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魔王の隣で勇者を想う  作者: 遠山京
第二部 第一章 令嬢と精霊

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019今度は教師と生徒ものですか?

タイトル変更しました。度々すみません。

たぶんこれが最後です。詳細は活動報告にて。

「そ、それって大事件では」


「大事件も大事件だ。両国関係に致命的な亀裂を入れかねない。先に侯爵位を剥奪してあったのがせめてもの救いだ。そうでなきゃ国が命じたスパイ行為だと断じられてた」


「それがエルヴィンだという証拠はあったのか?」


「ああ、どっかの魔王のおかげでな」



ファリオンの問いに、リードが答えた。



「俺?」


「お前がアドルフ様に教えた二つの情報。一つは、人の魔力は人によって異なる。二つ目は、エルヴィンが姿をくらましたのはそういう光魔術のせいかもしれない」


「……まさか。魔力痕を?」


「そうだ。お前の情報を聞いて、クラウス殿下が検知する魔術具を作り出した」


「本当にあの人はすげーな。魔力痕なんてあるとは言われてたが、実在を証明できた人間すらいねーってのに」


「王家から研究環境を用意された天才ってのは強いさ」


「……そうだな」



その言葉にちょっと物憂げな表情を見せるファリオンは、二代目魔王マルクス王のことを思い出しているのだろうか。

もしくは、今日出くわしたばかりの赤毛の女性か……

それはさておき。



「二人だけで話進めないでよ。なに?魔力痕って」


「ああ、アカネは知らないか。信じてない人間も多いからな……人が魔力を使用すると、その場にその痕跡が残るとされてるんだ。たまに、それを感じ取れる人間がいるらしいが、何せ魔力の使用なんて生活上溢れてるだろ?街中の足跡みたいなもんだ。見えたところでさほど役に立つもんでもないってんであまり広まらなかった」



リードの説明を聞いて納得する。

人も住んでいないような僻地とかならまだしも、魔力は平民だってある程度持っている。

魔術具は本人の魔力を使用して発動されるものなので、魔術具の使用でもその痕跡が残るのであれば、分かったところで本人にとっては鬱陶しいだけだろう。



「だが、こいつの情報で、その魔力が誰のものなのか判別できる可能性が出てきた」


「指紋みたいな感じだね」


「指紋?」



おっと、この世界では指紋が人によって違うなんてのはあまり気にされていない要素だった。

いったん置いておこう。



「ごめん、気にしないで。それで、エルヴィンの魔力痕が特定できたってこと?」


「フランドル邸の奴の研究室で、一番新しい魔力痕をエルヴィンのものと仮定して、パラディアの現場でも検知魔術具を使用してもらったら痕跡が一致したらしい」


「たまたま魔力痕が同じ人……って考えるのは無理があるよね?」


「カデュケート王国騎士団が取り囲んでいる屋敷から脱出できる。パラディア王国の厳重な警備をかいくぐって王城に侵入できる。これが別人だったほうが厄介だろ」


「……確かに」



瞬間移動できてなおかつ魔力痕まで同じ人間が複数いるっていうのは、さすがに現実的じゃないか。



「パラディア王城で何がしたかったんだろう?」


「さあな。でも姿じゃなくて魔力痕で判断することになったくらいだ。目撃証言は無い、もしくは曖昧。それでも問題視するだけの明確な被害があったんだろ」


「泥棒とか?」


「かもしれないし、人的被害かもしれない」


「そこは聞いてないの?」


「俺はな。アドルフ様づてに必要な情報しか寄こされてないからな。アドルフ様がどこまで知ってるかもわからん」


「アドルフだって全部は聞いてねーだろ。こんなもん国家機密だ。最も堅牢でなくちゃいけない国王の城に、何者かが侵入してどうこうされました、なんて簡単に漏らせねーよ。国家の恥だ」


「そりゃそうだ。この件だってスチュアート殿下が内々にスターチス家とベルブルク家に相談を持ち掛けたからこっちに情報が来たってだけらしい。それが無けりゃ、あっちでは未だに容疑者すら絞り込めてなかっただろうな」



お姉さまの嫁入りは想像以上に影響が大きかったようだ。



「だけど、そもそもエルヴィンは魔力があまり高くないって話じゃなかった?」


「こいつが言ってた通りの光魔術を使うには、確かに魔力が足りないんだろうな」



リードはファリオンをちらりと見た。

その視線を受けて、ファリオンは眉根を寄せる。



「魔術具か」


「その可能性が高い」


「魔術具!?瞬間移動の!?」



魔術具の利点は、本人が使用できないような魔術とよく似た現象を引き起こせるところにある。

たとえば水魔術師か使えない人でも魔術具を使えば火を起こせるし、魔力があまりない人でも、少し魔力を送るだけで大きな火力を生み出せる魔術具だってある。

もちろん、効果が大きなものはその分値も張るんだけど。

何にせよ、クラウス様が作ってくれた瞬間移動の魔術具も、ファリオンが言うほどの魔力は使用しない。

そんなに魔力が高くないエルマンも使用できるくらいだ。

似たような魔術具をエルヴィンが入手していて、それを使用していたなら確かに全てのつじつまは合う。



「でも、そんな魔術具聞いたことないよ?」



てっきりクラウス様が作ったのが最初だと思っていた。



「クラウス殿下から聞いている限り、あの魔術具は相当高度だ。作成できる人間は多くないだろうな。それでも絶対いないとは言い切れない」


「……そうだな。作れる奴はいる」



そう断言したファリオンに、リードが視線をやる。



「お前は一番心当たりがあるだろうな」


「ああ、今日会ったばっかだよ。くそ、ずいぶんくたびれてると思ったら、逃亡途中だったのか」


「え、え!?まさか……」



ほんの四時間前に見たばかりの赤毛が脳裏をちらつく。



「ローザが立場を危うくしたとき、あの女を擁護したのがフランドル家だった」



ファリオンの言葉は予想通りだった。

ローザが……エルヴィンの協力者?

そういえば、ローザはこう言っていた。

『私を加害者だとそしる声が聞こえる中、味方をしてくれたのはあの人だけ』と。

あの人というのはエルヴィンのことだったのか。



「まさか、その時からエルヴィンとローザは協力関係だったの?」


「ローザ・ベネディクトがどこまで噛んでんのかは分からない。でも、瞬間移動の魔術具を作製したのはあの女で間違いない」


「間違いないって、証拠もあるの?」


「今朝になってローザが姿を消した。奴の研究室からは物がごっそり無くなってたが、二つだけ資料が残されてたんだよ」


「二つ?」


「瞬間移動の魔術具と空間収納の魔術具の設計図だ。それも、量産できるようにかなり作りを練られた高品質のものだったらしい。クラウス様ならすぐに再現できると言っていた」


「く、空間収納まで」



なるほど、本をどこから出したのかと思ってたけど、魔術具を使ってたのか。



「それにしても、何でそんな設計図を残してったんだろうね?」


「……ローザはもともと、聖遺物を簡略化して一般市民が使えるような道具に落とし込むことに力を入れてる研究家だったらしい。今では平民の家にもあるようなコンロも、元は聖遺物の消えない火をもとにローザが発明したものらしいぞ」


「え、そうなの!?」



火を起こすのは炎魔術が使える人なら簡単。

とはいえそれが使えない人は苦労していた。

それが解消されたのは八年くらい前で、コンロの魔術具が市場に出回るようになったんだ。

平民の一般レベルの魔力で起動できるのが売り。

ただし結構重いので旅のお供にできないのが難点。

とはいえ普通の家庭で使うには十分役に立つものだった。

まさかあれをローザが発明していたとは。



「すごいじゃん」


「それだけの功績があるから、アーべライン侯爵の一件があっても見逃されたんだ。そうでなきゃとっくにマイスターの称号は剥奪されてる」


「な、なるほど」


「……ファリオン、お前それ簡単に口にするなよ。重要機密だぞ」


「あ、そういえばリードはそのこと知ってるんだね」


「今回の件に関わるにあたって、事前情報として聞いただけだ。普通は知らない話なんだから、アカネも他言するなよ」


「わ、分かってるよ。でも、ローザは何でそんな設計書残していったんだろう」


「さぁな。頭のネジはぶっとんでる女だが、人々の役に立つ道具は残していきたかったのか、研究成果を認められたかったか」



二代目魔王と違って、きちんと研究する環境を与えられた人。

そして、認められるだけの成果も出したことがある。

だけど、一度失敗して挫折を味わい、その時に手を差し伸べてくれた人のもとについてしまった。

それがたまたまエルヴィンだっただけ。

……ローザは、エルヴィンについていくことに躊躇いはないんだろうか。

こんなに人のための研究をしている人なのに。


思考に沈む私をよそに、リードはため息をついた。



「にしても、ローザに会ってたのかよ。そんなら捕まえとけよな」


「指名手配されてるわけでもねーのにできるか。仮にもマイスターだぞ」



ファリオンは苦々しげに吐き捨てる。

まさかこれだけ捕まらなかったエルヴィンの手掛かりについさっき会ってたなんて……

しかも自分にとっては因縁のある相手となれば、ファリオンの表情が暗くなるのも無理もない。

ふと、手にしたままだった紙片を思い出して手のひらを開いた。

握ったことで皺がついてしまったそれは、誰かの走り書きらしいメモだった。


『大戦→神が消えたことによる?

 英雄ヴァール 錬金術師ヴァイレ』


色々と引っかかるそのメモの内容を共有しようと口を開いたものの、同時にリードから発された言葉にすべてを持っていかれる。



「ま、とにかくそういうことで、アカネはパラディア王立学園に留学して、ファリオンは臨時講師ってことでよろしくな」


「……え?」



どういうことで?

いつもご覧いただきありがとうございます。

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