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魔王の隣で勇者を想う  作者: 遠山京
第六章 令嬢と盗賊

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132主は主なので主以外は主じゃない

<Side:アカネ>



ロイエル領の東端にあるトロット。

ロイエル領の境を示す関所が見えてきた頃、馬車を降りることになった。

ここを抜ければアドルフ様の目が届かなくなるので、また隠れて移動しないといけないらしい。

ヴァンの知り合いらしい綺麗な女性が馬を三頭引いて近づいてきたのを見て、思わず一歩下がる。



「と、とうとう一人で乗馬する日が……」


「違う、アカネは誰かと一緒に乗る。あの女はカミラ。ここからクロステアまで俺達のサポートにつくんだよ」



パラディアとカデュケートの国境にある街、クロステア。

首領が居ると言うその街がひとまずの目的地だ。

ここから馬で四日くらいかかるらしいから、サポーターの女性がいるのは有難い。

だけど気になるのは一つ。



「……カミラ?」


「聞き覚えがあるだろ?」



当然だ。

ヴァンがファリオン・ヴォルシュとして現れた時に聞いた名前。

作り話の中でヴァンをずっと世話していたことになっている老婆がカミラという名前だったはず。

しかし目の前の女性はどう見ても二十代そこら。

とてもじゃないが老人に見られることはないだろう美貌を持っていらっしゃる。

だけどこのヴァンの口ぶりだと、例のカミラさんとのよ女性は同一人物だ。



「カミラはシリウスの一員だ。特技は変装。十代の少女から老婆まで演じ分ける。実年齢は…ぐっ」



余計なことを言おうとしたヴァンのわき腹にカミラさんの肘が入った。

いやうん、これはヴァンが悪いね。

カミラさんは悶えるヴァンに視線をやることなく、私に近づいてくる。



「初めましてアカネ様。短い間ですけどお世話をさせていただきます。カミラですわ」


「あ、アカネです。よろしく…カミラさんは本当にカッセードに居たんですか?」


「ええ。魔力泉の観察任務を負っていたもので、しばらくコッセル村のはずれに滞在していました」



各地に手を広げているシルバーウルフにとって、大きな魔力泉の状況は注視する必要があるものだったそうで。

カミラさんはカッセードの魔力泉監視担当だったらしい。

ガールウートのおかげで魔力泉が安定したため、監視任務が終わったそうだ。



「じゃあファリオンの経歴は本当にアリバイ作りできてたんですね」


「もちろん。ファリオン・ヴォルシュと接触したい人間がいれば、しばらくその面倒を見ていたカミラを探すでしょうからね。そんな人間は居ないなんてコッセル村の人達に言われたら怪しまれてしまいます」



ふーん……

つまり、この件が終わった後もファリオン・ヴォルシュの立場は守られるわけだ。


一緒に馬に乗せてくれると言うカミラさんに断りを入れ、私はヴァンの馬に乗った。



「どうしたんだよ、機嫌直ったのか?」


「話の続きをしたいのよ。問答無用でリードと引き離されたことはまだ怒ってるから」


「……」



ここに来るまでの間に、ヴァンは自分が知る限りの今回の計画について話してくれた。

リードが魔王として疑われていた話。

危険が迫る前にリードを殺そうとしている過激派の大臣たちの話。

そこから守ってくれていた国王陛下とベルブルク家、フェリクス王子の話……

そしてリードが言っていた『王女からもらった命令状』が、この状況下でどんな意味を持つかも。


みんなには感謝してもしきれない。

だけどまさか、両親まで全部…いや、シルバーウルフの正体は知らなかったらしいけど、リードが魔王だってこととか今回の計画とかを知ってたなんて。



「学園に会いに来た時、お母様達はもうヴァンの事知ってたのね?」


「ああ。コッセル村で俺を見つけたのはアドルフ様だって話にしてあるけどな」


「本当の発見経路を教えたらお母様達にシルバーウルフのこと話さなきゃいけなくなるもんね」


「ま、今頃全部聞かされてるだろうけどな。俺が本当はシルバーウルフで、元はアカネと王都の裏路地で会ったってことも」



クラウディア様の件があったしねぇ…

……いや、待って。



「それ教えたら私が抜け出したりしてたのバレるよね!?」


「元からバレてるぞ」


「へ?」


「今回の計画、あいつが一人でアカネを探しに来ないと成り立たないだろ?普通の奴は一人で行くなんて言いださない。既に抜け出した前科があるから、行動が予測できた」


「あ、そっか…お姉様の件か」



去年、お姉様が魔物の群れに襲われたのを私たちは助けに行った。

その時にリードは見つかっちゃったから……



「ん?私は見つからなかったはずだけど」


「いや、知ってたみたいだぞ。あいつの闇魔術で替え玉用意してたことも」


「あちゃー…」


「あと、あんたら二人が王女誘拐を阻止したって情報もアドルフ様から聞かされてるはずだし」


「わぁ、フルコンボ」



そっか、もう全部バレてるのか…

ヴァンがファリオン・ヴォルシュとして最初に学園に来た時、応接室で私を出迎えたのはアドルフ様と両親。

困った奴だと言う目をしていたのは、私がそういう問題児だということも、リードが魔王だということも全て知っていたからだったらしい。

あの時、お母様に言われた『事前に情報を流しておけ』という話はやっぱりヴァンの事じゃなくてリードのことだったんだな……


お父様、お母様、アドルフ様。

お転婆娘かつトラブルメイカー元カノでごめん。

でも私を騙すためだけにヴァンと私がコッセル村で出会ったという話をでっちあげ、学園にまで押しかけさせたのはちょっと無理やりだと思う。

必死に話を合わせていたけど、全員真実を知ってたんじゃないか。

みんな演技派だね。

今にして思えばお父様は素でオロオロしてただけだった気がするけど。



「リードのことも知ってたのかぁ……」


「もともとアカネの両親はあいつのことを国王にも相談してたみたいだぞ。ずっと疑ってたんだ。そうでなきゃ今回の作戦に乗ってきたりしない」


「そうだよねぇ……」



まぁ、シェドだって最初はリードを怪しんでいた。

それならお母様だって怪しいと思っていただろう。

お父様は本当に気付いていたか疑わしいけど……


そんなことを話しつつしばらく走り、川の近くに来たところで休憩を取る。

みんなが思い思いに体を休める側で私も伸びをしていると、胸元がもぞもぞ動いた。

ヒナ吉だ。

何かを訴えるような動きだけど、ここはみんなの目がある。

用を足してくると告げて、その場を離れた。


誰も追いかけてきていないのを確認してから、ヒナ吉に声をかけると、すごい勢いで飛び出てきて嬉し気なモーションを繰り返してくれる。

えっと…



「もしかしてリードと連絡がとれるようになったの?」



うんうんと頷くヒナ吉に、思わず安堵の息を漏らした。



「今話せそう?」



そう私が問いかけると、ヒナ吉は私の手の上で足を組んで座り、口元に手を当ててキリッとしたポーズをとる。



「えっと…」



訳が分からない。

誰かの真似だろうか。

足を組んでいかにもできる男感があるこの感じは…



「アドルフ様?」



コクコクと嬉しそうに頷くヒナ吉。

当たった!

その後もヒナ吉のジェスチャーを一つ一つ紐解いていった結果、おそらくアドルフ様とお話し中だから今話すのは無理そう。

でも本人は元気ってことみたいだ。

ここまで聞き出すのに結構時間がかかってしまった。


…達成感がすごい。



「教えてくれてありがとう」



そう言ってみんなの元に戻る。



「アカネ様、お体の具合が悪いんですの?」


「え?」



こっそりそう尋ねてくれるカミラさんを見て、自分がなんて言って離れたかを思い出した。

ヴァンとヴェルナー君がノータッチなのがなんとも言えない。

その日の夕食には整腸作用のある薬草を混ぜてくれたそうだ。

死にたい。




==========




「そう、アドルフ様達に魔王だって話したんだ」



ようやくリードと連絡がついたのは、夜になってからだった。

街にある宿につき、カミラが私の側を離れた隙を狙ってのことだった。



『はい。俺のミスです。まさかここまで情報を掴まれているとは思いませんでした』


「ちょっと舐めてたかもね」


『そうですね。俺が魔物を扱えることも魔物を作り出せることも国に報告が行きます。ただ、魔物に付与できる能力に関しては隠す方針です』


「っていうと?」


『特にまずいのは鳥ウサギの能力ですね。遠距離と連絡がとれたり過去の声を拾えるのは汎用性が高すぎます。音を消せるのも密談にもってこいなので、知られれば鳥ウサギは国王に徴収されるか、討伐を命じられるおそれがあります』



思わずヒナ吉をぎゅっと抱きしめた。



「ヒナ吉はあげない」


『……前から思ってたんですが、その名前何なんですか?』


「何って?可愛いでしょ?」



ヒナ吉がばっと顔を上げて私を見てきた。

何?



『……まぁいいです。我慢するように伝えておきます』


「我慢って何を?」


『で、そのヒナ吉をアカネ様の元においておく為にも、これまで以上に人目に付かないよう気を付けましょう』



なんか引っかかるけど、まあいい。

ヒナ吉を守る話の方が大事だ。



「一応私も隠してるけど、ヴァンにはもしかしたら何かあるって気付かれてるかも」



今日、お手洗いと偽って長時間離れていた件も、カミラさんは本気で私の体調を心配してくれてたけど、ヴァンは何か勘付いてるような気がする。

私そもそも隠し事下手だしなぁ。



『ヴァンは大丈夫だと思います。俺の能力に関する情報は極力首領にしか伝えない方針だそうなので。首領達への口止め交渉はアドルフから行ってくれるはずです』


「そっか、分かった。アドルフ様には頭が上がらないねー」


『アカネ様は一度殺されそうになってるんですから怒って良いんですよ』



それを言ったらリードだってそこそこ酷い目にあってると思うんだけど、それを口にしないのはプライドなのか、自分にも反省するところがあると自覚してるからなのか。



『あ、そろそろカミラが戻ってきそうだとヒナ吉が言ってます』


「あ、うん。それじゃまた」


『はい。明日にはナルアを出て追いかけます。俺から連絡をとるのは控えますが、何かあればすぐヒナ吉経由で連絡をください。緊急時には見つかっても仕方ないと考えていますので、遠慮なく』


「うん」



全部アドルフ様達による作戦だと分かったからか、リードはいくらか安心しているようだ。

私も少し気が楽になった。

同性の旅仲間がいるのも大きいな。

カミラさんは腕も立つらしいし、同性だから生活のフォローをしてもらいやすい。


その後、言葉通りリードからの連絡はほとんどないまま三日経った。

カミラさんが護衛もかねて私の側をあまり離れないせいもあるだろう。


もうじきパラディアとの国境が見えてくると言うあたりになって、ヴェルナー君が声を上げる。



「やっと着いたー」



流石にここまでの長旅をすることはあまりないそうで、ここのところヴェルナー君には疲れが見えていた。

休憩時間は本当に休憩だけしてる私と違って、ヴェルナー君は馬のお世話とか野営準備とかもしてくれてたし、無理もない。

そもそもヴェルナー君はシリウスの動きが分かってなかったみたいだから気疲れもしただろう。

最初は駆け落ちを手伝うくらいのつもりだったんだもんね。

ヴァンから色々聞かされて私と同じくらい衝撃を受けていた。



「ここまで付き合わせて悪かったな、ヴェルナー」


「なんかずいぶん大変な話になってたみたいだし仕方ねぇよ。でも首領には後で全部説明してもらう」


「お前の為に隠してたところもあるんだからほどほどにしてやれよ」


「言っとくけど、俺はアニキにも怒ってるからな!俺だってシリウスなのに!」


「分かった分かった、悪かったよ」



じゃれあうヴァンとヴェルナー君を眺めつつ、背後のカミラさんに声をかける。

今日はカミラさんの馬に乗せてもらっていた。



「もうアジトは近いんですか?」


「ええ、そこの森の中です。ベルテンが根城にしている廃屋にも行ったんですよね?似たような場所ですよ」



捨てられた屋敷っていうのはアジトにもってこいなのだろうか。

治安を思うとやっぱり使わない家って取り壊した方がいいものなのかな。

シルバーウルフは半分国営っぽいけど、普通に犯罪者いっぱいいるしなぁ…

ああ、ホントに知りたくないこと知っちゃった。


そして道を外れて森の中に入ると、思いのほか立派な馬小屋があった。

そこに馬をつなぎ、世話係らしい人と何か話をしてからカミラさんが戻って来る。



「首領はすでに屋敷でお待ちです。少し藪の中を通りますのでこちらを」



そう言って頭まで被れる外套をくれた。

嬉しい。

ヴァンとヴェルナー君しかいない時には茂みを抜けるときもそんな配慮なんか無いから、髪にクモの巣やら虫やらがついて思わず叫んじゃったりしたんだよなぁ。

お手洗いとかもこまめに確認してくれるし、やっぱり女性のカミラさんがいてくれて良かった。



「私はこのまま主のもとへ戻りますので、首領の屋敷にはヴァン達と向かってください」


「主?」



口ぶりからして首領の事ではなさそうだ。

目を瞬かせる私に、カミラさんはああ、と声をあげた。



「伝えていませんでしたね。私は奴隷なのです」


「奴隷?」


「はい。私の主の主が首領なだけであり、首領は私の主ではありません。私の主は主だけですのでお間違えの無いよう」



主がゲシュタルト崩壊気味なんですが。



「ええっと、カミラさんのご主人様がシルバーウルフの団員ってこと?」


「はい。名目上は私もシリウスの一員ですが、主が裏切るなら私も裏切ります」



いい笑顔で言い切った…

これまではしっかりしたお姉さんみたいな印象だったんだけど、そのご主人様のことになるとポンコツになりそうなキャラだな。

とにかく無理に従っていると言うよりは自分から慕っている形のようなので安心した。

しかし、ヴェルナー君は聞き捨てならなかったようで。



「おい、口を慎めよ、カミラ」


「私は当然のことを言ったまでですが?私が忠誠を誓っているのは主のみです」


「そうじゃねぇよ馬鹿ミラ。お前がそんなことを口にするとジャンが疑われるんだぞ」


「何故そうなりますの!これだから短絡的な男どもは!」


「こっちのセリフだ、何でそうなる!」



ぎゃんぎゃんやりあい出した二人を見て、ヴァンは疲れたような顔をした。



「ほっとけ。これ始まると一時間くらい続くんだ」


「あ、これいつものことなんだ」


「ジャン信者のカミラと首領信者のヴェルナーは相性悪いんだよ。この数日は気を張ってたんだろうな。ここに来てやっとリラックスできたんだろ」


「これリラックスなんだ……」



よく分からない関係だな。

とりあえずカミラさんの主人がジャンって名前だってことは分かった。



「あいつらはほっといて行くか」



いよいよ首領に会うのか……

身構えながら、ヴァンの後をついていった。

ご覧いただきありがとうございます。

そろそろ佳境に入ります。

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