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魔王の隣で勇者を想う  作者: 遠山京
第二部 第二章 令嬢と勇者

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042結婚式の顛末

結婚式を今まさに挙げようとしていた私達の幸せムードをぶち壊したのは、夥しい数のドラゴンの群れだった。



「これは……」



ドラゴンは魔物とは違う。

魔物が現れる以前から存在した生き物で高い知能をもっている。

古来では人と共生してきた存在だ。

魔物が現れたのと同時期から人を襲うようになったそうだけど、さすがに人里に乗り込んでまで襲ってきたという話は聞かない。

それなのに、なぜ?


結界に阻まれたドラゴンはしばらくその周囲を旋回した後、咆哮を上げた。

びりびりと空気が震える。



「シェド、騎士団を!」



真っ先にそう叫んだのはアドルフ様だ。

その声に後押しされて動き出す人々の中、ファリオンは私の肩を抱いて囁いた。



「アカネ、結界の近くまで俺と一緒に飛べるか?」


「まさか、乗り込む気!?」


「とっとと追っ払わねーとこのままじゃ式が中止になるだろーが!」


「そうだけど……」



でも確かに、これだけのドラゴンの群れだ。

どうしてこんな襲撃を仕掛けてきたのかは分からないけれど、なんとかできるのは私達くらい。

……それに、もし魔王関連だったら完全に私たちは当事者なので、対処する責任がある。



「い、いくよっ」



自分以外の人を浮かせる風魔術はかなり繊細なコントロールを要する。

膨大な魔力量を持つ私がそれをやれるようになったのは最近だ。

慎重にファリオンと自分の体を浮かせて、上昇していく。

背後でアドルフ様とシェドお兄様が何か叫んでいた気がするけれど、再び響いたドラゴンの声にかき消された。



「魔王よ!」



群れの先頭でひと際大きな吼え声をあげていた青い竜が、そう言った。



「ど、ドラゴンがしゃべった……」



完全に初耳だ。

会話が可能なドラゴンなんて聞いたことがない。

いや、エルヴィンの記憶でもドラゴンがしゃべってたけど、あれは時の神だからなのかと。

呆然とする私に反し、ファリオンは険しい表情を崩さない。



「俺に用があって来たのか」


「左様。我らは主よりの使いで参った」


「主?」



話をしている間、周囲のドラゴンはあたりを小さく旋回しながら、大人しく待っている。

危害を加えることが目的というわけではなさそうだ。



「お前たちの主ってのは誰だ」


「我が主は竜の王、時を司りし刻竜王」



やっぱりな、と言いたげにファリオンは舌打ちした。

エルヴィンから見聞きしたことは彼にも伝えてある。

魔王のことを気にしていた刻竜王が接触を図る可能性は考えていたことだった。

でもまさか………なんで今なの!



「主は魔王との対話を望んでおられる」


「俺は話すことなんかねーよ」


「魔王、神の意志を無碍にするか」


「知るか。それよりこちとら今忙しいんだよ!さっさと帰れ!」



ファリオンがキレている。

待ちに待った結婚式だ。

待ちに待っていた理由が私とちょっと違う気がするけれど、とにかく彼は楽しみにしていた。

そりゃキレる。



「ならば手荒な真似をせねばならぬ」



ドラゴンが口を大きく開いた。

まさかブレス!?

そう思って私は慌てて光魔術を展開しようとした。

すでに結界があるとかそんなことは頭にない。

だって慌てていたのだ。

その時の私は少しだけ、魔力の制御が乱れた。

風魔術で浮かせている自分たちを維持しながら、光魔術を展開するなんて結構高度なこと。

だから、仕方ない。



「!?」



ドラゴン達はそろって驚いたように口を閉じ、ものすごい勢いで後方へ下がっていった。

けたたましい音と共に、周囲に居たらしい鳥や小動物たちが一斉に逃げ出す。



「……アカネ」


「ごめん、駄々洩れた?」


「かなりな……まあ、おかげでドラゴンが委縮してるみたいだが」



ドラゴンは魔力量で格付けを行うと言われている。

私の魔力はドラゴンレベルって散々言われてたけど、こんな立派なドラゴンより多いって言うのは初耳なんですが。

かなり距離の空いたドラゴンに向かって、ファリオンは叫んだ。



「分かったら帰れ!どうしても話があるなら一週間後くらいに来い!」


「一週間後?」



どういう計算なのかと思わずファリオンを見上げる。



「……まあ、ほら……しばらくはゆっくりしたいだろ?アカネが起き上がれねーかもしれねーし……」


「ば、ばかっ」



こんな時にまでそれなのかと思わず怒鳴る私と、視線を合わせないファリオンの姿は、おそらくはた目から見たらバカップル以外の何者でもないだろう。

それに当てられたからなのか知らないが、青いドラゴンは溜息をつくように炎の吐息を漏らして首を振った。

そのまま他のドラゴンを引き連れてどこかへ飛び去って行く。



「諦めてくれたのかな……何だったんだろう?」


「さあな……とりあえず降りるか」


「うん」



降りてきた私たちを迎え入れてくれたのは、アドルフ様とシェドお兄様のお説教だった。

どうやら勝手に突っ込むなと制止したのに、私たちはそれを無視していたらしい。

既に他のお客さんたちは騎士達によって城の中に避難誘導されている。

二人だけが、私たちの様子を見ながら待っていてくれたようだ。



「すみませんでした……」


「まったく……それで、何か情報は得られたのか?話をしているように見えたが」



アドルフ様がそう聞いてくる。

ドラゴンとの会話は下に居た人々には聞こえていなかったらしい。

魔王なんて呼ばれたりしていたので、そこはちょっと一安心。

近くの騎士達に聞こえないよう、ファリオンは声を潜めた。



「時の神からの使いだと名乗っていました」


「何だと!?」



まあ、驚くよね。

神話の存在から使いが来たなんて。

私は世界の記憶を覗いていたり、マイルイと知り合いになったりしたおかげで神様たちの存在を信じているけれど、普通の人はそうじゃない。

エルヴィンの一件があった時にアドルフ様には彼の過去の話を共有したけれど、そう簡単に鵜呑みにしてはいないはず。

ローザが作った記憶を共有するっていう魔術具も、危険性がわからないとかでパラディア王国に封印されちゃったみたいだし。

しかし半信半疑と言った表情のシェドお兄様と違い、アドルフ様の表情は険しい。

まるで時の神からの使いという言葉を信じてくれたかのようだ。



「……用件は?」


「俺と話がしたいと言っているそうで。迎えに来たんだと思いますが、断りました」


「……」



アドルフ様が渋い顔をする。



「まさかのこのこ付いて行けとでも?」


「そうは言わんが……神の申し出をあっさり蹴るとはな」


「当然でしょう。結婚式の最中なんですから」



そう会話する二人を見て、シェドお兄様が戸惑った様子を見せる。



「時の神というのを信じるのですか?」


「……ああ、そうか。シェドはそうだろうな」



きっとお兄様は与太話としか思えないのだろう。

しかしアドルフ様はそうではないようで。



「おそらくそのドラゴンが時の神の使者だと言うのは事実だろう。時の神はドラゴンの姿をしているからな。他のドラゴンを従えていてもおかしくはない」


「……神話でも聞いたことが無い話ですね」


「我が家に伝わっている話であって、一般に広まっているではないからな……とにかく、呼び出しの理由は聞いていないんだな?」


「言う気配もありませんでしたよ。結界が無ければ問答無用で連れ去ろうとしたでしょうね」



ファリオンは肩を竦めて言う。

確かに、ドラゴン達の態度は"丁重にお招きする"って感じでは無かった。



「……仕方あるまい。向こうの出方を見るか」


「そうですね。というわけで再開しましょう」



もうファリオンの前のめり感が酷い。

アドルフ様も半眼になってみている。



「……こんな事件の直後に式を続行するつもりか」


「これといった被害は無かったんですからいいでしょう」


「ドラゴンの群れが飛来したとあって、すでに城中、城下町中がパニックなんだが?」


「そうですか、ではパレードはやめた方がいいですね」


「お前……」


「パラディア王国からの来賓もいるのですから、せめて式だけでも終わらせないと」


「もっともらしい言い分ではあるが」



アドルフ様は大きくため息をついた。



「まあ一理ある。ひとまず安全確認が終われば早急に式を再開し、パレードは取りやめの通達を……」



そんな言葉を言い終わらないうちに、僅かな揺れと共に地響きのような音が響いた。



「っ!?」


「今度は何だ!」



誰ともなくそう怒鳴りながら、自然と上空を見る。

そこにドラゴンの姿は無い。

ただ、城下の方角に目を向けた時。



「……なんだあれは」



ここからでも分かるほど高くそびえた円柱状の何かが、そこにあった。





=====





「つまり、現時点ではあの円柱が少なくとも五本確認されていることになる」




アドルフ様が眉間に皺を寄せる。

城から見えた謎の円柱。

光を吸い込むかのように真っ黒なそれは、城下の一番大きな広場に突如降ってきた。

幅は一メートル、高さは城のてっぺんと同じくらいだから、おそらく七十メートルくらいだという。

奇跡的に怪我人は出なかったが、ドラゴンの飛来直後とあって人々は大騒ぎ。

結局、その収拾に大わらわとなったわけで、私たちの結婚式は残念ながら中止になった。

それから一週間ほど経った今、同盟国からの情報が集まり、その円柱が降ってきたのはこの国だけではないことが分かった。



「いずれも広場や闘技場など、その城下町のシンボルとも言えるようなところ、さらには開けた場所……加えて死傷者無し。どう考えても人為的ですね」



そう続けたのはファリオンだ。

パラディア王国をはじめ、同盟各国にも同じ円柱が降ってきているという。

非常事態だと言うことで、特別なメンバーが王城の一室に集められた。

ファリオンにアドルフ様、リード、そしてローザ。

マリーも呼びたかったらしいけれど断られたとか。

まあつまり、ファリオンが魔王だと知っている人ばかりだ。

さらに、会議の直前にドロテーアが『私も参加させてください』と駆け込んできて、この場に加わっている。

アドルフ様は難色を示したけれど、ドロテーアは全て知っていることを伝えると許可が出た。

おそらくドロテーアが大精霊の力を借りられるってこと、アドルフ様は知らないんだろうなぁ。



「それで……ローザ、その円柱の正体は分かったの?」



私がそう尋ねると、ローザは難しい顔で首を振った。



「魔力反応から、おそらく魔術具の一種だろうとは思うんだけどね……詳細は分からない。かなり高度な魔術か何かで妨害されているようで、触れようとしても何か膜が張っているように弾かれてしまう」


「私なら解除できるかな?」


「アカネ様が近づいて何が起きるか分からない以上、マイスターとして許可できないな。ドラゴンの群れの件もあるし、アカネ様やヴォルシュ侯爵を狙ってのものだとも限らないのだから」



珍しく真剣な表情だ。

専門家にそう言われては安易に近付けない。



「ドラゴンの群れが飛来したこととの関連性はまだ分からないんでしょ?」


「それもまだ何とも……」


「住民の避難は解けないのか?」



そう聞いたのはリードだ。

現在、何が起きるか分からないとあって、広場から半径一キロ圏内は立ち入り禁止となった。

住民は避難、お店も全て休業状態だ。

怪我人が出ていなくとも、当たり前の日常を奪われた人々への影響は甚大だった。



「突如爆発する、毒ガスをまき散らす、炎が噴き出す……何が起こるか分からない以上、避難解除はまだ難しいね」


「それは分かるが……このままじゃ商売人たちが廃業するしかなくなっちまう」


「補償金は出す予定だが、元の通り商売できるようになるのがいつか分からないからな……国庫も無尽蔵ではない」



アドルフ様もこめかみを押さえて溜息をついた。



「願わくばこのまま何事も無く消えてくれればいいんだが」


「それはそれで警戒を解きづらくなりますがね」


「……それもそうだな」



ローザの指摘に、アドルフ様は首を振る。

その後も各々推論や集めた情報を共有したものの、結局は何も分からないと言うことだけが分かっただけ。

重い空気が部屋の中に落ちた時、ドロテーアがスッと手を挙げた。



「よろしいですか?」


「ドロテーア嬢、どうした?」



そう呼ぶアドルフ様の声は柔らかい。

私とファリオンが留学している間にも二人の距離は縮まっているようで、そこに漂う空気感は以前とはまるで違う。

ドロテーアはアドルフ様の視線を受けても真っ赤でメロメロになることもなく、私の知っている毅然とした態度をとれるようになっていた。



「情報提供者から、お話したいことがあるそうです」



その言葉に、もしやと思う。



「情報提供者?」


「はい。長らく私の友人でもある、大精霊です」


「まさか」



アドルフ様をはじめ、みんなが目を見開く。

やっぱりドロテーアはアドルフ様にも、マイルイのことを教えていなかったようだ。

マイルイがそれを望んでいなかったようだから、それを尊重していたんだろう。

そして、ドロテーアのすぐ隣に光が集まり、人の姿を形作る。

人間離れした美女が現れ、その姿を見た瞬間、アドルフ様は椅子を蹴とばすような勢いで立ち上がり、その場に跪いた。



「……浄化の女神」


「……まだあたしのことを語り継いでくれているのね。ベルナルア」



その姿に、マイルイは眉を下げて微笑んだ。

嬉しそうな、それでいて悲しそうな笑み。

突然のアドルフ様の行動に、リードが驚きつつも追従しようとする。



「平伏しなくていいわ。話しにくいもの。ベルナルアの末裔も顔を上げてちょうだい」



その言葉を受けて、アドルフ様が立ち上がる。



「女神、此度の件に助言を頂けるのですか」


「ええ……流石に身内のことだもの。不干渉なんて言っていられないわ」



マイルイの表情は疲れて見えた。

魔力の強い私とファリオンが居るとはいえ、目に見えて辛そうにするほどでは無かったはず。

その身内の件で、憔悴しているのだろう。



「まずは自己紹介をしましょうか。あたしはマイルイ。一部では大精霊なんて呼ばれているわ。そして神話では浄化の女神として語られる、創造主に生み出されし存在」



リードが驚いたような声を上げる。

しかし疑うような表情は無い。

マイルイの容貌が、それを信じさせるに足るほど浮世離れしているせいだろう。



「そして今回の一件は、あたしの仲間……時の神トエロワの仕業よ」


「あの円柱が何か、マイルイは分かるのね?」



私の問いに、マイルイは頷いた。



「あの円柱は、もはや兵器と言っていいわ」


「兵器?」


「おそらくトエロワが長年かけて生み出した魔術具の一種。起動すれば、その周囲を吹き飛ばし……その国を亡ぼす。トエロワは、人類を滅亡させる気よ」

いつもご覧いただきありがとうございます。

この章から、いろいろとばらまいて来た伏線というか意味があるような無いようなエピソードがちょっと加わってきます。

『この設定なんだったんだ…』と思われてたであろう物が出てきたりしますのでどうぞお楽しみに。

最終的に『あれは特に意味なかったんかい』というツッコミが出てくるおそれがありますが、どうぞそちらも楽しんでいただければと…w

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