、人間の王は悠長に長いため息をついた。
「今それを準備中やったんですよ……もし刻竜王様との話が穏便に終わって北大陸との国交がもっと積極的になるようなら、交易上どういう条件を飲んでもらおうかと考えとったのに」
「それは試練じゃねーだろ!」
また思ってるのと違う試練が来た。ただの外交だ。だけどファリオンはあくまで侯爵であって国の代表ではない。ヴォルシュ侯爵として個人の取引ならできても、国全体の交易に決定権は持っていないわけで。
「……あら、どういう条件をお考えだったのでしょう?」
思わぬ人物が目を光らせた。さきほどまで尻込みしていたはずのドロテーアが目を光らせて前に出て行った。
「ど、ドロテーア?」
「ことが無事に済めば交易について見直しがあるだろうということは、アドルフ様や国王陛下も想定されていらっしゃいまして、私にもお話がございました。私、アドルフ様とロッテの推薦という形で、国王陛下から直々に交易について多少の裁量権をいただいてるんです」
「マジで」
その年で外交官代理任されるとか、優秀すぎでは。
「今日まで街を見ていて、新たに取引をお願いしたい品目がいくつかありましたし、ラカティの気候を見ていて、我が国からお勧めしたい道具や食材もあるんです。やっぱり現地に赴くって大切ですね」
ドロテーアの表情が生き生きしている。じわじわとにじりよってくるドロテーアに、人間の王もたじたじだ。
「……お話を詰めましょうか」
「お、お嬢さんが外交官だと?」
「名代ですが、今この場でお話をするのに不足はないと存じます。あ、アカネ様たちはどうぞ先にお進みください。おそらく私がお役に立てるのはこういった場だけでしょうから、ここはお任せいただいて構いません」
「私は魔王様の実力を確かめろと言われていて……」
「あら、魔王様が自分の手下を使って解決することになんの問題がありましょうか?刻竜王様が自らの代わりに王様方を派遣するのとなんら変わりございません。刻竜王様の居場所をお教え願います」
にっこり微笑むドロテーアの圧が強い。自分の土俵だと判断するとスイッチが切り替わるんだよね、ドロテーアって……なんか本当に魔王の手下っぽい。
「……この部屋を出て左の突き当りを右に。一番奥の扉を開ければ次の王がいる」
せめてもの抵抗なのか彼が口にしたのは、刻竜王様の居場所ではなく次の王様の居場所だった。まあ、ここまで来てあと二人の王を飛ばすとそれはそれで角が立ちそうだし……
「いこっか?」
ファリオンを振り返ると、複雑そうな表情をしながら頷いた。まあ、ファリオンからしたら消化不良だろうな……ことごとく思ってた試練と違うもんね……ヴェルも似たような顔をしていたけれど、リードだけはうずうずしているようだった。
「……そこの商人、お話に噛みたいのかもしれないけど、それはドロテーアの交渉が終わってから商人として国相手に交渉するとこだよ……」
「わかってる……」
ラカティ相手の交易は、今のところ一般の商人が手を出せる範囲じゃない。国同士でやり取りをして、国がその商品を商人に卸し、そこから市場に出回るのだ。もっと交流が活発になれば個人取引も始められるだろうけど。
「あと、リードはこの後の王様相手で頼りにしたくなることがあるかもしれないからまだ離脱しないでほしいな」
「……おう」
そう言うと満更でもなさそうな顔でついてきた。実際、リードは腕も立つし頭もいいから頼りになるんだよね。刻竜王様の元へ行くときは私とファリオンがいないといけないから、足止めされることになるならばこれまでのように、他のメンバーが相手をしてくれると助かる。
背後ではドロテーアが『この植物は北大陸にも似たものがありますのでこの値段では取引いたしかねます。あら、我が国が長年をかけて開発している魔術具を本気でこの条件で融通させようとおっしゃるのですか?』とガンガン攻めにかかっている声が聞こえてきた。仮にも王様相手に……ドロテーア強い。
ご覧いただきありがとうございます。




