第2章 熱砂の要塞 Act2聖騎士 Part5
<闇騎士>リンの前に現れたのは・・・
碧き瞳の<聖騎士>ミハル!
<聖騎士>の魔法衣を纏った碧き瞳の少女が<闇騎士>を睨む。
「どうやら私がここへ入れた意味が判らないみたいね、リン」
昔の名で呼んだ<聖騎士>ミハルが、ゆっくりと右手を挙げてゆく。
「意味だと?何を言って・・・何だとぉっ!」
その意味が漸く掴めた<闇騎士>が、あからさまに動揺する。
「おっ、お前・・・まさか、魔王の力を使ったというのか!?我と同じ力を?」
明らかに動揺する<闇騎士>に宿る者。
しかし、ミハルの右手は停まらない。
「魔王・・・そうか。
あなたが魔王って訳ね・・・リン。
いいえ・・・オスマンの魔王イブリス」
<ピタッ>
ブレスレットを着けた右手が<闇騎士>へと向けられて、
「どう?違ったかしら。闇の魔王さん」
ビシッと<闇騎士>目掛けて指を差した。
「ぐうわっ!なぜ我の名を知っているのだ、ミハルぅっ!」
魔族が己の名を闘う相手に知られれば、その力は弱められてしまう。
銃を抜き放ち構える<闇騎士>に、ミハルが言った。
「邪なる者イブリスよ、その娘から離れなさい。
さもなくば・・・消し去ってあげる」
その瞳は碧く輝き、金色とはなっていなかった。
「ふっ、魔法使い状態で我を滅ぼし去るだと?
何を寝惚けているミハル。
お前はこの銃に抗う事も出来ない神の使徒。
もう一度喰らうが良い!」
<闇騎士>がミハルに向けて銃を構えた。
「ならば・・・撃ってみなさい。
今度は前みたいにはさせない・・・から」
ミハルは上目使いに<闇騎士>を睨んだ。
「ふっ!確かに前みたいに2・3発撃つ必要もなくなったがな。
この銃は強化されてあるんだ。一撃でお前も力尽きてしまうだろう」
銃口をミハルに向けてトリガーに指を掛ける。
「そう・・・強化されたの。
じゃあ私も強化しとこうかしら・・・力を」
右手の魔法石が光を放つ。
<フォンッ>
ミハルの足元に、魔法陣が描かれ、
<シュオオオォッ>
その円陣から碧き光が迸る。
「むう!無駄だ!この弾から逃れは出来ないっ!」
<ズドムッ>
言うが早いか、トリガーが絞られて魔法弾がミハルに向かう。
「無駄はアナタの方よ!」
<バシッ>
叫ぶや否や、右手が一閃した。
必ず命中する魔法弾はミハルの右手にいとも容易く弾かれた。
「なっ!?信じられんっ、弾を手で弾き返しただと!?」
<闇騎士>は眼を疑った。
「言ったでしょう。前みたいにはいかないって」
弾き返した右手をすっと突き出したミハルが、
「じゃあ、今度は私の番ね。
<闇騎士>リンを解き放たぬとあれば・・・倒すまで」
右手に魔法力を集中させながら、言い渡した。
「倒す・・・人間如きが我を倒せるとでも思っているのか?笑わせるな!」
<闇騎士>リンの口が魔王の言葉を吐く。
「倒せるかどうか・・・やってみせましょうか」
そう言ったミハルの碧い髪が靡き、力の奔流が右手に集まる。
「何をする気なのだミハル?
その手で光の矢でも放つつもりか?笑止!」
リンに宿る魔王が嘲る。
「そうね・・・光の矢だったら良かったかもね。
この拳から放たれるのが・・・」
ミハルの気が臨界点に到達する。
「まあ、リンを消滅させる訳にもいかないから・・・
あなたを戦闘不能にする程度にしておくわ」
指し伸ばした右手の先に金色の魔法陣が数枚描かれる。
「なっ!?そっ、それはっ!」
魔王イブリスには記憶が残っていた。
「神の・・・神の術。まさか・・・お前は?」
魔王イブリスと闘い、その魂を破り去った神を思い出す。
「戦神アキレスの力を授かったというのか!」
驚愕の眼差しでミハルを見詰める魔王イブリスに、ミハルが放つ。
「そう!私は<聖騎士>の力を授かりし人間。
<破邪なる者>ミハルだ!」
驚愕の瞳で見詰める<闇騎士>に向って、ミハルは決める。
「悔い改めるがいい、イブリス!」
右手に碧き光が集中し、
「聖極大爆輝弾!」
聖なる碧き光が、<闇騎士>へ放たれる。
<ギュオオオォムッ>
「馬鹿なっ!人間如きにそんな術が放てるとはっ!!」
恐怖に怯えた<闇騎士>の姿が闇へ融け込んだ。
ミハルの放ったフレアが空を切裂き、闇に穴を穿つ。
「・・・逃げたのね・・・魔王イブリス。・・・<闇騎士>リン」
闇の結界を切裂いたミハルが呟く。
そして・・・
「闇は還ったわ、王女シャルレット。それから・・・」
ゆっくりと2人に振り返るミハル。
その顔には、いつもの微笑があった。
「それから・・・魔法少女チアキ」
にっこりと微笑む碧き<聖騎士>が、2人に言った。
「もう、大丈夫だよ。私が還ってきたから」




