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魔王の隣で勇者を想う  作者: 遠山京
第二部 第二章 令嬢と勇者

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202/224

052ケージ

「ヴァイレ、何を作っているの?」

「……」

「……返事をする余力も無いの?最後の力を使い切るつもり?」


森の奥深く。ベルナルアが作った石造りの建物の奥で、ヴァイレは祈るような表情で手元の光を繰り、何かを作り上げていた。心配そうに声をかける隣に立つマイルイには、視線一つもくれないまま。

ヴァイレの顔には濃い疲労が浮かび、死を目前にした病人のようだった。神としての面影などもはやない。その様を見て、マイルイは顔をしかめる。


「ヴァイレ、もういいわよ。人間から力を取り戻しなさい。そうしたら神としての力が戻るわ」

「そんなことをしたら人間達が滅んでしまう」


ようやくか細い返事を得られたものの、またも人間の為にそれを拒もうとする友人にマイルイは肩を怒らせた。


「まだそんなことを!どちらにしろヴァイレが消えちゃったら人間は滅びるわよ!」

「そんなことはさせない!」


弱々しかった声が嘘のように、ヴァイレは咆哮した。


「いずれ消え去るべきなのは私の方だった。生き物たちが自分の足で立ち始めたこの世界に、もう創造主なんてものは必要ないんだ」

「そんなこと……!」

「私は消える。それでもその時、人間がいれば、話ができる。思い出を語れる。マイルイ、トエロワ、君たちが寂しい思いをしなくて済むだろう?」

「ヴァイレ……」

「人は知性がある。だから手に余るほどの遠くの景色までも見えてしまう。ほしいものが増えてしまう。自らをも傷つけるほどの道具を作り出せてしまう」


そしてヴァイレは、壁の向こう側、遠い地で今も争う人々の姿を思い描くように目を細めた。


「賢く、愚かで愛しい子供たち。彼らは栄えれば栄えるほど自らの首を絞めていく。私が守ってあげられればと思っていた。しかしそれはもう叶わない。彼らは血を流す未来を選ぶしかない」

「……何をする気なの」


諦めたようにそう尋ねるマイルイに、ヴァイレは微笑んだ。


「三つの道具を残そうと思う。私のすべてを注ぎ込んだ魔術具たちだ。マイルイ、その道具はいずれ一部の人間を巻き込み発動する。君はその時それを見守っていてほしい。どうか、その人間達に深入りしないで。人々は己の足で歩き、己の手で未来を選び取らなければ」


未来、そう意識がそれた瞬間、景色がかすみ、映像が戦場に映った。時が流れ、ヴァイレが力尽きた後の光景のようだ。マイルイが見つめる視線の先には一人の男。刃を交わし合う人々の間を縫うように彼が駆けていくと、狂騒に呑まれていた者は眠ったように崩れ落ち、戦に戸惑う者達は足を止めた。


「武器をおけ!人間同士が争って何となる!愛しい者の命を脅かす負の連鎖を止める勇気を持つのだ!」


戦場を稲妻のように駆け抜け、人々を守りながら平和を説く英雄。彼の名はヴァール。


「……うそつき」


親友の姿を英雄に重ねながら、マイルイはそう呟いた。


「やっぱり本当は、甘えて欲しかったのね……」


それは本当は、ヴァイレが成したかったこと。人々の争いを止め、己の声を聞いてほしかった。

その理想を詰め込んだ、英雄という名の道具。人々がそれに頼り続けるなら、英雄はきっと永遠に彼らを守り続けたのだろう。しかしそうならないであろうことも、本当は分かっていた。英雄が魔王へと変貌し、その存在が人間たちを苦しめる度、マイルイはたまらずにその瞳から大きな涙をこぼした。



=====



そんな夢から私を引き戻したのはノックの音。目じりににじんだ涙をぬぐい、枕元のヒナ吉の口をすべて開かせてから返事をする。南大陸の手前にある小島を見つけたと言う報告を受けて、私とドロテーアは急いで身支度を整えた。何があるか分からないこの船旅で、寝間着なんてものは持ち込んですらいない。すぐさま動き出せるように、昼間と変わらない動きやすい服装で寝るようにしているのだ。

エレーナとティナが用意してくれたドレス類は、収納魔術具の中に眠っている。この船旅と、そして今からのラカティでの行動にドレスは不向き。フェドーラさんから聞いた、ラカティでの一般的な平民の服をアドルフ様に提供してもらって、船の中では常に身に付けるようにしていた。

洋装よりは和装に近い仕立てなので袖裁きや着付けに慣れる必要があったし、船旅の間にほどよくくたびれてくれている。旅の一行としてはこれくらいがちょうどいいだろう。


支度して外に出ると、確かに遠くに島影が見えた。一本大きな木が突き出したシルエットは、フェドーラさんから聞いていた通りだ。すっかり周囲は夏のような気配になっていて、むわっとした空気が充満している。少し前から昼間はかなり暑くなりはじめたし、やっぱりラカティは南国なんだと実感した。


「あと二十分もせずに接岸する。全員マンドラゴラの服用を」


ファリオンの指示に従い、全員が自分の収納魔術具から、ビンに入った丸薬を取り出した。これはローザと研究員の努力の結晶だ。各々の体質、体格に合わせたもので、服用から一分で肌の色が染まり、四十八時間きっかりに効果が切れ始めるらしい。時間内に再度服用すれば、ばれることはないだろう。この薬を作るまでの間にファリオンの屋敷には肌の色が黒い使用人がたくさん現れることになり、ローザも不眠不休の調節を繰り返してくれた。他にも仕事がある中、よく頑張ってくれた。

作ってくれた丸薬は水なしで飲めて、万が一に備えて十錠入った瓶が五つ。ポケットや鞄、収納魔術具などに分けて保管している。どれかを紛失しても困ることが無いようにと言う備えだ。これを全員分用意してくれたのだから、ローザと助手はそりゃもう大変だったと思う。ちなみにうちの南国マンドラゴラからは根粒がすべて消えた。むしろよく足りたなと思うくらい……


こっそりパッチテストはしたけれど、実際に服用するのはこれが初めて。私が使おうとしようものなら『会議前に何故』とエレーナ達に問い詰められること請け合いだったからだ。私が不在になることで手持無沙汰になるエレーナ達本人は、楽し気に実験に協力していたけれど。浅黒い肌のティナとエレーナは新鮮だった。白い衣装が映えるので、これはこれでいいと本人たちも大盛り上がり。その平和な光景を目にすると不安な気持ちが少し和らいだので、私も大変癒された。


そんなみんなの協力の結晶をゴクリと飲み込むと、暗闇でもわかるほど肌の色が徐々に染まっていく。月明りを淡くはじく色に染まりきるのに、三十秒もあれば十分だったように思う。

肌の色の変化は茶色から真っ黒まで薬の効き具合によって個人差がある。ラカティの現地の人もそこは人それぞれらしいのであまり問題にならないようだけど、北大陸の人間はやはり元の肌の色が違うせいなのか、茶色くらいになることが多い。

周りを見渡せば、全員私と同じように茶色程度に染まっているみたいだ。暗い中だとわかりにくいけれど、少なくとも薬の効きが悪い人はいなさそう。これはなかなかの即効性。たとえ急に切れて慌てて飲んだとしても、状況次第では誤魔化し得る。


「……ん?」


島を凝視していたベオトラが低い声で唸った。眉根を寄せる険しい表情を見て、私もじっと目をこらす。島のそばにゆらめく光が見えた。火の明かりのようだ。


「……誰かいるのかな?」

「フェドーラの話じゃ、亡命者はこの島で協力者を得て使節団の船に紛れ込んだらしいからな。その協力者であることを願いたいが……」


ファリオンの言葉に頷きながら様子をうかがう。亡命に協力してくれるような人物は、現在のラカティ連合国の思想に反しているはず。こちらに協力してくる可能性もそれなりに高い。ただ、フェドーラさんが亡命してから既に何年も経っている。その間に状況が変わっていて、もっとこちらに不都合な人間がいることも考えられた。


「攻撃されれば最悪、船を放棄することになる。全員備えておけ」


ベオトラの指示に、そろって頷いた。あらかじめ相談していたことだ。もしラカティ側に見つかって攻撃を受けた場合は、私の結界で全員を保護しながら船を放棄、イッカクに捕まってその場を離れ、人目を避けながら上陸場所を探すことになっている。

ただし、そうすると海水に浸かりながらの移動になるので大幅に体力を消耗する。何せ上陸場所のめどが立っていないのだから。できればこの島に船を隠して、小舟で本土へ穏便に上陸したい。理想を言えば、ここにフェドーラさんの言う協力者がいて、アドバイスをもらえるとなお良い。

けれどそう上手くはいかないだろうと、覚悟していた。していたのだけれど……


「……動きが無いな」

「もっと近づいてから攻撃するつもりなんかも」

「それにしても応援を呼ぶそぶりも無いが……」


首を傾げるダニエルとベオトラに反し、リードは好戦的な笑みを浮かべた。


「近付けるんやったらそのまま制圧するいう手も取れるんやから、別にええやろ」

「兄ちゃん、顔が商人やなくて盗賊になっとる」

「それええな。ラカティ連合国でシルバーウルフの名前売ってみよか」

「潜入の意味分かっとる?冗談やんな……?」


久々の荒事に、リードがウキウキしちゃってる……ヴェル、ちゃんとお兄ちゃんのこと止めてね。お姉ちゃんの言葉は聞いてもらえる気がしないんだ。

そのまま警戒を続けつつも接岸すると、ようやく相手の顔が見えてきた。赤毛に三角の耳がピンと立った獣人男性だった。年はおそらく二十代後半くらいだろう。ふさふさ尻尾からして、犬とかだろうか。筋肉のついたがっしりした体格をしているものの、身なりは少し薄汚れていて、疲れが顔に出ている。服装はラカティらしく前合わせの服装だけれど、私たちが用意したものに比べて染めが一切ない、質素なものだった。他の誰かがどこかに隠れている気配もなく、彼一人だけがじっとこちらを見つめている。


「……俺はこの島の番人や。お前らなにもんじゃ」


お互いの声がハッキリ聞こえるくらいの距離になってようやく、彼は口を開いた。


「番人……フェドーラさんはそんな存在言ってなかったけど……」

「フェドーラ!?」


私が思わずこぼした呟きは小声だったはずなのに、獣人はやはり耳がいいらしい。番人を名乗る男性はしっかり耳に入れてしまったようで、大きく反応した。思わず身構えたけれど、男性は驚きに目を見開きつつも、嫌悪や敵対心は見られない。むしろ警戒が緩んだようにすら見える。


「フェドーラのことを知ってるのか?」


明らかに他国から乗り付けた船を見られている今、関西弁習得済みのメンバーが前に出る意味もないと判断したのか、ファリオンが前に出た。彼の問いかけに、獣人は躊躇いがちに頷く。


「お前ら……北の大陸のもんか」

「だとしたらどうする?」

「……だとしたら……フェドーラは、無事に亡命できたんやな……」


安堵したようにゆっくり息を吐き、獣人は背後にある木造の小屋を振り返った。


「話が聞きたい。そこの小屋で話せんか。この島には俺しかおらん」

「……信用していいのか?」

「その判断は自分がすることやろ。話する気あるんやったらその船はもうちょい東に回してくれ。今の角度やと本土から影が見えかねん」


そう言ってこちらの出方を見るように腕を組んだ獣人の姿を見て、全員がファリオンの顔を伺う。ベオトラだけはファリオンを促すように頷いていた。今は少しでも情報が欲しい。もし彼がこちらに好意的ならば、ラカティの情報を得るチャンスだ。考えは同じだったようで、ファリオンも頷いた。


「分かった」



=====



隙間風があちこちから吹き込む古びた小屋の中は、小さなベッドが一つと棚や水瓶があるだけの寂しい空間だった。この人数が入るとぎゅうぎゅうだ。今襲われれば一網打尽にされかねないので、こっそりバリアを広げておく。


「俺はケージ。フェドーラの……まあ、いわゆる幼馴染やな。お前らは、亡命先でフェドーラと知り合ったっちゅー認識でおうてるか?」

「そうだ。昔話をしたいなら付き合ってもいいが、先に確認しておきたい。ケージ、お前はこの島で何をしてる?フェドーラが言っていた亡命の協力者なのか?」


ファリオンが警戒を解かないままそう問いかけると、ケージさんは口ごもった。視線が床を数秒揺れ動いた後、ファリオンへと戻る。


「……亡命の協力者いうのは、数年前に見つかって殺されとる。俺はむしろ、亡命する奴らがおらんか、他国から侵入する奴らがおらんか、この島で見張っとるんや」

「……それなら、俺たちのことを国へ通報する立場ってことだよな?」

「本来はそうや。言うても俺が自分で志願して勝手にやっとるようなもんで、国から給料とか出とるわけではないけどな」

「どうして俺たちのことは通報しない?」


あるいは、私達には分からない方法で、既に通報済みのおそれもある。それは全員の頭にあるだろう。しかし、ケージさんは力なく首を振った。


「……通報したら、国はお前らを殺す。……俺がこの仕事を志願したんは、いつか帰って来るかもしれんフェドーラに謝るためや。それやのに、またフェドーラの友人を殺すことになったら……どう謝ればええんか分からん」


今にも泣きだしそうな声だった。ファリオンは困ったようにこちらに視線を向けてくる。そんな目をされても私も困る。困るけれども黙っているのも気まずいので、おそるおそる声をかけた。


「ええと……ケージさん。もし私達を通報する気が無いなら、協力していただけませんか?それはフェドーラさんを守ることにもつながります」

「どういうことや。フェドーラに何かあったんか」

「フェドーラだけじゃない。北の大陸全体の危機だ。その様子だとラカティの国民全員が知っている事態ってわけじゃなさそうだな」


溜息をつくファリオンに、ケージさんは首を振る。


「いや、俺は一月に一度くらいしか本土に帰らんから情報には疎い。何があった?場合によっては手助けしたる」

「……本当に協力体制をとるなら、もう一つはっきりさせておきたいことがある」


前のめりになるケージさんを制するようにファリオンは軽く手を振った。


「なんや」

「ラカティ連合国では人間の死は悼むものではなく歓迎するものとして教えられるって聞いてる。ましてや同じ教えを持つわけでもない他国の人間なら殺すのも厭わないはずだ。でもさっきのケージの口ぶりだと、そう考えていないように聞こえた」

「……そうや。俺は小さいころから、そう教えられとった。神様から受けた恩を忘れて仇なした人類は悪で、その滅亡こそ神様の願い。神様が生み出した魔王様の存在がその証明やと。刻竜王様の教えに従い魔王様を手助けし、ラカティ以外の国が全て滅んだ暁には俺たちもその命を終える……それが人類の正しい姿や」


聞けば聞くほど怪しげなカルトみたいだ。そしてこの国ではトエロワは刻竜王様と呼ばれているらしい。潜入するなら私達もそう呼ぶべきだろう。頭に刻んでおく。


「せやから、身内が病気や怪我で死んでも、家族は誰も悲しまんかった。お役目を全うした、ってみんな祝うんや」

「い、祝うの?……悲しんだり、しないんですか?」

「教えが行き届いてない連中は悲しんだりするらしい。やけど、俺の家を含め、俺の周囲におるもんはみんなしっかり教えを骨身に刻んどるからな……俺らの命は神様に疎まれてるもんや。死ぬことは罪から解放されるのと同義。自殺は許されてへんからこそ、自然と訪れる死は心待ちにするもの……って、聞いとったんやけどな」


そう語るケージの表情は暗い。もはやケージさん本人はそう思えていないことの表れだ。


「……やから、人が死んで……あんなに大泣きする人を見たんは初めてやった。ましてや、周りから何言われてもへらへら笑って、なーんも辛い事なんか無さそうな……あの、フェドーラが」

「さっき言ってた、フェドーラの友人を殺したようなことを言ってたな。そのことか」


ファリオンの問いに、ケージさんは頷く。


「俺は海を見回る兵士の一人やった。時々フェドーラが教えに反したこと言うのは知っとったし、それを諫めたこともあったけど……まさか亡命するほどやと思ってなかった。フェドーラ達が乗っとる船を追いかけて、俺はこの島までたどり着いた。フェドーラを先導しとったのは、猫の女やった。そいつがフェドーラを(そそのか)しとったんやって……フェドーラとは家族ぐるみで交流があった幼馴染や。せめてフェドーラだけでもこっそり国に戻したらなあかんって……俺は、その女を殺した。まさかあんな……あんな、大声あげて……悲しむことやと、俺は思わんかった」

「…………それで、フェドーラを見逃してやったのか?」

「……見逃してやった……って言ってええんかな……動けんかってん。その女の亡骸抱きかかえて、入江に隠された船に走ってくフェドーラを、追うこともできんかった。まあ……本国に戻ってから、二人の死亡確認を報告したんやから、そうなるんかな……」

「それで、お前は人の死に対する意識が変わったのか?」


ファリオンの問いかけに、ケージさんは首を振る。


「正直なところ、わからん。神様を裏切った人間はやっぱり滅びるべきなんやないかって思う気持ちはまだある。でも……あんな風にフェドーラが泣くようなことが、本当に祝うようなことなんかって……」

「……今、北大陸では刻竜王の指示によって魔術具が仕掛けられ、あと四か月もしないうちに発動する。おそらくそれは大陸全土を巻き込んで多くの人々を殺戮するだろう」


ケージさんの返答は曖昧ではあったけれど、ファリオンは話しても大丈夫だと判断したらしい。


「それは……フェドーラにも影響があるんか」

「巻き込まれることになるだろうな。仮にフェドーラが助かったとしても、彼女が大切に思う人が何人も命を落とすかもしれない」


フェドーラさん本人が死ぬかもしれないと言う事実より、彼女の大切な人が死ぬと言う言葉の方に、ケージさんは動揺したように見えた。


「……そうさせんために、お前らはこの国に来たんやな?」

「ああ。刻竜王に話をして、魔術具の解除を願うつもりだ」

「簡単やないぞ。刻竜王様がおられる王宮には四人の王がおるし、常に多くの兵が待機しとる。王達の目を盗んで侵入するなんて無理や。刻竜王様にお会いできたとしても、あの方が言葉を聞き入れてくださるかは分からん。殺されるかもしれんぞ」


確かに難しい。侵入するだけならば、私一人だったら入り込めると思う。隠蔽の闇魔術と風魔術を使えば、誰にも見つからずにあらゆるところへ潜入が可能だ。ただ、私一人だとその後の対応力が不安になるのがなんとも……

そもそも時の神とはファリオン自身が話をしたがっている。じっとしているだけならば隠蔽の魔術を他者にもかけることは可能なんだけど、動いている別の人間を隠蔽するのってすごく難しいんだ。ファリオンならできるんだけど、今の私にはハードルが高すぎる。かなり繊細な操作ができるようになってきたと自負している今でもそう思ってしまうのだから、もはやセンスの問題なのかもしれない。

かといって私の魔術操作をファリオンに替わってもらおうにも、動きながらだと難しいし、ファリオン自身が魔術を使うのだけは避けたい。

そうなると、いっそ正面突破の方が簡単なんだよね。魔力にものを言わせればかなり融通がきく。問題は、その四人の王が刻竜王によって何か特別な力を与えられていたりしないか、実力が未知数なところだ。

しばらく更新滞っていてすみません。今月は毎週更新できる予定です。

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