第2章 熱砂の要塞 Act2聖騎士 Part4
闇との決戦。
今、チアキは<剣聖>となって闇を討つ!
闇の魔獣ドルドラが吼える。
「ほざけっ小娘があっ!我を斬るだとぉっ、笑止!」
嘲る魔獣から棘が放たれた。
<ドス ドス ドス>
<剣聖>へ向かって放たれた棘が突き刺さる。
誰も居ない床に・・・。
「なっ!?」
ドルドラが気付いた時には、千秋が宙へ舞い上がった後だった。
「破っ!」
<破邪の剣>が気合と共に一閃される。
剣波がドルドラの胴を切裂く。
「ぐおっ!?」
魔獣ドルドラは怯まず棘を放ち続けて、千秋の動きを停め様と試みるが、
「式神よ!」
左手から御札を出し、撃ち出す千秋。
両者の術がぶつかり合い、打ち消しあった。
「やるな小娘!ならば・・・これでどうだ!」
大きく息を吸い込んだドルドラが、
「炎の息」
紅蓮の炎を吐き出した。
「光の壁!」
剣を立てて防御魔法を展開する千秋。
光の壁は難無く炎を防ぐ。
「くっくっくっ、小賢しいわ!小手先の魔法で我と戦うとは。
我が魔王配下最凶の獣と称せられる訳を教えてやろう」
闇のオーラを噴き出し、ドルドラが術を発動させた。
「この気・・・どうやら本気を出したようね」
<剣聖>千秋の眼が輝く。
「それなら・・・私も本気を出すから!」
両者の気が膨らむ。
黒い霧がドルドラを包み、どんどん闇が増大していく。
片や、千秋は碧き輝きに包まれ、光が剣に集中してゆく。
「くっくっくっ!神をも噴き飛ばせる一撃だ。人間なんぞ一溜りもないわっ!」
ドルドラの翼が拡げられ、全ての棘が千秋に向けられる。
「そう・・・確かに私は人間だ・・・神ではない。
しかし、私の剣は闇を斬り裂く為にある。
この<剣>は闇を斬る!」
両者の極大魔術が同時に放たれた。
「極大・轟息!」
ドルドラの棘から黒き波動が一点に集中して放たれ、
大きく開けた嘴から巨大な渦状の炎を吐き出した。
<ドムッ>
巨大波動が渦と一つになって千秋に向かう。
「闇を斬れっ!」
数十枚の式神が現われ、その全てが剣に宿り輝きを放つ。
切っ先をドルドラに向け繰り出した千秋が、渾身の力を込めて叫び、
「破邪聖輝斬!」
最大魔戒剣波を撃った。
<グオオン>
渦を巻く黒い破壊波に、金色に輝く鋭い斬波が突き刺さり、
「なっ!何だとぉっ!」
魔獣ドルドラ目掛けて黒い波動を貫いた。
<ドッ>
金色の斬波はドルドラに穴を穿つ。
<バキッ>
その穴が光を放つと、魔獣ドルドラの身体がひび割れ始める。
「バッ馬鹿なっ!そんな馬鹿なぁっ!?」
己の術に自惚れていた邪な者が、断末魔の叫びを吼えた。
「破邪請願!」
剣を振り下ろした<剣聖>千秋が背を魔獣に向けて告げる。
<バキ バキ バキ バキ バキ・・・>
光に切り刻まれて魔獣ドルドラが滅びの時を迎えた。
<ファアァッ>
魔獣ドルドラだった姿は消え、黒い灰が音をたてて宙に舞い消滅した。
「やった!凄い凄いっ!チアキッ!」
今迄勝負を固唾を呑んで見詰めていたシャルが、手を叩いて喜んだ。
「凄いよチアキ。
あんな化物を倒すなんて。本当に強いんだねチアキって!」
<剣聖>姿のまま、シャルに振り向いた千秋が微笑んだ。
駆け寄るシャルを見た千秋が、未だ闇の結界が解けていない事に気付く。
「シャル!まだ来ては駄目!」
駆け寄ってくるシャルに向って忠告した千秋の眼に、
銃を構えている者の姿が入った。
「あっ!あいつは!」
声を上げる暇もあらば。
千秋は銃が向けられている処へ身体を晒した。
<ボッ>
「今度こそ。
お前達の魂は貰い受けるぞ。
オスマンの王女シャルレット、その警護官!」
左手で指した女が言い放つ。
その悪しき左の紅い瞳を向けて。
「チ・・・チアキ?ねぇチアキ?」
震える声で自分の身替りに撃たれた<剣聖>千秋に問い掛けるシャル。
「あ・・・シャル・・・大丈夫だよ。
弾は私が受け止めたから・・・」
帯の所に穴が開き、そこから聖なる者の力を顕す金色の粉が止めど無く流れ出していた。
「う・・・そ・・・。チアキ?・・・チアキ?」
力尽き、崩れ堕ちていくチアキ目掛けて、シャルが奔り寄り抱き起こす。
「嫌っチアキっ!死なないで!」
絶叫するシャルに、千秋が手を差し出して言った。
「ごめん・・・シャル。
なんとか護りきりたかったけど・・・
もう・・・力がでないんだ。
シャルだけでも助けたいのに・・・ごめん」
差し出された手を握り、シャルが首を振って答える。
「うん、チアキには護って貰った・・・2回も。
いいえ、ずっと守ってくれていたんだから・・・謝らないで。
チアキだけを殺させはしない。
ボクも一緒に逝くから・・・」
友を見詰めて王女が望んだ。
「ボク達はずっと一緒だよ。
チアキだけを闇に奪わせたりさせない。
ボクもチアキを護って最期まで闘うから」
決然と千秋に言って、その瞳を<闇騎士>へと向けた。
「あーっはっはっはっ!
何と愚かしい娘共だ。よかろう、二人纏めて死ぬがいい!」
嘲り笑う<闇騎士>リンが指し、
「さらばだ!」
再びホルスターから銃を抜こうと手を伸ばす。
「シャル・・・」
「チアキ・・・」
崩折れた千秋を抱かかえ、シャルはチアキと見詰め合う。
< フ ァ サッ >
二人の前に碧い何かが舞い降りた。
「ま さ か ・・・!? 馬鹿・・・な!?」
<闇騎士>は、何処からとも無く現れた者に驚愕の声をあげる。
< ザ ッ >
ブーツが床を踏みしめる。
「あ・・・あなたは?どうやってここに?」
シャルがその後姿に訊く。
「その髪色・・・その服。凄い力を感じる」
<剣聖>千秋が手を伸ばす。
「善く頑張ったわね・・・チマキ・・・」
後姿を見せたまま、蒼髪の少女が話す。
「まさか!どうやって結界を破ったのだ!
どうやって魔王の結界を破ったというのだ!
ミ ハ ル ! 」
<闇騎士>リンの叫びが教えた。
力尽きた私の眼に見えたのは。
神々(こうごう)しい光に満ちた人の姿。
そう・・・あの人は友のピンチには必ず現れてくれる。
ミハル中尉という人は・・・・(感涙)
次回 聖騎士 Part5
君は目撃するだろう、神の力を授かりし者の一撃を!




