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魔王の隣で勇者を想う  作者: 遠山京
第六章 令嬢と盗賊

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101/224

101まさかの学園編に突入ですか?

今週から更新再開です。

お待たせいたしました。

高くなった太陽に木々が青々と照らされる初夏のある日。

お母様とリードの三人でお茶をしていた時のこと。



「四人兄弟のはずなのに、お姉様はお嫁に、シェド様は騎士団に…リードと二人兄妹みたいになっちゃったねぇ」



私が放った何気ない一言がきっかけで、とんでもない爆弾が落とされた。



「あら、リードもこの秋から学校に行くのよぉ」



もちろん爆撃機はお母様だ。

…初耳である。


このあたりの国の学校は、秋が入学時期。

確か六月半ばに卒業、九月頭に入学って感じだったかな?

つまりリードは九月に王立カデュア学園に入学するということらしい。

『言わなかったかしらぁ?』という言葉を口を開けて聞いているリードの様子を見るに、多分本人も初耳なんだろう。



「な、何故ですか。僕の勉学姿勢に何か問題でも?」



リードは珍しく口元を引きつらせている。

この国における学校というのは王都にある王立カデュア学園を指す。

貴族平民に関係なく入学できるけれど、平民は学費がかかる。

その高い入学料を払える商家の子女か、奨学生となれるだけの学力を持っているかのどちらかなので、正直平民の数は少ない。


それなら貴族のための学校かと言うと、別に入学は必須じゃない。

貴族は学費無料だけど、行っている貴族は半数程度だ。

もっと勉強したいと言う勉強熱心な子が入るか、就職のために卒業資格が欲しい子が行くか、家庭教師を雇うお金が無い家が子供を入れるか、あまりに勉強をおろそかにしがちな子を親が強制的に入れるか。

ほとんどこの四つに分かれると言う。

リードはもちろん自分から入りたいと思っていないし、就職に悩んでいるわけでもないので、強制的に入れられるのは何か自分に落ち度があったからかと聞いているわけだ。


上手く外面を保っているリードは、勉強熱心な姿勢を見せていた。

そもそも過去の魔王の知識があるせいなのか、それとも行方不明期間の経験ゆえか、単に地頭がいいのか…全部かもしれないけど、リードは頭がいいし知識も深い。

家庭教師からも覚えめでたい秀才だった。

私から見ても学園入りさせないといけない要素があるとは思えないんだけど…



「違うわ、逆よぉ。リードってとっても優秀でしょう?そのお話をしたらぜひ学園で学びを深めるようにって陛下から直々のお誘いが来たのぉ」



リードのこめかみが一瞬ひくついた。

余計なことを、とか思ってんだろうな。

耐えろ。



「せっかくですが、僕にはもったいないお話ですのでお断り…」


「駄目よ」



ハッキリと否定の言葉が聞こえて、私もリードも目を見開いた。

声の主であるお母様は、私達の視線を受けてニッコリ微笑む。



「もう手続きは済んでいるの。今更撤回なんてできないわ」


「…あえて今まで言わなかったんですね。どうしてそこまでなさるんです?」



リードは困ったようなふりをしてそう問いかける。

まるで探るような言い方だ。

なぜか私が息を呑んだ。



「権利には義務が伴うの。今の平穏を守りたければ少しの不自由を受け入れなさい」


「……」



何でこんな深刻な空気になっているのか分からないのは私だけなのか。

リードはかつてないほど険しい表情をして、たっぷり一分は黙り込んだ。

その間お母様は微笑んだまま口を開かず、私はオロオロと二人を見守るしかできない。



「…分かりました。おっしゃる通りにします」


「良かったわぁ。しっかりお勉強してらっしゃい」


「ただし、一つ条件があります」



話がまとまるのを遮るようなリードの言葉に、お母様は表情を崩さない。

無言で続きを促され、リードは私を見た。



「アカネも僕と一緒に入学させてください」


「えっ、私!?」



他人事とまでは言わないまでも、完全に傍観者になっていたのに突然巻き込まれて戸惑う。

まぁ、学校は王都にあるわけだし、遠方の人間は寮に入るのが普通。

そうすると長期間離れることになるわけで、魔力を使えば魔王化するリードを一人にするのが心配なのも事実だ。

…寂しいなんてことは無い。

無いったら無い。

だってどうせ、私の悪夢の時には会いに来てくれるんだろうし…



「それはアカネちゃんの為を思っての言葉?それとも自分の我儘?」


「両方です」



言い切った…

実際リードは私から離れたがらないし、私としても見てないところで魔王化されると困るから、まぁ嘘じゃない。

ちょっと納得気味な私と真剣な顔のリードを交互に見て、お母様は溜息をついた。



「…いいでしょう。ただし、卒業資格を得るまで帰ってこられないと思いなさいな」



学園はあらゆる分野の基礎知識を必須科目として教え、選択式で専門分野の勉強ができる。

その卒業には単位式と成果式の二パターンがある。

単位式は、卒業に必要なだけの単位をとり、ほぼ形だけの卒業論文を提出して卒業資格を得るもの。

成果式は必須科目の単位を最低限取得した上で、春に実施される成果披露会で著しく優れた研究成果、もしくは実力を見せ、卒業資格を得るものだ。

私に著しい成果を出せるとは思わないから…単位式になるだろうなぁ。


学園の入学に年齢制限は無く、在学期間の制限も無い。

単位が取れなければずるずる何年でも居座れてしまうし、実力があれば一年で成果発表をして卒業もできてしまうわけだ。

リードは…一年で卒業できそうだな。


私が考えていることが分かったかのように、リードはこちらを見て微笑んだ。



「大丈夫、一人にはしないよ」



うん、まぁ…リードなら適当に私の実力に合わせて卒業時期を一緒にするくらいやりそうだよね。

そしてそんなリードの言葉一つで意味合いを理解してしまったようで、お母様は一言言い放った。



「一年後の成果発表会には二人とも参加しなさいね」



実力を隠して卒業を遅らせるのは許さない。

そんな声色だった。

そ、そんな…私に何の成果を発表しろっていうんだ。

馬鹿みたいに高い魔力以外取り柄なんかないのに。

しかもその魔力は基本的に隠さないといけないわけで、魔術披露で卒業資格を得るのは不可能。

絶望的な気分でチラリとリードを見ると、彼は険しい表情でこう言った。



「…アカネ、死ぬ気で卒業しよう」



死んだらこの世から卒業してしまうのでは。

そんな軽口を叩ける雰囲気でもなく、私は蚊の鳴くような声で『はい』と呟いた。

恥をかくことがほぼほぼ確定した成果披露会、一年後なのに早くも憂鬱。

いやいや、ダメだ。

前向きに考えよう。


一つだけいいこともある。

実はこの夏、どうしても王都に行きたい用事があるんだけど、どうやって切り出したものかと思っていた。

この流れなら、入学準備の為とか言って少し早めに王都へ行けるかもしれない。



「早く王都に行きたい?なぜですか?」



私の部屋に戻り、リードと二人になったタイミングで話を切り出すと訝し気な顔をされた。

そうだよね、意味が分からないだろう。

かといって本当は理由を説明するのも憚られる。

いい顔をされないのが目に見えているから。

だけど私ひとりでお母様達を説得できるとも思えないし、だとすればリードを味方につけておかないといけない。

正直に話すしか無いだろう。



「大事なイベントがあるからなの」


「イベント?」


「まぁ、ここでも起きるかはわからないけど…」



私がそこまで話すと、リードは納得したようだった。



「なるほど、本の中で起きた出来事ですか。アカネ様に関係があると?」


「か、関係あるわけじゃないんだけど…もしかしたらほっとくとまずいかもしれなくて」


「…何が起きるんですか?」



そう問われて、私は眉尻を下げて答えた。



「王女様の誘拐」




===========




"ホワイト・クロニクル"内でのお話を振り返ろう。


主人公ファリオンは政敵アーベライン侯爵の手から逃れて、母と共に母の生家へ落ち延びた。

しかし母は病で命を落とし、二人を厄介者扱いしていた伯父を頼ることもできないファリオンは、そのまま森を彷徨って盗賊団に拾われることになる。

しばらく盗賊として荒っぽい生活を送っていたけれど、いつものように略奪の仕事をしている中、魔物に襲われて絶体絶命の大ピンチ!

そこを助けてくれたのが現勇者であり、英雄ベオトラだった。


それをきっかけに改心したファリオンは盗賊稼業から足を洗い、これまでに磨いてきた腕っぷしを生かして冒険者に転身。

間もなくマリーに出会って一目ぼれし、彼女の後をくっつきながら冒険者の日々を過ごす。


ただの冒険者に過ぎなかった彼の運命が大きく動くのは、冒険者になった翌年の夏のこと。

王都で建国祭が行われた日の夜、お忍びで街を歩いていた王女が盗賊にさらわれそうになるのだ。

そこにたまたま居合わせたのがファリオンで、成り行きで王女を救出する。

その功績を讃えてファリオンは騎士爵を叙爵され、さらにはこれまた偶然王城に戻っていたベオトラに勧められて試してみたところ聖剣を抜けることが明らかになり、とうとう新たな勇者が誕生。


ちなみに彼が実は貴族の子息であることはこの時点で発覚してしまう。

貴族としての立場も用意してもらうことは可能だったんだけど、彼はそれを断り、マリーと共に冒険を続ける。

そして間もなく魔王の復活が発覚し、ファリオンとマリーは迷宮へ向かうのだ…


と…まぁあらすじとしてはそんな感じ。


今回問題となるのは、王女様の誘拐の部分だ。

何が問題って…ファリオン、盗賊のまんまだし。

助けに来てくれる可能性がとっても低い。


誘拐未遂の憂き目にあう王女様は、シャルロッテ・カデュケート。

年は私と同じ。

本の中では助けてくれたファリオンに一目ぼれし、マリーとの仲を裂くべくエルマンを雇って色々工作するプチ悪役だった。

エルマンはそんなシャルロッテをフォローしてくれる役割だったんだけど、この世界だとマリーについちゃってるしなぁ…


と、まぁそんなわけで本の中の通りであれば、今年の建国祭でシャルロッテは誘拐される。

そして助けが来ない可能性が高い。

そんなことをつらつら説明すると、リードは大きく溜息をついた。



「話は分かりました。が、それでどうしてアカネ様が出ていくんですか?」


「は?」


「お忘れかもしれませんが、貴女は十五歳の伯爵令嬢です」


「はぁ」


「はぁ、ではなく。そこで颯爽と助けに行くのは普通の令嬢じゃありませんよ」



そう言われて、天井を見上げながらうーん、と唸る。



「なんか去年の夏にも同じような会話した気がするわ」



そう言いながらじっとリードを見つめると、リードも思い当たったらしく複雑そうな表情をした。



「まぁ、責任感じて落ち込むアカネ様を宥めるよりは誘拐阻止の方がまだ楽そうですね」



心外である。

だけどせっかく同意を得られそうなのだから、余計な口出しはすまい。

ていうか、これでもし私達が行かないで本の通りにファリオンがシャルロッテを助けたら、それはそれでマズイってこと分かってないんだろうか。


とにかくリードの協力を取り付けた私は、一月後には王都に立っていた。

『王都での生活に早く慣れる為』なんて言い訳をつけて予定より早く王都へ行くことにお父様とお母様は『寂しい!』と大反対してきたけれど、思わぬ援護射撃でこれが実現した。

その援護をしてくれたのが…



「アカネちゃん」


「お姉様!」



大きな屋敷の前に立ち、私達を出迎えてくれたコゼットお姉様。

ここはパラディア王室が持つ別荘だ。

カデュケート王国との友好の象徴として建てられたそこにコゼットお姉様とスチュアート王子が招いてくれた。


私達が王都に行きたがっていることを知ったお姉様は、毎年夏に実施しているカデュケート視察の行先を王都に変更して、そこに私達を招くことを提案してくれたのだ。

ずっとセルイラにばかり行っていたのは外聞が悪かったからちょうどよかったそうで。


早めに入寮できるよう手続きするのはちょっと面倒だったから助かった。

私を出迎えてくれたお姉様はうっとりしてしまうほど美しい笑みを浮かべている。

昨年の一件以来、こうして会う時も比較的自然に接してくれるようになったし、時々手紙もくれる。

姉妹仲は良好だ。



「よく来てくれたわ」


「私の突然の我儘を叶えてくださって有り難うございます」


「これくらい何てことはないわ。次からはすぐ私に相談してね」



笑顔でそう言ってくれるお姉様に曖昧な笑みを返す。

気軽に相談すると大事になりそうだから気をつけよう…



「お母様達はお優しいけれど、少しくらい大人から離れて羽を伸ばしたくなるわよね。こちらにはお友達もいるみたいだし」



私の急な王都行きの理由を、お姉様はそう解釈してくれたらしい。

まぁ、確かにうちの親は相当な親バカで、私にはとっても優しいけれどちょっとベタベタしすぎなところがある。

突然異世界に来た感じの私だからこんなもんかと思えるけど、順当にこの世界で成長して思春期を迎えていたら反抗期である今頃には両親を疎ましく思っただろう。


それもあってお姉様は逃げ道を用意してくれたのかもしれないな。

学園行きが急に強制的に決まったことも知ってるだろうし。


そのせいか、お姉様自身もあまり構いすぎることなく、屋敷内の案内を一通りして少しお茶をした後は放っておいてくれた。

…まぁ、多分監視…もとい見守りの目はどこかにあるんだろうけど。


しばらくは王都をぶらり観光したり、アンナに会いに行ったりしてバカンスのような時間を過ごした。

そして入学式を一週間後に控えた今日、とうとう建国祭が始まった。

いつもご覧いただきありがとうございます。

学園編突入を匂わせていますが、ご存じのとおり主人公達は自由なので学園外に出まくります。

あんまり学園編っぽくはならない可能性が高いです…

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