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魔王の隣で勇者を想う  作者: 遠山京
第六章 令嬢と盗賊

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125友人だ

<Side:アドルフ>



敷地の北はずれにある別棟へとシェドと連れ立って足を踏み入れた。

地下へと続く石造りの階段をおりれば鉄格子が居並ぶ物々しい光景が見えてくる。

大きな貴族の屋敷には地下牢が併設されているものだ。

ベルブルク家も例に漏れない。

罪人、もしくは表沙汰にはできないが拘束すべき人間を収容する場所。

声が聞こえるギリギリの範囲を狙ってシェドを待たせ、見えない場所に隠れているよう小声で指示を出した。

まぁ…ヴィンリード相手には無駄な小細工かもしれないがな。


一人足を進めていけば、奥の牢屋に見慣れた青年の姿が映る。

食事は十分な量を届けさせているのだが、ろくに食べていないと言う報告を受けていた。

それがはっきり表れた顔色の悪い姿を見て、思わず眉根が寄る。



「ヴィンリード、元気か」


「……今までで一番気の利いた皮肉ですね」



その返事は嫌味っぽいのに力が無い。

八方ふさがりだと言いたげに大人しいヴィンリードの姿を見ると、どうにも調子が狂う。



「僕が何も話さないから貴方が直々に?」


「手荒な真似を避けているせいか舐められているようだという報告を受けてな」


「とうとう拷問されるんですか?跡が残らないようにお願いしますよ」


「俺がそんな野蛮な真似をすると思うか?しに来たのは世間話だ」


「どんな世間を教えていただけるんでしょうね」


「なに、友人のよしみとして教えてやりたいだけだ。素直な話が聞ければお前が一番愛する者の安全は守られるだろう、と」


「……アカネを人質に脅す気ですか?」



リードの声が一段低くなる。

本気で怒りを覚えた時の声だ。

いつだったか、俺とアカネ嬢が二曲続けて踊ってしまった時も似たような声をしていたな。



「言っているだろう、一般論だ。それにしても愛する者で真っ先にアカネ嬢の名前が出るとは。ずいぶん素直になったな」


「貴方がこの状況で下世話な揶揄をする人間だとは思いませんでした」


「……誰のせいだと思ってるんだよ……」



思わず額を押さえた。

こいつから情報を引き出すのが今回の()()()()だ。

アドルフ・ベルブルクとして脅迫してでも情報を引き出さなければならない。

好きでこんなことを口にしていると思っているのか。


状況を理解できていないこいつに言っても仕方ないか……

大人びているようでいて、こいつはまだ幼い所がある。

だからこそこれだけ迂闊に振舞ってきたのだろうから。


ベルブルク家としての言葉を投げても、ひねくれた答えしか返ってこない。

事業の話をしていた時は、随分素直に話してくれていた気がするのにな。

……ああ、そうか。

あの時はアドルフ・ベルブルクではなく、ただのアドルフとして接していたから……


首を振り、リードの目を改めて見返した。



「なぁ、ヴィンリード。どれだけ嫌味を言われようが俺の口がアドルフ・ベルブルクとしての仕事を務めようが、さっきの言葉に偽りはないぞ」


「…さっきの言葉?」


「友人だ」



リードが息を呑む気配がした。



「地下牢に押し込め、尋問を繰り返される。その苦痛や屈辱は、実際に受けたことの無い俺には分からないが、想像はできるさ。理不尽だと思うか?だが俺にだって文句はある。何故こうせねばならなくなる前に相談してくれなかった」


「……俺は…」



いつだったかも聞いた気がする素の口調。

俺の言葉でも少しは動揺してくれるのだと分かって安堵した。



「お前が信頼できる相手はアカネ嬢だけなのか」


「っ、アカネは……」


「アカネ嬢は知っているんだろう?王家の監視対象はとっくに彼女にも及んでいるぞ。もしお前にやましい考えがないのなら、全てをつまびらかにすることで守られるものもあると知れ」



その言葉を受けて悩んでいるらしいリードに、畳み掛けるべく声を強める。



「既にごまかしはきかないんだ。お前はいくつも悪手を打った。だが、その油断が周囲への信頼によるものだとするなら、信頼したこと自体をお前に後悔させたくはない。俺に預けてくれないか」



そうして落ちた沈黙は、一晩続くのではないかと錯覚するほど長かった。

シェドの呼吸音すらここまで届きそうなほどの静寂を破ったのは、リードの声だ。



「……アカネを、守ってくれますか」


「お前もだ、ヴィンリード。お前が俺達を裏切らないなら、俺達もお前を裏切らない」


「シェディオン様」



リードの声が突然シェドの名前を呼んだ。

動揺で足をこする音が聞こえてくる。

……やはり気付かれていたか。

これはリード自身の能力なのか、それとも魔王由来のものか…



「どうぞ、こちらに」


「……俺も聞いていいのか」



リードに促されてシェドが歩み寄ってくる。

少しやつれたようなリードの顔を見たためか、シェドの表情が歪んだ。

人を視線で殺さんばかりの形相だが、これでも痛ましげにしているのだ。

……理解できる人間は一部だが。


俺達二人を前にしたリードは笑みを浮かべた。

何かを諦めたように、そしてどこか肩の荷が下りたように穏やかな笑みを。

そして形のいい唇がゆっくり開き、一言告げる。



「俺は、魔王の魂を受け継いでいます」



==========

<Side:リード>



アドルフの説得にまけて、俺は魔王に関する情報を明かした。

めぐり続けている魔王の魂、受け継がれる魔王の記憶、魔術を使うだけで魔王として理性を失いそうになること、アカネの魔力によって静まること……

シェディオンは信じがたいという表情を隠さないが、無理もないだろう。

アドルフだけはどこか納得したように目を閉じて聞いていた。



「やはり、アカネ嬢は全てを知った上でお前をサポートしていたんだな」


「アカネは俺自身にも周囲にも被害が及ぶことを望んでいませんでした。俺をサポートしていたのは周囲を慮ってであり、報告しなかったのは俺を気遣っての事です」


「分かっている。責めているわけじゃない」


「アドルフ様、リードの処遇は……」



シェディオンがそう尋ねると、アドルフは力強く頷き返す。



「安心しろ。もとより国王陛下の心証はそう悪くはない。フェミーナ夫人の進言やリード本人の謁見時の対応がよかったな」


「去年俺が王城に赴いた時、呼び出されたのは……そういうことですか」



メアステラ家の話もそこそこに、その後俺がどうしていたかとか、今後どうするつもりかとかばっかり聞かれたしな。

俺の事を心配してと言うよりは、俺の正体と真意を探りたかったわけだ。



「陛下直々に会ってお確かめになるなんて破格の待遇だぞ。本来であれば疑わしい時点で消される。メアステラ家、スターチス家、二つの名前が関わった為に国王陛下が配慮なさったんだ」


「まぁ、そうでしょうね……」



おそらくスターチス夫妻が口添えしてくれたんだろう。

そこは素直に感謝する。



「事が事だけに黙っていたことは重くみられるが、明かせなかった事情も理解される。加えて今回の検証結果は重要な証拠とされるだろう」


「今回の検証?」



首を傾げる俺に向けられたアドルフの笑みは意地悪く映った。



「最愛のアカネ嬢を攫われ、あまつさえ牢屋にまで入れられても、お前は俺達に危害を加えるそぶりも無かった。暴走を抑える為アカネ嬢がいない場所では魔力を極力使わないようにしていたとの説明と実証を得られたし、お前の危険性が少なくとも本人の意思に起因しないことは証明された」


「まさか…俺が一人でアカネの捜索に行くことも織り込み済みだったんですか?」



あの必死の説得とロッテの命令状はなんだったんだ。



「驚くことでもないだろう。普段のお前を知っていればアカネ嬢の非常時にどんな行動を起こすか測るのは容易い」



最初から俺を一人で行動させるつもりだったのか。

…どうりでスターチス夫妻の反対が少なかったわけだ。

むしろ珍しく俺の行動を促しているようにすら見えたからな。

もちろん二人にも根回しされていたんだろう。


そういえばアカネが攫われたっていうのにあまり取り乱していなかった。

今覚えばアカネ狂いのあの二人があそこまで落ち着いてたのはおかしい。

そしてアカネは大丈夫だと知っていたから、デイジーの件に手をつけようとしていたわけだ。

それすらも王家やベルブルク家の手の内だと知って、流石の夫人もがっくりきたんじゃないだろうか。



「俺が学園に行かされたのも検証のためですね?」


「もちろんだ」



やっぱりな…

唐突かつ強引に学園行きを決められたからな。

上から圧力がかかっていたわけだ。



「フェミーナ夫人が国王の名前を出してまで不穏な空気を匂わせて来たので、怪しまれているのだろうなと思ってはいましたよ」


「ほう?夫人はよほどお前が心配だったんだな」


「……そうですね」



今にして思えば、あんなヒントを寄こしてくれたのは夫人なりの応援だったのだろう。

俺に警戒心を持たせたくないのなら、あの人ならもっとうまくできたはず。

国王に怪しまれていることを伝え、良い子にしているよう俺に促していたわけだ。

……俺が下手を打って、国に捕えられないように。



「家庭教師たちの報告からすでにお前の特異性は報告されていた。一度スターチス家を離れた学園という場所での行動を見てさらなる判断がなされることになっていたが、お前はアカネ嬢を連れて行っただろう?今回の策に踏み切ったのはアカネ嬢という存在がお前にとって意味あるものか、魔王にとって意味あるものかを確かめる為でもあった。まぁ、結果的に両方だったようだが」



からかうような声は無視する。

俺が色々と黙っていたことが気にくわないのか、今日のアドルフはやたら絡んでくるな。

それにしても、全て計画内だったとは……



「俺が必死にアカネを追いかけようとする様はさぞ滑稽だったでしょうね」


「そう拗ねるな。お前は自分ばかり振り回された気になっているだろう?俺はさんざんお前に振り回されたぞ」


「俺がアドルフ様を?」



俺は完全にアドルフや王家の手の内で踊らされたのでは?

首を傾げる俺に、アドルフは恨みのこもった笑みを向けた。



「魔王の話のお礼に教えてやろう、今回の件に俺がどれだけ骨を折ったのか」



別に聞きたくない……

……とか言ったら何倍にもなって返ってきそうなので黙って聞くことにしよう…

いつもご覧いただきありがとうございます。

ちょっと短くなってしまったので、夜にもう一話投稿予定です。

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