第2章 熱砂の要塞 Act5奈落 Part5
ミハルとミハエルの2人は、
闇の空間の中に居た。
そこで出逢った者の姿は・・・
「ミハエルさん、私から離れないで」
ミハルは後ろに居る天使に声を掛ける。
「う・・・うん。解ってる・・・」
闇の中へ入った2人は暗闇の中、薄く灯かりが洩れる所へと歩む。
「行くよミハエルさん。あそこがこの空間の主が居る所。覚悟完了?」
ミハルが忠告する。
「う・・・うん。解ってる」
同じ言葉を繰り返すミハエルに、少し笑ってからミハルが呪文を放つ。
「闇の主たる者へ導け!」
<パアァッ>
放たれた呪文が闇のベールを剥ぎ取った。
「あ・・・・。」
そして2人の目の前に現れたのは。
「ホント・・・に?」
「い・・・た・・・」
紅いマントを着けたその者は、2人に片方の瞳を向けていた。
「ル・・・シ・・・ファー」
ミハエルが声を詰まらせて呼んだ。
「ルシちゃん!」
ミハルが喜びで潤んだ声を挙げた。
二人の前に居る者の姿は、かつて闇で出会った闇の魔王ルシファーそのものだった。
「ルシファー!」
「ぎゃあぁっ!」
ミハルはすっころぶ。
ミハエルに踏み跳ばされて。
「あいたた・・・なんて事するのよミハエルさん!」
慌てて飛び起きたミハルに構わず、天使ミハエルはルシファーに駆け寄って行った。
「ちぇっ、おいしい処ミハエルさんに取られちゃった」
ぷぅっと剥れたミハルは、ルシファーにミハエルが跳び付くのを見逃してあげた。
ーそうだよね・・・私なんかよりミハエルさんの方が、
ずっと永い間、恋焦がれていたんだもの。譲ってあげないといけないものね・・・-
跳び付く天使にミハルは想っていた。
2人の時が再び始まるのだと・・・そう想っていた。
その時までは・・・
「えっ!?ルシ・・・ファー?」
ミハエルの叫びにも似た声で、ミハルが振り向いた時。
ルシファーの前でミハエルが立ち尽くしている。
「どうしたの、ミハエルさん?」
呼びかけた時、ミハエルは呆然とルシファーを見詰め口元を押えていた。
「そんな・・・なぜ・・・なぜなの?」
呟く様に言ったミハエルの瞳が澱み始める。
「!?」
ミハルは声にならない叫びをあげる。
「ど・・・う・・・し・・・て・・・ルシファー?
魔王に戻ってしまったのよ・・・
私と約束した事を忘れてしまったの?私の事を忘れてしまったの?」
消え入るような声で、ミハエルはルシファーを見詰め、そして・・・
「あっ!?」
思わず声をあげた。
ルシファーの手に持たれた者を観て。
「私を喰らうの?私の魂を・・・?」
呆然と呟くミハエルの手が、力なく垂れ下がる。
その前でルシファーの手には金色に輝く魂が握られていた。
「くっくっくっ。そなたから口付けしてくれるとは手間が省けたぞ天使よ」
一言呟くルシファーが手にした魂を口元へ運び、
「余のモノになるがいい天使よ。
余と同化し、新たな力となるがいい」
金色に輝く魂を口に放り込んだ。
「ル・・・ルシファー?なぜ・・・なの?」
己の魂を闇の魔王に奪われた天使ミハエルが最期に問う。
「ミ、ミハエルさんっ!」
ミハルが手を指し伸ばしてミハエルを救おうとしたが、
「ごめんね、ミハル・・・赦して」
それがミハエルの言った最期の言葉となった。
<フッ>
魔王ルシファーに魂を喰われた精神世界の住人は、跡形も無く消えてしまった。
「ミハエルさんっ!」
指し伸ばした手の先には、最早何も残っては居なかった。
「ど・・・う・・し・・・て・・・。うっ、ううっ」
急に力を失ったかの様に、ミハルは足元をふらつかせ苦しむ。
ー私の生れ変る前の魂を闇に奪われたから?
力を半分位奪われてしまった気がする -
闇の中でミハルは立っていられなくなり、膝を着いてしまう。
「余は遂に天使の魂を得た。
そなたの魂を喰らえば、復活の時を迎えられよう・・・大魔王がな!」
ルシファーはミハルに手を翳して告げた。
「な・・・!?大魔王が?どうしてなのルシちゃん?
どうして魔王に戻ってしまったの!?」
抗う力を失いつつあるミハルに、ルシファーの手から闇の波動が注がれる。
「うわあああぁっ!?」
波動はミハルの身体を蝕む。
「あああっ!?」
身体を仰け反らせて苦痛に顔を歪めるミハルに、ルシファーが言った。
「そなたも余に身を委ねるが良い。
今、天使が余にした様に。
余に唇を与えるのだ・・・余のモノになるのだ」
近寄ったルシファーが、更に強い波動をミハルに注ぐ。
「ひっ!きゃああっ!」
<ブチッ ブチブチッ>
ミハルの魔法衣がはだける。
「さあ!余のモノとなれ。余にその身を委ねてしまえ!」
闇の波動がミハルの心を蝕み始める。
神の力を授かりし者の心をも、闇の波動は蝕み始める・・・・
ミハルは危機に直面している。
闇の波動で心を惑わされ、闇に屈しようとしていた・・・
次回 奈落 Part6
君は徐々に瞳から輝きが奪われていく・・・そう、闇に堕ち様としているのだ。




