第1章 New Hope(新たなる希望)Act3護るべきモノ Part1
「はあ はあ はあっ。」
肩で息を吐くチアキに、更なる責め苦が伸し掛かる。
「そらっ、どうした。もう根を挙げるのか?」
頭上から声が降ってくる。
「ま・・・まだ。出来ますっ!」
腕立て伏せをする手が、ガクガクと震える。
「魔法力は体力とも比例するんだ。
持続力が無いと、長時間の戦闘には耐えられないぞ。」
頭上からまた、マモル准尉の声が降ってくる。
「は・・・はいいぃっ。」
チアキにだけの特別な訓練。
余暇の時間にマモルが付きっ切りで相手になってくれている。
仲間連中も最初は憧れのマモル准尉に特別訓練を施されるチアキを羨ましがっていたが、
今はその過酷さに同乗する程までに変わっていた。
「よく持つなチアキの奴。」
ジラが呟くと、
「どこまで耐えられるかと思っていたけど。良くやってるよチアキは。」
ダニーも居た堪れなさそうに、その姿を横目で見た。
「お前等も付き合ってやったらどうだ?」
ニコ先任が二人の一等兵に言うが、
「無理矢理。腕立て100回なんて・・・。
それに加えてランニング。それを毎日なんて。」
「二日と持ちませんよ、私は。」
二人が交々(こもごも)断わり、ニコ兵長と共に訓練を続けるチアキから視線をを外した。
「マモル君、チアキの訓練を任せておいていいの?」
士官室でコーヒーを呑みながらミリアは尋ねた。
「ええ。任せておいて下さい。
こう見えても優しく教えているのですから。」
ミリアに心配は要らないと断わるマモルが、外へ出て行こうとすると、
「センパイ・・・また。泣かれているのね。」
俯いたミリアが悲しそうにマモルに訊く。
「まあ。昔っから泣き虫でしたからね、ミハル姉さんは。」
答えたマモルはミリアと別れて、姉が独りで居るであろう街の北側へ行く。
遮る物の無い満天の星空の元、女の子がすすり泣く声が聴こえてくる。
「やっぱり泣いていたんだ、姉さん。」
後からそっと声を掛けると、ぱっと泣き声が止んで、
「なんだ、マモルか。悪い?泣いていたら。」
強がった口調とは裏腹に少し嬉しそうに微笑んでいる姉の顔に、
マモルは苦笑いを浮かべる。
「もう、2週間・・・ずっと泣いてるじゃないか、ミハル姉は。
いい加減、呪を解いたらどうなの。そんなに辛いなら。」
少し心配気に姉に言ってから横に座ると、
「ううん・・・耐えなきゃ駄目なの。私が耐えなければいけないの。」
悲しげに小さな声で答えた姉の顔を見て、マモルは居た堪れなくなる。
「姉さん・・・美夏姉に言われた事をずっと気に病んでいるんだね。」
姉から顔を背けて星空を見上げるマモルに、コクリとミハルが頷く。
「そんな元気の無い顔をリーン姫が見たら、きっと悲しむと思うよ。」
姉を気使うつもりでマモルが話すと、
「マモル・・・私ね、思ったの。
リーンって凄かったんだなって。
こんな辛い想いをずっとしていたんだって・・・。
ずっとずっと私達部下の事を思って・・・耐えてきたんだなって想えて。」
ミハルは星空を見上げて、懐かしい思い出と大切な人を想って声を震わせる。
「そうだよね、リーン姫はいつも僕達の事を想ってくれていた。
無事に闘いを終えようと努力してくれていたよね。」
姉の想い出を理解してマモルも頷く。
「私にはとても真似できない。
私には到底皆を守る事なんて出来っこ無い・・・
リーンみたいに強くはなれないから。」
自嘲気味に話すミハルに、ため息を吐いたマモルが言った。
「そう、ミハル姉にも僕にも、リーン姫の代りは務まらないかも知れない。
だけどミハル姉にはミハル姉の護るべきモノがある筈だろ。
それを護れればいいんじゃないのかな。」
星空を見上げたミハルの瞳に新たな涙が湧く。
「マモル・・・ありがとう。
もし、マモルが居てくれなかったら・・・きっと私は駄目になっていたと想う。
きっと駄目な隊長になっていたと思う。」
ミハルはそう言うと、マモルに抱き付き涙を零し、
「マモルっ、マモルっ。私っ私っ!」
震える身体を弟に託して、泣きじゃくってしまった。
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「へくっちっ!」
王宮の私室でリーン皇女が、くしゃみをした。
「如何なされました、リーン様。」
野太い男の声が聞きとがめた。
「お風邪でも、召されましたか?」
心配した様に伺うその声に、
「うーん。またミハルが噂してるな。」
金髪を赤いリボンで結った皇女が微笑む。
「ミハルが・・・で、ございますか?」
答えた男の声がリーンの座っている横で聞える。
「うん、グラン。またあの娘・・・泣いているのね。」
リーンは答えた男の鬣を撫でて答えた。
「また・・・ですか。
もう毎日、夜になると泣いている様ですが。
私めが観て参りましょうか?」
グランと呼ばれた巨大な獅子が、人の言葉でリーンに伺いを立てる。
「その必要はないわ、グラン。
魔獣がそんな小間使いみたいな事をするなんて。
そんな事を私が命じたなんてミハルが知ったら怒ってしまうわよ。」
「御意。」
リーンに停められた魔獣グランが、平伏する。
「でも・・こんなに毎日泣いているなんて・・・。
・・・心配だわ・・・。」
グランの鬣を撫でながら、リーンが瞳を伏せて心配顔になり、
「グラン・・・本当に必要となったら。往ってくれるかしら。」
瞳を開けて、リーンがその人が居るであろう遠くの国を見据えて魔獣に頼んだ。
「リーン様の命なれば。 何なりと。」
平伏する魔獣は、女神のような皇女に服従し、頭を下げ続けた。
私って・・・トラブルメーカー?
街を歩けば・・・ぶつかるし。
え?
あなたは?
えええええっ!?
次回 護るべきモノ Part2
君は捕らえられた娘を助け出す為単身で向う。そう・・・そのつもりだった・・・の?




