第2章 熱砂の要塞 Act6霞む想い Part2
リーンは光の中に居た。
そこは誰も入れない聖域。
そこは何人も干渉出来ない世界の入り口。
「あなたは光を求めて此処へ来たのですか?
それとも、崩壊を求めて此処を訪れたのですか?」
眩く輝く光の中から声が聴こえる。
「あなたは此処へ戻って来た。
人の世を知って再び此処へと還って来た。
さあ、あなたの観てきた事を、私たちへ示すのです」
光は娘に尋ねる。
「あなたが見てきた全てを・・・あなたが知った人の想いというものを全て」
光の中でたゆたう金髪の乙女に求めてきた。
「私は・・・誰なの?私は一体何者なの?
私の本当の名は何というの?」
乙女は自分を求める。
知らず知らずに手が指し伸ばされていく。
「そう・・・あなたは此処での記憶が無いようね。
ここから人間と共に外へ出てしまったのだから。
あの人間の娘と同じ姿で出て行ったのだから。
忘れてしまったようね、自分が難の為に存在しているのかを」
光が乙女に告げた。
「忘れた?・・・そう。私は何者なのか・・・名前さえ忘れてしまった。
だから・・・教えて、私の名を。本当に名乗るべき名を」
手を指し伸ばして答えを求める。
「いいでしょう。
あなたの求めに答える前に、神たる証を差し出すのです。
あなたが神である証を示すのです」
光の求めに乙女は戸惑う。
「私が神?どういう事?」
だが、光は乙女に答えず、
<ビシャッ>
眩い光で乙女を照らし、
「確かに認められました。
あなたが我等が娘である事を。
あなたは我等が<検証神>-バリフィスーであると認めます」
光の声が名を告げた。
「バリフィス?それが本当の名乗るべき私の名だというの?」
金髪の乙女が訊いた。
「そう。
あなたは人間を検証する者として人間の世界へ出て行った。
人間が<神>と崇める者、バリフィス神。
最期の審判を下す為に野に降りし神」
バリフィスと呼ばれた呼ばれた乙女が光を見詰める。
「私が人間を調べる?どんな理由があって調べるというの?」
バリフィスは光に尋ねる。
「教えましょう、あなたは忘れているようですから。
我々は人間が神と呼ぶ者。
この人間が住む世界を監視する者として存在している・・・
此処とは違う世界より来た者なのです」
バリフィスは光の声を黙って聴いている。
「あなたは人間界で聴いた事でしょう。
千年程前に、巨大な隕石がこの世界に墜ちたと。
そしてその影響で空に電解層が出来、人は空を高く飛ぶ事が出来なくなったと。
それは我等がこの世界の人間を閉じ込める為。
空を高く飛び他の星へ行くのを防ぐ為に施したのです」
ーでは・・・何の為にそんな事を?-
喉まで出掛かった言葉をバリフィスは光の声に押し留められた。
「この世界の人間は、その価値を持ち合わせているのか。
それとも悪しき者として我等の粛清を受け、滅びの道を歩むのか。
それはあなたが決めねばならないのです<検証する者>バリフィス」
「私が人の未来を決めねばならない?
どうして私が神で、どうしてこの世界の未来を決めねばいけないの?」
バリフィスと呼ばれた乙女が光に訊いた。
「それはあなたが検証してきた筈だから。
人の世界へ出て、身を持って調べた筈なのだから。
あなたの意志が全てを決するのですバリフィス。
何故ならあなたは人ではない、我等の中から造られたモノ・・・
人造人間・・・あの王女リーンのDNAから造ったコピーでしかないのだから」
王女リーンのDNAからこのバリフィスと呼ばれし者は造られたという。
だが、この乙女にはなんのことやら解りはしなかった。
この時代の記憶しか持たないリーンであった者には。
「何を言っているのか私には解らない。
解った処で、私が人の世界を滅ぼす訳がないでしょ!」
頭を振って拒んだ乙女に光が告げる。
「あなたはこれより我等の元へ戻る様になるのです。
あなたが経験した事を全て我等に知らせる為に。
そして我等、監視者の意思であなたが決める事になるのです。
この世界の人間が同じ過ちを繰り返さぬと判断出来るか否かを」
光が王女リーンのDNAで造られた娘、バリフィスに告げて。
「さあ!バリフィス・・・あなたの記憶装置を渡すのです」
光がその乙女に注がれる。
王女リーンだった者が辿った数奇な物語は、光によって何一つ残さず吸い取られていく。
「あ・・・ああっ、私の今迄が全て・・・
王女リーンがこの場に来た時からの記憶が全て出てくる・・・
私が王女リーンとなった時からの・・・」
バリフィスと名乗るべき乙女は全ての記憶を光に渡した。
「データ転送完了・・・バリフィスよ、眼を開けなさい」
光が元王女リーンに告げた。
「眼を開ける?
私はずっとあなたと話していたじゃない。光の中で・・・」
そう言って初めて気付いた。
「あっ!」
本当の自分が居る場所に。
金髪の乙女リーンと名乗っていた娘が眼を開けて周りを観ると、
「ここは?・・・一体?」
フェアリア皇国王女リーンを名乗っていた自分が居る場所。
そこは見知らぬ機械が周りを埋め、何かの装置に座っている自分に漸く気付いたのだった。
バリフィスと名乗るべき乙女は戸惑う。
自らの宿命を知って。
人の業を知ってしまい・・・
そして、自らの責務に希望を捨てるのか・・・
次回 霞む想い Part3
君はその愛を捨てるというのか?




