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魔王の隣で勇者を想う  作者: 遠山京
第六章 令嬢と盗賊

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123建前と本音と計画と

突然のベルナルア騎士団の登場、そして読み上げられた罪状に、セシルさんは全く動じた様子が無い。

まるで全て想定していたみたいに。


それを見て、リードは目を細める。



「……尻尾切り、か?いや…これは……」



セシルさんは堂々と玄関まで歩いていき、騎士たちの前に跪いた。

ダイニングから玄関は見える位置取りだ。

私たちは隠れるべきなのか判断すらつかず、とりあえず息を殺して様子を見守る。

房付きの格式高そうな鎧を纏った壮年男性の騎士が一人。

そして後ろに軽鎧をまとった女性の騎士が三人付き従っている。

四人の騎士たちを前に怖気づくことなく、セシルさんは口を開いた。



「セシルにございます」


「ベルナルア騎士団第三師団長オーベイルである。屋内を検めさせよ」


「そのご命令には是非もございません。ただし、お許しがあれば申し上げたいことがございます」


「申せ」



そう言いながら師団長は女性騎士たちを顎でしゃくる。

セシルさんの話を聞いている間に部下が家の中を調べるようだ。

流石に隠れた方がと思ったけれど女性騎士たちはこちらに視線をやることすらなく二階へ上っていく。

私達の存在に気付いていないはずないのに、全くのノータッチ。


この時点で違和感がすごい。

師団長を含めて四名しかいないし。

仮にも王妹救出なのに。

しかし突っ込める空気じゃない以上、セシルさんと師団長のやりとりを見守るしかない。



「わたくしが匿っている女性がいることは事実です。彼女は三年と半年ほど前にこの地に迷い込みましたが、心を患っており、ずいぶん憔悴しておりました。身元はわかりませんでしたが哀れに思い、世話をしていた次第です」


「王族を憐れむなど不敬である、控えよ」


「失礼いたしました。しかしわたくしのような一介の市民があの御方を王族などと分かる道理もございません。平にご容赦を」


「その申し開きが事実であれば、そなたは不法入領民の隠匿をしていたことになる」


「はい」


「しかし結果的に王族の姫君を保護していたとあれば、そなたの罪にも恩赦があろう」


「全てお沙汰に従います」



師団長が大仰に頷くと同時に、二階から女性騎士らしき声が響いた。



「師団長、殿下のご無事を確認いたしました」


「お連れ致せ」



そして二階から女性騎士たちに支えられるように、クラウディア様が下りてきた。

その目はしっかりと開かれ、階下にいるセシルさんと師団長を見据えている。

どうやら"潜り"と呼ばれる状態から戻ったらしい。



「…セシル」


「クラウディア様、時期が来たようです」



この時だけ、セシルさんは平坦な声をやめて、跪いたまま優しくクラウディア様を見つめた。

泣きそうな顔をしているクラウディア様の姿を見れば、彼女が望んでセシルさんの側にいたのだと分かる。



「聞いていないわ」


「急なことでした。しかし、貴女様の安全はベルブルク家が守ってくださるでしょう」


「セシルは大丈夫なの?」


「この者には恩赦がくだるでしょう」



師団長がそう言うと、ようやく安堵したようにクラウディア様は息をついた。

そして家を出る間際、こちらを振り返り…私を見据える。



「ハイルをよろしくね」



……誰それ?

しかし問いかける間もなく、クラウディア様は騎士達を連れて去ってしまった。

見送りなのかセシルさんも家を出てしまい、私達だけがぽつんとダイニングに取り残される。



「リード、何コレ?」


「さぁ…」


「ヴァン、何コレ?」


「知らん」



両陣営とも知らんのかい。

騎士団とセシルさんのやり取りはどう考えても打ち合わせ済みだ。

私を部屋に案内した後、セシルさんはどこかへ出かけていたらしかった。

ベルテンさん対策に何かしていたんだと思ってたんだけど……これの為?

だけどこれに一体何の意味があるのかさっぱり分からない。


再び家のドアが開く音がして視線をやると、戻ってきたのはセシルさん。

そして後ろに…



「あ、アドルフ様!」



思わず大声で名前を呼んでしまった私を窘めるように、アドルフ様は口元に指をあてて苦笑した。



「元気そうで何よりだ、アカネ嬢」



さきほどから急展開が続いていて完全にパニックに陥る私。

しかし反対に、隣のリードは何かを察したような雰囲気でアドルフ様を睨んだ。



「そういうことか……やってくれましたね」


「そう睨むな」



肩を竦めるアドルフ様と剣呑な空気のリードを交互に見やり、私は眉を下げる。



「なに、どういうことなの?」


「…クラウディア様の幽閉だけじゃなくて、今回のアカネの誘拐にもアドルフ様…ベルブルク家が噛んでる」


「え!?」


「ずいぶん安い茶番でしたね」


「時に茶番を演じてでも秩序を保つのが貴族だ。覚えておけ」


「…僕は貴族に向いていないので」


「お前は貴族だ。いい加減腹をくくれ」



そう断言したアドルフ様は、妙に威圧感があった。

もともとリードとは喧嘩友達のように顔を合わせるたびに衝突していたけれど、今日ばかりは迫力が違う。

それに気づいたのか、リードも先ほどまでの気勢を殺されて怯んだ。



「……どうしてアドルフ様が腹を立てているんです?」


「貴様がこの期に及んでその態度だからだろうが。まぁいい、その件は後で決着をつけてやる」



その件がどの件なのか分からないらしいリードはますます頭の上に疑問符を飛ばしているけれど、アドルフ様は取り合うことなく私に向き直った。



「アカネ嬢、先に言わせてくれ。ベルブルク家もセシルも、クラウディア様やアカネ嬢に危害を加える気はない。むしろ保護する為に動いていた」



その発言はつまり、真意はどうあれクラウディア様の誘拐にも私の誘拐にもベルブルク家が噛んでいたのを認めることに他ならない。



「…結構怖い思いしたんですけど」


「それについては済まなかった。もっと安全な旅にしてやれるつもりだったんだが、余計な茶々が入ったらしいな」



まぁ、怖かったのはベルテンさんのことくらいだし、あれはヴァン達にとっても予想外だったみたいだからなぁ。



「とにかく、全部説明してください」


「そうだな…」



そう言いながらアドルフ様はダイニングの席についた。

セシルさんはその後ろに控えるように立っている。

やはり、この二人は主従のような関係にあるのか。



「…事の始まりは十三年前……正確にはもうじき十四年になる。クラウディア様とクラウス様、両殿下が公務中に襲撃を受けた。この話は知っているか?」



その問いに頷く。

リードに聞いたばかりの話だ。



「その少し前に解体されたばかりの解放教とかいうカルト教団の残党に襲われたんですよね?」


「ああ。確かに解放教は解体されたが、一部の幹部を除き団員の多くは処罰されていなかった。加えて、教祖も捕まっていない」


「え……」



聞けば、解体に署名をさせて使われていた施設を差し押さえたものの、教祖と話がついたわけではないという。

幹部の多くは罪状が明らかだったため捕えられたが、教祖に至ってはそもそも誰なのかすら巧妙に隠されていたそうだ。

形ばかりでもいいから何とか解体に持っていこうという苦肉の対応だったと見える。



「しかし、証拠が無かっただけで教祖が誰なのか予想がついていないわけじゃない。ただ…明確な証拠がない状態で糾弾できる相手じゃなかっただけだ」



その言い方でピンとくる。



「ひょっとして…結構な権力者、なんですか?」



先代国王が躍起になって解体しようとしていたのは、そのせいもあったんだろうか。

まさか王位を狙うような血みどろの争いが水面下で……

私の妄想が膨らむのに気付いたか、アドルフ様は苦笑して口をはさんだ。



「王族ではないからな。王位継承争いではない。まぁ、国家転覆を狙っているおそれはあるし、権力者というのは間違っていない。容疑がかかっているのは高位の貴族だ」


「だ、誰なんですか?」


「疑いの段階で名を口にするわけにはいかない」



私も知っている人なのかもとドキドキしながら聞いたのに、にべなくそう返された。

閉口する私を見て、アドルフ様は眉尻を下げる。



「俺の口から名前を出せば、アカネ嬢はそれを真実だと思い込みそうだからな」


「……信頼してますから」


「光栄だ。その信頼を裏切らない為にもこの件で推測を刷り込みたくはない」



大人としては正しいのかもしれないけど、スッキリしない……



「噂は貴族社会にいればいずれ耳にすることになる。何せアカネ嬢は既に首を突っ込んでいるしな」


「え?」


「とにかく、だ。その教祖と思われる人物は教団が解散した今もなお、きな臭い儀式や実験を繰り返しているようだ。そしてその実験体として、十三年前に目をつけられたのが…ベルナルア一族に生まれる巫女だ」



そう言われて思い出した。

クラウディア様を初めて見た時に感じた既視感。

そうだ、あれは……ベルブルク家の双子、コローナとコリンナの二人に似てたんだ。



「クラウディア様は……」


「クラウディア様とクラウス様のご母堂はベルナルアの血を引いている方だ」


「やっぱり……!」


「彼女が潜っている状態を見たんだな。常に浅く潜っているうちの妹達とは違い、クラウディア様は普段巫女としての性質は覗かせないが、突然深く潜ってしまうことがあるらしい。頻度は高くなかったために公務は行っていたが、巫女の能力があることは高位の貴族の間では知られていた」



ベルナルアの巫女というものは、それなりに貴族社会に長くいれば知ることになる存在だそうだ。

ベルナルアの血を引く者から稀に生まれる存在で、必ず双子で生まれる。

そして特性を継ぐのは女性のみ。

クラウス様とクラウディア様は双子だけど、男のクラウス様にはその特性が現れない。


潜ると言う状態は、常人とは異なる世界を見ている状態のことを言うそうだ。

巫女本人にもそれが何なのかうまく説明できないらしいけど、過去に起きたことを知れるという。

そこから予測される未来の予言や、誰も知るはずの無い事実を言い当てたりするので、昔からベルナルア一族では神聖視されてきた。


カデュケートに統一された今でもその存在は特別で、しかしその特性上コミュニケーションが困難になる事がある為、あまり公の場に姿を現さない。

その独特の雰囲気や予言を気味悪がる人間も少なくないそうだ。

コリンナとコローナは浅いものの常に潜っているため、政務や結婚が難しいのだと言う。

クラウディア様は深いものの月に一度くらいしか潜らないのでまだ日常生活が送りやすいらしい。

とはいえ隠せるものではないので、クラウディア様が巫女だと言うことは周囲に知られていたんだとか。



「それで目をつけられたんですか?」


「ああ。当時、巫女の性質を発現している者は他に居なかった。コリンナたちが生まれる前だからな」


「クラウディア様が唯一の巫女だったんですね」



教団が巫女を狙って何をしたかったのか知らないけど、迷惑な話だ。



「クラウス様とクラウディア様は何とか教団の手から逃れたようだったが、城に戻られることは無かった。先代国王や現国王陛下に頼まれて、親父殿はずっと二人を探していたんだ。まさかクラウス様が姿を変えて冒険者をしていたとは思わなかった。これは俺も数日前に知ったばかりだ」



なんと。

カルバン先生がクラウス様だと言うことは、アドルフ様も最近まで知らなかったらしい。



「クラウディア様は見つけられたんですね」


「ああ。とある店で働いているデイジーという女性の情報を得られた。容姿や背格好から、クラウディア様であると判断したそうだ」


「それでシルバーウルフの手を借りて救出した、と」


「そういうことだ」


「今回の私の誘拐もですか?その教祖だっていう貴族が私を狙っているから保護してくれようと?」


「シルバーウルフ首領がアカネ嬢に会いたがっているのも事実だが」



つまり、私が教祖に狙われているのも事実なのか。



「まずは保護の仕方が手荒だったことを抗議させてください…」


「ヴァンには丁重に扱うよう指導したんだがな」



アドルフ様はヴァンという呼び名を知っているのか…

いや、今はそこじゃない。



「どうしてシルバーウルフの手を借りたんですか?」



非難する意図はない。

攫ったのに理由があるのは分かったし、ヴァンやヴェルナー君、アドルフ様までも信頼しているらしいシルバーウルフの首領もただの悪人じゃないんだろう。

だけど一般的には後ろ指をさされるような団体だ。

公爵家が癒着していると発覚すればまずいんじゃないだろうか。


ましてやクラウディア様の誘拐、監禁疑惑までかけられるおそれがあるなら……



「……本当にアカネ嬢は優しいな」



真剣だった空気を崩してアドルフ様は微笑んだ。



「え?」


「もっと怒ると思っていたんだが……俺達のことを心配してくれているのか」


「……怒ってますよ?」


「そういう顔じゃなかったぞ」



私の顔がまたおしゃべりだったようだ。



「現国王陛下は過保護な御方でな」


「へ?」



急に話が飛んだ?



「王位継承を争った弟たちの多くとは折り合いが良くないが、それ以外の弟や妹たちは可愛いそうで。中でもフェミーナ夫人や年の離れた末の双子は可愛がっていた」


「はぁ…」


「双子のことは本気で心配していたし、フェミーナ夫人には余計な心配をかけたくなかった。双子の捜索を訴えるフェミーナ夫人に『王族は簡単に動けない』と告げたそうだ。それは王族以外の人間の手で捜索と保護を進めているという意図だったそうなんだが、夫人は自分に託されたと思ったらしいな」



えっと…つまり……

目を白黒させている私にダメ押しするように、アドルフ様は呟いた。



「双子の行方が知れなくなったのとどこぞの盗賊団が発足されたのが同時期なのは全くの偶然だ。そうに違いない。俺はそれ以外の答えを持ち合わせていないからこれ以上聞いてくれるなよ」


「えええ……」



なんと白々しい。

いや、これが貴族の建前なのか。

初級編にレベルを落としてくれたみたいだけど。


ってことは…シルバーウルフって国王陛下公認なの!?

いやむしろ陛下が作った組織!?



「えっと…シルバーウルフって結構凶悪な事件とかも起こしてるみたいだし、暗殺部隊とかもいるみたいなんですが……」


「……ならず者の集まりだぞ、公的機関ではない」



建前を崩すなとばかりに睨まれた。



「だがまぁ、ひとつ付け加えるとするならば、だ。大きな権力に暗部はつきものであるという一般常識だけ述べておこう」



国の暗い部分に触れてしまう話らしい。

貴族らしい立ち回りができない私は突っ込まない方が良さそうだ。



「さて、友人同士の話はここで終わりだ。貴族同士の話をしようか」



アドルフ様が一つ手を打つと、纏う雰囲気が変わる。

舞踏会で初めて見た時のように、高慢で高圧的な視線が私とリードを貫いた。



「セシルが三年半前に保護した女性がクラウディア様であると発覚し、今日ベルブルク家が迎えに来た。そして俺はその事実確認のためにこの家を訪れたが、お前たちのことは見ていない」



断定するその発言は、その認識をこちらにも強要するものだ。

面食らう私達をよそに、アドルフ様はヴァンに視線をやる。



「そして俺が保護して後見人として立った少年はヴァンではなくファリオン・ヴォルシュだ。それは今も変わりない」



つまり、今日ここでアドルフ様と会った事を忘れ、なおかつファリオンが実はシルバーウルフ所属だということをアドルフ様は知らないと思えと……

あれ、ってことはベルブルク家や王家がシルバーウルフと繋がってることも忘れろってことかな。

まぁ、そりゃそうか……


リードが渋い顔をする。



「…僕たちはそのセシルという女性の素性を知ってしまいましたが?」



あ、そっか。

アドルフ様から聞いた話を全部忘れたとしても、セシルさんのことが残ってるな。

しかしアドルフ様は動じない。



「それをお前が俺に進言したところで俺は取り合わない。セシルは長年この家を支えてくれている良き民だ」


「良き民ですか……」


「ああ、そういえば伝えるのを忘れていた。クラウス様とスターチス夫妻はベルブルク家の屋敷にお招きした。クラウディア様もベルブルク家にしばらくご滞在いただいている」



その言葉を聞いて、思わず脱力した。

私達にここまでの暴露話をして、お父様やお母様に秘密にすることなどあり得ない。

すでに二人も同じような話を聞いている事だろう。



「お父様やお母様まで抱き込んでるなら私達に脅しかけなくてもいいじゃないですか……」


「秘密は秘密によって守られる。この旅が終わればアカネ嬢とリードは俺に感謝することになるだろう。その前に反発されては敵わんからな。念押しといったところか」



意味が分からずに首を傾げる私を見て、アドルフ様はいつもの高慢な笑みを浮かべた。



「全部終わったら文句なくなるはずだから、今は黙って良い子にしていろ」



大変分かりやすいお言葉を頂いた。



「分かりました…それにしてもここまで説明してくださるならあんなお芝居しなくても良かったのに」



チラリとセシルさんを見ると、苦笑が返ってきた。

騎士とセシルさんのやり取りなんて私達しか見ていないんだから。



「あそこまでがベルブルク家としての公の動きだ。アカネ嬢にも覚えがあるだろう?公然の秘密が秘密である為には守るべきルールというものがある」



アドルフ様の登場以降を忘れたことにさせれば罷り通るだけのポーズが必要だった、と。

…貴族ってめんどくさいな。



「本当はあれを見ただけですべてを察するのが貴族なんですね……」


「うえ、俺絶対貴族無理」



私の消沈したコメントに、ヴェルナー君が舌を出す。

奇遇だね、私も同じ気持ちだよ。



「アカネ嬢は社交界に出始めたばかりだろう。これから身に着けていけばいいことだ。今はそれぐらいの方が可愛げがある。一番厄介なのは聡いくせに迂闊で殊勝なようでいて噛みついてくるどこぞの男の方だな」



その朱色の瞳が明らかに自分に向いているのに、リードは素知らぬ顔で『そうですか』なんて相槌を打っていた。



「では、ヴァン。アカネ嬢を頼んだぞ」


「はい」



アドルフ様の言葉にヴァンが頷く。

あ、そっか。

結局首領のところに行かなきゃいけないのは変わってないのか。



「アドルフ様、これの鍵持ってたりしないんですか?」


「悪いが持っていないな。言ったように首領に会ってもらうのも目的の一つだ。彼に外してもらってほしい」


「うぅ……」



まだこの重たい首輪をつけてないといけないのか…

肩凝るんだよね、これ。



「不自由させて済まないな。ここまで明かしたからには少し手心を加えよう。ロイエル領を抜けるまでの間は馬車で移動できるようにするから、堪えてくれ」


「はい…」



ロイエル領を抜けてからパラディアに入るまでは馬車なしの馬でも四日くらいかかるんだけど…

仕方ないか。



「ヴィンリード」


「はい?」


「お前には少し話がある。一度うちの屋敷へ来い」



アドルフ様にそう言われて、リードは少しためらった。

私から離れるのが心配なんだろうと察してポケットに入ってもらったままのヒナ吉をさりげなく突く。

ヒナ吉が何か伝えてくれたのか、もの言いたげにリードはこちらを見た後頷いた。



「分かりました」




==========




けたたましい金属音を立てて、目の前の格子が閉まる。

何が起きたのか咄嗟に判断がつかずに、向こう側にいる人物を呆然と見つめた。



「悪いな、ヴィンリード」



そう言った銀髪の美丈夫は石造りの牢屋に押し込まれた俺から視線を外して踵を返す。



「…は?どういうことですか!?」



慌てて格子を掴んで叫ぶと、アドルフは振り返ってため息をつく。



「本当に分からないのか?」


「分かりません!」


「……なら分かるまで入ってろ」



心当たりの無い罪が牢に入ってただけで分かるわけねーだろ!

しかしそんな叫びをぶつける相手は既に無く、冷たい地下の空気が頬を撫でるだけだった。

いつもご覧いただきありがとうございます。

一難去ってまた一難。

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