第2章 熱砂の要塞 Act6霞む想い Part1
闇から抜け出したミハルとグランは、
仲間達の待つ都へと戻ろうとしていたのだが・・・
「ミハル・・・本当に大丈夫なのか?」
白獅子グランは、背に跨るミハルに訊いた。
「う・・・うん。なんとか・・・」
荒い息を吐きながら答えるミハルを、心配するグランがもう一度訊く。
「大丈夫じゃないだろ?苦しいのか?」
首を捻って、しがみついているミハルを見る。
神の力を顕す魔法衣の上着を纏ったミハルは、どうみても辛そうな表情をみせていた。
「大丈夫だってば・・・ちょっと身体が熱いだけなんだから・・・」
痩せ我慢するミハルは、無理に笑顔を作ってグランに答える。
「そうか?一度下へ降りて休もうか?」
夜空を舞うグランが下を指して尋ねると、
「うん・・・お願い・・・」
流石に耐え切れないのか、ミハルがグランの勧めを受け入れた。
人目につかない岩場の陰に、グランはそっと降りた。
「ごめんねグラン・・・少し・・・独りにしてくれないかな・・・」
ふらふらとグランの背から降りたミハルが、岩場の陰へと消えていく。
「ミハル・・・」
グランはミハルの気が済むまでと、その場に座り込んで待つ事にした。
ー熱い・・・身体の中が焼かれているみたい・・-
ミハルは耐え切れず、上着を脱ぐ。
神の力が宿った上着を脱ぐと、少し身体が休まったような気がした。
ーでも・・・まだ身体の芯が暑いよ。
何かを求めているみたいに・・・何かを・・・-
身体中が何故か敏感になっているみたいで戸惑うミハルが、
ぎゅっと自分の腕を掴んで耐えていると・・・
「んんっ!?」
思わず声が洩れてしまう。
ーあ・・・あれれ?なんだろうこの感覚。
まるで誰か他の人に身体を触られているみたい・・・-
自分の手で自分の腕を掴んだというのに、
その感覚が他の誰かに掴まれているように感じてしまう。
ーどうしちゃったんだろう私。
こんな感覚初めてだ・・・それに・・・他の処も・・・-
顔を紅く染めて、ミハルは戸惑う。
「んっ!?んうっ?」
ビクンと身体が跳ね上がる。
思わず声が洩れる。
「だ・・・駄目。こんなの・・・耐えられないよ・・・」
瞳を潤ませたミハルが、しゃがみ込む。
「あ・・・熱い。熱いよ・・・誰か・・・何とかしてぇ」
身体に起きるうずきに耐えられず、岩に凭れて身悶え助けを求めてしまった。
「どうしたんだ、ミハル?」
声を聞きつけたグランが、様子を見に来た時、
ミハルは荒い息を吐き身悶えて、
「グ・・・グラン・・・どうしよう私。
普通じゃないの、身体が求めちゃってるの・・・どうしよぉ?」
助けを求める様に手を指し伸ばしてくる。
その瞳を潤ませて、紅く頬を染めて。
「うわっ!?ミハル・・・ど、どうしたんだい?」
普段観たことも無いミハルの表情に、グランは生唾を呑んだ。
「熱くて・・・熱くてどうにもならないのっ!
こんなの初めて・・・まるでリーンに求められているみたいに身体が火照って堪らないのっ。
恥ずかしいのに止められないのぉっ!」
潤んだ瞳でミハルが助けを求めてくるのを、グランは呆然と見詰めてしまう。
「あうっ!も・・・もう駄目ぇっ!もう耐え切れないっ。
気が狂いそうっ、熱くて狂っちゃうぅっ!あ・・・熱い熱いよぉっ!」
ミハルの表情が、段々艶めかしくなっていく。
「ミ・・・ミハル。落ち着いて!今、魔法衣を掛けてあげるからっ」
グランが脱ぎ捨ててあった神の魔法衣をミハルに被せると、
「んっぎっ!ひぎぃっ!」
泣き叫ぶかの様に、悲鳴を挙げて身体を仰け反らす。
「ミハルっ!?」
グランの呼びかけも、ミハルには届いていないのか。
瞳を見開いたまま動きを停める。
「白獅子・・・よ。
聴こえているならミハルに教えて・・・
本物のルシファーは此処には居ない。
私達の好きなルシファーは別に居るって・・・」
ミハルの口からミハエルの魂が話しかけてくる。
「その声はミハエル様!?ルシファーに喰われてしまったのでは?」
グランが咄嗟に訊くと、
「ええ、喰われたわ・・・でも、最期の瞬間に術を放ったから・・・
このルシファーには屈さないと・・・だからコイツの中で抗っているの。
ミハルにはすまないけど・・・私は穢され続けてしまっているの・・・今のように」
苦しげな声が、ミハエルの苦痛を物語っている。
「ミハエル様っ、必ずお救い致します。それまでのご辛抱を!」
聖獣グランが約束するが、
「私の事より、ミハルをお願い。
私を救うよりミハルが闇に堕ちない様に、護ってあげて・・・
最期の希望を護ってあげて・・・」
消え入るような声が、グランの心を締め付ける。
「それから・・・フェアリアで異変が起きる。
とうとう畏れていた時が来ようとしているわ。
コイツらの手で女神が邪神となってしまうかもしれない・・・
ミハルに教えてグラン。
堕天使ミハエルの生れ変りになんてしちゃって・・・
ごめん・・・ね・・・と」
ふらりと立ち上がったミハルの身体で、ミハエルが謝る。
「解りましたミハエル様。必ず伝えますから」
グランが約束すると、
「頼んだわよ、白獅子グラン・・・これが最期だと思う。
私の力はこれで尽きるから・・・
この意味が魔獣だったあなたには解る筈よ・・・さよなら」
別れを告げたミハエルの・・・
いや、ミハルの身体が急に何者かに掴まれたかの様に四伎を開かれ、
「私が堕ちればミハルに影響が及んでしまう。
護ってグラン・・・お願いだからミハルをっ!うっ!
うっぎぃっ やああぁぁぁぁっ! 」
ミハルの身体が弓なりに反り、そしてミハエルの声は2度と聴こえはしなかった。
<バ サ ッ>
グランはミハルを受け止めて誓う。
「ミハエル様・・・ミハルは命に代えても護ってみせます。
どうか・・・ご安心を・・・」
牙を噛んで、グランは天使の魂に約束を交わした。
ミハエルがグランに教えた事は。
ミハルがいつ闇に貶められるか解らないと言う事と、
フェアリアで起き様としている異変。
闇は遂に牙を剥いて襲い掛かろうとしているのか?
次回 霞む想い Part2
君は光の中で知る事になる・・・自分の事を!?




